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家の購入者達が続々と村に押し寄せる中、ジュリとソフィアを連れて、ダンジョンの中に足を踏み入れた。
その目的は、内部調査と魔玉の確保だ。
中で魔物と戦う予定なため、僕とジュリは弓を装備し、ソフィアには念のために結界を付与した石を持たせてある。
本当なら、僕1人で来たかったのだが、私もお兄ちゃんと一緒に戦う、とジュリに反対され、ソフィアも、後学のためにボクも連れて行ってほしいな、それに魔玉を持ち帰るなら空間魔法必要だよね、と言って無理やりついてきた。
ダンジョン入口の土の斜面を半ば滑るようにして潜入した先には、小さな部屋があった。
大きさは1人暮らしのアパートほどで、魔物の姿などは無く、入ってきた場所の正面に、入口と同じ大きさの通路が設置されている。
その通路は、しばらく進んだ先で左に大きく曲がっており、その先を見通すことは叶わなかった。
少々慎重すぎるかとも思ったが、ジュリとソフィアが居るのだからと、すずめを召還し奥へと進ませる。
程なくして、スズメは広い空間へとたどり着いた。
周囲は体育館ほどの大きさで、8体のゴブリンが思い思いに行動している。
入口にあった小さな部屋と比べると、天井に生えるコケの数が多く、部屋全体に蛍光灯程度の光りが降り注いた。
地面には草が生えているものの雑草程度の背丈しかなく、視界を遮る物は一切存在しない。
「この先に、ゴブリンが居る。
予定通り倒すから、ジュリは15本ほどの矢に火を付加してくれ」
「うん、まかせて」
「危険そうならすぐに退避するから、ソフィアは、いつでも結界石を発動出来るように注意して欲しい。
それと、絶対に僕の側から離れるなよ」
「了解。ボクも死にたくは無いからね」
一通りの準備を整え、通路を通って部屋の前にたどり着く。
ジュリに背後を警戒してもらい、部屋に向かって弓を構える。
通路に一番近い位置に居たゴブリンに向けて矢を放つと、額に命中し、焚き火ほどの火の手が上がったかと思うと、ゴブリンが光りとなって消滅した。
2匹、3匹と、見える範囲すべてのゴブリンを威力のあがった火矢を撃ちこんむ。
スズメを通して確認した限り、残る敵は3匹。
いずれも、こちらに向かって走ってきているようだが、僕の位置からは通路の壁が邪魔で、姿を確認することは叶わない。
「すこしだけ後ろに下がるぞ」
そういって、2人に指示を出し、部屋入口から距離をとる。
ほどなくして、僕達に襲い掛かるように、入口から通路に入り込んできたゴブリンは、待ち構えていた僕の矢が当たり、部屋に居たゴブリンが全滅した。
次の部屋、次の部屋と、まったく一緒な方法でゴブリン達を殲滅し、魔玉を確保していく。
そして、4つ目の部屋にスズメを進ませたとき、それまでと異なる光景が、僕の目に飛び込んできた。
「……石畳?」
これまでの場所は、部屋や通路はすべて土を固めただけの物だったのだが、次へ進む道は途中から石で舗装されている。
小説やゲームの知識から考えるに、敵のレベルが上がるか、ボスがいるか、下の階に下りる階段があるか、そのどれかだろう。
そう思っていたのだが、ソフィアから、予想外の発言が飛んできた。
「石畳が見えたってことは、そこがダンジョンの最深部だね。
ダンジョンコアがポツンと置かれているって話だよ」
「……ポツンと?
こんなに早く最深部に到達したのも気になるが、ポツンとってことは強敵とか居ないのか?」
「ん? 強敵?
……ゴブリンを一方的に倒せるキミが、なにをもって強敵と判断するかはわからないけど、この先に魔物は居ないはずだね。
たまに技術石が落ちていることはあるらしいけど、基本的にはダンジョンコアがあるだけのはずだよ。
それに早いって言うけど、部屋が5つもあったんだがら、それなりに大きなダンジョンだよ?」
彼女の言葉を肯定するように、石畳の部屋には人の背丈ほども在る紫色の玉が浮いているだけであり、他には何も無かった。
予想よりも遙かに小さなダンジョンに、家の作り方を間違えたかなーと思いながら、18個の魔玉を持って地上へと帰還した。




