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ジュリの説教は10分ほどで終了し、反省のため、1時間の正座タイムに突入した。
全面的に僕が悪いため、正座の刑を甘んじて受け入れ、足の痺れと戦っていた僕の耳に、小さく呟いたジュリの言葉が流れてくる。
「黙ってやらなくても、そのくらいだったら……」
一瞬の間をおいて、僕の口がひとりでに動き出す。
「……え? なんだって?」
「し、知らない。ほんと、もぉ、お兄ちゃんなんだからーー!」
彼女の不意打ち的な言葉に、深く追求する勇気もなく、思わず鈍感系主人公の必
殺技をくりだしてしまった。
それが余計にジュリの怒りを増徴させたらしい。
顔が一段と赤く染まり、声もすこしばかり大きくなった。
「お兄ちゃん!! 今日はぜーーったいに私の言うこと聞いてもらうんだからね! わかった?」
「もちろんです。心得ております」
僕に拒否権などあるはずもない。
彼女の要求に従い、一緒にご飯をつくり、一緒に編み物をして、ずっと一緒の生活を強いられた。
お風呂だけは土下座で回避したが、寝るときも一緒だった。
押し倒されて、キスされた回数は数えていない。
布団の中では、かなり危険な場面もあったが、辛うじて勝利した。本当に厳しい負けられない戦いがそこにはあった。
煩悩退散のため、翌日は狩りを休みして、各自で特訓をすることにした。
初めは、滝にでも打たれてこようと考えていたのだが、真剣に付加魔法に取り組むジュリを見て考え直し、すずめと共に外に出た。
感覚を共有し、家の周囲を飛び回っていると、草むらに隠れたスライムを発見した。
まずは、攻撃力の把握からはじめよう。
スライムに気付かれないように空中から近づき、自由落下で勢いをつけ、鉤爪をくりだす。
狙い通りにわき腹へヒットしたものの、弾力のある肌にはじかれ、傷をつけることすら叶わなかった。
態勢を立て直すために、1度、空中に退却しようと翼を広げたが、羽ばたく前にスライムの体当たりが直撃した。
そのままの態勢で吹き飛ばされたかと思うと、すずめは空中で光になって消えてしまった。
すずめとしては一進一退の激戦だった。しかし、人間から見ると非常に微笑ましい光景だった。
近所の空き地で、犬と猫が戯れていた感じだ。
幸い、召還獣は何度倒されても召還すれば復活するので良いのだが、如何せん防御も攻撃も弱すぎる。
余談だが、スライムは魔玉がないので分類上動物である。
肉が取れるわけでも人を襲うわけでもないので、放置され、街中で見かけることも珍しくない。
その戦闘力は、5歳くらいが勇者ごっこの敵役にする程度の存在である。
さぁ、次いこ、次
物理がダメなら魔法でしょ。ってことで、火を吐け! とか、風を巻き起こせー! とか頼んでみたが、え、何それおいしいの? って顔でこっちを見てくるだけで、何も出来なかった。
物理ダメ、魔法ダメ。どうしろと? ってことで鑑定してみた。
・召還獣(鳥型) ランクG スキル 隠密1
説明:隠密行動に適した召還獣。
戦闘用じゃなく、情報収集用らしい。
無能、使い道なし、ごみなどの文字が並ぶことを半ば本気で考えていた僕にとっては非常に朗報だった。
むしろ冷静に考えて見ると、最高の召還獣かもしれない。
現状、攻撃面では弓があり、ジュリの付加魔法がレベルアップすることで、今後強化されることが、容易に想像できる。
一方、情報収集力の不足は、盗賊達を調査した時に痛感させられていた。
もしあの時、この子が居れば後手に回らずに済み、僕が取り乱すこともなかったと思う。
空を飛べる利点もあり、ジュリ同様、僕のスキルも使い方次第では強力な武器になるだろう。
…………………最高とか、嘘つきました。
普通にかっこいい召還獣がよかったです。
なんか、僕もジュリも能力、地味じゃない?




