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~ウォーレンと側近~

~ウォーレンと側近~


 なんて俺はついていないんだ。


 赴任した場所がたまたま海辺だった。農作物が潮風で育ちにくいと言われたから漁ができるように港を造った。特産品が手に入るということ、陸路だと遠いので海路を構築するために港を大きくし、造船して配布した。


 そう、俺はこのルフエルに住む民のことを思ってやったのだ。私財も当初はかなりつぎ込んだ。


 だからこそ回収するためにギルドを作ったのだ。資金を集め運用をし、利益が出たら出資者に返す。不安定な農作物に相場を決めたのも損をするものが出ないようにするためだ。


 そうしてこのルフエルという小さな港町は徐々に大きくなったのだ。


 だが、街が大きくなると妬むものが出てくる。何か中央で事件があると全て俺のせいではないかと言うヤツがいる。


 そんな中央になんか興味はない。あんな内陸がこれからの商業によいとは思えない。これからは船の時代だ。それに中央には暗黒の森という魔族が住んでいるという。海にもクラーケンやら危険な生き物はいるが、100メートル以上の竜が空を飛ぶなんてこともなければ150メートルの巨人が闊歩するなんてこともない。


 確かに嵐の最中に舵取りを間違えたら命取りになる。けれど楽しみが多いのだ。気象学を学び、雲の流れを見る。羅針盤を元に海路を進める。そして、各国の名産を取り寄せこのルフエルの市場で売るのだ。


 そんな干からびた危険のある中央なんて年寄りが集まって解決のない議論や押し付け合いをしていればいい。


 そういう無駄な会議がいやだから中央から離れているのだ。その分大目に上納金を納めているではないか。


 一体それの何が不満だというのだ。謀反とか考えていないのかと言ってくるヤツもいる。戦いにどれだけお金がかかると思っているのだ。そんなお金があるのなら更なる技術に投資をするほうが街のためになる。


 技術革新は早いのだ。痩せた土地でも育つ作物の開発を北の国では行っている。南の国ではオリハルコンやミスリルに変わる鉱物が発見されてきている。


 それに、荒れ狂う海の向こうに新大陸があるという噂もある。その新大陸を発見したものが広大な土地を手に入れられるといわれているのだ。


 何度言っても誰も信じてくれない。俺は謀反など考えていない。いや、むしろそんなどうでもいい中央より新大陸の方が興味がある。


 それにも関わらずやっかいな種が舞い降りてくる。そう、中央の王の孫娘が行方不明になったのだ。それだけならまだいい。その犯人が私であるという噂があるのだ。しかもその説が一番有力なのだという。おかしな話だ。


 おかげで軍隊を使って近隣の調査をせざる得ない。身の潔白を晴らさないといけないからだ。

 ありもしない、存在しないものを探すことを命じる俺の身になって欲しい。どれほどつらいことか。


 だから、現地へ行く兵士にねぎらいの言葉とともに、その家族にも十分な報酬を与えるようにしているのだ。


 だが、不運は続く。なんと、伝令からその孫娘であるミサの侍女が見つかったというのだ。このルフエルで。しかもその手紙の内容は私に不利になる内容だったのだ。


 郵政担当が警察と話しをして俺のためと思いその侍女を捕まえようとしてくれたのだ。その行為はまあいいとしよう。


 だが、逃げられたのだ。しかもその侍女の横には少年剣士が着いているというのだ。しかもその少年剣士はオリハルコンの剣を持っていて、わが警備兵の盾をまるでバターを切るようにさくっと切り捨てたらしい。


 おかげでその侍女を逃がしてしまうことになる。これだけならまだいい。まだ、現場が勝手なことをしたということで済むからだ。


 だが、不安になった俺は個人の私兵を偵察に向かわせたのだ。帰りが遅いから第二弾を向かわせたところ、第一弾がつかまっており、俺の名前を告げているというのだ。


 このままでは俺がミサをかくまっていると思われてしまう。面倒なことになった。どうすれば誤解が解けるだろう。


 いや、無理だ。今更何をしたところでこの誤解は解けそうにない。あの王やその側近たちはうまくいっているこのルフエルの街を妬んでおり、そして俺の足を引っ張りたいだけだ。それにもう一つ。中に目をやられると自分たちの不正がばれるからできるだけ遠いところに王の目を向けたがっているのだ。


