愛しの子ぶた姫
出逢いは、王宮の一室、初めてのお茶会の場だった。
銀の髪、翠の瞳、透き通る白い肌は、赤みを差してピンク色、ドレスと頭部のリボンは布地が同じパールピンク。
とてとてと僕に歩み寄ると頭のリボンがかすかに揺れる、にぱとまあるい笑顔が目の前にあった。
「はじめまちて、くりすてぃあな・あんろこと、もうちまちゅ」
まあるい体型、小さい手足、色合いと位置関係で耳に見える頭部のリボンとあいまってその姿は、まさに子ぶただった。
実物の子ぶたを見た事は無いが絵本の影響は大きい、擬人化した子ぶた姫が目の前に居た。
まるまるしててドレスの色が正に子ぶた色、銀の髪先がくるくるして動くとぶた耳リボンと共に揺れる、目はパッチリして愛嬌があって、ちょっと・・・
「・・・かわいい」
口に出すつもりが無かった事をぽろりと零してしまった。
もともと笑顔だったけど満面の笑みっていうの?にぱ!がにぱぁ~♡と微笑んだ笑顔に不覚にもときめいた。
お互いに三才だったが、僕と彼女とはちょっと・・・だいぶ違う、体型も含めて。
僕は前世の記憶持ちだ、と言いても何処の誰かとかよく分からない、前世は男だったとか、仕事がしんどいな程度の記憶と大雑把に知識がある程度の記憶持ち。
その記憶?知識がロリコン!ダメ!絶対!と訴えているが彼女と僕は同じ年!僕はロリコンじゃない。
「えるどりっく・ぐれん・だーるべるくだ・・・えるでいいじょ」
だあああ最後に噛んだ、照れ隠し気味で名乗ったら、噛んだぁ・・・三才だけど中身三才じゃないのに!恰好悪い。
ああ、周りの生暖かい視線を感じる・・・笑いたければ笑えー!羞恥に震えていたら、ちょこんと手が触れ合った、うわぁ~ぷにぷにだぁ。
「えるたま?あなはね、あななの」
ぷにぷに具合に内心悶えてたら、こてんとかしげて愛らしく愛称を教えてくれる。
なんだ?この可愛い生き物は?子ぶたか?うん子ぶた姫だな。
「あなだな、むこうにおかしがある、たべるか?」
「うん」
これが、僕ことエルドリック・グレン・ダールベルク第一王子と子ぶた姫ことクリスティアナ・アンロコ公爵令嬢の出逢いだった。
さて、僕はダールベルク王国の第一王子だ、うん最近知った、豪華な部屋だなぁと思っていたがまさかの王城だった。
父と母にはなかなか会えないが愛情は一杯貰っている、うん適度に親バカです。
前世の記憶持ちと言う事で早熟な僕に王太子の位を早々に就かそうと会議に提出して宰相に「いくら何でも早すぎる」と却下されて父が落ち込んでいた。
「せいじんとどうじに、おうたいしになれるようにがんばる」
と父と宰相の前で宣言したら父に抱きつかれ、宰相には頭を撫でられた。
長男の自覚は最初からあったから、家督を継ぐ覚悟はあったんだ、まさか王子とか思わなかったけど。
で、王子と知った時、王子なら、ハーレム作れるな!後宮最高!ヒャッハー!と思ってた頃もありました。
最初のお茶会で諦めたよ、子ぶた姫に会った後、他のちょっと年上の御令嬢方に囲まれ、恐怖した。
無理、僕には無理です、女性を何人も囲うのは、女性のあしらい方なんて知らない僕にハーレムなんて身の破滅だと悟った三才のお茶会。
伴侶は一人で十分と自覚してから、子ぶた姫は、僕の癒しです。
宰相の屋敷に遊びに行って子ぶた姫に餌付け・・・違う、共におやつを食べるのが最近の楽しみです。
うん、宰相の娘が子ぶた姫なんだ、宰相の名前がね。
「だいふく・あんころ、こうしゃく?」
「ダイラス・アンロコです殿下」
素で間違えた・・・すまん大福宰相、心の中でしか呼ばないから許してくれ、夫人の名前も小豆でさ、美味しそうな名前の夫婦だよ。
「アズリットですわ殿下」
ごめんなさい、女性の名前はもう間違えません、それより。
「あな、いっしょにおやつをたべよう」
「はい、えるさま、おいしいですね」
そうだろうそうだろう、城から持参したキャロカステラのパプンカスタードケーキは料理長自慢の一品だからな。
因みに、キャロは人参、パプンは南瓜、様は人参スポンジの南瓜クリームの彩り鮮やかな野菜スィーツです。
僕は子ぶた姫が食べてる姿が好きだ、本当に幸せそうに美味しそうに食べるんだ。
食べてる姿が見たいから思わず手ずからの餌付けを・・・違う違う餌付け違うから!食べさせる事がマイブーム。
「あな、あーん」
「あーん」
