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~王と側近 キールとミサ~

~王と側近 キールとミサ~


 白亜の宮殿に伝令が届く。アランの街の防衛を聖騎士であるミルディンが行っているのだ。しかも何度も竜を追い返している。


「さすが聖騎士、ミルディンですね。このまま押し切りましょう」

「おお、それはいい考えですな。では貴殿が行かれるのですか?」

「そうですね。行きたいのですが、最近私はぎっくり腰になってね。戦場に行くのはちょっと厳しいですな。それより貴殿の方こそどうでしょう」

「いやいや、私ごときが名誉ある聖騎士ミルディン様と肩を並べて戦うわけにはいきません。こういうのはもっと高位なる方が行かれるのがよいのでは」

「私はダメだぞ。ミサ様を探すことで軍が動いておるからな」

「だが、成果はまるでない」

「誰だ、そんなことを言ったのは」


 王都ラグーンでは毎度このような会議がなされている。その中で一ついい知らせが入ったのだ。


「勇者は見つかりませんでしたが、勇者の子が見つかりました」

「おお、でかした。そのものに魔族と戦って25年前同様に協定を結んできてもらおうではないか」



 王がそう話している時にまた特使がきた。その特使は北に位置する国だ。


「我が国が攻め入られております。救援を求めます。我が国の前線都市は壊滅状態です」


「わかった。同盟国のため軍を出そう。レイコック。そちの軍が北に向かうように」


 そう言われてレイコックの顔面は蒼白になった。特使が安心して出ていく。それを見て王はさらに追加してこう言った。


「レイコックよ。並べく遠くからながめるようにするのだ。兵が多くいるように馬にはわらをひかせて土ぼこりが多く上がるようにな。援軍をだしたというパフォーマンスだけでいい。無理はするな」


 そう言われてレイコックは破顔した。そして、「喜んで参ります」と言って出て行った。








 暗黒の森付近をキールとミサは毎日回るようになった。

 トールの頭上をミサが気に入ったからだ。


「ミサの行きたいところはどんな所?何か覚えていない?」


 私はミサのほっぺたをむにゅむにゅしながらそう聞いた。もう、かわいすぎる。まあ、トールも変化をといている時間が長いせいか気楽な感じだ。


 そりゃ変化し続けるのは大変体力も魔力も使う。まあ、ゆっくり歩くだけだから疲れることもないだろうしね。ミサが言う。


「えとね、えとね。湖があったの。おっきな、おっきなの」


 ミサが手を大きく広げてそう話している。


 そう、ミサは折角暗黒の森の中につくったプールは気に入らなかったみたいで、泳いでくれなかった。


 まあ、水着にはなってくれたのでうれしかったけれどね。もうね。何種類も水着用意しちゃったからね。


 はじめはナーガのチョイスで大丈夫かと不安になったがなんとかなった。最悪私が出向こうか悩んだくらいだ。


 千里眼でこの世界中どこでも見ようと思えば見れるのだが、疲れるのだ。それに任せることを覚えないと部下が育たない。


 ナーガも自分でずっと行くのではなく誰か任せられる部下がいないのだろうか。


「みずうみ、みずうみ」


 ミサがそう言って手を振っている。言われたら視界の隅に湖が見える。足でトールの頭をたたく。


「トール、あの湖まで行って」


 トールの足が止まった。トールが言う、


「暗黒の森を出て大丈夫ですか?」


「いいよ。ミサが行きたいって言っているんだもの。でも、人は殺しても傷つけてもダメだからね」

「わかりました」


 そう言ってトールは歩き出した。


「わーい。わーい」


 ミサが喜んでいる。もうかわいすぎるのだ。


 少し歩いていくと高台から音がした。ドーン、ドーンと言う音がする。ミサが言う。




「あの音何?」


 そう言われたので目を凝らしてみる。


「ああ、あれは大砲だね。なんだろう何かの祝い事でもあったのかな。でもなんか大砲がこっちを向いているね。危ないね」


 本当に危ない。もしミサに当たったらどうするんだ。まあ、この高さまで届きそうにはないが。


 まあ、念には念を入れてちょっとあのあたりの地盤でも崩しておくかな。えい。

 手に力を入れてエネルギーの塊を地面にぶつける。地面が揺れる。トールも若干揺れている。

 思った以上に地割れがしてしまった。


「あ、ちょっと力強すぎたかな。最近栄養あるものばっかり食べていたから力配分間違えちゃった」


 そう言ってミサを抱きしめる。ミサが言う。


「ごめんちゃいは?」


 あ~、もうかわいい。これ言ってもいいよね。うん、確かに私間違えたものね。


「ごめんちゃい」


 そう言ったらミサが私の頭を撫でてくれた。もうかわいすぎ。とりあえず、トールが地割れやら人をよけながら慎重に歩いてくれる。周りを見るとなんか火の手とかも上がっている。


