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~レオニールとムルギフ~

~レオニールとムルギフ~


 おかしい。ミルドー峠前に陣取っているが一向にやってこない。どういうことだ。まさか罠がばれたのだろうか。


 確かにかなり大きな落とし穴を作った。夜に時間をかけて作って行ったのだ。それだけじゃない、踏み入れたら岩や大木が落ちる仕掛けもつくったし、川の水を一部塞き止めて、踏み込んだら水攻めができるようにもした。


 もう、僕らが居なくてもこの罠は作動する。だから徐々に罠の場所を広げていったのだ。だが、まったく奴らは動かない。どういうことだ。


 考えても仕方がない。偵察に誰かが行って確認しよう。そういう話しになった。まあ、実際待ち構えている間、時間があるからこの罠を作るのに皆で嵌っていたのだが。


 そう、意外と罠を作るのは楽しいのだ。もうこのミルドー峠はある意味要塞に近い。


 斥候が帰って来た。


「兵はいましたが、数は思ったより少ないです。どうやらウォーレンは迂回しているみたいです」

「なんだと。では、こちらは」

「陽動なのではと」

「なんという騎士道に反する奴らめ」


 いや、僕らもかなり騎士道から反しているけれどね。でも、これはまずいな。王都にはそこまで兵はいない。ということは、戻ったほうがいいのかもしれない。


「王都に伝令を。一旦戻ると。いや、戻る前にちょっと探りを入れてほしい。諸侯連中がどれだけまだ王都に残っているのか。何名がウォーレン側に寝返っているのか確認をしてからでないとこれはかなり危ないかもしれない」


「それまで待機ですか?」


「そうだな、どうせ目の前のやつらはいつかはこのミルドー峠を通る。もうちょっと罠を仕掛けるか。いや、一層奇襲をするのも一つかもしれない。どうだ、ちょっと夜中に奇襲をかけに行くのはどうだろう?」


「いや、結構な兵士もいるみたいだ。ここは火を放って退散するのがいいのでは?」

「火を消すために川に行くだろうな。なら川付近に落とし穴を作るのはどうでしょう」

「それ、いいな。ではまず川付近に落とし穴を作るか。落とし穴が完成したら闇にまぎれて火を放つ。これでどうでしょうか?」


 最近は会議を見守るだけだ。おかしい。前は皆が騎士道精神を重んじて正面からぶつかることをモットーとしていた。


 今では皆がどうやって罠をつくるのかを考えている。これはいいことなのだろうか。


「レオニール様。よろしいですか?」


 ああ、いいぞ。


「では、また民間人のかっこをして落とし穴を作ります。森に逃げ込むことを考えてトラップを複数作っておきます」


 なんだか皆が違うことに情熱を注いでいる。すでに戦いよりこういう罠を考えることが軍議になってきている。


 ここで僕らを足止めする理由は何だ。やはり諸侯連中を巻き込んでいるのだろうか。あいつらは国のことを思っていない。自らの保身と利益のみを考えている。


 ウォーレンは今回の行動を侵略戦争ではなく、解放戦線だと言っている。そして、商人はウォーレンに味方している。


 早くこちらも団結しないと厳しいかもしれない。聖騎士のミルディンは難しいとしても他の2騎士には連絡をした方がいいかもしれない。決戦はおそらくポナムだろう。


「誰か、誰かいないか?」

「はい、なんでしょうか?」


 側近のキュレベルがすぐにやってきた。


「至急、赤と青の騎士団に連絡をして、至急ポナムへ集結するように伝えてほしい。これは一刻を争う」


 本当ならばミルディンが一番いいのだが、ミルディンが竜を止めてくれているおかげでなんとか持ちこたえているのも事実だ。

 はてさて、どうしたものだろう。



 一方。ミルドー峠の反対側。ウォーレン陣営にいるムルギフは大忙しだった。


「ムルギフ様、また参戦したいと言ってきている人がいます。どうしますか?」


 はてさて、困ったものだな。兵は多いほうがいいのだろうが、多すぎても困る。受け入れはリックにお願いをしているが、いかんせん食料や装備の流通が不便でしょうがない。


 いや、ここから先など特にだ。このミルドー峠は狭い。一定以上の運搬をしようとするには不便でしょうがない。


 だが、ルフエルから王都に向かうにはこのルートが最短だ。そういえば、この近隣のものは山中にあるけもの道を使っているとか言っていたな。ちょっと近隣出身のものに聞いてみるか。