 だれもあの場所に俺の味方はいない。いるとしたらこの街くらいだ。


 ならば一層のこと誤解を誤解でなくしてしまえばいいのかもしれない。まあ、実際行わないとしても、そういう動きがあるということを見せるだけで抑止力になるだろう。とりあえず費用の算出と武器と傭兵の確認をするか。俺は事務机にあるブザーを押した。


「はい」


 俺の秘書の一人である「アベル」の声だ。彼は若く血気盛んだが俺の意向をよく受け止めてくれる。


「アベル。ちょっと来てくれ。後、そこに今誰がいる?」


 しばらくして、アベルはこう言った。


「商人のヤーン様と、傭兵ギルド長のシフ様、ルフエル組合会、会頭のムルギフ様がおられます」


 なんだ、ちょうど聞きたいメンバーが揃っているではないか。これは運がいいのだろうか。


「全員通してくれ」


 俺はそう言った。これで大体の見積は取れそうだ。




 すぐに俺の執務室に4人が集まる。いや、さらにドアをノックするものがいる。ルフエル軍の軍団長や警察長官までも来ている。


 一体何だというのだ。しかも皆部屋を出ようとしない。まあいい。私はいつも開かれた政治というものをしている。


 誰に聞かれても困るような話をしないのが私のモットーなのだ。皆静かに何かを待っている。軽く咳払いをする。


「皆、多く集まってもらってすまない。話しはすぐに済む。今中央では王の孫娘ミサが行方不明である。そして、そのミサを誘拐したのが俺だという噂が流れている。だが、俺は断じてそのようなことをしてはいない。

 だが、昨日ミサの侍女が誤解からか俺を悪とするような手紙を王に送ろうとしていた。郵便局長の機転により手紙は送付されずに済んだが、侍女を逃がしてしまった。逃がしてしまったものは仕方がない。それにこの侍女にはオリハルコンを持つ少年剣士がついていたという。

 ひょっとしたら中央にはルフエルのウォーレンは謀反を起こすのではないのかと言うやつらが出てくるだろう。

 そこでだ。噂が広まる前に書く荷をした。まず、当方の武器や防具についてオリハルコン製に変更をした場合、いつまでにいくら調達ができ、金額がいくらになるのかをヤーン殿に聞きたい」


 俺はヤーンに向かって聞いた。ヤーンはいつもメガネをかけて猫背で自信なさそうなのだ。だが、なぜか今日のヤーンはやる気に満ちている。胸を張って顔は笑みすらこぼれている。そのヤーンが言う。


「その言葉を待っていました。すでに必要数は倉庫に保管しております。金額につきましては今までのこともあります。今回は半額で提供します。更に試作段階の兵器があります。こちらは調査もしたいため無償でお出しします」


 なんと。


 今までヤーンには各国からの商材を一気に任せてきた。その恩がこんな形ですぐに来るとは。


「ありがとう。では、次にだ。シフ殿に聞きたいことがある。今傭兵を雇い入れるとした場合いくらくらいが相場になる?」


 シフは老獪な戦士だ。いや、北の国の軍隊長をしていたらしいのだが、策略により失脚しそれ以降誰も信用せず、金だけを信じて戦い抜いてきている。シフの下にも同じような思いを持ったものが集まっている。だが、今日のシフはなんだかはつらつとしている。まるで子どもがおもちゃをもらったかのような顔をしているのだ。シフが言う。


「ウォーレン殿よ。我が傭兵団はそろそろ落ち着こうと思っております」


 そうか。確かにそう思う気持ちもあるかもしれない。無理は言えないな。私はそう思った。だが、シフはこう続ける。


「私たちはウォーレン殿に仕えようと思っております。もし私を軍団長に任命していただけるのなら費用などなく、どこへでも戦いに参りましょう。すでに各国に散っているものも終結しております。明日には5万の兵にまで増えるでしょう」