 もう危ないな。とりあえず火は消しておくか。ふっと息を吹きかける。あ、意外と遠いな。もうちょっと強めがいいかな。


 そう思って吹きかけたら一部の地面が凍りついてしまった。


 まあ、地割れが埋まっていい感じになったのかな。そう思っておこう。

 しばらくしてようやく湖についた。


「ミサ、どう?ここじゃない?」


 でも、ミサは首を横に振るだけだ。


「でもせっかく来たのだから泳ごうよ。ね」


 そう言って私とミサは一緒に湖で泳いだ。とりあえず、この場所は違ったみたいだからまたトールに乗って暗黒の森に戻って行った。今度はどこに行こうかな。





~ガイと侍女~


 海はよかったな。本で読んで知ってはいたけれど本当に塩っ辛い水なんだ。泳いでみて初めてわかった。気持ちよかった。


 あ、そうそう。あの人間の怪我を治すためにまず手元にあったオリハルコンを売ったのだ。本当は全部売り切ってもよかったのだけれどこれからしばらく旅をするつもりでいたから人間に交じって働いてみようと思ったのだ。


 なかなか漁というものは面白い。そして、これまた獲れたばかりの魚がうまいのだ。どうして今まで食事をとらなかったのかと思ってしまった。


 人間はめんどうだなって思っていたがそうでもないのだと知ったのだ。


 だが、やはり人間はめんどうだと思った。


 この怪我をした人間が意識を戻したと思ったらいきなり襲ってきやがる。本当に意味がわからない。


 こんな弱っちいのなんかひとひねりで片付けられるのだが、そんなことをしてしまったら遠くにいるからといってもあのキール様に殺されてしまう。


 あんなでたらめな強さをしている魔族なんて他にはいない。

 だから力を加減して逃げたのだ。


 馬車の従者に化けているのは俺の片腕と言ってもいいやつだ。イーギルというやつだ。化けるのはうまいのだが話すことができない。まあ、俺らは念波で会話ができるからいいが、あまりやりすぎるとこの人間が怪しんでしまう。


 とりあえず、今は馬車を止められる場所も見つかったし、近くに川も流れている。これならば水に困ることもない。しかも川魚もある。火を起こして魚を焼く。野犬どもがいるみたいだが、人間と違って俺らのことがわかるみたいで近寄ってもこない。


 まあ、野犬を食べたいと思わないからちょうどいい。獣族の俺としては野犬は遠縁みたいなものだ。


「ここは?」


 馬車の中から声がした。


「ああ、気が付いたか。ここの河原付近だな。場所はわからない。とりあえず追手は着てないみたいだ。そう言えば俺はあんたの名前すら知らないんだ。名前はなんていうんだ?」


 まあ、人間の名前に興味があるわけじゃない。けれど、つい人間って言ってしまいそうになる。それってやっぱりおかしいだろう。


 そういうことをしてしまう前に名前を聞いてみたんだ。俺って賢いな。人間が言う。


「私の名はアネモネです。似合わないでしょう」


 アネモネ?そういえばそんな名の花があったな。確かに花と人間は似ていない。それくらい俺にもわかる。


「まあ、花みたいだって言うのなら花と人は違いすぎる。まあ、でも名前なんてそんなものだろう。ま、いい名じゃないか」


 まあ、名前なんてなんでもいいんだ。とりあえず、呼び名が決まったのだからこれで安心だ。


「ガイさん。本当にありがとうございます。命をこれで2度も助けていただいて」


 なんだ、こんなに感謝されるとむず痒いじゃないか。


「まあ、気にすんな。俺だってただ旅に出たかっただけなんだ。それがその、なんだ。こんなことになってな。あ、そうそう。こいつはイーギルっていうんだ。俺の相棒だな。ただ、うまくしゃべれないから。気にしないでやってくれ」


