表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
25/73

<24>

 僕は、周囲に落ちていた石を40個ほど集めると、円を描くように地面に並べた。その中央に円に添うように星を描く。

 

 なんだか、どこの陰陽師だよって感じの魔方陣だが、技術石の指示なのだから仕方がない。

 

「準備完了。じゃぁ、ジュリ、ちょっと離れててくれるか?」

「うん。がんばってね。お兄ちゃん」


 ジュリが離れたことを確認し、両手を円の淵に添える。土下座のようなポーズで、全身に流れる魔力を両手に集め、陣に流すようなイメージで腕に力を込めた。


 僕の中にあった何かが、腕を伝い、地面へと流れ出したかと思うと、500mを全力ダッシュしたような疲労を感じる。

 それと同時に魔方陣が光を放ち、中央に召還獣が姿を現した。

 


 全長は14cm程度、背中は茶色でお腹が白、全身が羽毛に覆われている。2本の足先には、それぞれ3本の鋭い鉤爪を持ち、口元には硬そうな嘴も見受けられる。そして、1番の特徴であるだろう両腕には、翼が備え付けられた


 器用な手の代わりに取り付けられたその羽を雄雄しく伸ばし、優雅に羽ばたけば、人類の憧れである大空へとその身を誘ってくれるであろう。


 つまりは……






    すずめ だった。



「かわいいーーー」

 それが、ジュリの召還獣に対する初めの感想である。


 技術石曰く、召還獣は人により様々で、レベルが増加するにつれて種類と数を増やせるとのこと。また、召還獣とはいかなるときでも感覚を共有できるらしい。


 見た目より性能だろう、と気を取り直し、早速とばかりにすずめと感覚を共有する。


「うぐ、」


 一瞬にして視界がぶれ、2つの光景が現れた。それまでの風景と、可愛らしいジュリの笑顔。

 自分の眼とすずめの眼に移る視界なのだろう。


 ジュリに頭を撫でられている感覚もあるので、痛点も共有出来るようだ。


 ここまでなら良いのだが、酷い頭痛を感じる。めまいも吐き気もある。


「お兄ちゃん!? 顔真っ青だけど大丈夫??」

「あ、あぁ、大丈夫。ちょっと、立ちくらみがしただけだから、ちょっと座ってれば直るよ」


 たぶん、慣れない作業をしたため脳が疲れたのだろう。目や皮膚からの情報量が2倍に増えたのだから仕方ないとも言える。


 それでも僕は共有をやめなかった。

 

 吐き気や眩暈と戦いながら、誠心誠意、全身全霊を持って、感覚共有できる召還獣と聞いた時点で考えていた作戦を実行する。

 

 目を閉じ、全身系をすずめに集中させ、心の中で初めての命令を下す。

 

 捕らえられていたジュリの手を抜け出し、羽ばたきも使って腕を駆け上る。

 

「やん、もぉー。どこいくのー?」 


 肩から鎖骨を通り、顎の下から服の中へと潜り込む。


「きゃ、や、ちょ、まって、ねぇ」


 そこには男子待望の世界があった。全身がもちもちのふわふわに包まれる。


すずめ(ぼく) を取り出そうとジュリが動くたびに、吸い付くような感覚と程よい弾力のムニムニ感が全身を襲った。


「やん、だめ、そこはだめぇー」


 イタズラ心で、少しばかり羽を伸ばすと、すずめ(ぼく))の動きに合わせてジュリの口から艶かしい声が漏れる。


 僕はいま、異世界に来て良かったと心の底から思っている。日本では絶対に味わえなかった幸せだ。


 しかしながら、アイスがいずれ溶けてしまうのと同じ様に、幸せな時間は永遠には続かない。


 上着の下から入ってきたジュリの手に、すずめ(ぼく)はやさしく捕らえられた。


「もぉ、イタズラしちゃだめでしょー。まったく。……んー? お兄ちゃん、鼻から血が出てるよ?」


 おっと、やばい。どうやら、聖戦の代償がこんなところに。急いで拭かねば。


「……おにいちゃん。召還技術の説明してもらっていいかなぁ? もちろん、隠し事なしでね」 


 全身から冷やかな汗が流れ出す。言葉は優しいのだが、ジュリの目は笑っていない。

 ……これが世に聞く女の勘だろうか。


 無論、誠心誠意説明させて頂きました。土下座で。

 そしたら、びっくりするほど怒られた。


 ちょっとした出来心だったんです。

 ……だけど、後悔はしてません。だって、そこには理想郷(ユートピア)があったんだもの。

 



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