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~伯父 ルーズベルト~

~伯父 ルーズベルト~


 世の中にはタイミングというものがある。たとえば兄が王になり弟の私がポナムというさびれた城主になったのもタイミングというやつだ。


 ポナムという街はかつては栄えていた。魔族との防衛として多くの兵がやってきて、街に金を落としていく。その金は元はといえば民から多く徴収した納税額だ。その金が周ってポナムという街は栄えていたのだ。


 だが、魔族との平和協定が結ばれこのポナムには人は寄らなくなった。ここから先に新たに街が出来ていき、皆がその新開拓、フロンティアを目指した。実際新たな街は納税額が少しだけ緩い。そのため一気にポナムからは人が移動した。


 だが、なぜか民の中で伝説が生まれた。病が治るだとか、無料の食糧が提供されるとかだ。まあ、実際そんなことは些末なことだ。


 わしにとってはもう未来はないものだと思っていた。


 兄は優秀ではなかった。そして人を疑うことをしない。罪を憎んで人を憎まずというやつだ。いや、罪にすら気が付けておらん。


 だが、何を言っても弟のわしの話しはきかん。だから何も言わなくなった。わしはもう疲れた。そう言い聞かせていた。だが、王に不満を持つ者はわしを担ごうとしてくるのだ。王は何度か暗殺されかけている。王の子も巻き添えを食って死んでいった。唯一残ったのが孫娘であるミサだ。


 だからこそあの王はミサを溺愛している。あのミサが居なくなってしまえば王位継承者はあの王の元から離れていく。


 そう、わしになるのだ。


 だからわしは必至でミサを探した。ウォーレンとかいうやつもかなり必死に探していたのがわかる。


 他の諸侯連中は日和見だ。わしにつくのか王につくのか見極めていたのだ。まあ、王や王の周りにいる宦官どもに目を付けられたやつはどうしてかわしの元にやってくる。


 仕方がないのでわしの管轄下においてやっている。ポナムの周りにも新たな集落を作ったのだ。暗黒の森にそこまで近くない場所にそういうやつらをかくまっている。


 そこは兵士が訓練をするための場所だ。弓矢の練習、馬術の練習。そういう場所も必要だろうということで施設を作った。広大な敷地だ。そこの一角に軍議シミュレーションというゲームができる場を作ったのだ。


 そこにいわくつきのやつらが大勢いる。


 まあ、農園も作らせただ飯を食わせているわけではない。だからかくまうと言っても自給自足をさせているのだ。


 納税もしているためわしにとっては裏切らない民だ。中には牢から脱走したやつもいる。もう次に行き場所がないからおとなしいものだ。


 だが、あやつらは今が好機だと皆血気盛んになっておる。何が好機なものか。


 兄はこのポナムを魔族との最前線の基地にすると言った。


 おかげで、この街には王都から兵が来ている。幸い4騎士の誰も来ていないので助かってはいるが、こんな場所で何か動きでもしたらすぐに問題が起きる。


 わしは人質を取られておるのだ。王都にはわしの息子がいるのだ。まあ、本人は人質などとは思ってはおらぬだろう。


 しかも4騎士の一人にまで任命されてしまっておる。聞くところによると今はミルドー峠という所に追いやられたという。


 あいつは誰に似たのかまっすぐ育った。王に、国に仕えることが正義だと思っておる。

こんなポナムなどどうでもいい。わしはあいつを守ってやりたい。だが、どこが一番安全だと言うのだ。


 ウォーレンは裏切り王都に攻め入ろうとしている。ミルドー峠を迂回して各地をまわり兵を集めている。


 今の王は孫娘に目が行きすぎている。そして、宦官を放置しすぎた。あれらはかなり暴利な納税額を決めたのだ。


 民は不満の声を上げても聞き入れなかった。このポナムも同じだ。民はいつも怒っている。そして、この街がまた防衛都市になるのだ。


 古くからいるものはまだ覚えている。あの魔族の怖さを。さて、わしもまだまだ現役じゃ。王とは10も年が離れておる。


 見極めねばならない。この戦いの行く末を。


「失礼します」

「なんじゃ」


 執務室に伝令が来る。何かあったのだろう。


「レオニール殿から連絡が入りました」


 なんと息子からではないか。


「早く言え」


 助けが必要なのか?だが、この場所を守る役目もある。ああ、そうだ。こういう時にこそあのかくまっている連中に動いてもらえばいいのか。


 ただ、あいつらは暴走することがある。良かれと思って勝手なことをするのだ。


 だから、王の息子も死んでしまったのだ。わしはそんなことを望んではいなかったのだがな。伝令が言う。


「ミルドー峠を迂回してウォーレン軍は王都に向かっている。王都は防壁もなく落ちるのは時間の問題。最終決戦の場としてポナムに終結をする旨を他の騎士に伝達済み。我もポナムに入る」