ケーキの一欠けらを差し向ければ、素直にパクと口に入れて、幸せそうに手を頬に当てて咀嚼するアナは、壮絶可愛い、あぁなごむ。
「えるさまも、あーん」
「あーん」
ああ、あーんしてくれるアナも可愛いなぁ、あーんは僕とアナのデフォルト。
こんな幸せな日常に影を落とす日が来るなんて、この時の僕は思っていなかった。
「アナー、出てきてよ」
「いや、会いたくありません」
僕の子ぶた姫が天照大神よろしく、天の岩戸の如く自室に引きこもって僕に会ってくれなくなった。
「アナの好きなシュピのタルトもって来たんだ、一緒に食べようよ」
「(シュピのタルト・・・だめだめ)帰ってください」
「アナー、ポテのすあげチョコ味あるよーおいしいよー、一緒に食べようよ」
「(そんな、ポテのチョコ味なんて・・・・・・まけない)帰ってください」
「アナー、ヤムのパイあるよ、とびらをあけて、一緒に食べようよ、アナ」
「(ヤ、ヤムのパイ!食べたい!けど・・・・・・・・・このままじゃ・・・)帰って・・・」
「アナ・・・」
ほうれん草のタルト、ポテトフライのチョコかけ、さつま芋のパイ、ことごとく駄目だった・・・アナの好きな物で攻めてみたんだけどなぁ。
今日も会えなかった、僕の子ぶた姫・・・まるまるの笑顔をどれだけ見てないだろう、ぷにぷにのほっぺをつついてないだろうか・・・しょぼんと項垂れて城に帰った。
「今日もアナに会えなかった・・・そんなにいやだったのかな?僕はうれしかったのに・・・」
城に帰った僕はお爺さまとお婆さまに愚痴を零していた。
僕は政務に忙しい父と母の代わりに隠居した祖父母に育てられている。
「家格はダイラスの末娘で問題無い、人柄もいい娘で聡い、あの娘ならと思ったのだがな」
「エルを好いてる様に見えましたのに、如何したのかしらね」
お爺さまとお婆さまに挟まれて真ん中に僕がソファに座り、頭をなでなでと撫でられて慰められてる。
アナが城に遊びに来ると可愛がってもいたから、心配もしている。
アナが僕を避ける理由、一つだけ心当たりが有った。
僕とアナの婚約が内々で進められていて、勿論本人の意思確認で僕はOKしたんだ。
アナだったら、ううん、アナが良いって。
アナも快諾してくれると思ってたのに・・・僕と会ってくれなくなった・・・しょぼん。
数日、一人寂しく・・・正確には家庭教師とマンツーマンで勉強してると、珍しく父が陣中見舞いに来た。
公務とも私事でも無い様な、でも、硬い表情の父に不安がよぎる。
「父上どうしたんですか?」
「先程な、宰相が慌てて帰宅した」
「?」
「クリスティアナ嬢が倒れたそうだ」
「え?アナがたおれた?!」
え?如何いう事だ?アナが倒れた?何で?如何して?会わない様になる前まで元気だったのに?思考がフリーズした。
「エルドリック確りしないか!馬車の準備はしてある、早く行きなさい」
「は、はい!」
父の喝に思いっ切り背中を叩かれた僕は、再起動して兎にも角にもアナの許へ向かった。
アンロコ公爵邸に着けば留められる事も無く屋敷内に通してくれた。
「だい・・・ラスさいしょう、アナは!」
まずい、思わず何時も心の中で呼んでいる大福宰相と呼ぶところだった。
余裕が無いと普段、心の中で呼んでる名前で呼んでしまうな、今度からは、ちゃんと本名で呼ぼう。
「殿下!来て下さったのですか、先ずは深呼吸をして下さい」
深呼吸?何故だ?アナの事を知りたいと急くのに、深呼吸をしないと教えてくれそうにない、取り敢えず深呼吸、スーハースーハー、ちょっと落ち着いた。
「さいしょう、アナは?」
「アナは大丈夫ですから、落ち着きなさいませ、まぁ、私も殿下の事を言えないのですがね」
宰相は僕を客室に案内するとアナの状態を説明してくれた。
説明によると、脱水症状と空腹による眩暈で転倒、今はベットの上で安静中・・・って、子供の脱水症状って下手すると死んじゃうよ!前の僕の記憶によると体液の10%が失ったら危ないって・・・アナー。
涙目で脱水症状に対する危険性を訴えると既に対処済みだから大丈夫だと落ち着かせようとするが、此処には点滴なんて無いんだぞ!十分補給出来てるなんて信じられるか!取り敢えず、すりおろし林檎三個分少し塩を加えて持って来ーい。
すりおろし林檎少々塩入の手配が済んだらアナの部屋に突入だ!・・・父親同伴で。
ダイラス宰相の陰に隠れて入室、アナはまだ僕の事に気付いていない。
