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~エピローグ~

少し前。


 王都近くの野営場でウォーレンはアベルに捕まっていた。


「正気ですか?そんな人数で王都に行くなんて」


 やっぱり怒るか。そりゃそうだろうな。


「ああ、悪い。だがまずこれで王都は無血開城できるはずだ。今王都にいるのは民兵だ。王都の住人だ。だからこそ無血開城に意味がある」


 アベルは機嫌が悪い。しかもその数少ない従者にアベルが入っていないからだ。ミサ王女と侍女はまあいいだろう。そして、侍女が付いてくるのだから少年のガイが付いてくるのもまだわかる。


 だが、よくわからないのはあのセーラー服の少女だ。どうやらガイはあのセーラー服の少女に頭が上がらないみたいだ。


 それに先ほどからあの侍女と少年の間がギクシャクしているようにも見える。まあ、気にはなるが今はそれよりもアベルだ。


 アベルに任せた交渉は不調に終わった。ポナムの街は徹底抗戦を唱えているらしい。仕方がない。今の所はポナムを封鎖している。だが、かなり食料も豊富にあるみたいだ。あれだけ多くの街からポナムに非難をしてきたというように住まいもあり、食料も豊富にある。まるで多くの民が流れ込んでくることを誰かが予見していたみたいだ。


 まあ、私は侵略がしたいわけではない。まして戦争をしたいわけでもない。はやくルフエルの街に戻って平和に暮らしたいのだ。


 だからまず王に孫娘でもあり、この国の王女を返す。そして、王から王位を継承するのだ。これが一番スムーズのはずだ。


 そして、遷都をする。首都をラグーナからルフエルに変更する。それと同時に王都ラグーナの癌でもある宦官どもをどうにかしないといけない。


 今の王はいい人なのだが、国政というものをわかってなさすぎる。だからこそ、この国の王位をいただかなければならない。


「わかってくれ。無血開城をするにはこれしか手がない。被害を最小限にとどめたいのだ」

「ならば、せめて私も同伴させてください」


 仕方がない。アベルは聞かないだろう。


「わかった。ただし、武装はするな。私も武装はせずに平服で行く。帯剣もしない。アベルも同様だ」

「わかりました」


「安心しろ。あのオリハルコンの黒剣を持った少年剣士もいる。しかも彼は剣を手放さない。少年だから警戒はされないだろう。それに、上空からは勇者どのが見守ってくれるという。大丈夫だ」


 アベルは納得してくれた。だが、不思議なものだ。あの伝説の勇者までも同行してくれるというのだ。しかもその理由があのセーラー服の少女なのだ。一体彼女は何者なのだろう。確かに雰囲気は普通の少女ではない。


 しかもあの黒髪、紫の目、真っ赤な唇。まるで伝記にある魔王そのものだ。魔王はそういえば女性だったと聞く。だが、25年もの月日が経っているのだ。


 まあ、魔王なわけがない。魔族と言うものは人を喰うのだ。彼女はミサ王女の料理を作っている。私たちにも食事をふるまってくれたがかなりの腕前だ。


 考えても仕方がない。これから俺は一世一代のカケをするのだからな。







 どうしたものか。アネモネになんて言えばいい。でも、もし言って関係が壊れたらどうしたらいいのだ。


 人間はショックを受けると自殺をするという。そういう本を何冊も読んだ。だが、なんだか誤解をしてみるようだ。仕方がない。呼び出すか。いや、もう一つ気がかりがある。キール様だ。この後どうするつもりでいるのだろう。今まであれほど人間界に干渉をしてこなかったのだ。


 だが、今は人間界にいることを楽しんでおられる。だが、キール様に聞く勇気はない。もし機嫌を損ねたら一瞬で消えてしまうからだ。


 これだけ人間が多い所だから大丈夫かと思っていたが、微妙に抑えた魔力を使っているのだ。

 料理もこっそり魔力を使って調理時間を短くしているし、火種を付ける時も魔力を使っている。


 しかもちゃんと誰も見ていない所でやっているのだ。あのスキルはすごい。俺も試してみようかと思ったがちょっと魔力を使おうとしただけでぎろりと睨まれたのだ。


 とりあえず、いざとなったら除名される覚悟でいよう。まあ、獣族の皆は大丈夫だろう。俺がいなくたってまとまるはずだ。いや、これだけ暗黒の森を離れているのに皆おとなしくルールを守っているのだ。


