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<16>

 あの日から2年経ち、僕は12歳になった。


 結局、僕の生活は変わらなかった。

 狩りをして、ご飯を食べ、週2で村へ毛皮の売却とジュリの教育に向かう。


 2人が授けてくれた技術が僕を生かしてくれていた。


 6歳と幼い年齢から狩りに連れて行ってくれたのも、剥ぎ取りやなめしを教えてくれたのも、いまを見越していたのだろう。


 じーちゃん、ばーちゃんに感謝しながら、今の生活を維持続けるのもいいなー、と思い始めた矢先、事件が起こった。


 いつもの時間に村に到着すると、ジュリだけでなく村長夫妻も出迎えてくれた。

 3人に笑顔などなく、何かあったと思わせるには十分な雰囲気を醸し出している。


「……なにかあったんですか?」

「あぁ、今日はクラッド君にお願いがあってね……」


 言葉を選ぶように紡ぎだされる村長夫妻からの頼みは、僕の想像を遙かに超える内容だった。


 近年、遠く離れた王都で王様が亡くなった。その王には三人の息子が居て、その3人が王位を賭けて争い、第1王子の勝利で決着がついた。

 今後は勝った人が政権を磐石にするために、ほかの2人を殺害しようと画策しているらしい。


 ここまでなら遠い世界のお話なのだが、ここからぐっと身近になってしまう。


 その負けた第2王子の側近が、ジュリの婚約者のお父さんの上司。そのため、村長夫妻、ひいてはジュリまでもが、この騒動に巻き込まれる立場となってしまった。


 この世界の粛清は酷いものらしく、捕まれば親族は処刑、賛同者は幽閉以外ないらしい。

 村長夫妻は、この賛同者の立場になってしまう。


「私達夫婦は、第2王子と共に隣国へと逃れる。しかし、その旅は過酷なものになるだろう。

 だから、まだ幼いジュリはこの村に残してやりたい。ジュリのことを君に頼みたいんだ」


 瞳に覚悟を宿らせ、村長は深々とお辞儀をしてみせた。


「なぜ僕なのでしょう。村にはたくさんの大人がいます。僕はまだ12歳ですよ」

「幸い第1王子側はジュリの顔を知らない。が、この村に10歳くらいの女子はジュリしかいない。だから、家が離れている君の所で身をひそめているのが1番安全なんだ」

「……お話はわかりました。

 たしかに、現状を考えると、それが適切なのでしょう。……ジュリはそれでいいんだね?」

「うん。……お兄ちゃ、グラッド、さま、といっしょに…、お側につかえさせてください」


 慣れない敬語を用いて、何かを振り切るようにジュリが言葉を紡ぐ。

 よく見ると彼女の目は真っ赤に充血し、目元も若干晴れていた。


 きっと、あの日の僕のように一晩中泣いたのだろう。


 隣国までは最短でも山を6つほど越える必要がある。日本で言えば、道を使わず東京から北陸へ3回往復するようなものだ。そして、隣国とは友好関係を結んでいない。

 言葉に言い表せないほど過酷な旅になるのだろう。


 連れてけるものなら連れて行きたい。そして、ついていきたい。

 それでも夫妻は娘と離れることを10歳の少女は親と離れることを選んだ。


「わかりました。お引き受けします。必ず生きて帰って来てください」


「……もちろんだ、約束しよう」


 翌日から、ジュリは僕の家で生活をし、夫婦は隣国へ向けて旅立った。


 祖父母に続き、村長夫妻までもが、僕の前から姿を消した。

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