アナはベットの上で身を起こしている、僕が思っていた程、重症じゃない様だ、だけど少しやつれてる?ぷるぷるつやつやだった肌が掠れてる気がする。
「お父さま、心配かけて、ごめんなさい」
「アナが無事なら良いんだ、だが、こんな無茶な絶食は止めなさい」
「ぜっしょく?」
「エル!?でんか」
殿下・・・ああアナとの距離を感じる・・・そんなに僕との婚約嫌だったのか?ずきりと心が痛むけど、今はそんな事よりアナの体調の方が大事だ。
おずおずとダイラス宰相の後ろからアナの前に出れば、掛布を引き寄せて隠れてしまった。
地味に、いや、かなりへこむ・・・けど!今はアナの体調確認が最優先!自分の気持ちなんか、後回しだ。
「アナがたおれったってきいて心配で・・・それに、会えな・・・いや、いいや、ぜっしょくしてだっすいしょうじょうをおこしたんだよね?ずつうとかめまいはない?」
「・・・でんかにも、ごめいわくをおかけして、もうしわけありません・・・ちょっと、めまいがしてふらついただけですわ」
「まだめまいはする?のどのかわきとか、はきけとか」
「すこし気分がわるいだけで、もうだいじょうぶですわ」
「だっすいしょうじょうをかるくみたらダメだよ、死んじゃうんだからね」
お付きの侍女に倒れてからどれだけ水分補給をして食事事情を確認して驚いた、倒れてからはコップに一杯だけ、食事に関してはここ数日まともに食べておらず、昨日今日にしたら何も食べていないという。
侍女も公爵夫妻も脱水症状を軽く考え過ぎている!ちょっと怒りが湧いてきた。
すりおろし林檎も届いた事だし、後、蜂蜜湯も用意させよう!何も食べて無いから胃に優しくおかゆ風の何かも!そして白湯は常備完備する様に!お付きの者達に脱水症状について軽く脅して手配させた。
「アナもきいてたよね、まだめまいがするなら、すいぶんが足りないんだ、えいようほきゅうもかねて、すりおろしアール食べて」
「・・・えいよう、ほきゅう・・・」
すりおろし林檎を前にして食べるのを躊躇うアナに怒りに似た感情が急に悲しくなった。
「食べることが好きだったアナが食べるのをきょひするほど、僕とのこんやく、いやだった?それでも「ちがうの」アナ?」
「いやじゃないの、エルとこんやくするのはうれしいの!だから・・・」
「だから?」
「こんなたいけいの私がエルのとなりいたら、エルが笑われちゃう・・・それはいや」
泣きながら僕との婚約の打診を聞いた時の真情をアナは語ってくれた。
婚約するのは嬉しかったと、だけどそれと同時にこれからの事を考えたら、自分の体型が恥ずかしく憂鬱になってしまったと、自分の所為で僕が笑われてしまうのではないかと、落ち込んで痩せてからでないと僕に会う資格は無いと思い込んでしまったと。
もう、アナのバカバカバカ!勿論口に出したりしないけど!僕はぎゅっとアナを抱きしめた。
「アナ、泣かないで、僕はアナがクリスティアナが好きだよ」
泣くアナの瞳に涙の上から僕はキスをした、五才児が何ませた事をしてるんだと思うかもしれないが、間違った方法だったけど、アナが僕の為に相応しい姿になろうと努力をしたのだから、ちゃんと応えなければ漢じゃない!それに、泣き止ませないと脱水症状が悪化しちゃうよ。
「エル」
「たしかに、アナはおせじにもやせてるとは言えないけど・・・」
あああ、アナがまたうるうるし出した!まぁ、気にしてる事を言われたら泣きたくなるか、だけどさ。
「いいじゃないか!ぷにぷにのほっぺたが好きだよ、ぜっしょくなんかするからかさついてるじゃないか、それに、ころころたいけいでかわいいよ、僕の子ぶた姫」
「子ぶた姫って、いくらころころたいけいでも、子ぶたって、子ぶたって!エルひどい」
もう一度ほっぺたにキスをすれば、アナは僕を力なくぽかぽか叩きだした、剥れるアナも可愛いなぁ・・・最初に感じた悲壮感はどっかに行った。
「あとね、しあわせそうに食べるアナが好きだよ、僕もしあわせなきぶんになるんだ、だからね、アナ、あーん、すりおろしアール食べさせてあげる」
「ん~ん~もう・・・・・・おいしい」
拗ねてるんだけど、素直に食べてるアナが可愛い!一口ごとに笑顔が戻ってくる、やっぱり食べてる時のアナが一番可愛い。
すりおろし林檎を食べ終わって、今アナはちびりちびりと蜂蜜湯を飲んでいる、後白湯をゆっくりと飲めば脱水症状は無くなるかな?