それはすでに王都の正規軍をはるかに超過している。それだけの軍隊が動けば日和見な連中は雪崩れ込んでくるかもしれない。


「なるほど。シフ殿。考えさせてくれ。では、ムルギフ会頭。食糧の備蓄や新規で購入した場合どれくらいの量がいつまでにいくらで購入可能なのか教えてくれないか?」


 ムルギフ会頭はこのルフエル一体の商店や協会の一気に束ねている。いつもはその苦労からくたくたなのだが、今日は睡眠が十分取れたのかわからないが目が輝いている。いや、これはひょっとしたら徹夜明けのハイテンションなだけなのかもしれない。ムルギフ会頭が言う。


「すでに各商店に確認済みです。もしウォーレン様が号令を出されたら余剰分の食糧・保存食を皆無償で提供します。今と言われたら今日中にでも広場を埋め尽くすだけの食糧が集まるでしょう」


 どういうことだ。まるで皆が何かを予見していたような動きだ。一体これは何だ。幸運なのだろうか。するとアベルが言う。


「皆、待っていたのです。いつまであの腐った王政に従わないといけないのか。あのムダに高い納税額がなくなればもっといろんなことができる。絶対に我らがウォーレン様は立ち上がる。その時まで皆準備をしておこうと話していたのです。

 ちょうど昨日ミサの侍女が見つかり逃げた情報が駆け巡りました。これは決起が近い。皆がそう思っておりました。さすがはウォーレン様。翌朝に何かあると感じたのは3名の方だけでしたがすでに外を見てください」


 そう言われて窓から外をみる。すでに各々手に槍や剣をもち武装をしている。兵士ではない。ここにいるのは皆このルフエルの民なのだ。皆戦う準備をしているのだ。


 俺は振り返る。皆が待っている。おかしい。俺は軽く見積を取りたかっただけなのだ。だが、もうそんなことを言える雰囲気ではない。仕方がない。ここまできたらやるだけだ。


 窓を開ける。大きく息を吸い込んでできるだけ大きな声で叫んだ。


「ああ、皆のもの。このウォーレンに命を預けてくれ。これは聖戦だ!」

「おぉぉ!」


 歓声がこだまする。

 もう、どうとでもなれ。俺は平和なこのルフエルという街を守りたかっただけなんだ。





~アネモネとガイ~


 一夜明けてまだ信じられないと思った。確かにいつも何か事件があると強大に膨れ上がった港町を取り仕切っているウォーレンが黒幕なのではと話しがあがることはあった。


 だが、ここ最近は顔を出すことはなくなったがウォーレンが中央に呼ばれて来たのを何度も見たことがあるが、ものすごく人の良いで、まっすぐな人としか思えなかった。とても策略や暗躍をする人と思えなかったのだ。


 細面の顔は戦いより学術に向いている感じだし、チェスだってクロケットだって、いつも戦いを楽しむよりゲームを楽しみ相手が気持ちよく勝てるよう気を使っているようにしか見えなかった。


 一体何があったというのだろう。わからない。けれど、実際目の前で捕らわれている人たちはウォーレンの名前を言っている。もし、本当にウォーレンが心変わりをしているのならばあれほど細かい仕事をする方だ。私が普通にして逃げ切れる道なんて残っていない。


 でも、私の体はまったく動いてくれないのだ。いや、ちょっとは動かせる。でも立ったり歩いたりはかろうじてできるけれど走ることはできない。


 ならば一層のこと私が捕虜になった方がガイさんにとってはよいのではないだろうか。


 こんな年端も行かない子どもを巻き込むわけにはいかない。


「ねえ、ガイさん。この街でウォーレンに逆らって逃げ切れるとは思わない。だから、私のことは捨てていって欲しいの」


 私はそう言った。ガイさんが言う。


「ああ?捨てて行けだと。無理だね。アネモネはまだ歩くことだってままならないだろう。おとなしく馬車に乗ってろ」


 そう言うとすぐに私は馬車の中に押し込められた。夜だけれど馬車をゆっくり動かしている。ガイさんは何も考えていないわけではないのがわかる。けれど道から外れて進められるところなんて限られている。そう思っていた。しばらくして馬車が止まる。


