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<18>

 なぞの気配を感じてから1週間が経過した。


 ジュリと僕は行動範囲を家周辺に限定し、その気配になるべく近寄らないことにした。


 もちろん、その間の情報収集はおこたってない。


 気配察知の結果、どうやら7人組みのらしく、すべて男性のようだ。


 彼らは、1箇所をねぐらにし、狩をして食料を集めているらしい。村長代理や商人のジュリさんに探りを入れてみたが、めぼしい情報は得られなかった。


 探りを入れているあいだも、彼らの行動範囲は徐々に広がり、遂には2人の気配が家の前までたどり着いてしまった。


 事前に察知していた僕は、彼らに見つからないように、ジュリと2人で近くの森に身を隠し、様子を伺う。


 近くに来ないことを祈っていたが、無情にも男達は目視で確認出来る距離まで来てしまった。


 無精髭を生やした髪に濁った目、右手に錆びれた短剣を握っている。


 到底真っ当な人間には見えなかった。


 僕の裾をギュっと握りしめたジュリの顔はには、恐怖と不安の色が滲んでいる。もし、彼女がいなければ、僕もこの場から逃げ出していただろう。


 そんな僕達を尻目に、男達は、家を眼下に話しを繰り広げる。


「おー、家じゃねぇーか。ちょっとぼろいが悪くないな」

「ヒャッハー、大当たりだぜ。これで洞穴とはおさらばよー」

「住民はどうせ狩人かきこりだろう。殺すかうっぱらってここを本拠地にするか」

「狩りの時間だぜー。住民ちゃんよー」

「まてまて、1度帰って全員で――ガハっ」


 僕の手を離れた矢が、1人の男に命中する。

 額に深々と刺さったことを確認すると、もう一方の獲物へ向けて矢を撃つ。


「ぐべっ」


 彼らの会話は、悪人で救いようのない人間だとわかるものだった。


 そして、そんな奴等がこの家を奪おうとしている。じーちゃんとばーちゃんが大事にしていたこの家に住もうとしている。


 それだけわかると、体が勝手に動いていた。


「……お兄ちゃん?」


 倒れた獲物に近寄る前に足を射る。


 手負いの獣は危険だからな。きっちり仕留めたことを確認するべきだ。


 ……ふぅ、動かないか、ちゃんと1発で仕留めれたな。


「ねぇ、おにいちゃん」

 

 ん? この獲物はどうやって剥ぎ取ればいいんだ? 毛皮なんてないぞ?


「お兄ちゃん!!」

「……あ、あぁ」


 男達に近づき、剥ぎ取り用のナイフを取り出したところで、ようやくジュリの声が耳に入った。


 どうやら、大分気が動転しているらしい。


 周囲を一通り見渡した後、大きく息を吐き出し、気持ちを落ち着かせ、心配そうな表情を浮かべるジュリへと向き直る。


「ジュリ、お前は村へ向かえ。ここにいると危ない」

「え? ……お兄ちゃんはどうするの?」

「僕はこいつ等の片づけをする」


 ジュリの顔に浮かんだ不安の色が濃くなり、裾を握る手にも力が入る。


「……やだよ。お兄ちゃんも一緒にいこ。ね?」

「ダメだ。ほら、早く村にいくんだ。いい子だから」

「…………」

「ジュリ、行ってくれお願いだから。

 君はここに居てはいけないんだ。村へいかな――」


 言葉の途中で、パッチンという音と共に、頬に痛みを感じた。


 視界いっぱいに、泣き出しそうなジュリの顔が見える。


 そして、自分がジュリに頬を叩かれたのだと理解した。


「……じゅ、り? ……んっ!」


 ジュリが両手が僕の頬を包み込むように伸ばされ、


 背伸びをするかのように


 彼女の唇が僕の唇にふれた。


 さわるだけのような軽いキス。



 初めてのキスは、やさしい香りがした。

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