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2人を見送った僕達は、周囲に生えていた植物のつるを採取し、木と木を結ぶように何重にも巻きつけた。
そして、十分な強度になったと判断すれば、隣の木へ、隣の木へと順番に張り巡らせて行く。
出来るなら、落とし穴を掘るなどの作業も行いたかったのだが、どうやらそこまでの時間はなさそうだ。
ある程度で、つるを巻く作業をジュリに任せ、別の小細工を施していると、ゴブリン達の気配が強まった。
どうやら敵が臨戦状態に入ったらしい。
「時間切れのようだ。ジュリ、少しだけ登るぞ」
ジュリと共に斜面を登り、辺りを見渡す。
山を下る真っ直ぐな道をゴブリン達がこちらへ向けて走ってくるのが確認出来た。
数は9匹で、持ち物は木の棒のみ、すずめを通して確認した通りの姿である。
そんなゴブリン達の前には、道に対して直角になるように張られたつるが、柵のように3列。彼らの進行を阻むように設置してあった。
ジュリと隣合うように弓を構える。
大きく息を吐き出し、集中力を高めていく。そして、敵が射程距離に入った瞬間、矢を握っていた右手を離した。
「ギュグ」
放たれた矢は、先頭を走るゴブリンの額へと命中した。
撃たれたゴブリンは悲鳴らしきものを発するも、倒れることなく、矢を頭に刺したまま、こちらへと走ってくる。
魔物のタフさに、若干の驚きを覚えながらも、2の矢、3の矢と撃ちこみ、4発目が刺さった時点で、ゴブリンは黒い石になって消えた。
「足を狙うぞ。仕留めるのは後だ」
「うん、わかった」
1匹に4発ずつでは間に合わないと判断し、敵の速度を落とす作戦へと切り替える。
そして、ジュリでも届く範囲まで迫ってきた敵に対し、2人で次々に足を撃ち抜いていった。
さすがに両足を撃たれると歩けなくなるのか、両足を撃ったゴブリンはその場に倒れこんだ。
その後も間髪居れずに撃ち続け、動けるゴブリンの数を徐々に減らしていく、そして、残り5匹になった時点で、第1の柵に到着してしまった。
胸の高さにまで達するツタを飛び越えるのは不可能だと思ったのか、ゴブリン達は、上から叩き切るように、木の棒を振る。
何十にも巻いた束は上の方から切れていき、ついには彼らが飛び越えてきた。
その間にも懸命に矢を打ち続けたが、自分達が作った柵が邪魔で足を狙うことが出来ず、思うように敵の数を減らせずに居た。
それでも懸命に頭を打ち続け、その数を残り2匹にまで減らしたものの、最後の柵が崩壊し、敵と僕達との間を阻むものが消え去った。
「お兄ちゃん!!」
「前に出ているやつの左足を狙え」
悲鳴に近いジュリの叫びに対して、落ち着かせるよう指示を出し、自分は右足に向けて矢を放つ。
阿吽の呼吸で同時に放たれた矢は、両足に深々と刺さった。
残る敵は、あと1匹。
しかし、残された距離はあと2メートルもない。
「後ろへ走れ!!」
弓から手から放り出し、左手でジュリを引っ張りながら、後方へと退却する。
そして、腰に着いていた石を引きちぎるようにしてゴブリンの前方へと投げつけた。
石が地面に叩きつけられると、ジュリによって付与されていた炎魔法が発動し、ソフィアの空間魔法で持ち歩いていた油へと引火。
一瞬にして、僕達とゴブリンの間に、炎の壁が生まれる。
程なくして、鎮火した燃え後には、黒い石が落ちているだけであった。