 馬車から外を見ると岩壁が聳え立っていた。イーギルが壁をよじ登っている。


「危ない!」


 私はそう思った。馬車の扉を開けるとガイさんがイーギルを眺めている。私に気がついてガイさんはこう言ってきた。


「大丈夫。この岩壁を上がるんだ。滑車をつかって馬車をあげる。まさか相手も馬車がこんな岩壁を登るなんて考えてもいないだろうからな。へへ」


 そんなことが可能なのだろうか。私にはわからなかった。ガイさんは言う。


「これは陽が登る前にやらないといけないんだ。なんせ昼間だと馬車が岩壁を登っていたら目に付いてしまうからな。俺はこれから馬車の車輪のあとを消してくるけどじっとしてろよな。もし変なことを考えていなくなるようだったら地の果てまで俺は追いかけるから覚悟しろ」


 口調は悪いけれどちゃんと考えてくれている。私はうれしくて「待ってます」とだけ言った。


 気がついたら涙を流していた。こんなに大事にされることなんて今までなかった。ガイさんは一体いくつなんだろう。12歳?13歳?それくらいにしか見えない。私はもう18歳だ。なのに、なぜだろう。ガイさんから目が離せない。ドキドキしてしまう。




 しばらくしてガイさんはほこりまみれ、土まみれで戻ってきた。


「お、ちゃんと待っていたんだな」


 そう言ってとの汚れた手で私の頭をなでてきた。いつもならこんなのいやなのだけれどいやな気持ちになれなかった。


 コン。


 音がする。ガイさんが馬車の外に出る。次に馬車の屋根の上に乗っかったのがわかる。どんどん音がするからだ。


 しばらくして、ガイさんが馬車の中に入ってきた。ガイさんが言う。


「怖かったらしがみついていいぞ」


 一瞬何を言っているのかわからなかった。その瞬間ガタンと音がしたかと思うと馬車が宙に浮き出したのだ。しかもかなりの速さで。


 ドンという音がする。ガイさんがするっと窓から外に出ると馬車の向きが変わった。車輪が地面についたのがわかる。


「出て景色でも見てみるか?」


 ガイさんが言うので馬車の外に出た。そこは岩壁の上。森の一部だ。しばらくしていると太陽が昇ってきた。遠くに白亜の宮殿が見える。小さく見えるけれど確かに見えたのだ。


「ガイさん、見て。あそこ。あそこ」


「なんだ?」


「あの湖が見えるところ。あそこはよくミサ様と一緒に行った別荘があるの。あの近くに私の実家があるの。緑がきれいで湖がきれいなの。ねえ、落ち着いたら湖があるところに一緒に行かない?」


 なんだかふいにそう言ってしまった。口にしてから恥ずかしくなってきた。ガイさんは「まあ、いいぜ。というかこれからそこに行こう」と言ってくれた。


 なんかそれだけでちょっとうれしかった。


 眼下に広がる世界を見るとルフエルから伸びている道は私が今いる崖とは反対側だ。ここからだとどこが一番近いのだろう。わからない。でも、確実にこの場所は盲点のはずだ。


 なんだかこの機転の利き方。本当にガイさんっていくつなんだろうと思ってしまう。いや、私とは全然違う世界の人なのかもしれない。


 よく見ると黒い髪に紫の瞳。よく子供向けの絵本で出てくる悪い魔族に描かれる風貌だ。だが、実際には黒い髪をして紫の瞳をした人だって多くいる。それに、ガイさんが悪い魔族と思えない。だって、絵本に出てくる魔族は人間を食べるし、殺す。しかもわけもなくだ。


 でも、ガイさんは私を助けてくれるし、襲ってくる兵士を誰も殺さない。平和的とまではいかないけれど被害が出ないようにしているのだ。


「ありがとう。ガイ様」


 私はそう言った。ガイ様が言う。


「あ、俺に様なんてつけるな。ガイって呼んでくれ。なんか、その。こそばゆいんだよ。そう言われたら」


「わかったわ。ガイ」


 なんだか照れているガイを見てやっぱり少年なんだって思った。馬車は進んでいく。ミサ様には悪いけれどちょっと楽しくてこのまま時が止まってしまえばいいのにと思ってしまった。



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