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突然彼女が動いたことで身構えはしたが、どうやら彼女に暴れる意思はなさそうだ。
落ち着いて見れば、縛られた右腕を必死に持ち上げようとしているだけのように見える。
とりあえず、商人に彼女の手を自由にしてもらうことにした。
「よろしいのですか?」
「あぁ、かまわない。こうみえても鍛えてるからな。なに、怪我をしても訴えたりしないさ」
「……かしこまりました」
暴れるなよと声をかけ、商人が彼女の腕に巻かれた縄を解く。すると、彼女は自由になった右手を大きく上に掲げた。
「……これは?」
「申し訳ございません。どうやら、彼女はお客様と話がしたいようです。発言の許可を与えてもよろしいですか?」
「無論だ。こちらから頼もうと思っていたよ」
どうやら、商品である彼女達は、僕の許可がないと話すことも出来ないらしい。
僕が同意すると、彼女は鮮麗されたお辞儀を見せてくれた。
「突然にも関わらず、発言を許可して頂き、誠にありがとうございます。恥じを承知でお願いしたします。私を購入して頂きたく存じます」
「そうか、接客の技術はあるんだよな?」
「はい。人並み程度ではございますが可能です。ご確認なさいますか?」
「いや、自分の一生に関わるこの場面で嘘も言わないだろう。確認は必要ない。その代わりと言ってはなんだが、敬語はやめて普段通りの口調で話してくれないか? そして、発言は自由に許可する。普段の君が見たい」
鮮麗された彼女の動きに圧倒されたが、商人も普段は優秀だといっていた。暴れる彼女も確認しておかないと購入には踏み切れない。そのため、なるべく普段に近い形で話しをさせることにした。
彼女は躊躇するように商人に視線を泳がせる。
「お客様の要望だ。仰る通りにしなさい」
「畏まりました。それでは、普段通りにさせて頂きます。……えっと、そうだね。本当に普段通りでいいのかい?」
「あぁ、もちろん。そっちの方が君の事がわかりやすいからな。名前は?」
「ボクはソフィアだ。見ての通り奴隷だね。それでさ、いきなりで悪いんだけど、足のオモリ外してくれないかな? 意外にこれ、重たくって」
「そうだろうな。かまわないぞ。外して貰え」
周囲に居るほかの女性達や商人が驚く中、躊躇も無く許可を出す。
「……よろしいのですか?」
「武器も無い娘におくれをとることなどないさ。あぁ、念のために彼女以外の商品達を退出させておいてくれ」
「畏まりました」
ソフィアと商人だけを残し、他の女性達は部屋を出て行った。