後はアナが気にしている体型の事か・・・まだ子供なんだから気にする事ないのに、確かにころころのぽっちゃりさんだけど病的に太ってる訳じゃないのに。
そんな事をアナの頭をなでなでしながら宥めていると、いきなりアナの涙が決壊した、な、何故にー。
「わ、私、ぐす、さいきん一人で起きれないし、ぐずぐず、かいだん上がるのたいへんになったじ・・・」
「・・・それは、ぜっしょくして、力が出なくなったからじゃ・・・」
「た、食べなくなる前から、たいへんだったのぉ・・・びょうきじゃエルのおよめさんになれないよぉ~っふぇぇぇ~ん」
如何しよう、アナが可愛い!泣きぎゃくるアナが可愛い!!慰めなきゃとは思うのだけど、顔がにやけてしまう、可愛過ぎるよ僕の子ぶた姫!思わずぎゅっと抱きしめた。
頬がゆるゆるでアナの体温を感じて、可愛いなぁと滾る心が落ち着いて、愛しいなぁとしみじみと思う。
「だいじょうぶだよ、僕の子ぶた姫」
「でもぉ、ぐす」
「僕はアナが好きだし、アナも僕のこと好きなんだよね」
「うん、エルが好き」
「なら、だいじょうぶだよ、大好きだよアナ」
ちゅと唇にキスをしたら、吃驚したのかアナが泣き止んだ、ほっと一安心したら、いきなりアナから引き離された。
首根っこを持ち上げられて宙に浮く、く、苦しい!暴れる前に下ろされたのでキッと元凶を睨み付けた。
「苦しいじゃないか!何するのさいしょう」
「それは申し訳ありません、殿下」
全然申し訳無い様に見えない、どころかご立腹な宰相が居た。
「それよりも、口は駄目です、後、抱き着くのも駄目です」
「なんで?さいしょうは僕とアナのこんやく、みとめてたでしょ?」
「駄目なものは駄目なんです!婚約はまだ認めてません、保留中です」
「じゃあ、今すぐこんやく、みとめてよ」
「お父さまはエルとのこんやくはんたいなの?」
睨み付けてる僕と涙目のアナに見詰められ、ダイラス宰相は唸っていた。
「・・・・・・・・・判りました認めます、認めますが、殿下」
「はい」
「口は駄目です、抱き締めるのも婚礼の儀が済むまで駄目です」
「えーっ・・・」
納得いかなかったけど一応承諾をした、婚約誓約書を宰相からもぎ取ったから良しとしておく。
僕が宰相からアナとの婚約誓約書をもぎ取ってから数月後、僕はアンロコ公爵邸に通っている。
アナが絶食の脱水症状から回復してからアンロコ公爵家ダイエット計画が発動した。
最初はアナだけだったのだが、僕が計画したダイエット法を見たアンロコ公爵家の皆様方が「これならば出来る!」とアナだけに強いるのは忍びないと一緒に頑張ろうと参加を申し出た。
様はアンロコ公爵家皆々様ぽっちゃりさんなのだ、一家皆ぽっちゃりさんなので、ぽっちゃりさんが普通だと思ってたアナは王城に遊びに来るうちに「あれ?私、太ってる?」と疑問に思う様になったそうな。
そして僕との婚約の事もあり、痩せる方法を知らないアナは絶食と言う強硬手段に出た訳だ。
「ころころの子ぶた姫なアナは可愛いけれど、やせるならけんこうてきにやせよう!」
と前の僕の知識をフル稼働させてダイエット計画を練った。
因みに今回のダイエットの件で、僕が前世の記憶持ちだと公爵夫妻とアナにもカミングアウトした。
「で、僕が前世のきおくを持っていると知った父上がぼうそうしました・・・」
と、両親にバレた時の事を宰相に喋ったら「只の親馬鹿じゃなっかたのか」と遠い目をしていた。
丁度語彙が増えて、まともに会話が出来る様になった頃で弟が生まれた時だったけ、父の僕を王太子にするぞ事件・・・あれは僕が『前世の記憶持ち』だから暴走したのではなく、『弟との関係を語った』から暴走したと、僕は推測するのだけれど・・・うん、その事は宰相に喋らなくてもいいや。