 案外俺がいない方がいいのかもしれない。ああ、きっとそうだ。とりあえず後のことは後で考えよう。まずはアネモネだ。


 だが、いつもアネモネはミサという幼女と一緒にいる。そしてそこにはキール様もいるのだ。あ、ちなみに勇者とその横にいる少女もいる。


 アネモネに近づく。


「なあ、ちょっと話しがあるんだ。時間作れないか?」


 そう話した。アネモネが俺を見る。だが、同様にキール様も俺を見ているのだ。キール様に見られるだけで心臓が止まりそうになる。だが、今のこの状態のままいられない。


「キール様。しばらくの間ミサ王女の相手をお願いします」


 俺は頭を下げた。キール様が言う。


「ああ、いいぞ。ミサ。いつもかわいいのう。ういうい」


 そう言ってキール様はミサという幼女のほっぺたで遊んでいる。アネモネが立ち上がる。少し歩く。


「いや、勇者はついてこなくていい。そこの少女もだ」


 なぜ、こいつらは俺をつけようとするのだ。わけがわからん。少し歩き、王都が見える丘に上がった。


 風が気持ちいい。


「いい景色だな」

「そうですね」


 そうなんだ。キール様が現れてから俺とアネモネの間に何とも言えない微妙な空気が流れているのだ。こんなに気持ちい風が吹いているのに、この淀んだ空気はどうにもならない。


「話しがある。俺はずっと言っていなかったことがある。この話しをしてアネモネに嫌われたらどうしようってずっと悩んでいた。だが、言わないまま誤魔化せるものでもない。だからちゃんと話す。だから聞いてくれ」

「はい」


 アネモネがまっすぐに俺を見ている。俺が言う事でアネモネは傷つくだろうか。でも、言わないと傷つけてもしまう。結局傷つけることに変わりないのか。つらいな。ルール違反になるのか。わからない。だが、もう決めたのだ。言おう。


「アネモネ。俺は人間じゃない。俺だけじゃない。キール様もだ。俺らは魔族だ。アネモネとあのミサ王女はあの日暗黒の森に落ちてきたのだ。

 あんたはさすがだったよ。身を挺してあのミサ王女を守っていた。

 でも、あんたは傷だらけだった。確かにキール様の命があったからあんたの傷の介抱のため人に化けて人間界に出た。その時俺は海が見たかったんだ。

 わかるか。暗黒の森っていうのは鬱蒼としているのだ。どんよりとして暗いのだ。こんなに空がきれいなことを暗黒の森にいたら知ることもない。こんなさわやかな風もだ。俺は知りたかった。だから魔力で空をかけて海が見える街まで行った。それが、あんたが目を醒ますまでにあった出来事だ」


 俺は不安いっぱいだ。人間だと思っていた相手が魔族だったんだ。ショックだっただろう。俺はゆっくりアネモネを見た。アネモネが言う。


「うん、知ってた。というか少し前にあのキールって人から聞いたんだ」

「え?」


 なんだって。キール様。俺はものすごく勇気を振り絞ったんだぞ。なのになんで勝手に言うんだ。そう心の中で叫んだ。そしたら「うるさいわ」ってキール様の念波が飛んできた。思わずその強い衝撃で気を失いそうになった。


 うかうか心の中でも叫べないのか。こりゃ、気を付けないとやばい。アネモネが言う。


「実際、不思議だったんだ。だって、私は暗黒の森に落ちた。それは絶対。でも、起きたら全然違う場所にいる。誰かが短時間で私を動かした。そんなことは人には無理だから。だからひょっとしたらって思っていたの。そして、もう一つ。あのキールさんがミサ様を連れてきた時竜に乗っていたじゃない。だからキールさんは魔族なんじゃないかなって思ったの。そして、その魔族かもしれない人にガイは跪いている。

