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~王と側近とミルディン~

「伝令。伝令です」


 白亜の宮殿に声が響く。玉座に王が座っている。すでに疲れ始めている。王が探している孫娘であるミサの音沙汰は一切ない。


 調査にルフエルのウォーレンがかなり力を入れている話しが入っている。これをパフォーマンスととらえるのか、それとも本当はミサはウォーレンの所にいないのではないのかつかみどころがないのだ。


 だからこそこの白亜の宮殿でもウォーレンの動きをつかみかねていた。それと同時に何度か魔族、特に竜王が空を飛んでいるのを見かけている。


 だが、空を飛んでいるだけだ。攻撃をしてくるわけではない。だが、その巨体が空を飛んでいること、そしてその影が街にかかるだけでも人は不安になってくる。


 そのため、移動する民が多いのだ。いつ攻めてくるのか。その不安を皆がもっている。しかも軍隊はその前線にはいない。


 王や諸侯に対する不満も上がってきている。それがせき止められているのはまだ魔族が攻めてきていないからだ。


 いなくなった勇者を探そうと言う声が上がってきたのもこの時だ。調査隊が勇者を探し出したのだ。


「その伝令はどこのだ。ミサか?勇者か?」


 王の返答に側近たちは答える。


「いえ、アランからの伝令です」


 その一言で周りが静まり返る。伝令が走ってきて伝える。


「暗黒の森付近を巨人が練り歩いています。その大きさだいたい150メートル。あれは伝記にある巨人王なのではと思われます」


 巨人族。それは高い城壁がある街の前にやってきて城壁をよじ登る魔族だ。その大きさゆえ人類は逃げ惑いながら遠くから弓矢をぶつけるくらいしかできなかった。


 しかもその巨人族の王。3メートルや5メートルの巨人ではない。巨人の中でも最大なのだ。そんなものが威圧も兼ねて暗黒の森を練り歩いている。王が言う。


「歩いている場所は暗黒の森の外か内かどちらだ?」

「内側です。でも、どこからみてもわかるその大きさは脅威以外何物でもありません」


 そう伝令が話した後、さらに特使がやってきた。特使は諸外国の外交官だ。


 王都ラグーンは暗黒の森の西側に位置している。北側、東側、南側にも違う国がある。人類は広い暗黒の森を中央に世界を構築している。この25年の間に勇者と魔族の戦いは伝説になりつつあった。だが、この巨人の練り歩きのおかげで人類は思い出したのだ。


 魔族の恐怖を。特使は対魔族での同盟と勇者を排出した王都ラグーンを首都とするこの国に魔族との交渉をもちかけてきた。王が言う。


「簡単に行ってくれるわ。勇者はまだ見つからないのか?」


 誰も何も言わない。重苦しいまま時は過ぎて行った。




 暗黒の森近くにあるアランの街。その一角で一人の男性が眠っていた。


「うぅ」


 うめき声をあげる。男性は目を開けた。


「ここは?」


 男性の目の前には老女が居た。老女が言う。


「ここはアランの街さ。今は人も減って大変なことになっておるがな」


 男性は頭を押さえる。そして、何かを探している。男性の目が壁かけられている剣に目が行くと安心をしたようだ。


「まだ、動くのは無理じゃ。まあ、動けるようになるほうが今この街にとっては大事なことだろうがな」

「何が起きているのですか?」


 男性の問いに老女が答える。


「ああ、竜が空を飛んでいるのじゃ。昨日から2度。この街の上をな。そして、今朝は巨人が暗黒の森付近を歩いておった」

「軍隊は?軍隊は来ていますか?」

「いや、軍隊は城壁のあるポナムに待機しておる。この街は城壁も低いので来ないんだって」


 男性は少し考えてゆっくり立ち上がった。


「本来ならば僕には行かないといけない場所があります。けれど、この聖剣カリバーンがこんな状態を許さない。城壁まで僕を連れて行ってください。竜と戦います。僕は聖騎士ミルディンです」


 ミルディンはそう言ってゆっくり立ち上がった。


「大丈夫。そんなやわな鍛え方はしていません。竜はどこに現れるんですか?」

「ああ、いつも暗黒の森からこのアランの街まで飛んでくるのじゃ。そして上空を旋回していつの間にか消える」

「わかりました。では、暗黒の森付近の城壁で待ち構えます」


 そう言ってミルディンは剣を取って、背中にしまってある盾を取り出した。


「大丈夫。この剣も鎧も盾も少しだけだけれどオリハルコンが入っています。魔族から民を守るのは聖騎士である僕の使命だ」


 ミルディンはそう言って竜が来るのを待ち構えた。




 夕刻になり陽がかげってきた時に轟音がアランの街に響いた。

 空に七色にきらめく竜が見える。大きく旋回をしている。まるで何かを物色するように見える。


 ミルディンは剣を構える。上下に旋回する竜の動きを予測して城壁から櫓まで走り、やぐらを足場にして竜に向かって剣を向けた。


 だが、その瞬間竜は羽を大きく羽ばたく。その風にミルディンは吹き飛ばされるが受け身と言うのかごろごろ転がりすぐに立ち上がる。


 竜は空高く舞い上がり、そしてふと消えた。


 アランの街は歓声に包まれた。


「竜を追い返したぞ」

「さすが聖騎士様だ」

「ミルディン様素敵」


 だが、ミルディンは気が付いていた。一撃も与えることができなかった。しかも竜は攻撃らしい攻撃をしてこなかった。


 一体どういうことなのだ。あの竜から敵意は感じられなかった。魔族にはそういう敵意というものが無いのかもしれない。


 それから夕刻になるとミルディンはいつも竜と戦うようになった。

 それはアランの街の名物となったのだ。





~ナーガとミルディン~


 買い物というものはこれほど大変なことだと思わなかった。はじめ王に、いや今はキール様か、に言われて買い出しに行ったのだ。


 すると、これは安物だなとか、これはまがい物だ。これは少し古くなっているなどなど言われたのだ。

 