「誰か、この近隣出身で運搬担当はいないか?」


 呼び出すとしばらくして一見すると子供にしか見えない少年がやってきた。


「少年、名はなんという?」


「僕?僕はねランって言うんだ。もう5年運搬をしているんだ。手押し車でね」


「ほう、そうか。年はいくつだ?」


「12歳。もう大人だよ。ただ、身長が伸びてくれないから子供に見られるんだ」



 12歳は子供だと言いそうになったが、自分自身12歳の時はすでに市場でやり取りをしていた。


 そう、ウォーレン様は年齢や身分にこだわらずに接してくれたのだ。だから今の地位がある。


「ランとやら。王都へ運搬したことはあるか?」

「もちろん。大半が王都へ商品を持っていくんだ。僕が扱っているのはきのこがメインなんだ。山の崖近くにしか生えていないのが人気なんだよ。それがどうしたの?」


「いや、その時ミルドー峠はつかっているか?」

「ううん、あそこは山賊が出やすいし、見通しも悪いから通らないね。僕らは山道を通っているよ。もうちょっと道が良くなれば楽なんだけれどね」


「ちょっと連れて行ってくれないか?」



 そう言って、わしは外に出た。かなり前線からかなり戻るが確かに山の中に細い道がある。地面を踏み固められた場所だ。荷車1台がかろうじて通れる。ここを整備して道を作るのも今後に役立つかもしれない。


 しかも人も増えてきている。ちょうどいい。これだけの兵士を何もせずに待機させておくのももったいない。


「ランとやら。この場所を整備しよう。どうだ?」

「それ、助かるよ。多分多くの人が喜ぶはずだよ」



 そうと決まれば準備だ。石材を集める事から始めないといけない。いや、そういえばこの付近は良質のレンガを作っていたはずだ。レンガを敷き詰めて赤い街道にしよう。夜でも目印になるだろう。


 考えながら陣営に戻ってきた。さっそく手配だ。


「リック、リックはいるか?」


 ここ最近のリックは多くの賛同者との面談とともに、彼らが何をしたらよいのか、何をしてもらうのかを決めるのに大変苦慮していたのだ。


「はい、なんでしょうか?」

「実は、ミルドー峠を経由せずに王都へ行く街道を作ろうと思う。多くのものに手伝ってもらいたい。まず、石材の手配、レンガの手配。木々の伐採だ。伐採した木々は材料に使えそうなものは使う。草もだ」


「その木や草は何に使うのですか?」

「もちろん、ミルドー峠に陣取っている奴らに兵がここにいるように見せるために人型を作るのだよ。なんせ、これからかなり後退をして街道を作るのだからな。まあ、まったくの無人というわけにはいかないだろうが、陣営など飾りでいいのだよ。」


「わかりました。まあ、実際することが少なくて暇をしている者も多いですからね。仕事があるとやる気も出るでしょう。それに、ミルドー峠以外の街道が出来れば商人も喜びます」



 わしもどちらかというと戦争より商業を発展させることのほうが実りがあると思っている。内需を発展させるためには流通網は大事だ。ミルドー峠は悪くはないが、いかんせん狭いし、雨が降ると洪水の影響も受けやすい。リックが言う。


「そう言えば、今陣営を構えている場所はどうやら良質の粘土が出るらしいです。レンガを作るのなら作業員の安全の確保も必要ですが」


「そうだな。では、まず切り取った木々で防衛壁を築くか。そして、草で編み込んだもので奥が見えないように隠そう。人型を作って並べておけば多くの兵がいるようにも見えるだろうし丁度いいだろう」


「わかりました。では、まず防衛壁を作る準備をはじめます。街道の広さはどれくらいにしますか?」


「ああ、馬車が2台は横に並べられるくらいの広さが良いな。ウォーレン様が戻られる頃にはびっくりさせたい。交代制で作業をさせよう。人はたくさんいるのだからな」


 わしは一気に楽しくなった。何もすることがなく空を眺めているだけなぞしてたくなかったからな。


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