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~侍女とガイ~

~侍女とガイ~

 

目を醒ましたら知らない天井が見えた。


「気が付きましたかね」


 そう言って、目の前には白髪の老人がいる。ここはどこだろう。私は暗黒の森に落ちたはずなのに。ミサ様は?ミサ様はどこに。


 私は体を起こそうとした。体中が痛い。


「まだ、無理をするでない。お前さんの身体はあちこち傷だらけだったんじゃからの。骨も折れておった。おおそうだ。一緒にいた人にも声をかけないとな」


 そっか。ここがどこかわからないけれどミサ様も無事なんだ。そう思っていたらカーテンの向こうから黒い服に身をつつんだ黒髪、紫の瞳をした少年が出てきた。誰?この少年は。少年が言う。


「よかった。目が覚めたんだ。このまま目を醒まさなかったらどうしようかと思っていたんだぜ」

「あなたは誰なんですか?」


 しかもなんだか私より年下にしか見えない少年なのに偉そうだ。


「ああ、俺はガイって言うんだ。よろしくな」


 そう言うと横にいた白髪の老人がこう言ってきた。


「この少年が傷だらけのあんたを助けてくれって言ってきたんだ。感謝するんだね。てっきり知り合いか何かなのかと思っていたわい」


 そうなんだ。じゃあ、私はこの少年の命を救われたんだ。


「ガイさん。ありがとうございます。ところで私のほかにもう一人幼い女の子がいませんでしたか?」


 そう言うとガイさんは少し困った表情をしてからこう言ってきた。


「いや、わからない。でも、今はあんたは体を治すのが先決だな」


 ガイさんはそう言ってくれた。確かに体も動かすことができないのだ。確かにその通りかもしれない。けれどそういうわけにもいかないのだ。


「その子は私の身体よりも大事なのです。私にとっては。お願いします。どういう形でも構いません。何か情報があれば知りたいので。後、ここはどこなのですか?」


 そう言うと白髪の老人が教えてくれた。


「ここは港町ルフエルだよ。あんたはどこから来たのかな?」


 ルフエル。なんでそんな遠いところに私はいるのだ。王都ラグーナからも、湖畔の別荘からもあの暗黒の森からも遠い場所だ。


 どうしてこんなところに私はいるのだろう。まず伝えなければ王に。王都ラグーナに。


「お願いがあります。まず手紙を書きたいです。でも私はこの通り体を動かすことができません。代わりに手紙を書いてくれませんか?」


 そう言うとガイさんはこう言った。


「悪いな。俺は文字は読めるけれど書くのはダメなんだ。ものすごいヘタックソなんだよ。爺さん代わりに書いてくれないか?」


 そう言われて白髪の老人は頷いてくれた。私は宛先は王都ラグーナにいる王であること。私自身がミサ様の従者であり、今この港町ルフエルにいることを書いてほしいと伝える。ミサ様の行方は不明。私自身怪我により動くことができないことを書いてほしいと伝える。


 白髪の老人は顔面を蒼白にしながら文章を書いてくれた。横でガイがその手紙を覗いている。ガイさんが言う。


「ほら、文面はこれでいいか?よかったらこのまま爺さんに郵便を出して来てもらうからな」


 そう言ってくれた。口調は悪いが悪い子ではないみたいだ。私のことも助けてくれたし。そういえばここの治療代はどうなったのだろう。


「ありがとう。御代はどうすれば?」


 そう聞くとガイさんがこう言った。


「大丈夫。気にするな。俺が払ってやるよ。こんな郵便代なんてここの治療費に比べたら屁でもないしな」


「お金持ちなの?」


「いや、そういうわけじゃない。ちょっと労働をして稼いだんだ。結構これでも重宝されているんだぜ。へへ」


 なんか楽しそうだ。私は少しだけ安心した。今私はお金を持っていないからだ。後で落ち着いたらちゃんとお金を返さなきゃ。ガイさんが話しかけてくる。


「なあ、王都ラグーナってどんなところなんだ?」


 ガイさんはどのあたりの出身なのだろう。地方なのだろうか。私も地方出身だからわかる。色んなものが集まる王都ラグーナは特殊なのだ。いや、噂で聞くこのルフエルも色んなものであふれていると聞く。特にここ最近ウォーレンが治めるようになってからかなり活発になってきているのだ。