 値段は特に言われたことはない。どうせ我々はオリハルコンを売りさばいて金をしている。この暗黒の森付近には膨大なオリハルコンが採れるのだ。


 まあ、我々魔族にとってはダークマターの方が使い勝手がいい。どうして人間はあんなものを重宝したがるのかよくわからん。


 だから金に困ったことはない。だが、値段が高ければいいものとも限らない。

 買う前に店を選ばないといけない。だが店に行ったとしてもタイムセールがいつはじまるのかもわからない。あのタイムセールを避けて行かないと人が多すぎて大変なのだ。


 この前など知らずに立ち入ってしまってもう大変なことになってしまった。危うく卵が割れてしまう所だったのだ。


 それにここ最近城壁に変なヤツが現れたのだ。若干オリハルコンが入っている武器や防具をつけているようなのだが、これがまた弱いのだ。ちょっと羽ばたいただけで転がっていくのだ。キール様から人間は絶対に殺さないこと、できれば傷つけることも禁止と言われている。

 だが、旋回をして市場を見渡さないと私には買い物がうまく行かない。市場は広いのだ。しかも、その日によって良い食材の場所が違う。だから空から見渡したい。どこの商品が一番いいのかを選ばないといけないからだ。


 人のかっこで空を飛ぶわけにはいかない。実際は飛べるがそんなことをしてしまったら注目を浴びてしまう。


 そうなるとこの街で買い物ができなくなってしまう。ここより遠い街に行ってしまったら帰りが遅くなってしまう。


 この前依頼されたアイスなんてものだと溶けてなくなってしまうかもしれない。

 かといって氷のブレスで凍らしてしまってはいけないようだ。かなりめんどくさい。だが、人間の食べ物を食べてみるとこれが非常においしいのだ。


 だから私も最近自分用に作っているのだ。そして、部下にご馳走をしている。これがまた好評なのだ。


 こんなに料理が楽しいと思わなかった。それまではエレメンタルからエネルギーを取っているだけだったのだが、こう食べる楽しみというものを知ってしまったのだ。


 まあ、人間を食べるというヤツも下等魔族にはいるが、きちんと調理方法が確立されている料理がおいしいに決まっている。


 本屋なるものがあるのもキール様からミサという人間のために絵本というものを買ってくるように言われて知った。


 キール様はなんでも知っている。なぜあんなに人間界に詳しいのかいつも考えてしまう。まあ、あの勇者と仲がいいのだ。だから人間界のことを詳しくなっているのだ。その癖人間界には干渉をしない。


 不思議なお方だ。まあ、誰よりも強い魔力をお持ちのキール様に逆らうなんてことは誰もしないし、誰もキール様の考えはわからない。


 それに下手に聞いて機嫌を損ねるのも怖い。ひと睨みされるだけで体がバラバラになりそうになるからだ。加減されているのだろうけれど、あのひと睨みなどうちの若い衆なんかだと一瞬で塵になってしまうだろう。


 私はそう思い今日は先に本屋に行って料理について書かれている本を買うつもりなのだ。

 だから、この弱い人間の相手は早めに終わらせるとするか。


 それにしても、学習もしてくれない。あの塔の側面を駆け上がって私に剣を突きつけようとする。多分あれくらいの剣だと当たっても竜鱗で跳ね返してしまうだろう。だが、そうしてしまうと跳ね返って受け身を取れないかもしれない。それで怪我をされてしまっては困るのだ。


 だから羽で軽く風を起こす。うん、今日はうまく行った。あの人間がくるりと回転して地面に着地する。



 歓声がする。


 周りをみると観客がついている。なるほど。この人間との戯れはこの街の娯楽になっているのか。それはいいことだ。このことをキール様に報告すれば喜ばれるかもしれない。いや、余計なことをしてとひと睨みされてしまうかもしれない。


 あのひと睨みは本当に痛い。余計なことは言わないようにしよう。そう思っていたら、不意に横から槍が飛んできた。


 どうやら他にもこの人間と共に戯れに参加するものがいるみたいだ。


 見るとミスリル製の槍みたいだ。なかなか良いチョイスだが、それだとちくっとするくらいだ。まあ、竜族の中でも下っ端ならば倒せるかもしれないが、竜族の王である私がこんな槍が当たっても跳ね返すだけだ。


 跳ね返すだけ?周りを見る。観客が多い。跳ね返った槍はどこに行くのだろう。わからない。仕方がない。吐息を吹きかけるか。まず、炎でミスリルを溶かす。うん、いい感じだ。次に氷のブレスで熱を冷ます。最後に吐息でゆっくり地面に落ちるようにする。


 よし、誰もいないところだ。完璧だ。


 そう思っていたら遠くで鐘がなった。耳を澄ます。


「30分後にタイムセール開始です」


 お、ちょうどいい感じだ。今のうちに商品を買っておかねば。空高く舞い上がる。一旦人型に変化をして、城門付近の森めがけて急降下する。周りに人はいない。こっちは暗黒の森付近の反対。反対側の城壁付近に皆が集まっているのだ。こう思うとあの戯れはかなり都合がいいのかもしれない。


 私は足早に市場に向かった。


 今日は市場で買い物をした後に本屋に行きたいのだ。


 あ、最後にアイスを買わねばならない。あれは最後に買って急いで戻らないと溶けてしまうからだ。

 

 今日はアイスではない。ソフトクリームだ。あのソフトクリームというやつは本当にやっかいなのだ。早くしないと形が崩れてしまう。だが、食べると本当においしいのだ


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