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ギルドとの交渉を開始してから半年近くの日数が過ぎ、僕は17歳になっていた。
本命であるギルドとの交渉の傍らで進めていた小口の交渉が数件決まり、次々と炭窯を作っていった。
さすがに3人だけでは限界があったので、村人から希望者を募り、現在では窯が10個、15人態勢で製造を行っている。
そんな中、僕達3人は炭窯を村人に預け、呼びに来たハウン姉と一緒に村を下っていた。
ハウン姉曰く、交渉が決まりそうだから王都まで来て欲しいとのことだ。
半年間、その報告を今か今かと待ちわびていた僕達は、飛び出すように村を出た。
そして、村を出てから2時間。そろそろ山の麓に出るかと思っていた矢先、異質な気配を感じる。
「3人共、止まってくれ。……ジュリ、何か感じるか?」
眼を閉じて気配を探るような素振りをしたジュリが、不安げな表情をうかべる。
「……うん。人じゃない何かかがこっちに向かってくる。
相手は猪程度のサイズで9匹かな。けど、今まで感じたことが無い気配だと思う」
どうやら僕の気のせいでは無いらしい。
落ちていた石ですずめを召還し、感覚を共有させて目標まで飛ばす。
程なくして、僕の第2の目となったすずめが、ターゲットを捕らえた。
2本足で大地に立ち、頭にはまばらに髪の毛が生えている。そして、右手には木の棒が握られていた。
一瞬、小さな子か? と思わせる風貌であったが、相手の皮膚は緑色で、どう見ても人間ではない。
地球の記憶と照らし合わせて考えるにゴブリンだろう。
ソフィアに相手の風貌を伝えると、ゴブリンに間違いないとのことだ。
この周辺でゴブリンを見るのは初めてだった。そもそも、ゴブリンは魔玉を有する魔物である。
森からあまり出ない動物に比べ、魔物は好んで人を襲う。その理由は様々だが、1番メインとなる理由は食料らしい。
そのまま、人間を捕食する魔物も居れば、家畜や小麦を育てさせ食料を確保する者もいるらしかった。
ゴブリンにいたっては、その両方を有しているとのことだった。
人間も鶏などには、大差ない行動をしているため、強く非難する気は無いが、大人しく食べられてやる気はもっと無い。
「取れる選択肢は2つだな。迎え撃つか、逃げるか。
途中で進路を変更してくれることが1番だが、この距離だと、匂いでこちらの位置が知られているだろうから、可能性は薄いと思う」
「そうだね。迎撃しよっか。
私達が逃げちゃうと、後ろにある村が襲われるかもだしね」
現状を考えると迎撃なのだが、戦えるのは僕とジュリだけだ。
相手は9匹、戦えない2人を守りながら戦えるとは思えない。
そんな僕の考えに気付いたのか、ソフィアが案をだす。
「ボクは足手まといになっちゃうからさ。村に戻るよ」
「でしたら、私もソフィア様と一緒に村に戻ります」
僕の目の届かないところで、彼女達に何かあっては取り返しの付かないことになるが、現状を考えるに他に選択肢などない。
「……わかった。念の為、すずめを付ける。何かあったらすぐに逃げろ。逃げてさえ居れば僕が必ず助けにいくからな」
「本当に申し訳ないね。頼りにさせてもらうよ」
「……村長の心遣いに感謝します」
ソフィアは、空間魔法でゴブリン迎撃に使えそうなものを僕達に手渡し、ハウン姉と2人で村へと駆け出してくれた。




