<13>
村長宅でお互いに軽く挨拶をし、ハウンさんと握手をした。
商人のハウンさんは仕事が出来ますよって雰囲気を醸し出した30代の女性だった。
実際やり手なのだろう、服装は華やかで高級感を醸し出しているが、お金持ち特有の嫌らしさはなく好感が持てた。
日本で勤め先の社長と初めて出会った、そのときの感覚に似ている。 ……まぁ、勤め先の社長となんて、入社式で握手してもらって以来、会う機会もなかったのだが。
「この村の毛皮は質が良いとお客様からも好評を頂いておりまして、村長にお礼申し上げたところ、毛皮の半分はクラッド様が仕留めたとのお話しを伺いました。
そしてクラッド様が本日こちらに見えるということで、誠に勝手ながら待たせていただいた次第です」
「なるほど、状況は理解しました。しかし、半分は言いすぎですよ、確かに仕留めてはいますが、まだまだ、祖父には届きませんから」
「なんでも、その若さでラビッドベアーを1人で仕留められ、さらには剥ぎ取り、なめしまで行うとか」
弓の練習の合間に最近では、ばーちゃんから剥ぎ取りやなめしなど、獲物を製品にするための技術を学んでいた。
「まぁ、たしかに狩りから仕上げまでを1人で行うことも出来ますが、まだまだ、祖父母には勝てないですからね」
「ご謙遜を……、と言いたいところですが、たしかに比べる先が超一流のリアム夫妻ですから、それも仕方のないことです。しかし、他の村と比較すれば一流と呼んで差し支えないレベルに加え、すべて1人で行える。その点を加味して1度、ご挨拶とお礼をと考えた次第です」
「そういうことですか。評価して頂けることはありがたいことです。まだまだ至らないとは思いますが、お言葉は有難く頂戴させて頂きます。
今後とも良い取引をよろしくお願いします」
そういって深く頭を下げた。
近隣の町がどこにあるか分からないが。わざわざ買取に来てくれ、さらには塩の販売もしてくれる。彼女が来なくなればこの村は廃村への道を直走るほかない。
それに、話を聞く限り信用できそうな人だし、仲良くしておくほうが良いだろう。
「えっと、グラッド様。一つ、失礼ながら申し上げますが、よろしいでしょうか?」
「もちろんですよ。何でも仰ってください」
「……本当に、10歳ですか?」
あ、やべ、やっちゃったかな? ……10歳ってこんなしゃべり方しないんだっけ?
「え、ええ。そうですよ。まぁ、まだ9歳ですが、そろそろ10歳になるってところです」
そういって、9歳ですよアピールをするために両手を広げて、小さな体ですよアピールして見せた。
「そ、そうですよね。どうみても9歳です。不思議と大人相手に話している感覚に襲われたもので……」
まぁ、中身大人ですからねー。見た目は子供、頭脳はおと―――。
「あぁ、いえ、申し訳ありませんクラッド様。良い取引に年齢は関係ない。それが手前ども協会の信念。どうかお忘れください」
「いえいえ、大丈夫ですよ。気にしてませんから」
「そうですか、ありがとうございます。……そうだ、少々お待ち頂いてよろしいですか?」
僕がわかりました、と頷くと、彼女は村長宅を出て行き、5分ほどで荷物を抱え帰ってきた。
「御近づきとお詫びの印として差し上げます。多くの物から選らんで頂くのが協会の流儀なので、1品選んで頂きたく思います」
そういって、大小様々なものが並べられていく。色紙から鉛筆、弓や剣などジャンルも幅広い。
弓を鑑定して見るとランクCだったので、かなり良いものが並べられているのだろう。紙も白に近く、かなりの高級品のようだ。
その中で、1つ気になるものを手にとると、ハウンさんからの説明が入る。
「そちらは、最高級の絹糸を纏め上げ、職人が丹精込めて赤く染色を施した1級品です。王都でも人気の高い品ですが……」
なぜそちらをといった感情を目線で訴えてきたので、ジュリのほうをちらっと見る。そうすると、ハウンさんは商人の目から、やさしい近所の姉といった感じの目に変わった。
「ふふふ、さすがグラッド様です。そちらでよろしいですか?」
ハウンさんに頷いたあと、太めの赤い糸をジュリに渡す。
「ジュリにプレゼント。最近、弓の練習がんばってるからね」
「え? ……いいの?」
「もちろん。ほら、付けて見て」
嬉しそうに頷いたジュリは、ツインにしていた麻の糸を解き、村長夫人に手伝ってもらいながら、赤い糸を用いてポニーテールに結った。
台所で水に映る自分の姿を確認した後、僕に見せつけるように後ろを向く。
1つに束ねられた濡れたような漆黒の髪が、ジュリの嬉しさを表すかのように、左右にふれる。その隙間からちらりと赤い糸が顔をのぞかせた。
いやー、艶のある黒髪に赤が映える。ジュリの可愛さが倍増したな。我ながらいい仕事が出来た。
本当は弓でもよかったかもとか思っていたけど、これ以上の結果などないな!!
「お似合いですよジュリ様。それでは、そちらは協会からの贈り物ということで、もう一本同じものを私個人からの品としてお送りさせていただきますね。……ジュリ様はツインテールもお似合いですから」
その言葉を聴き、思わずハウンさんとがっちりと握手をした。
この人、分かってらっしゃる。ポニーもいいけど、ツインもね!!!
ハウンさんは全面的に信頼できるな。倍払うといわれても彼女以外とは絶対取引してやらない。
翌日以降、弓練習中はポニー、それ以外がツイン。赤い糸で髪を留めた少女の姿が村で見られるようになった。




