<24>
僕は、周囲に落ちていた石を40個ほど集めると、円を描くように地面に並べた。その中央に円に添うように星を描く。
なんだか、どこの陰陽師だよって感じの魔方陣だが、技術石の指示なのだから仕方がない。
「準備完了。じゃぁ、ジュリ、ちょっと離れててくれるか?」
「うん。がんばってね。お兄ちゃん」
ジュリが離れたことを確認し、両手を円の淵に添える。土下座のようなポーズで、全身に流れる魔力を両手に集め、陣に流すようなイメージで腕に力を込めた。
僕の中にあった何かが、腕を伝い、地面へと流れ出したかと思うと、500mを全力ダッシュしたような疲労を感じる。
それと同時に魔方陣が光を放ち、中央に召還獣が姿を現した。
全長は14cm程度、背中は茶色でお腹が白、全身が羽毛に覆われている。2本の足先には、それぞれ3本の鋭い鉤爪を持ち、口元には硬そうな嘴も見受けられる。そして、1番の特徴であるだろう両腕には、翼が備え付けられた
器用な手の代わりに取り付けられたその羽を雄雄しく伸ばし、優雅に羽ばたけば、人類の憧れである大空へとその身を誘ってくれるであろう。
つまりは……
すずめ だった。
「かわいいーーー」
それが、ジュリの召還獣に対する初めの感想である。
技術石曰く、召還獣は人により様々で、レベルが増加するにつれて種類と数を増やせるとのこと。また、召還獣とはいかなるときでも感覚を共有できるらしい。
見た目より性能だろう、と気を取り直し、早速とばかりにすずめと感覚を共有する。
「うぐ、」
一瞬にして視界がぶれ、2つの光景が現れた。それまでの風景と、可愛らしいジュリの笑顔。
自分の眼とすずめの眼に移る視界なのだろう。
ジュリに頭を撫でられている感覚もあるので、痛点も共有出来るようだ。
ここまでなら良いのだが、酷い頭痛を感じる。めまいも吐き気もある。
「お兄ちゃん!? 顔真っ青だけど大丈夫??」
「あ、あぁ、大丈夫。ちょっと、立ちくらみがしただけだから、ちょっと座ってれば直るよ」
たぶん、慣れない作業をしたため脳が疲れたのだろう。目や皮膚からの情報量が2倍に増えたのだから仕方ないとも言える。
それでも僕は共有をやめなかった。
吐き気や眩暈と戦いながら、誠心誠意、全身全霊を持って、感覚共有できる召還獣と聞いた時点で考えていた作戦を実行する。
目を閉じ、全身系をすずめに集中させ、心の中で初めての命令を下す。
捕らえられていたジュリの手を抜け出し、羽ばたきも使って腕を駆け上る。
「やん、もぉー。どこいくのー?」
肩から鎖骨を通り、顎の下から服の中へと潜り込む。
「きゃ、や、ちょ、まって、ねぇ」
そこには男子待望の世界があった。全身がもちもちのふわふわに包まれる。
すずめ を取り出そうとジュリが動くたびに、吸い付くような感覚と程よい弾力のムニムニ感が全身を襲った。
「やん、だめ、そこはだめぇー」
イタズラ心で、少しばかり羽を伸ばすと、すずめ)の動きに合わせてジュリの口から艶かしい声が漏れる。
僕はいま、異世界に来て良かったと心の底から思っている。日本では絶対に味わえなかった幸せだ。
しかしながら、アイスがいずれ溶けてしまうのと同じ様に、幸せな時間は永遠には続かない。
上着の下から入ってきたジュリの手に、すずめはやさしく捕らえられた。
「もぉ、イタズラしちゃだめでしょー。まったく。……んー? お兄ちゃん、鼻から血が出てるよ?」
おっと、やばい。どうやら、聖戦の代償がこんなところに。急いで拭かねば。
「……おにいちゃん。召還技術の説明してもらっていいかなぁ? もちろん、隠し事なしでね」
全身から冷やかな汗が流れ出す。言葉は優しいのだが、ジュリの目は笑っていない。
……これが世に聞く女の勘だろうか。
無論、誠心誠意説明させて頂きました。土下座で。
そしたら、びっくりするほど怒られた。
ちょっとした出来心だったんです。
……だけど、後悔はしてません。だって、そこには理想郷があったんだもの。