 ミルドー峠からポナムに入るには王都を経由せざる得ない。だが、ウォーレンの大軍は王都に向かっている。レオニールが心配だ。


 伝令を下がらせ、わしは訓練施設のはずれにある建物に向かった。建物をあける。


 酒臭い。仕事を任せているもののやはりここはこういう感じになってしまう。


「ギルダスはいるか?」


 そう言うと奥からひげをはやした中年が出てきた。こいつはこの場所を仕切らせている奴だ。確か過去に謀反を起こして失敗したのだ。


 王都の地下牢獄に閉じ込められたが、王都の地下はわしの庭みたいなものだ。


 王都の地下には幾重にも通路がある。古いもの、新しいもの。様々だ。昔から探検が好きだった私はあの地下をかなり歩いた。


 そう、このポナムに飛ばされるまでは。


「なんですか。おじき」

「ああ、今からお前らに頼みたいことがある。レオニールを探し守ってくれないな」


 わしは頭を下げた。こんなものを頼らねばならないのだ。正規軍を動かすわけにはいかない。ギルダスが言う。


「じゃあ、金だな。俺らは金で動く。あの倉庫にある金を持って行っていいならレオニールでも、魔族でも護衛してやるよ。なあ、みんなそれでいいだろう」

「あ、ああ」


 なんとも頼りない感じだ。だが、金などいくらでもある。


「ああ、好きに持って行け」


 レオニールの命が助かるのならそれで十分だ。金などいらぬわ。



~リネとキール~


 マーヴェルに連れられて私は暗黒の森にやってきた。しかも横には竜がいる。さっき戦っていた竜だ。マーヴェルは竜と並行して空を飛んでいる。


 一体何があったの?


 マーヴェルが言う。


「リネ、どんな僕でもリネは受け入れてくれるかい?」


 なんかこんなシチュエーションで言うセリフなのかしら。わからない。でも、私にはマーヴェルしかいない。


「うん、受け入れるよ」


 私はそう言ってマーヴェルに抱きついた。やっぱりこの鎧が痛い。早く戦い終わらないかな~


 そう思っていると鬱蒼した森の奥に城が立っているのが見えた。しかも結構おしゃれな感じ。というかなんだかメルヘンな感じなんだ。


 角ばって居なくてまるい感じの建物。不思議な建物。マーベルはゆっくり地面に降りた。いや、ドスンって音がしなかったからマーヴェルはぎりぎりの所で宙に浮いているのだ。

 さっきまで横にいた竜がいなくなり青いローブを着た男性が言う。


「こちらです」


 なんか私とマーヴェルを案内してくれるみたい。白の中に入る。なんだか中はピンクと白を基調とした感じでものすごくかわいらしいのだ。


 なんだか魔族ってイメージじゃない。これは乙女チックなんだ。なんでこんな鬱蒼としたところにこんな建物があるんだろう。


 扉があり、青いローブを着た男性がノックをする。返事があり、扉を開ける。


 中にいたのは黒いおかっぱの目がくるんとした少女と幼女がいた。しかも二人とも白を基調としたセーラー服をきている。


 あれは、王都の学校の制服だ。なんだろう。このかわいい女の子たちは。しかも、おかっぱの女の子はむちゃくちゃテンションが高い。こっちに向かって走ってきた。おかっぱの少女が言う。


「おお、マーヴェル。大きくなったなぁ」


 そう言ってマーヴェルに抱きついてくる。え?どういう事。まさか浮気。


 まあ、確かに付き合っているとか結婚したとかそういう明確なものはないけれど一緒に住む家を作って、何もされなかったけれど、一緒の家に住んでいるのよ。


「マーヴェル。これどういうこと?私は、私はマーヴェルの何なのよ!」


 泣きそうだ。いや、泣いている。涙が止まらないのだ。するとさっきおかっぱ少女の横にいた幼女がやってきた私の服の端をひっぱる。


 顔を近づけると、頭を撫でられた。


「いたいいの、いたいのとんでけ~」


 そう言うとおかっぱ少女は「かわいい」と言って幼女を抱きかかえる。マーヴェルが言う。


「リネ、ずっと言えなかったんだけれど、この人は僕の母さんなんだ」

「はい?」


 今なんて言った。このおかっぱ少女がお母さんだって?

 だって、私と同い年か年下にしか見えないこの子がお母さんだって?


