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村長夫人の検品作業は続き、続々とBやCが見つかる。
じーちゃんが仕留めたものはすべてAなので、ぼくの未熟さが浮き彫りになる結果だ。
それでも夫妻は、すごいねー、と褒めてくれ、どんな弓を使ってるんだい? どうやって仕留めたんだい? と、僕が自慢しやすいように話題を振ってくれた。
久しぶりにじーちゃん、ばーちゃん以外と話したこともあり、僕も楽しく話せた。
まぁ、冷静に思い返すと、矢が手から離れてシューパーと飛んで行きー とか、中2病全開。擬音使いすぎだろー とか思わなくもないが。楽しかったからいいやって感じだ。
何より、村長娘が目をランランと輝かせ、聞き入ってくれたことが楽しかった。初めの挨拶時と比べれば格段に仲良くなれただろう。
これはもう、村長娘とかツインテ少女とかじゃなくて、ジュリちゃんと呼んでもいいだろう。いや、呼んでも良いに決まっている!!
「おにーちゃん、かっこいいね」
おにーちゃんきたーーーーーーー!!! しかもかっこいいって!!
なにこの子、ちょうかわいいんですけど。ってか、ちょっとまて、冷静に考えると、僕8歳でこの子6歳、家が……、まぁ、6時間かかるが近所といえなくもないだろう。いや、近所だ間違いない。だって、4軒お隣の家だよ? 近所でしょー。
いまはまだ幼い少女だが、パッチリおめめとしっとりした黒髪、これは将来美人間違いなし!!
そして、この子が18歳の黒髪美人になったとき、僕は20歳。ベストカッポー。
つまり、黒髪ツインテ幼馴染系ヒロインきたーーーーーーー!!
神様、ありがとう。いままで恨んでいてごめんなさい。テンプレ通りに可愛いヒロイン登場させてくれてありがとう。このご恩は一生忘れません。
「ねーおかーさん。おにーちゃんクネクネしてくけど、どうしたの?」
「えっと、ぅん。お兄ちゃんはね、ああやって訓練してるから強くなれたのよ」
っは、いかん。どーやら、ヒロイン登場にテンションを上げすぎたらしい。ここは冷静に勤めねば。
「まぁ、じーちゃんの足元にも及ばないんだけどね。それでも、狩りが出来るようになってから楽しいよ」
「そうなんだ。じゅりもおにいちゃんみたいにつよくなりたい」
「よし、じゃぁ、ジュリにはお父さんが剣を教えてやろう」
「や。ジュリ、おにーちゃんのゆみがいいー」
フラグキターーーーー!!
高まる気持ちを抑えつつ、師であるじーちゃんを見てお伺いを立てると、うれしそうに目を細めながら頷いてくれた。
「うん、じゃぁ、お兄ちゃんが弓を教えてあげるよっか」
「いいのおにいちゃん!! ありがとう」
フラグ回収完了!!!
「そうだ、うんとね、おかーさん。おにーちゃんがじゅりのこんやくしゃさんなの?」
…………。
ん? なんだって? こんやく? 記者会見? 離婚はファックスで?
「……えっとねぇ、婚約者さんは王都にいるのよ。このお兄ちゃんは……、えっと、……そう、近所のお兄ちゃんなの!!」
「そうなんだー。……おかーさん、おにいちゃんうずくまってるけど、どーしたの?」
「……お兄ちゃんはお腹が痛くなっちゃったのかなー。そうだ、お母さんは練習場の準備してくるわね」
「……そ、そうじゃのう。わしは弓を作ってきてやるかのぉ」
「う、うむ。的の準備をしておこう」
大人たちは、居た堪れない空気から逃げるように、家を出て行った。
……はい、ということでね。ヒロイン婚約者いるよーーーー!!
王都ってことは貴族かなー、会ったことないってことは許婚なのかなー。貴族の許婚とか強敵だねー。うん、たぶん勝てないねー。
……この子、たぶんヒロインじゃないね。うん。
ねぇ、神様、テンプレ……。




