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この世界には奴隷が居る。
法的に認められ、中には王家御用達の奴隷商なんて店も存在する。
十分な法律も整備され、貴族達にとって所有する奴隷の数は、ある種のステータスのようなものとして扱わる。
待遇に関しては、雇い主次第ではあるが、スラム街で生きる者より、奴隷の方が良い暮らしをしているといっても過言ではない。
奴隷に関しては2種類、1級奴隷と2級奴隷が存在する。
1級は借金などでお金が払えず奴隷となった者で、所有者は国が定める最低限の賃金を支払う必要がある。
2級は窃盗や暴行などの罪を働いた者で衣食住さえは必要だが、賃金は払う必要がない。
どちらの奴隷もある程度の金額を支払えば解放されることになるが、2級はそもそもお金を貰える制度にはなっていない。
つまり、1級は禁固何年、2級は終身刑、そのような制度だ。ちなみに、放火と殺人は処刑となるため、奴隷の範疇ではない。
奴隷は、1級2級に関わらず、腕に魔法がかけられた青いブレスレッドをする決まりだ。
その奴隷用ブレスレッドが、いま、ぼくの目の前にある。
「どういう意味か説明してもらって良いか?」
「お兄ちゃんはこれから村長になるでしょ? そしたらたくさんの人がお兄ちゃんを知ることになるよね?」
「村長は基本、世襲制らしいし、それを金で買った事で、良くも悪くも知れ渡るだろうな。けど、それがなぜ、奴隷につながる?」
「私の両親って、前村長でしょ? そして現在、国外逃亡中。
その娘が現村長の側に居るなんて、問題の火種以外の何者でもないじゃん」
ジュリが言うことはおそらく正しい。
第2王子派だった村長夫妻の娘が現村長に成る、もしくはその側に居る。それが第1王子派に知られたら、厄介ごとに巻き込まれかねない。
そもそもジュリは、派閥争いが沈静化するまで、僕の家で引きこもってる予定だったのだ。
そんな彼女が表社会にさらされて良いはずがない。
「けど、私は、お兄ちゃんと一緒に居たいの。お兄ちゃんに置いてかれるなんてやなの。だけど、私バカだから、なんにも思いつかなくて、ハウン姉さんに相談に乗ってもらって……」
「そして、相談を受けた私が奴隷を提案したわけだ。
ジュリちゃんがクラッド君の所有物になれば、両親と関係は切れることになるからね。……姉としてはすすめられないが、商人としては適切な手段だと思う。
それに1級だから雇われの私と立場は大きく変わらないしね」
「…………」
「私に出来るのは提案までだ。私は他に部屋を借りるから、今夜は2人でゆっくり話すと良い」
そう言い残して、ハウン姉は部屋を出て行った。部屋の中には、僕とジュリ、そして、青い腕輪が残された。
「……ジュリ。2つ質問がある。
まず1つ目。事態が沈静化するまで、俺の家で隠れて過ごしてくれないか? 出来るだけ会いに行くから」
「お兄ちゃんの側を離れるなんてやだよ。それに、村長って意外に忙しいんだよ。そんな頻繁に会えなくなる。
お兄ちゃんに迷惑かけるってそのつもりだったけど。奴隷なら大丈夫なんだよ?」
案外、この提案でなんとか成らないかと思っていたが、僕よりジュリの方が、長年側で見てきた分、知識が上のようだ。
「……2つ目の質問な。婚約者の件はどうするんだ?」
「ん? 婚約者? ……あぁー、確かそんな人いたかも」
「いや、いたかもって」
「だって、もう村長娘じゃないし、相手の家も第1王子に潰されちゃったはずだしね。婚約なんてとっくの昔に解消されてるよ?」
「……そうだったんだ」
奴隷になれば、婚約相手に迷惑が掛かると言って反対するつもりだったが、大前提からすでになくなっていた。
「それにもし解消されてなくても、私はお兄ちゃんが良いの。私の居場所はお兄ちゃんの隣なんだから」
「…………」
感情論以外で、彼女の提案に反対できる方法が見当たらない。
「どうしてもか?」
「うん、ずっと隣にいる」
「……わかった」
僕の側に居るためとはいえ、妹が奴隷になる。その現状に強く反対出来るだけの力が無い。
僕はどれだけ情けない兄なのだろう。
「それじゃ、腕を貸して」
ジュリの華奢な手をとり、腕輪をはめる。
「ずっと僕の側に居てくれ、なにがあってもジュリを離さないから」
青みを口付けで覆い隠して