 貿易により街に色んなものがあふれ、今では王都ラグーナに匹敵するくらいの大きさになっているとも聞く。やはり気になるものなのだろう。


「王都ラグーナは中央に白亜の宮殿があるの。そしてその横には勇者記念館がある。勇者が身に着けていたオリハルコンの装備が飾られているの。触れることもできるのだかれど、誰もが持ち上げることができないの。後はミスリルでできた工芸品が有名かな。世界各国からの品物が集められる場所でもあるの。でも、それはこのルフエルも似たようなものかもしれないね。私はルフエルの街を見たことがないけれど市場とかすごいんだろうな。そのあたりは似た感じなのかもしれない。

 ただ、王都ラグーンにはおっきな学校があるの。そこは女生徒はセーラー服というのを着ているの。その服を着ていると色んな店が割引になるのよ」


 そう言うとちょっとだけガイさんは変な表情をした。なんというか思い出したくないものを思い出したみたいな感じだった。


 そんなにイヤになる話しを私はしたのだろうか。わからない。そう思っているとガイさんがいきなり立ち上がった。窓側による。


「どうしたの?」


 そう聞くとガイさんは人差し指を口元にもっていった。何が起きたのだろう。耳を澄ませてみる。さっきの白髪の老人の声がする。


「そんな、荒らさないでください。相手は少年と体も動かせない女性なんですぞ」

「やかましい。これがどれだけの一大事なのかわかっているのか?だったら黙っておれ」


 なんか言い争っている。金属が何かにあたる音が聞こえる。


「ガイさん?これって」


 ガイさんは私に近づいてきて、私を抱きかかえる。


「どうしたの?」

「ここは危ない。逃げよう」

「どういうこと?」

「わからない。けれどこのままここに居たら危険だ」


 なんだかガイさんが深いため息をついている。私はガイさんの小さな背中におぶさり、ずれないようにシーツでガイさんの身体にしっかり結ばれた。ガイさんが聞いてくる。


「大丈夫か?きつかったら言ってくれよな。あんたにもしものことがあったら困るんだからな」


 なんだかそう言われて心が痛くなった。私なんかのために、この人は何かをしようとしてくれている。いくら鈍なに私でも何かとんでもないことが起きていることに気が付いていた。ガイさんが扉を開ける。そこには盾で道はふさがれていた。そして鎧に身をつつんだ兵士が10人いた。奥に白髪の老人がいる。その横にいる指揮官と思われる人間が大きな声を出してこう言ってきた。


「お前らは包囲されている。無駄な抵抗はせずに降伏しろ」


 こんなの勝てっこない。ガイさんが言う。


「なんで争うんだ。このまま見逃してくれ。別に迷惑かけていないだろう」


 そうだ。私が一体何の迷惑をかけたと言うのか。いや、このガイさんがこの災厄をもたらしたのかもしれない。指揮官が言う。


「お前みたいな小僧に用はない。こっちが用があるのはそっちの嬢ちゃんの方だ」


 え?なんで私。私が何をしたというの。ガイさんが言う。


「なら、なおさらだな。悪いがここは通らせてもらうぜ。まあ、俺は誰も殺しはしないが、怪我くらいはするかもしれないけれどいいか?」


 そう言ってガイさんは剣を抜き出した。真っ黒な剣だ。なんだかものすごくきれいな刀身をしている。


「ふん、命を無駄にするやつだな。少年はどうでもいい。あの女は生かして捕まえろ。あいつは生きていないと意味がないんだ」


 どうやら私は生かされるみたいだ。ならこのままこのシーツをほどいてしまえばガイさんだけは助かるかもしれない。シーツに手を伸ばす。ガイさんが言う。


「じっとしてろ。絶対に切り抜けるから」


 ガイさんが深呼吸をしているのがわかる。剣を構える。走りだす。でもみな大きな盾で体をふさいでいる。


 ガイさんの剣が盾に触れる。まるでバターのように盾が二つにわかれる。指揮官が言う。


「あいつの剣はオリハルコン製だ。気をつけろ。盾で防げるものと思うな」


 なんで、こんな少年がオリハルコン製の剣をもっているんだろう。わからない。私は一体何に巻き込まれているんだろう。でも大丈夫そうだ。だって、兵士がすでに腰が引けているのがわかる。背中にいるからなのかガイさんの息遣いが伝わる。