 だからね、ひょっとしたらって思っていた。そしたらキールさんがさらっと言ってくれたの。

 あ、私たち魔族だから。あの勇者はちなみに私の息子ねって。びっくりした。魔族って年を取らないんだよね。なんか反則だって思った」


 アネモネは優しい表情をして俺を見ながら話している。


「なあ、アネモネは俺が魔族でもイヤじゃないか?」

「戸惑った。けれど、思いは変わらなかった。それに魔族と人の恋っていうのもあるのを知ったの。だったら私もいいかなって。それともガイは私じゃイヤ?」

「イヤなわけあるか。ただ、俺はいつかは戻らないといけない。あの暗黒の森へ」


 俺は遠くを見た。ここから暗黒の森は見えない。あの場所を俺ら魔族は守らないといけないのだ。


「じゃあ、私からキールさんにお願いしてみる。ガイを連れて行かないでって」


 それ、大丈夫なのか。いや、俺ら魔族は人を傷つけることは禁止されている。キール様が断ることでアネモネが傷つくのならひょっとしたら、ひょっとするのじゃないのか?


 そう思った。すぐにキール様から念波が届く。


「自分で言いに来い。言えるものならな。それ以外は認めん」


 まじか。でも、アネモネのためだ。俺は決めた。キール様にお願いをする。人間界に残らせてくれと。

 俺はキール様の方に向かって歩いて行った。






 まじでびっくりした。私はマーヴェルに抱えてもらって空を飛んでいるからいい。けれど、いきなり王がやってきたかと思ったら地割れが起きたのだ。大爆発。


 なのに不思議とみんな無事なのだ。


「何が起こったの?」


 私は意味がわからずマーヴェルに聞いた。マーヴェルが言う。


「ああ、母さんがみんなの周りにバリアを張ったんだ。あんな爆発なんて何の意味もなさない。ほら、よく目を凝らしてごらん。見えるだろう」


 そう言われて私は目を凝らした。確かにみんなおっきなシャボン玉の中にいるみたいだ。しかも若干宙に浮いている。


「まあ、母さんに魔力を使うなって言うのが無理なことなんだ。だから暗黒の森から出ないように父さんが約束をしたんだ」

「どうして?」

「力の制御が苦手なんだ。ほら、すでに地面が元に戻ってるだろう。あんなことしたら人間界だと奇跡としか思われない。ああ、誤魔化してくるかな」


 そう言ってマーヴェルは地面に向けて下降した。マーヴェルが言う。


「王よ。この爆発は人為的なものだ。だが、幸いにして、勇者による奇跡の力で皆が無事だ。安心するがいい。これは神の力だ。神は我らを守ってくれている」


 なんかマーヴェルってたまにこういう演じることをするんだよな。後で「はずかしかった」って言うんだけれど。


 でも、なんか王都の住人は納得したみたい。納得してなさそうなのはあの魔族のガイって人みたいだ。


 なんか魔族にもいろんな人がいるんだなって思った。それに私はあのアネモネって侍女にものすごく親近感がわくんだよね~


 実際私と同じように人でない人を好きになったのだからいい友達になれそう。なんか何事もなかったように王とウォーレンっていうおじさんが話しをしている。


 王が言う。


「ウォーレン殿の思いはわかった。王位は継承できないが、王都とポナム以外の領土をウォーレンに授けよう。これからはわが領土は王都ラグーナとポナムのみだ」


 なんかよくわかんないな。どういうこと?ウォーレンが何か話している。でも上空にいるから聞こえない。


 マーヴェルが王に言う。


「王の英断に感謝する。それと魔族はもう暗黒の森からは出ない。我らに脅威はなくなったのだ」


 まあ、実際魔族はいるんだけれどね。でも、話して思った。魔族ってみんな優しいんだって。それがわかったらなんだかほほえましくなった。


 あ、でも、どっちかというと私が住んでいるポナムはこの王の領土なんだ。マーヴェルが言う。


「なあ、引っ越さないか?あの湖畔の街リュムーナに」

「うん、いいね」


 私は笑顔で頷いた。あの場所ならアネモネさんも一緒だしいいかも。私はついマーヴェルに抱きついた。やっぱりこの鎧、痛いわ。


~リネとリュムーナ~


