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~王様と側近~

~王様と側近~


 白亜の宮殿に激震が走った。一つは暗黒の森の北だけでなく南の都市も壊滅したそうだ。ただ、運よく人が死んでいない。負傷者は多いが死者が出なかったのだ。あれだけの惨劇だったにも関わらずだ。最近は軍隊が出ると言ってもどちらかというと復興支援という感じだ。そして、不思議なことに巨人は同じ方面に来ない。


 いつか我が国にも巨人が来るのではという思いがあるが、他の国には竜が来ていない。そういう意味ではアランの街で聖騎士ミルディンが奮闘してくれているのが助かっているのかもしれない。


 相変わらず王の孫娘のミサは見つからない。ここまで見つからないのならもうダメなのではという声も上がっている。


 だが、王はあきらめていない。こんな状態にもかかわらず多くの兵を軍をミサの調査のために割いている。


 しかも見つからないことにいら立ち、指揮官に当たり散らしている。


 復興のため諸外国に対して食料を売りつけている。外国に売りさばくほうが利益が良いからと言って気が付けば国内の食糧備蓄が急激に減ってきている。


 そんな中、すでに王都ラグーンより強大になりつつあるルフエルの街が反旗を翻したとの連絡が入る。


 兵が王都の向かっているのだ。その数8万。現在王都には3万の兵しかいない。さらに悪い知らせが入る。


 ミサの侍女から手紙が届いたのだ。気が付いたらルフエルの街にいたこと。ミサはいないこと、ウォーレンの刺客から逃げ切り今は湖と緑の街であるリュムーナに滞在していると言う。リュムーナは何もなければミサが訪れる場所だったのだ。別荘地として王都から遠くもないが城壁もないもない街だ。だが、山に囲まれ湖と緑が広がるその街は特筆する名産品も工芸品もない。あるのは自然だけだ。


 王はその情報に焦った。そう、ウォーレンの所にミサがいるのではと思ったからだ。


 浮足立つ宮殿内で一人だけ動じていないものがいる。彼の名はレオニールという。彼は白騎士の名を受けている。聖騎士の次席だ。


 まだ若く赤い髪を長く伸ばしている。銀のサークレットで髪を止めている。赤い目は宮殿を見渡している。


 王が言う。


「誰か、ウォーレンの軍団を止めに行く勇敢なものはおらんのか?」


 誰も手を上げない。そりゃそうだ。半数以下の兵士で挑んで勝てるわけがない。いや、すでにこの中からどうやってウォーレンの陣営に取り入ろうと考えているものもいるかもしれない。


 王はすでに疑心暗鬼になっていた。レオニールが手を挙げる。


「私が合対峙いたしましょう。ただし、全軍の指揮を私にゆだねさせてください。でないとただ敗北するだけです」


 だが、その言葉に誰も賛同しない。自らの軍を動かしたがらないのだ。レオニールが言う。


「ここにいる諸侯の兵を集まれば20万になるでしょう。ウォーレンの倍になります。王都直下の兵は3万しかいません。私の兵でも2万。合計で5万です。どうでしょう。誰か一緒に戦うものはいませんか?」


 だが、誰もが地面を見ているだけだ。王が言う。


「相手は8万だ。5万もあれば追い返せるだろう。その戦局を見て各々が援軍を出すと言うのはどうだろうか?」


「それは私に捨て石になれというのか?」


「そうは言っておらん。だが、お主は白騎士だ。一人で千人に匹敵する強さだろう。ならば少しぐらいの兵力差があっても大丈夫だ。なあ、皆の物そう思うだろう」


「ああ、そうだ。レオニール殿なら安心だ」


 レオニールはぐったりした状態になる。


「わかりました。全力をつくします」


「おお、皆のもの。これで安泰じゃ。それで、ミサの行方だが誰か情報はないか?情報があれば、報奨を与えるぞ」


 レオニールは居心地の悪い謁見室を退席した。




~レオニールと側近~


 もう、この国はダメかもしれない。誰もこの国のことを考えていない。王は孫娘のことしか考えていないし、諸侯連中は自らの利益しか考えていない。何人がこのまま王の下に残るのだろうか。