「うぉぉぉ!」


 ガイさんは剣を掲げて突進をした。道が開く。その先に馬車が居た。乗り込むとすぐに発車する。


「この馬車は?」

「ああ、俺らのだ。安心しな。とりあえずこの時間だから野宿になるだろうけれど、馬車の中で眠ると言い。何か食べ物は獲ってくる」


 私はシーツを外してもらい横になった。横になりながら一体誰が私を狙っているのだろうと思った。


 ガタン。馬車が揺れる。


「どうしたの?」

「ああ、追いかけてくるかもしれないからな。だから道を外れて森の中に入ったんだ。大丈夫。何も考えていないわけじゃない」


 しばらくして、馬車が止まった。私は安心したからなのかすぐに眠ってしまった。早くミサ様に会いたい。

 そう思った。



~キールとミサ~


 ハンバーガーはあったかい状態でやってきた。ミサも喜んで食べている。ミサが言う。


「これ、食べてみたかったの」

「うん、そうか。そうか」


 ほっぺたにケチャップを付けながらミサがそう言っている。もうかわいすぎる。私もこんな風になりたい。でも、無理か。まあ、こうやって膝に抱きかかえているからそれでいいか。


 一緒の大きさになったらこうやって抱きかかえることなんてできないしね。


 そう言っていたらミサが眠いと言ったので一緒にベッドに入った。


 いつも抱きしめているぬいぐるみなんて比較ができないくらい柔らかくて暖かい。


 私も寝ようと思っていたら部屋の片隅に竜王がまだいたのでびっくりした。



「何しているの?」

「いえ、また呼ばれるのかと思って控えていました」


 なんか竜王は真面目なのか融通がきかないというか。まあ、こんなんでも竜眷属の長だから仕方ないか。


「もういいよ。あ、ちょっと待って。明日の朝ご飯が必要か。ちょっと朝市場に行ってさ適当に食材を買ってきてよ」

「適当と言われましても何を買っていいのかわかりません」


 あ~、こういう所がこいつの融通の利かなさなんだよね。もうめんどくさい。


「ちょっと待ってね。まず卵でしょ。後ハム、パン、バター。コーヒー豆もよろしくね。それとね。トウモロコシ。これはポタージュスープをつくるの。塩とかはあるからいいとして。あ、そうだ。チョコレート。おやつに必要ね。後はサラダかな。レタスとプチトマト。後はパプリカ。色な何色でもいいわよ。とりあえずこれだけ買ってきて。別に急いでいないから。明日の朝までにあれば問題ないわ」


 そう言うと竜王は頭を下げて出て行った。


 もう、本当に役に立たないんだから。でも、ずっとミサと部屋に居たままってのもどうなんだろう。ちょっと遊び場とかも必要なのかしら。


 え~と、獣王のガイはあの人間の治療のためでかけているし、竜王のナーガは買い物。ということは巨人王か。

 ちょっと呼んでみるかな。


「ねえ。トール。いたらちょっとこっちに来て」


 とりあえず、どこにいるのかわからないので念波を飛ばしてみる。


 しばらくしたら扉をノックする音がした。この波動は巨人王トールだ。


「いいよ。入って」


 入ってきたのは背の高い髪がちょっとぼさぼさの男だ。服はなぜか和装が好きとか言って着物を着ているのだ。まあ、何を着ようと自由だ。でも、ちょっともさい。

そうなんだよね。こいつらってなんでこうかわいい感じに変化しないのだろう。もしくはかっこいい感じでもいい。やっぱり美的感覚が違うのだ。

あ、蛇女のナーガとか今度遊び相手として呼んでみようかな。後は蜘蛛女のアラクネかな。でもあいついると周りがぎくしゃくするからな。


 トールが言う。


「なんでしょうか?」


 そういえば、こいつはこいつでぼそぼそとしかしゃべらないんだった。しかも暗いのだ。まあ、元気なのは獣王だけなんだよね。でもあいつはなんかやたらと遠くに行っている。後で人は絶対に殺すなよって言っておかないと。破ったらその瞬間どこにいても存在を消してやると言えば大丈夫だろう。