さて、その弟の名前だがシオドリック・ダレス・ダールベルクと言う、アナとは別次元で可愛い!「あにうえぇ」と僕の後をとたとたと憑いて・・・おっと間違えた、付いてくる姿はとっても可愛い。
ブラコン?ああブラコンだとも!自覚あるぞ!シオは僕が立派な王族に仕立て上げる!父上は僕を王太子にしたいみたいだけど、シオにも王太子に成るチャンスを作らねば!僕は宰相補佐とか外交官とかに成っても良いしね。
脱線したな、話を元に戻して、アンロコ公爵家ダイエット計画の内容は以下の通りである。
1、一食に食べる量を一割減らし、野菜増し増しメニューにする。
2、よく噛んで食べて、夜食は極力食べない。
3、朝と晩、準備運動をする。
以上。
うん、これだけなんだ、公爵家の皆様方が「これなら出来る!」と思うメニュー!でも考えて欲しい、アナは五才の幼児・・・児童かな?兎に角子供なんだよ?辛いダイエットを僕が強いる訳ないじゃないか!痩せる事より体力を付けさせる事に重点を置いてみました。
食事量の一割減らしは初日、減っている筈なのに減っている様に見えないと感想を貰った、これは料理人の腕だよねぇ、僕は公爵家に黙って、公爵家の料理長に徐々に減らして最終的には三割減らしにして欲しいと頼んだ。
ぽっちゃりさんに成る筈な量でした、料理長も公爵家の健康の為、協力してくれた。
食事の仕方については、意識して多く噛んで食べる事、そして兎に角大量に食べない様に注意した、お腹が減ったら食べて良い、だけど少量だけ!ドカ食いが一番太り易いからねぇ。
食べる量に関しては料理番やお付きの人がストッパーに成ってくれる、それに、食べれないストレスを与えると却って太ると前の僕の記憶の片隅に残ってた。
そして、準備運動だけど、ぶちゃけラジオ体操です、此処にラジオなんて文明の利器は存在しないのだ。
なんだ、ラジオ体操かと思った、そこのあなた!ラジオ体操をバカにしてはいけない!凄く理に適った体操なのだよラジオ体操は。
まず、老若男女を問わず誰でも出来る、女の子がスカートを穿いたまま出来る、全身運動である、真剣に動かせば、終わる頃には汗だくです。
最近では、騎士団の訓練前に行っているよ、まぁ、準備運動って教えたからねぇ、前はバラバラに各々が行ってたらしいが今は一斉に行い、集団行動の練習に丁度良いって将軍が言ってた。
「らんらら、ららら、らんらら、ららら、らんらら、ららら、らららららん」
僕の子ぶた姫がラジオ体操の曲を口遊んでいる、アナは歌声も可愛いなぁ。
まぁ、アナが口遊むもの、僕のが移ったんだろうな、ラジオ体操を教える度に僕が歌うから。
だってさぁ、ラジオ体操の歌詞なんて全部憶えてなかったんだ、憶えていたのは曲調と体操だけだったよ。
そして、何度か繰り返すうちに侍女の一人がピアノで伴奏する様になり、只今編曲中です。
どうせなら準備運動の曲でダンスの練習もしましょうと音楽に造詣が深い侍女さんが編曲編成を頑張っている。
作曲、僕に為るのかなぁ・・・とちょっと大事に成りそうで遠い目に為る。
うん、気を取り直してお昼のラジオ体操を始めようか!朝と夜は僕は居ないから、アナの体力を上げる目的もあり、アナだけお昼もラジオ体操を僕と一緒に運動している。
やっとアナもラジオ体操を通常の速さで最後まで行う事が出来る様になった、今まではゆっくりとやっていた。
ゆっくり過ぎると却って体力使うんだけどね、体幹を鍛える為、脂肪燃焼の為、ゆっくり過ぎるラジオ体操をやっていた。
終わる頃には僕もアナも汗だくです、運動後の水分補給は生き返るなぁ、そ、し、て、一息ついた後のおやつです、あーんタイムです。
「エルはコロコロぷくぷくな子ぶたの私が好きなのでこえ太らそうとしてませんか?」
今回の野菜スィーツの一欠けらを口元に持って行けば、食べる事に警戒してる僕の子ぶた姫、警戒しなくても大丈夫なのに・・・何の為の野菜スィーツだと言うのか。
