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13歳の少女に押し倒されてしまった。
情けないやら、案外嬉しいやら、妙な感情が僕を取り巻く。
なんだろう、うまく考えがまとまらない。
ジュリと色々な話をしなきゃいけない気がするが、何を話したら良いのかわからない。
そんなモヤモヤした感情を抱えながらも、幸せそうなジュリに手を引かれ、家へと帰り着いた。
モヤモヤに包まれる僕に対して、彼女は普段と変わらないように見える。もしかしたら、何もなかったのかも知れないと思ってしまうほどだ。
そんな彼女がおもむろに矢筒を手に取ると僕の方を向く。
「お兄ちゃん。そろそろ、新技を試してみない?」
「……そうだな」
考え続けてもすぐに答えが出るとも思えなかったので、彼女の意見に従がい、1度考える事を放棄することにした。
楽しそうな表情を浮かべる彼女に手を引かれ、玄関前に広がる空き地へと出る。
「森に入らなくていいよね?」
「そうだな。ここで良いと思うぞ。技術石で得た技は使えるよな?」
「うん、大丈夫だよ」
技術石を使った時から、召喚魔法の使い方が何となくだが、わかるようになっていた。
念のために尋ねてみるとジュリも大丈夫とのことなので、石を使えば自動的に技の使い方もわかるらしい。
どういう仕組みだ? などと無駄なことを考えたこともあったが、魔法に仕組みがあるかなどわからないし、そういうものだと納得しておく。
「どっちからする?」
「私からしたい。お兄ちゃんに私の力、見せてあげるよ」
「わかった。お願いするよ」
僕が同意すると、ジュリは背負っていた矢筒の中身を1本ずつ選別し始めた。
「うんと、この子でいいかな」
ジュリは自分に言い聞かせるように1本の矢を取ると、鏃の部分を両手で包み込む。
真剣な表情を浮かべ、どことなく全身に力を込めたかと思うと、ジュリの手から青い光が放たれた。
「よかったー。……はい、お兄ちゃん」
一瞬にして光が収まったかと思うと、ジュリが嬉しそうな表情を浮かべ、付加魔法を込めたと思われる矢を手渡してくれた。
見た目には変化のないただの矢だが、気配が少しばかり大きくなった気がする。
「たしかに、何かかが付加されたみたいだな。じゃぁ、使ってみせてくれるか?」
「うんうん。私じゃダメなんだよ。自分で使うと発動せずに消えちゃうんだってー。だから、お兄ちゃんが撃って」
……なんですと? 自分じゃ使用不可のスキル? 付加は自分じゃ不可って、駄洒落か?
……まぁ、逆に考えると、なるべく後ろに居てもらう理由にはなるか。
危険なことをして欲しくない僕としては、ジュリの能力が支援型でよかったと考えるべきだな。
なんにせよ、使ってみるか
「了解。じゃぁ、撃つぞ」
いつも通りに構えて矢を放つと、いつも通りのスピードで、いつも通りに飛んで行く。そして、いつも通りに的に刺さった。
「……ジュリ、付加魔法は発動したのか?」
いつも通りにしか見えなかった僕に対して、ジュリはどこか確信をもった表情でうなずいた。
「うん。矢を引き抜いてみて」
「……濡れてる?」
ジュリの指示に従い、引き抜いてみてようやくわかった。
矢から水が滴り落ちている。そして、的である藁の束もじっとりと湿っていた。
ジュリ曰く、無機物であれば魔力を付加でき、蛇口と100円ライターのどちらかの魔法を付加できるらしい。
そして、付加スキルのレベルがあがれば、有機物、そして様々な魔法を付加出来るようになるとのこと。
ちなみにスキルレベルは、魔物の心臓付近にある魔玉を吸収すればあがるらしい。
レベル上げに関しては、僕の召還スキルも同様だと技術石に聞いて(?)いるため、恐らくは、技術石で得られるスキル共通なのだろう。
ジュリのスキルは、自身で使えないのは勿体ないし、魔法の威力が弱い現状では有効な使い道は思い浮かばないが、育てればきっと優秀なスキルになると思う。
さぁ、次は僕の番だな。




