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準備開始から、3時間。全員をふたたび村中央の広場に集めた。
作業完了を宣言し、しばしの休憩を伝えた後、住民全員で、最後の晩餐になるかもしれないスープを飲む。
本当のことを言えば、作業は完了していなかった。
ゴブリンが近くまで接近し、これ以上の作業は戦闘に影響を出すと判断した結果だった。
それでも、最低限のものだけは出来上がっている。その中でも、作戦の生命線とも言える、ここ、村中央広場はなんとか仕上げることが出来た。
周囲は、村はずれから持ってきた柵で四角く三重に囲まれ、中央に立てば、東、西、南、北、すべての方角において、村はずれの森まで見通せる状態だ。
僕達の村は、家は17軒しか無く、殆どの場所が畑なので、もともと視界は良好だったのだが、念を入れて、数件の家を取り壊した。
そのおかげで、森から飛び出してくるゴブリンを見落とす心配は無い。
食事を終え、それぞれが持ち場に着く。
僕は、ジュリとソフィア、ハウン姉を連れ立って、村入口方面(方角で言えば南側)の柵の前で弓を構えた。
村正面は、ゴブリン達の進行方向であり、1番の激戦が予想されるのだが、正面の守りに付いたのは、僕達4人だけだ。
そして、ハウン姉とソフィアは戦力外、ジュリは付与魔法での援護なので、実質、僕1人での防衛と言っても過言ではない。
そんな正面に比べ、左右に17人ずつ、後方は7人に守ってもらうことにしてある。ちなみに戦えない人達は、中央で矢などの備品補充に回ってもらっていた。
場所の割り振りはすべて僕の指示なので、正面の配置は勿論、自信あっての采配だ。
その自信の源である矢を森に向けて放つ。
手元を離れた矢は、自分から飛び込むかのように木々の合間から顔を出した1匹のゴブリンに刺さり、ゴブリンが光となって消えた。
その光景を見ていた村長代理が全員を鼓舞するように声を張り上げる。
「村長が、その武を示された。我らも事に備えるぞ!!」
そんな声に対し、さすが村長だ、などと、僕を賞賛する声が広場を取り巻く。
ゴブリンを1発で仕留めた矢は、ジュリに火の魔法を付与して貰った物だ。
9匹目のゴブリンと対峙した時、足止めのつもりで放った炎によってゴブリンが消滅したことから、もしかして、と思ったのだが、どうやらゴブリンは火が苦手なようだ。
その後も、すずめの目を通じてタイミングを計り、次々と飛び出してくるゴブリンに矢を放っていった。