「やっぱりここにいたんですね?」


 私はアネモネさんにそう言った。湖畔の町にひときわ大きな建物がある。


 そう、そこは毎年ミサ王女が訪れていた場所だ。今はその場所にミサ様が住まわれていて、その近くに私とアネモネさんが住んでいる。


 私はミサ王女が住まれている屋敷の中に入る。


 屋敷の中には白を基調としたセーラー服を着たおかっぱの少女がいる。キールはミサ王女と戯れているのだ。


「キール様はミサ様がお気に入りですものね」


 結局暗黒の森にキール様も帰らなかった。暗黒の森を守っているのは巨人王と竜王。そしてなぜかそこに勇者がいるのだ。


 勇者と言ってもマーヴェルではない。マーヴェルの父親だ。


 どうやらようやく冥王ハデスとの戦いが終わったらしい。相手が「こんなの勝てるか、チートだ、チート」と叫んで終わったらしい。


 誰かがあの暗黒の森で魔族を束ねる必要があるらしい。やっぱり誰かが抑止しないといけないみたいだ。


 まあ、実際キール様がこの人間界にいて問題がないかというとそういうわけでもない。つい魔力をつかってしまうみたいだ。


 だが、その後始末はマーヴェルがしている。


「今までできなかったお母さん孝行さ」


 なんて言っていた。




 そう言えば、手紙が届いていた。ウォーレンさんはルフエルの街に戻って各国と商取引をしているみたい。戦いが好きじゃないと言いながらあんな大きなことをしたんだ。変わり者だよなって思った。


 変わったことと言えば、王都ラグーナの金銀財宝がミルドー峠で見つかったのだ。今ではミルドー峠は通行場所ではなく観光スポットとなっている。何の観光かと言うとトラップの聖地らしい。


 ものすごい量のトラップがあって、それを発見するハンターがいるらしい。なんでも、あのウォーレンの奇跡(と世間では呼ばれているらしい)のどさくさに紛れて王都の宦官がラグーナの秘宝や金銀を持ち出そうとしていたらしい。


 でも、ミルドー峠のトラップに引っかかってみな網のトラップに引っかかっていたのだ。

 しかも、その首謀者が王の伯父であるルーズベルト卿の手先だったとか。おかげでポナムはルーズベルト卿からその息子のレオニールに変わったのだ。


 だからあの時ポナムを離れて正解だったのかもしれない。


 まあ、正解かどうかわからないものと言えば、マーヴェルがあの白い鎧一式を王都ラグーナの勇者記念館に戻したことだ。


 私は子供の時にマーヴェルがあの鎧を欲しがっていたのを知っている。だから返すって聞いた時にびっくりした。


 マーヴェルに聞いたら「だってリネは何度もあの鎧が痛いって言ってただろう。だからもうつける用事もなさそうだからいいかなって」とか言うんだもの。


 びっくりしてそのまま抱きついてしまった。


 まあ、人って変わるものだよね。


 変わると言えばガイさんもかなり変わった。なんでも人に変化しているということからアネモネさんがちゃんと年を一緒に取るように変化するように言われたそうなの。


 実際あの年頃の少年って一気に大人になるときがあるからありえなくもないんだけれど、もう少年って感じなくなったんだよね。


 そして、ガイさんも剣を手放した。かっこつけてこの湖畔の底に突き刺したんだって。


「いつかあの剣を抜いたやつがあの剣の所有者になればいいんだ」なんて言っていた。


 なんかかっこいいセリフなんだけれど、あの剣もやたらと重いから普通の人は使えないと思うんだよね。


 まあ、使える人がいるとしたら私のお腹にいる子供か、アネモネさんのお腹にいる子供が大きくなった時くらいかな。


 といっても剣をつかいような時代にならないことが一番なんだけれど。


「何かいいことあった?」


 マーヴェルが横に来て笑っている。


「うん、今日そういえばお祭りだよね」


 そう、1年に1回のお祭り。何のお祭りだったっけな。そう言うとガイが少しだけ変な顔をした。


 まあ、いいか。とりあえず今日も平和だ。


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