 ああ、そうだ。忘れそうになった。でかい影が部屋に残っていた。トールがずっと私を見つめている。


「ああ、明日このミサと遊ぶから公園を作っておいて。え~とね、シーソとブランコとジャングルジムみたいなちょっと遊べるやつね。

 高いの作ってもいいけれど安全のためネットとか引いておいてね。まあ、朝ご飯を食べた後に遊ぶから。

 あ、後他のやつが覗き見ないように壁をつくっておいてね。いきなりこんな小さな子が魔族とか見たらびっくりして泣き出すかもしれないからね」


 そう言ったらトールは何も言わず頷いただけだ。

 こいつは戦いになるとそこそこ使えるのだけれど、それ以外だとあんまり使えないんだよね~

 まあ、こういう力仕事は向いているかもだけれど。


 とりあえず、私はミサのほっぺたをつんつんして幸せな気分になった。


 明日は一緒にご飯を食べて作った公園で遊ぶんだ。



 寝る前にガイに念波を強烈に叩き込んでおいた。

 あいつなんか海で泳いでやがった。泳ぐのとかいいかもな。


 ミサの水着姿かぁ。かわいいだろうな。

 明日の様子をみてどこかにプールでも作らせるか。

 この暗黒の森もやたらと広いしね。しかも中央なんて開拓しまくって街みたいになっているし。


 そうか、もっと街っぽくしてミサと歩けるようにするのもいいかもな。

 とりあえず、片っ端から念波を送って街をきれいにするように伝えた。

 あ~。なんか楽しい。とりあえず、ミサが喜ぶ顔がみたいね。




 翌日。

 ミサと公園に行ってもミサは喜んでくれなかった。

 ご飯を食べている時は楽しそうだったのだが、公園はちょっと遊んだら「もういい」と言われるし、行った街は「さみしい感じ」と言われた。


 まあ、街には変なやつがすれ違ったらいけないと思ってうまく人型に変化できない魔族を間引いたからな。


 お前はどっかに行けと言ってガンガン飛ばしまくったらほとんど残っていなかったから仕方ないのかもしれない。


「ミサ。何かしたいことある?」


 そう聞くとミサはこう言ってきた。


「おうちに帰りたい」


 そうか。ここじゃなくおうちがいいのか。


 だが、どこの子なんだろう。そうだ。暗黒の森の周りをトールの頭の上に乗ってみるか。そして、ぐるっと歩いたらミサが見たことがある景色が見えるかもしれない。


 そうとなればトールに念波だ。


「トール。変化を解いて暗黒の森の縁で立っておけ」


 これで大丈夫だ。私はミサを抱きかかえる。

 う~ん、柔らかくてむにゅむにゅしている。しかもあったかい。


「ミサ。ちょっと外を見に行こうね」


 そう言って私はジャンプをした。一回のジャンプで木々を悠々と超える。周りを見るとその木々よりも遥か高いものが立っている。巨人王のトールだ。


 あいつは変化を解くと目印にちょうどいい。


 どこに至って目立つ。だいたい150メートルくらいの大きさになる。周りはちょっとした丘とかもあるがあの大きさなら遠くは見渡せるだろう。

 トールの頭のてっぺんに降り立つ。髪が邪魔かと思ったが意外と大丈夫だった。


「ミサ、どうだ。見て見て。景色いいだろう」


 ミサは初め目をぎゅっと閉じていたが、ゆっくり目を開けた。もう、そのしぐさだけでもかわいすぎる。


「わあ、すごい。すごいよ~」


 私の腕の中でミサが歓声をあげている。そりゃそうだろう。こんな高さから世界を見ることなんてなかったはずだ。私は足でトールの頭をこつく。


「トール、ぐるっとまわるんだ。ゆっくりな。ゆっくり。頭の位置は動かすなよ。ミサが乗っているんだからな」


 ゆっくり、トールは動き出した。


「動いた。動いた。キール。動いたよ」


 ミサがものすごい笑顔になる。ミサに聞く。


「見覚えのある場所はあったかい?」


 だが、ミサは首を横に振るだけだ。だが、遠くを見ているミサの顔は楽しそうだった。まあ、この顔を見られただけでもいいかな。私はすごく満足だ。

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