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~ウォーレンとガイ~

~ウォーレンとガイ~


 ポナムの街、それと王都を取り囲む状況になっている。奇跡的にこれまで一度も戦闘をせずにここまで来られた。


 そう思うと俺はついている。そう思っていた。


 ただ、ポナムの街には4騎士がすべてそろっているし、王都は城壁こそないが、住民が多くいる。うかつに攻め入って無関係な市民に被害が出ることは避けたい。


「ウォーレン様、どうしますか?攻め入る準備はできております」


 アベルがそう言う。最後は無血開城と行かないかもしれない。


 どこかで覚悟を決めないといけないと思った。だが、次に伝令が入ったのだ。


「竜が現れました。ものすごいスピードで進んでいます。どうやら向かっている先はリュムーナのようです」


 リュムーナ。俺はあの街で約束をしたのだ。あの少年ガイと。


「皆の者。わがままをいう。今からその竜退治に行くぞ」

「ウォーレン様、なりません」


 アベルが言う。皆の者もうろたえている。


「うろたえるな!リュムーナは我らを信じた。民を見捨ててまで国を欲しいとは思わない。ヤーン、対魔族用の武器はどうなっている?」


 アベルの静止を無視してヤーンは問いただす。ヤーンが言う。


「オリハルコン製のカタパルト銃は完成しております。全ての街に配備済みです」

「それで撃退できるか?」

「おそらく厳しいかと。ただし、援軍を出せば勝機はあるかと」

「わかった。ならば俺が出る。対魔族装備者は馬に乗れ。竜に負けないスピードでリュムーナに向かう」


 すでに俺の思いは決まっている。同じ戦うのなら人間より魔族の方がやりやすい。人間同士で戦うのは苦手だ。


 アベルが言う。


「目の前のポナムと王都はどうするのですか?」

「停戦だ。特使を出せ。向こうだってイヤだとは言うまい。交渉はアベル。お前に任せる」


 そう言ってアベルの肩に手を置く。


「俺は約束をしたのだ。あの少年と。約束と言うものは守るためにある。だから行かせてくれ。

それと、アベル。今まで、苦労を掛けたな。だからお前が望んでいる形で交渉をしろ。そして、お前が望む俺たちの国にしていい」


 ここまで苦労をしてきたんだ。最後はアベルがやりたいようにすればいい。アベルが言う。


「わかりました。ウォーレン様を最高の王にするため無血開城をしてみせましょう。そこまで信じてもらえたら私は本望です」


 アベルは泣いている。大丈夫。俺は竜なんかに負けはしない。


「苦労をかけたな。では行ってくる。かならず生きて戻る」


 俺はそう言って馬に乗った。空を見上げる。竜の彷徨が聞こえるようだ。


「民を守るぞ。皆の者ついてこい」

「うぉぉ」


 皆ついてくる。それだけでもこの旅に意味はあったのだ。俺にとってこれは解放戦線でも侵略戦争でもない。


 俺という一人の人間を見つける旅だったんだ。だとしたら約束は守らねばならない。そうだろう、ガイ。俺は馬を走らせた。







 空を見上げる。

 このプレッシャーは確実にキール様だ。


「ガイ、どうしたの?」


 アネモネが言う。


「ああ、もうすぐあのミサが来るよ。俺の主とともに」


 俺もバカじゃない。あの時アネモネが言った責任の意味は今はもうわかっている。だが、俺は魔族だ。獣族の王だ。そんな俺が人間であるアネモネと一緒にいていいわけがない。


 もうすぐキール様が来る。多分俺の旅はもう終わりだ。またあの暗黒の森での生活が始まるのだ。


 そう、俺だけわがままが通るとも思えない。俺のわがままが通るのならキール様だって人間界

で暮らしたかったはずだ。アネモネが言う。


「まあ、言われた通りミサ様のクリームは用意したけれど、本当に来るの?」

「ああ、もうすぐだ」


 ナーガがあれほどのスピードを出せるなんて知らなかった。そのナーガの背中にキール様がいる。おや、その横に他にも魔力が高いものがいる。あれは誰だ。


 まるで勇者みたいではないか。あの忌々しいオリハルコン製の鎧が猛スピードでやってくる。


 どういうことだ。勇者は確か冥界でハデスとのトーナメントでハデスをぼこぼこにしているはずだ。


 俺が暗黒の森に居た時ですでに999勝0敗というわけのわからない強さで戦っていたはずだ。


 しかも、勇者は素手だったんだぜ。ハデスってまだ子供とはいえすでに俺ら3貴族くらい強いはずなのに。まさか、あれは噂の勇者の息子か。なら、粗相がないようにしないとな。