「やせるためにも、食べないとダメなんですよ、ちょこっとだけならだいじょうぶ!それにもともと太りすぎないように野菜のおかしなわけなので・・・」
「!エルは太りにくいおかしを持ってきてくれてたの?」
「ぷにぷにの子ぶた姫なアナは可愛いけど、食べさせすぎて病気にならないように・・・とは思ってたよ?」
それに、食べ過ぎ予防に小さ目に作られてたし、栄養が偏ると太り易く、バランス良く栄養を取ると太り難いと、前の僕が記憶している。
一番やっちゃいけないのは、飢餓状態で一気に大量に食べて寝る事、体重を増やして下さいと言っている行動なのだ。
朝何も食べないで稽古をして、飢餓状態に成り、大量のちゃんこを食べて、休憩するお相撲さんの生活スタイルだと、筋肉も付くが脂肪も付いて重くなると・・・アンロコ公爵家はちょっと、お相撲さん生活スタイルを実行していた節があるので改善させた。
今回の運動後のおやつは食べ過ぎたら、勿論アウトだがちょっことだけだからセーフです。
今日はアナと音楽鑑賞の日です。観客は僕とアナと弟のシオとお付きの侍従さん侍女さん護衛の騎士さん達です。
ぶっちゃけ三人だけです、いくら僕が王家の人間だとしても子供三人の為だけにフルオーケストラは気が引けます・・・なので、お付きの人間大勢引き連れてきました。
ラジオ体操の曲が二曲編曲が出来、僕が作曲と言う事でお披露目なんです、一曲目は体操の曲、二曲目は歌・・・そう言えば体操が始まる前に歌が有ってね・・・と鼻歌交じりに歌ったら音楽に造詣が深い侍女さんが、又もやらかして今に至る・・・只々元の作曲者さんに申し訳なく思う。
主旋律の確認はその侍女さんとしてるから、あくまでも編曲確認の為のお披露目です。
これが練習中であったらなら、少人数のお付きでアナと二人で聴きに来たのだけど、正式にとお伺いされて、音楽好きのお付きを大勢連れてくよーと先触れは出しといた。
「あにうえのうた、たのちみです」
僕の隣で大人しく座っているが、わくわくのシオに僕は苦笑するしかない、いや僕も演奏は楽しみなんだ、いい曲だしね、ただ僕作曲って所がね、納得しかねててね。
「エルはもうあきらめて、すなおに楽しめば良いと思うの」
シオとは逆隣に座るのは、僕の子ぶた姫と最近呼び辛いアナ、ぷくぷくでも良いんだよと言って、ぽかぽか叩かれるのが最近のデフォルトです。
だって、怒るアナも可愛いんだもの!それに無理に痩せる事も無いと思うしね、うん、身体が軽くなったアナは身体を動かす事に快感を覚えた様でダンスの練習の他に護身術とかにも手を出し始めている。
将来、筋肉ムキムキになるのは嫌だなぁ、と密かに想う今日この頃です。
まぁ、それは今は於いといて、アナは僕が苦笑する意味を知っている、だってズルだもん。
「それにエルがうじうじしてたら楽団の方がかんちがいしますわよ?」
「うん、開き直る、これからえんそうされる曲は僕が作曲・・・はぁ・・・」
「あにうえはえんそう、たのちみじゃないの?」
シオが不思議がって、こてんと首を傾げている、その仕草が可愛くて頭を撫でながら、僕は苦笑。
「えんそうはね、楽しみなんだよ、うん、えんそうの後のことを考えるとね・・・」
「ほら、かんちがいしてますわ、シオドリック殿下エルドリック殿下はえんそうされる曲がご自分で考えて作った曲とはっぴょうされるのがいやなのですわ」
「?あにうえのうたなのに?」
「知ってたから歌っただけなんだよ・・・ただ知ってる人がまわりにいなかっただけで・・・」
シオに僕の前の記憶の事を説明するのは難しいよ、隠すつもりは無いけれど、今は無理かなぁ三才だしな。
むーんと考えて、素直な気持ちをかたる事にした。
「・・・ズルした気になっていやなんだよ」
