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ギルドから貰った資金で、村に家を建て始めてから10ヶ月。
新しく村にやってきた者達が植えた野菜が収穫を迎え、2割の税と家購入の分割払い金が手元に入ってきた。
この国に四季などは無く、ずっと春くらいの気温が続くため、種をまく時期さえずらせば、毎月のように作物が実る。
そのため、越冬準備など、食料を貯蓄しておく必要がなく、余剰分は殆どを売却し、村のための資金にした。
炭の売り上げも、ギルドと契約してからは在庫を作る暇もないほど順調で、それらの利益を前に、いつものメンバーで使い道に頭を悩ませる。
「これからも家を増やすといいんじゃないかな?
お兄ちゃんの村なんだし、もっといっぱい家を作っちゃっても大丈夫だよ」
「ボクとしては、ハウンさんの部下を増したほうが良いと思うな。
これから取引量が増加することを考えると、今の倍は人数が要るはずだよ」
「あ、それと、兵士的な人も必要だよね。お兄ちゃんを守ってもらわなくちゃ」
「……兵士は行き過ぎにしても、治安維持部隊くらいは必要になると思うよ」
ジュリとソフィアが競うように案を出していくが、出てくるものは殆どが、人材に関するものばかりだ。
「資金に余裕が出るようなら、技術石を買うとか、道路を整備するとしたいが、それはまだまだ先の話しか。
それじゃぁ、とりあえずは、人材の確保ってことでいいか?」
3人を見渡すが、誰も反対の声を上げず、まったく要望を出さなかったハウン姉も頷いてくれた。
そして、解散しようかと思ったところで、玄関の扉が叩かれた。
「失礼します。
村長様がこちらにいらっしゃると伺ったのですが……」
訪ねてきたのは、初めて見る男性だった。
はじめは引越しの挨拶かと思ったのだが、その男の手には、集積の街サランで魔玉を売っているはずの、ハウン姉の部下の手紙が握られていた。
なんでも、ダンジョンに入って、魔玉を集める仕事を請け負ってくれるらしい。
身長は170センチほどの大柄で、人の良さそうな目が特徴的な15歳の少年だ。名前はミシェル、剣を扱えるようで、スキルレベルがCだった。
ソフィアの過去スキルで確認してもらったのだが、犯罪などの悪事には手を染めていないようだ。
待ち望んだ人材に、思わず立ち上がって握手をする。
「遠いところを良く来てくれた。僕がこの町を治めているクラッドだ。
採掘人をしてくれるとの事なのだが、武器は何を使える?」
「はい、剣の心得が少しばかりございます」
鑑定スキルで得ていた情報ではあるが、不自然になっても面倒なため質問したが、予想通りの答えが得られた。ちなみに、採掘人とは、冒険者をイメージしてもらえば良いと思う。
「実戦経験はあるか?」
「魔物を相手にした経験はありませんが、村にいた頃は、熊を相手に騎士の真似事をやっておりました」
なかなか優秀なようだ。
「わかった。それでは、剣を貸し出すので、その実力を示して貰いたい。
いまからで構わないか?」
「はい、大丈夫です」
「武器は隣の部屋に用意してある。盾も必要ならもって行くと良い。
準備が出来次第、採掘場へ出発するから、そのつもりでな」
「かしこまりました」
いつ採掘人希望が来ても良いようにと、2ヶ月前から、武器を様々な武器を集めて居たのだが、その努力が報われる時が来たようだ。
ほどなくして戻ってきた彼の手には、身長の半分はあろうかというロングソードと、大振りの盾が握られていた。
構えが見たいとお願いすると、彼は足を広げて重心を落とし、がっちりと盾を前に突き出した。
その姿は、向かってくるドラゴンさえ押さえ込めるとさえ感じれるもので、前衛の鏡のような雰囲気だった。