 そう思っていたらすごく風が舞い降りてきた。竜が降りてきた。黒い影が降りてくる。


 白いセーラー服に身をまとったキール様とあの幼女だ。


「おお、ガイ。久しぶりだな」


 俺は片膝をついて頭を垂れる。横でアネモネが不思議そうに俺を見ている。


「どうしたの、ガイ?」


 アネモネが不思議そうに俺を見ている。そりゃそうだろうな。キール様がアネモネに近づく。キールの腕に抱かれていた幼女が走り出してアネモネに抱きつく。アネモネが言う、。


「ミサ・・・様?ミサ様!!」


 そう言ってアネモネは幼女を抱きしめている。


「ミサ様、無事でよかったです」

「えへへ」


 抱き合っている二人にキール様が近づく。これは話しかけても大丈夫なのだろうか。そう思っているとさらに空から白い鎧を身にまとったのが女の子を抱きしめながら降りてきた。


 ドスン。大きな音がする。白い鎧のヤツが言う。


「おい、竜は早く人型に変われ。目立つ」


 ナーガがそう言われてすぐに人型にかわる。相変わらずローブとか着てひょろっとしてやがる。


 どうやらかなり体力を消耗しているみたいだ。あれは確実に上に乗っていたキール様が追い詰めたんだろうな。かわいそうに。


「そこの女子。このミサに合う保湿クリームをお願いしたい」


 なんと、あのキール様が人間にお願いといって頭を下げている。ありえない。なんだこれ。アネモネが言う。


「はい、用意していました。ミサ様。さあ、塗りますよ」

「いや~」


 幼女はそう言って湖の方に行く。とりあえず追いかけるか。うん?なんだ、向こうからものすごい勢いで人がくる。何人だこれ?わからない。とりあえず用心するか。俺は剣に手を持って行った。


 だが、俺の腕を誰かが止めた。誰だ。気配も感じなかった。振り返ると白い鎧を着たあの勇者がいる。


「大丈夫、僕が行くから」


 そう言ってひらりと宙を舞う。そっと幼女を抱きかかえ、突進してくる騎馬兵の前に立つ。


「止まれ!」


 おいおい。そんな気合いを入れたら馬なんぞ気絶するぞ。そう思っていたが、馬はぴたりと止まった。


 あ、先頭にいるのはあのウォーレンとかいうおっさんだ。


「お~い、どうしたんだ?」


 俺は顔見知りだったので近寄った。ウォーレンが言う。


「竜はどこだ、街は無事か?」


 すごい肩で息をしているのがわかる。白い鎧の勇者が手をかざす。ああ、なんか体力を回復させるやつか。俺ら魔族はあの手の魔法が苦手なんだ。なんか昔は使えたような気もするんだがな。