「???うーんと、ないちょにちゅれば?」
「ないしょにしたいけど、もうおそいんだ・・・」
内緒にしたいのはやまやまだけど、ラジオ体操の曲こと「てならいのうた」とラジオ体操の歌こと「はじまりの朝」は僕が考えた曲として既に広まっている。
今回の演奏会はあくまでも編曲確認であって主旋律の曲事態は広く、広ーく知られた後なのですよ、どんなに揉み消したくても、もう消せないのです・・・しくしく。
代わりにラジオ体操の歌の歌詞は寸でのところで揉み消した!かの侍女さんがもう一度歌ってと言っても歌詞付きでは歌わなかったからな!僕も一小節位しか歌詞憶えてなかったし、侍女さんのあやふやな記憶の下「はじまりの朝」なんて題名になった、「新しい」じゃなくて良かったとしみじみ思う。
「ないしょにするにも、おひろめの夜会のさいしょの曲に決まってますものね、第一王子が作った曲って」
アナが僕に止めを刺すなんて!うわゎゎと頭を抱えて蹲った。
「エルドリック殿下如何なさったのですか?具合でも悪くなったのですか?」
近くまで来ていたのだろう指揮者が慌てて駆け寄って来て、狼狽えているが僕は顔を上げる事が出来ない。
「だいじょうぶですわ、エルドリック殿下はご自分が作曲した曲が夜会のさいしょの曲に決まって、はずかしがっているのですわ」
「なぁんだぁ、あにうえ、はずかちかったのですね!」
アナがフォローしてくれて、シオが変に納得してしまった・・・指揮者はホッとしてるが僕は顔を上げ辛い。
「・・・作曲者から僕の名前をけして下さい・・・せめて、僕がひろめた曲にして下さい・・・」
ちょっと涙目の僕に指揮者が再び狼狽えているが、ここが多分最後の砦だ、僕が作曲者じゃない事を訴えよう。
僕が作曲者じゃない事、僕に作曲の才能なんか無いのに、知っている曲を自作だとすると、良心が痛むと、指揮者に訴えたら、作曲者不明、収集者僕としてくれるそうだ。
「良かった、ズルしたかんじでいやだったんだ、これで何のうれいなく、えんそうを楽しめる」
晴れやかに言ったら、指揮者は驚いた表情をした後、優しい笑顔で演奏を楽しんで下さいと言い残し壇上に上った。
演奏は見事だった、流石一流の楽師達だ、作曲者問題も解消して心から楽しめた、僕が作曲者予定だった二曲の他にも素晴らしい楽曲を聴く事も出来、思う存分堪能して楽しかった。
「エル・・・苦しい・・・」
お披露目の夜会と言っても、子供の部は夕方のみだけど、の控室でアナが弱音をはいた、初めての夜会で出来るだけ痩せて見える様に締め上げた、初めてのコルセットに。
「もうすぐ出番だけど、遅らせてゆるめてもらう?」
お付きの者が近くに居るけど、小声で囁き合う僕とアナの会話は回りには聞こえていない、アナのコルセットを緩めて貰おうとアナの侍女に視線を向ければ、アナは僕を止めて首を振る。
「もうすぐ時間ですもの、一曲おわるまで、がまんできます」
「わかった、一曲目がおわったら、ゆるめてもらおう」
僕が侍女を見ながら少し大き目にアナに声を掛ければ、侍女さんからは承諾の目礼、改めてアナを視れば、やっぱり可愛い、初めて会った時と同じ様な色合いのドレスとリボンだけど、もう子ぶた姫なんて言えない。
まるまるしてた体型とぷくぷくの顔がすらりとしたものに、アナは頑張って痩せた、まだ少しぽちゃってるけど、太ってる訳じゃない。
この、少しぽちゃってる所が曲者で、アナはこのぽちゃ肉、特に胴回りを細く見せたいが為、コルセットをきつく締めた様で今苦しんでいる。
「アナしせいをただして、ねこぜになってるよ、そのせいで少し苦しいのかも」
苦しさに前屈みに猫背に為ってるアナに、耳元に囁きかければ、はっとしてすぐさま姿勢を正しす。
「少し、楽になりました、ありがとうエル」