 それに頼りになると思っていた聖騎士ミルディン様は竜と戦い続けている。この場にはおられない。


 黒騎士も、青騎士も諸外国の復興と魔族討伐のために出ている。すでに四騎士と呼ばれる中で残っているのは僕くらいだ。


 本当ならば戦いたくない。僕には妻も居る。子も居る。生きて帰らないといけない。だからこそなんと言われようと僕はこの戦いに勝たなければならない。そう、どんな手を使ったとしても。


 今までの戦いは美徳というか騎士道というか正面からぶつかり合うのが戦いの礼儀とされていた。


 それは無駄が多い。僕はそんな戦いはゴメンだ。部下だって無意味に命を落としたくないだろう。


 そう、港町ルフエルからこの王都ラグーンに向かうにはミルドー峠を通るのが最短だ。ゆっくり攻めあがってきているがこの場所を通ることは確定だろう。


 だからこそ僕はここで戦いを挑みたい。卑怯というヤツがいるかもしれない。でも戦いなんて被害が少なく勝てばいいはずだ。僕は早速軍議を開いた。



「皆、知ってのとおり、ウォーレンがこの王都に向かって攻め入っている。相手の兵力は現在8万。だが、我が軍に王都の正規軍を足しても5万しかいない。だが、勝機はある。この劣勢を跳ね返し我らの名を国中にとどろかせよう」


 当たり前だがこう話しても皆の顔色はよくない。だが、この次に話す内容を聞いたらどうだろう。まだドキドキする。けれど、ここを乗り切らないといけない。


「まず、戦いの場だが、ミルドー峠を考えている。ここが戦火となる」


 誰もが不思議に思うだろう。ミルドー峠は大勢の兵が動くには狭いのだ。隊列を組んでも細長くなるだけ。そんな場所で大軍と大軍がぶつかり合ったとしてもほとんどの兵は戦いにも参加できない。だが、それが狙いだ。


「まず、盾部隊を全面に置く。ここは機動力はいらない。純粋オリハルコンの盾を設置して防衛をする。次に大半の兵は崖の上に上がる。相手が膠着している所を上から岩を落として閉じ込める。更に弓矢で兵を射続ける。こうやって兵を消耗させるのだ。また、事前に干草をミルドー峠にいたるところに敷き詰めておく。そう、慌てふためいているところに火を放つのだ。少ない兵で相手を倒す。これが戦略だ」


 皆が呆然としている。誰かが言う。


「これが戦いですか?」


「ああ、そうだ。絶対に勝つための戦いだ。それも被害を最小限に食い止める。卑怯といいたいのか?ならば玉砕覚悟で突っ込むほうがいいとでも思っているのか。生きてこその人生だ。死んで名誉だけもらったとして何になる。そんな勲章より、生きて家族の元に帰るほうがうれしいに決まっている。将兵が命をかけて戦うのは当たり前だ。だが、無駄死にする必要はない。我と共に来るのなら生きて帰ろう。納得がいかないヤツがいたら手をあげるがいい」


 周りを見渡す。誰も何も言わない。だが、表情は悪くない。戸惑っているが誰もが死にたくないのだ。


「おそれながら、進言があります」


 次官であるギルフォードが手をあげる。ギルフォードを慕っているものも多い。やはり染み付いている騎士道を貫きたいというのだろうか。


「なんだ」


 不安いっぱいだがばれないようにそう話す。ギルフォードが言う。


「ここに落とし穴を作るのはいかがでしょうか?」


 一瞬何を言っているのかわからなかった。他に手があがる。


「岩石だけだと手配が厳しいです。もう少し手前だと水攻めでできます。どうでしょうか」


 意見がどんどん出てくる。どうやら騎士道というものは僕が思っていたより軽いのかもしれない。


 僕が頑張って守ってきていた騎士道というものは一体何だったのだろう。なんだか少しだけ悲しくなった。


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