 そろそろ落ち着いてきたみたいだ。そう思ったら白い勇者がこう言いだした。


「竜はもういない。安心しろ。このマーヴェルが退治した」


 いや、ナーガはそこにいるぞ。退治なんかしていない。そうだ、前の大戦の時もそうだ。あの勇者も俺らを倒してもいないのに倒したと宣言したんだ。


 ん?よく見るとあの勇者の白い鎧も剣もなんか赤いものがついている。多分、何か魔法で色をつけたんだろう。あざといな。


 まあ、実際戦ったら倒されたとは思うけれど、なんかこういうの釈然としないんだよな。ウォーレンが言う。


「本当か?」

「ああ、安心しろ」


 なんであんなに自信満々い言い切れるんだ。ここでナーガが変化を解いたらどうなるんだろう。


 まあ、確実にキール様に殺されるだろうな。まあ、俺がナーガの立場でもこれは人型のままいるだろう。ウォーレンはまだ何かを探している。仕方がない。


「ウォーレン、大丈夫はもう竜はいない」


 こう言えば安心するだろう。まあ、実際この場にいるのは人型のナーガだ。竜ではない。そう思うと俺はウソはついてないぞ。うんうん。ウォーレンが言う。


「よかった。本当によかった」


 なんか馬から降りて崩れ落ちながらそう言っている。なんかその様子を見ていたら申し訳ない気分になってきた。


 ふと見ると白い勇者は動じていない。どんな神経しているんだよ、お前。この状況を見て心が痛まないのかよ。


 そう思っていたらアネモネと幼女がやってきた。


「どうして、ウォーレンがここに?もう王都を攻め落とす所じゃなかったのですか?」


 そうなのか?王都からこのリュムーナって結構遠いぞ。ウォーレンが言う。


「ああ、竜がこのリュムーナの街に向かっていると聞いて飛んできた。王都よりガイ、君との約束の方が大事だ」


 おいおい。そんな約束したっけ?俺覚えてないぞ。まあ、でも、なんかこうちょっとうれしいな。


「ありがとう。約束を覚えてくれて」


 俺は手を差し出した。ま、覚えていないんだけれどな。ここでその約束ってなんだっけ?って言える雰囲気じゃないんだよな。


 仕方がない。握手しときゃ大丈夫だろう。だが、ウォーレンは俺を抱きしめた。おい、俺にその趣味はない。


 困っているとアネモネが助けるためなのかこう言ってきた。


「ここにミサ様がいます。ミサ様を先導する形で王都に入るのはどうでしょうか?王もミサが居たら戦おうとはしないと思います」


 うん?この幼女がいるだけでそうなるのか。人間は不思議だな。アネモネが続けて言う。


「私もついて行きます」


 なら俺も行かなきゃいかんだろう。アネモネに何かあったら責任が取れない。だが、キール様はなんていうだろう。ちらっとキール様を見たみた。ずっとこっちを見ている。ええい、もう言ってしまおう。


「俺もついていく。キール様。俺はこいつを守る役目があるんです」


 そう言ってアネモネの肩を抱き寄せた。心臓がばくばくしている。流石にこれだけ人間がいる前だからキール様も魔力は使わないだろう。いや、ぎらっと俺だけ睨んで俺だけに殺気を送るかもしれない。


 その場合俺はどうなるんだろう。いきなり倒れるのかな?だが、キール様はこう言ってきた。


「ああ、いいぞ。好きにしろ。というか、私もついて行く。な、ミサ?」

「あーい」


 なんだって。勇者が言う、


「母さん、もう戻ってよ」

「なんで?私はミサと一緒にいるんだよ、ね?」


 そう言ってキール様は幼女の頬に頬をくっつけている。キール様が言う。


「あ、ナーガは戻って待機ね。まあ、戻りたいときは勝手に戻るから迎えはいらないよ」


 そういうとすっとナーガが消えた。そのまま空を飛ぶのかと思ったら歩いていく。流石にまたここに竜が現れあら問題だということがわかっているみたいだ。あいつ結構空気読めるんだな。初めて知ったよ。


 いや、よく見たら勇者がものすごい殺気をナーガにぶつけている。そういえば、こいつはキール様の息子だったな。なんか似ている。


 とりあえず、俺らは緩やかに馬に乗って王都に向かった。




~王様と王都ラグーナ~


「なんだと、ウォーレンがミサを連れて王都に向かっているだと。お前ら兵を下げろ。もしミサに何かあったらどうするつもりだ」


 王都ラグーナ。その中央にある白亜の宮殿に激震が走った。すでに多くの兵はラグーナではなくポナムにいる。すでにこのラグーナの守りはほとんど王都の住民だ。


 だが、不思議とウォーレン軍はこの王都の状況を知っても攻め入ってこなかった。


 ウォーレンは今わずかな兵とともに、ゆっくりと王都に向かっている。その横にはミサとミサの侍女だった女。後はセーラー服を着た女に黒い鎧に身をまとった少年剣士だ。


 後、後ろから一人ついてきているみたいだ。だが、武装はしていない。


 さらに上空になぜか白い鎧の、勇者が緩やかに空を飛んでいる。


「どういうことだ。なぜ勇者までがウォーレンと共に行動をしている。いや、そんなことはどうでもいい。迎えに行くぞ」


 王はそう言って白亜の宮殿を出て行った。わずかの護衛を連れて。


 宦官はそれを見てこう言った。


「もう、この国はダメだ」

「ああ、この難局を乗り切るにはウォーレン側に組するしかあるまい」

「だが、不正があるものは牢に入れられているという。我らも脛に傷を持つもの」

「ならば、やはりルーズベルト卿について行くのが良いのでは」

「ああ、あのギルダスというものが言っておったな。この王都には地下回廊があると」

「ああ、地下を掘っているため、地盤が弱いところがある。たまたま王が孫娘を迎えに行った時に地割れがあったとしてもおかしいことではない」

「そうだな。くくく」

「ちょうどウォーレンも護衛も少ない状態だ。都合がいい。いや、都合よく事故が起きるんだよ」

「では、我々は行きましょうか。地下回廊から」

「おいおい、そっちはミルドー峠だぞ。ポナムに行くのではないのか?」

「何を言っている。今ならミルドー峠からルフエルに抜けて海路を使い北の国に行ける。どうしてこの国にこだわるのだ。すでに国庫から金は持ち出せるだけ持ち出している」

「なるほど、ではお供しましょう」

「だが、誰だ。そんな案を考えたやつは」

「ああ、あのギルダスだ。すでにギルダスはミルドー峠付近で落ち合う予定だ」

「ほほほ。あのものも、過去に謀反を起こしたと思えば次は火事場泥棒ということか」

「われわれも似たようなものだ。後は好きにすればいい。この国はもうダメだ」


 宦官は一人残らず白亜の宮殿に残らなかった。金品財宝を持って地下回廊に消えていったのだ。



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