苦しいながらも、笑顔を見せるアナに、僕も気を引き締めて、笑顔を向ければ、侍従が時間だと、知らせてくれる。
「さあ、アナ行こうか!」
「はい」
アナをエスコートして出撃する気分で会場に向かう、僕は王子でアナは公爵令嬢、入場は一番最後だ。
会場入りすれば視線が集まる、拍手の音が遠く感じる・・・テンパってる自覚は目一杯あるけど、そんなもの、噯気にも出さないぞ、アナの緊張も伝わってくる、僕がリードしなくちゃいけない!ぐっと、アナの手を握り微笑み一歩踏み出した。
堂々と胸を張って、国王と王妃である父と母の下へ向かい一礼、広場の中央へ向かいう。
ファーストダンスを踊るのはお披露目された者達だけど、切っ掛けを作るのは最上位の僕だ、楽団の指揮者に視線を向ければ目礼されて音楽が流れだす。
夜会の始まりだ、アナの笑顔と「てならいのうた」のお陰かな?不思議とダンスを踊り出したら、緊張が和らいできた。
「アナだいじょうぶ?」
「はい、しせいをただせば、そんなに苦しくありません」
「それじゃあ、一曲のよていだったけど、二曲おどってもだいじょうぶ?」
「てならいのうた」と「はじまりの朝」はダンス初心者に優しいステップに成っている、一応僕が作曲者と広く知られているから、この二曲は僕が踊っておいた方が体裁は良いのだ。
まぁ、指揮者は収集者と訂正してあるというから、後世に残らないのが救い。
一曲踊ったら、アナは下がらせて、パートナーチェンジで二曲目を踊るつもりだったけど、アナが大丈夫ならば、アナと二曲目も踊りたいのが本音。
「はい、二曲目は、はじまりの朝ですものね」
「だけど、むりはしないでね、僕の元子ぶた姫」
「もう、また子ぶたってよぶ」
「元だよ、元!僕の元子ぶた姫」
「もう、エルのいじわる、二曲目おどりませんわよ」
くるくると踊りながら、一曲目が終わったタイミングでアナに臍を曲げさせてしまった、膨れたアナも可愛くてもうちょっと弄りたいけど、今は公式の場だから素直に謝ろう。
「ごめんアナ、だから二曲目もおどって?」
「しかたありませんわね、おどってあげますわ」
ツンデレアナ頂きましたー!あーもーツンデレアナも可愛い!余りにも可愛いので思わず頬にキスをした。
「ありがとうアナ」
見る間に赤面する可愛い僕のアナの手を取り、二曲目を踊り始める。
速やかにアナを下がらせる様に入り口近くに、少しずつ場所を移動していく。
うん、アナが無理してるのが分かっちゃったから、これ以上僕の我儘にアナを付き合わせる訳にはいかない。
「曲が終わったら、入り口に侍女がいるから、食べれるように、ゆるめてくればいいよ」
「ゆるめてはきますけど・・・・・・」
「食べてるアナも好きだからね、食べすぎないように、食べようね」
「・・・はい、野菜のおかし、ちょっと、楽しみ」
「うん、一緒に食べようね」
曲が終わり、速やかにアナは退場、僕は何気に挨拶を熟してゆく、うん、少しは女性の扱いを学びました、だからと言ってハーレムを作ろうとは思いません!アナ一人居れば充分です。
アナだけなんだ、僕を僕として見てくれる、第一王子としてじゃない、エルドリックと言う一個人で向かい合ってくれた女の子は。
僕個人で向かい合ってくれる同性の友人も、甘やかしてくれる親戚も居る、王族として凄く恵まれてると最近気づいた。
これで、最愛の女の子を見つけたんだ、これ以上望むのは不遜と言うものだと、お披露目の夜会で人に囲まれて、しみじみ思う。
「エルドリック殿下」
公私の区別をつけて呼んでくれる、もう子ぶた姫と呼べないのは残念な僕の最愛の女の子が傍に来てくれた。
「クリスティアナ」
僕に笑顔を向けてくれる彼女を傍らにお菓子があるテーブルへ。
「アナ、あーん」
「エルも、あーん」
お菓子を食べさせ合って微笑み合う、こんな幸せが続けていければ良いなと、僕は思う。