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話しは数分前に遡る。
喫茶店の入り口で紅茶を人数分注文すると、4人掛けテーブルに案内された。
20人も入ればいっぱいに成りそうな店内は、紅茶の香りが漂い、どこかゆっくりとした時間が流れている。
ハウン姉に習うように向かいの席へ腰を落ち着けると、ジュリもハウン姉の横に座った。
紅茶が届き、店員に感謝とチップを払うと、2人の視線が僕へと向けられる。
「こうして無事に村長になった訳だけど、これからどうしよっか」
「うーん。やっぱり村に帰ってお兄ちゃん村長のお披露目じゃない? どーんと豪華な料理を作ってさ」
「ジュリ様の仰ることも最もなのですが、その前に王都でなければ出来ないことから処理していくことが最適かと思われます」
側近として支えてくれると言ってくれた2人は、それぞれが意見を出してくれる。
ハウン姉は、僕が村長となり、彼女の雇い主になってからは、商人としての話し方で通すつもりのようだ。けじめを大切にする彼女らしいとも思う。
ハウン姉がそのつもりなら、僕もそのような態度で接するべきだろうな。
「王都じゃなきゃ出来ないこと?」
「はい。税率を下げるために仕方がなかったとはいえ、かなりの強硬手段を用いました。そのため、クラッド村長は周囲の貴族から注目を集めることが予想されます」
「まぁ、それはね。……それで、解決策は?」
「はい。抑止力として外見等を整えるべきかと思われます。クラッド村長の容姿は大変すばらしいですが、お召し物が村長としては少々劣る物です。そのため、まずは服を揃えることが必要かと」
「まぁ、確かに。他の町の村長とかと会う機会があるかもしれないし、そのための服は必要か」
「そして、お客様をおもてなし出来る家政婦も必要かと思われます。こちらから出向くばかりではなく、来賓への対応も求められますので」
「家政婦かぁ。確かに向うから訪ねて来たときの対策は必要か。……けど、前村長って家政婦とか雇ってたか?」
ジュリが僕に同意するように首を振る。
「私、家政婦さんなんて見たこと無いよー? 誰か来てもお母さんがお茶入れてたし」
「そうですね。たしかにジュリ様が仰るとおり、家庭内でもてなすのが一般的です。しかし、クラッド村長の場合家庭はなく、ジュリ様が担当されるにしても相応の作法が必要となります。残念ながら、今のジュリ様がすぐに覚えられるものではありません」
「うーー。たしかに、学んでない……」
「大丈夫ですよ。2年もあれば覚えられますから、私でよければ教えてあげますので」
どうやら、ハウン姉はジュリの教育係も兼任するようだ。
「家政婦が必要なことはわかった。それで、どこで雇えばいい?」
「奴隷商で奴隷を購入してきてください。奴隷であれば主を裏切る心配が無く、側近の家政婦は奴隷であることが一般的ですので」
「奴隷か……」
「はい。最低限の振る舞いが出来る者、そして、出来れば2級で探して頂きたく思います。2級であれば、生涯の側近にすることが出来ますので、クラッド村長の情報が漏れる心配が無く、最適かと思われます」
「……わかった。それなら、服と奴隷を買いに行くとしよう。おすすめの店などあるか?」
「もちろんです。それでは奴隷商のほうからご案内いたします」
ハウン姉の案内で奴隷商に到着し、入り口を潜る前に服選びは任せて欲しいと彼女達は人混みの中に消えていった。。