 イーギルが頭を下げる。こいつがしゃべれないのはわかっている。変化がつらいのだ。しゃべろうとすると多分変化が解けてしまいそうなんだろう。


 こんなところで解けてしまったら大変なことになる。王が、いや、今はキール様か。キール様が絶対に許さない。ひょっとしたら一瞬で塵にされてしまうかもしれない。


 あのお方が考えていることはまったくわからない。ま、正直わかったからといっていいことなんて何もない。だと思う。


 まあ、俺は今回こうやって外に出られたんだ。それに人間が一緒にいるおかげで魔力をおおっぴらに使うこともできない。キール様はそういうことを嫌うからだ。


 そう思うと呼び戻そうって言ってもここは暗黒の森からもかなり離れている。ゆっくり暗黒の森にでも帰るかな。


 そう思っていたら森がざわつき始めた。俺はそんなに寝なくても大丈夫だが、相手も頑張るな。


 とりあえず先回りして気絶でもさせておくかな。戦闘になってしまって、間違えて怪我でもさせたら大変なことになってしまう。俺がキール様に殺されてしまう。


 そっと気配を消して闇に隠れる。人間はこう言う夜目が効かない。だからこそ大変なはずだ。俺はそっと一人ずつ背後に忍び寄って首を絞めていく。殺さないように気を付けて。


 そして、草で作ったロープで縛り上げる。完璧だ。そして一つにまとめる。5人か。もっと大勢で来るかと思ったら意外と少ないな。


 とりあえず、縛り上げて担いでいく。さっきの場所の近くまで全員持っていくか。下手に森の中に放置して野犬がかじったりしたら大変だものな。


 その場合も俺が傷つけたってことになるのかな。その辺のジャッジがよくわからない。


「よっと。これで全員かな」


 そう言って縛り上げた人間を並べる。馬車からアネモネがこう言ってきた。


「優しいんですね。だって誰も傷つけていないですもの」


「いや、そんなんじゃないですよ」


 いや、ルールなんだよ。破ったら俺がキール様に殺されちゃうからね。


「でも、これで私を狙った人が誰なのか、その理由も聞けます。不思議だったんです。ただの侍女がどうして狙われなきゃいけないのか」


 ああ、そうか。こうやって捕まえたら尋問することだってできるのか。なるほど勉強になるな。前の大戦の時なんてそんなこと考えたことすりゃなかった。


 まあ、もう人間に手を出すことはできないんだけれどね。でも、不条理だよな。人間側は手出しできるのだから。


 実際ちくっとするくらいなんだけれどな。俺らクラスになったら。剣があたったとしても。そう思っていたらイーギルが川から水を汲んできて縛り上げている連中に水をかけ出した。


 ああ、こうやって起こすのか。もうちょっとで咆哮するとこだった。危ない、危ない。この前ちょっと読んでいた小説のラストがすごくて叫んだらちょっと遠くの馬と人間があわてるなんてことがあったからな。気を付けないといけない。


 起きたやつが周りを見渡している。そりゃ知らないうちに首を絞めて落とされたんだ。何が起こったのかなんてわからないだろう。


 とりあえず聞いてみるかな。


「なあ、お前ら誰に雇われたんだ。理由はなんだ」


 とりあえず普通に聞いてみる。皆黙っている。仕方がない。ちょっと気合いを入れてみるか。ちょうどキール様がよく俺らにするように睨みとともに殺気みたいなものをぶつけるようにしてみた。


「おい、答えろよ」


 木々がざわめく。あ、ちょっとやりすぎたかもしれない。大丈夫かな。何人か失神してしまったみたいだ。


 一人だけぐったりしているけれど起きている。どうやら誰も死んでいない。よかった。これ、気を付けないといけないな。もし、こんなことで殺しちゃったら大変なことになる。起きている奴が言う。


「ウォーレン。それが俺らの雇い主だ。理由は知らん。ただ、この女を生け捕りにしろと言われただけだ」

「誰だそれ?アネモネわかる?」


 まあ、人間界の事情なんて知らない。だがアネモネは震えている。どうやら知っている奴みたいだ。アネモネが言う。


「とりあえず手紙を書いて王に送らないと。このことも踏まえて」

「どうするんだ。王都まで結構あるぞ」

「次の街で私が書きます。ガイさん。それまで助けてくれますか」

「ああ、当たり前だ」


 ここで見捨てて死なれたら問題だ。


「ありがとう」


 感謝されるって結構いいものなんだな。初めて知った。

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