「ウソ?だってこの子私より年下でしょ。そんなウソやめて」

「ウソじゃないんだ。僕はこの城で生まれたんだ」


 意味がわからない。何?何?そう思っていたらおかっぱ少女がこう言ってきた。


「ああ、そうじゃ。マーヴェルは私の子じゃ。昔はむにゅむにゅでかわいかったんじゃぞ。でも、お主もかわいいではないか。マーヴェルの彼女か?」


 そう言っておかっぱ少女は私の顔を覗き込んでくる。意味がわからない。どう見たってこの子私より年下にしか見えない。


 あれ?よく見ると黒髪に紫の瞳。どことなく顔立ちもマーヴェルに似ている。マーヴェルが言う。


「僕はクォーターなんだ。半分は魔族の血が流れている。この人は魔族の王。魔族最強の魔女ルシフェル。僕のお母さんだ」


 私は何かの冗談だと思った。マーヴェルとおかっぱ少女を見比べる。幼女が言う。


「ちがう、キール。キール」


 幼女はおかっぱ少女を指差して言う。おかっぱ少女も「うん、キールだよ。キール」と言って笑っている。


 どういうこと?わからない。マーヴェルが言う。


「僕には四分の一しか人の血は流れていない。こんな僕だけれどそれでもリネは僕を選んでくれる?」

「四分の一?どういうこと?」


 つい口に出た。マーヴェルが言う。


「おやじは神と人間のハーフなんだ。だから僕には四分の一しか人の血が流れていない。だって、そうだろう。普通の人間は魔法なんて使えない。このオリハルコンの鎧だって身に着けることなんてできないんだ。僕は人じゃない。でもリネ。僕はリネが好きなんだ」


 わからない。マーヴェルが人じゃないなんて。言われても実感がない。


「マーヴェルは人を食べるの?」

「食べないよ。ちなみに、母さんも人を食べない」


 おかっぱ少女は幼女と戯れている。そう言えば、あの水色のローブの人が買ってきたアイスを食べている。何?私がおかしいの?おかっぱ少女が言う。


「ああ、人間界の料理はおいしいからな。折角息子とその彼女が来たんだ。手料理くらいごちそうするぞ」


 なんだろう。私が変なのかな。




 しばらくすると料理が出てきた。普通においしそうだ。一口食べる。


「おいしい」

「でしょう」


 おかっぱ少女が笑顔になる。なんだか普通なんだ。マーヴェルを見る。なんか不安そうな顔をしている。


 あ、そうか。だからマーヴェルは私に何もしてこなかったんだ。


「いいよ。私マーヴェルがなんでも。だって、好きだもの」


 ぼそっとそう言った。マーヴェルが笑顔になる。幼女も笑っている。なんかこの空間を見ていると私が悩んでいることがおかしいみたいだ。マーヴェルが言う。


「おかあさん。お願いがあるんだ」

「いいよ。なんだって息子の望みならかなえてやるぞ」

「人間界で魔族を見かけるとみんな不安がるんだ。だから目立ったことは辞めてほしいんだ」


 そう言うとおかっぱ少女は少し困った顔をした。そしてこう言ってきた。


「う~ん、今ねこのミサがおうちに帰りたいって言っているんだけれどその場所を探しているんだ。それだけなんだけれどね~」


 こうやって見ていると魔族と思えない。というか私より年下にしか見えない。肌なんて透き通るくらい白いしキレイだ。おかっぱ少女が言う。


「そうだ、聞きたいことがあったんだ」


 そう言って私をまっすぐ見つめる。


「このミサの肌荒れが最近ひどいんだ。どの保湿クリームがいいのかわからないんだが何かいいの知らないか?」


 保湿クリーム?そんなの使ったことすらない。


「ごめんなさい。わからないです」


 そう言ったらマーヴェルがこう言ってきた。


「ミサちゃん。おうちはどんなところ?」


 幼女が言う。


「うんとね。おっきな、おっきな湖があるの。後ね、白い、建物」


 マーヴェルは少し考えている。そして、こう言ってきた。


「この子、王が探している孫娘じゃないのか?毎年湖があるリュムーナという街にミサが行くのは有名だし、白い建物は白亜の宮殿なんじゃないのか?」


 なんかそう言われても私は知らないし。というか、マーヴェルってなんでも知っているよな。


 おかっぱの少女が言う。


「ふ~ん、そうなんだ。場所はわかるか?」

「大体の場所は。でも、王女なら誰か付き添いがいたのでは?」


 マーヴェルがそう言うとおかっぱ少女が「あ、そう言えばガイに頼んだんだった」と言い出した。


 おかっぱ少女は天井に向かって話し出した。


「ガイ、聞こえるか。あの人間はどうしている?」


 今までと違って力強い声でびっくりした。おかっぱ少女が何やら頷いている。


「わかった。今からそっちに行く。その秘伝のクリームとやらも用意しておいてくれ」


 そう言うとおかっぱ少女は幼女を抱えて外に出ようとする。


「ちょっと待っておいてくれ」


 だが、マーヴェルも立ち上がりこう言った。


「ついて行く。大丈夫空を飛ぶから」


 私はマーヴェルが差し出した手をつかんだ。



 建物の外には竜が居た。おかっぱ少女は幼女を抱きかかえて竜に乗る。


「ナーガよ。すぐに飛べ。ガイがいる方だ。あっちだ」


 ものすごいスピードで竜が飛んでいく。マーヴェルも一緒に上がっていく。私は風を感じながら世界を見ていた。

 なんだか大変なことになったなと思った。


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