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~キールとマーヴェル~

 ナーガが誰か連れてきたみたいだ。というか、この魔力。まさか。そんな。会えるなんて思っていなかった。


「どうしたの?キール」


 ミサが私の顔を覗いてくる。


 いや~もうむちゃくちゃかわいい。とりあえずほっぺたをつんつんする。これだけで一日が過ごせそうだ。


 そうだ、昔も同じようなことをしたのだ。あの勇者がこの森にやってきた時から起きたのだ。一目見てかっこいいと思った。


 白い鎧、兜、マント。それに金髪の長い髪。絵本に出てくる王子様のようだった。私が待ち望んでいた感じの男性だ。


 整った顔立ちは中性的で、きれいだ。この城にいるやつらは皆どこか雑だったりがさつだったりする。


 まあ、元がドラゴンとか巨人とか獣だから仕方ないのかもしれない。


 だが、目の前にいる奴はなんだ。まるで天使のような。いや、この魔力。人間ではありえない。かといって魔族でもない。


 見ているだけで胸がドキドキする。おかしい。恋と言うのは食パンをくわえながら走って、曲がり角でぶつからないと始まらないのではなかったのか?


 本ではそう書いてあったはずだ。今からやった方がいいのだろうか。どこかに食パンはあっただろうか。


 思い出せない。だが、この目の前にいるものの魔力には覚えがある。過去にこんな感じの魔力に出会ったことがあるような気がするのだ。


「お前の魔力は一体何だ?」


 つい、気になってそう聞いてしまった。勇者は言う。


「ああ、俺は神と人間のハーフだ。お前ら堕落した神と違ってな」


 なるほど。だからなんとなくこの魔力を覚えていたのか。このきれいな魔力。そう神のもつ魔力だ。私たちと違って黒く濁っていない。


 そうそう、私たちは神だったんだ。なんか結構前のことだから忘れちゃたんだよな。

 

 何をして人間界に堕ちたのかももう覚えていない。ま、なんかそんな重要じゃなかったような記憶もある。ただ、この場所は冥府の入り口だから、人間を寄せ付けないようにしろって言われたんだよね。まあ、めんどうだから私はあまり動かないけれど。


 だって、動くのめんどくさいじゃない。それに結構この森広いから中央にちょっとおしゃれな感じの城をつくったし。まあ、地下に大きな穴が開いているのが難点だけれどね。下手に誰かが落ちたらまずいっしょ。だからこんな感じで蓋をしているの。


 でも、なんでこの勇者はこんなこと詳しいんだろう。


「んで、何しに来たの?」

「戦いを終わらせに来た。どうして人間に干渉する?」

「私は別に何の指示もしてないよ。勝手に外に行きたい子が行っているだけだし」

「人間はそれが迷惑なんだ。お前は力があるんだ。誰よりもある。統制をかけてくれないか」


 なんかめんどくさそうだな。なんで、この人はそんなこと言うんだろう。


「統制したら勇者はうれしいの?」

「うれしいというかなんというか。そういうもんじゃないな」

「よくわかんない。勇者がうれしいっていうのならその通りにするよ」

「わかった。うれしい」

「なんかうれしそうな顔じゃない」


 きりっと睨んでみる。あれ?他の子ならこれでいう事聞いてくれるのに、全然ダメだ。なんでだろう。勇者が言う。


「そういうことはしないの。他の人にやったら大変なことになるでしょう」

「は~い」


 まあ、多分やっちゃうけれどね。


「では、魔族に統制かけてくれる?」

「うん、そのかわりお願いがあるの。私と付き合って」


 決めた。この勇者と付き合う。なんか勇者がため息をついている。


「何?ダメなの?私じゃ」

「そうじゃない。君は魅力的だと思うよ」

「ならいいじゃない」


 私魅力的なんだ。えへへ。とりあえず抱きついてみた。漫画で読んだんだ。こう言うのがドキドキするはずだ。えい。なんか固い。ああ、この鎧があるからか。壊しちゃえばいいのか。ちょっと力を入れてたたこうとしたら勇者に手を取られた。


「ダメだ。この鎧は大切なんだ」

「何よ、単なるオリハルコン製でしょう。この暗黒の森じゃ大量にあるわよ。だって地下から大量に出てくるんだから」

「そうなのか?」

「そうよ。これどっかに持って行ってよ。邪魔なんだから」


 あれ?なんか勇者の顔が笑顔になった。オリハルコンで笑顔になるんだ。


「じゃあ、定期的に獲りに来てよ。そして、私に会いに来て」


 時間をかけてこの勇者を落とす。もっと勉強しなきゃだ。千里眼で人を観察するかな。




 そう、こうやって私と勇者は仲良くなっていったんだ。そして、子供ができた。子供は私に似てかわいい男の子だ。黒い髪、紫の瞳。不思議と勇者には似なかった。でもいいの。ようやくあの勇者がデレたのだから。時間がかかったけれど、その愛の結晶なのだ。まあ、ある程度大きくなったら勇者は自分で育てると言った。


 まあ、生まれたてのむにゅむにゅ感は最高だった。確か名はマーヴェルとか言っていたかな。

 久しぶりにマーヴェルに会える。というかほとんど話すこともできなかった時に勇者が連れて行ったんだよな。


 人間として育てたいと言ったから。まあ、魔族として育てるとしたらこの暗黒の森から出しちゃダメだからな。


 そう、勇者と約束をしたのだ。

まあ、簡単だったしね。皆にこれからいう事聞かなかったらお仕置きするよって言ったら守ってくれたもの。まあ、ルールを破る知能の低い奴は地下に放り込んだけれどね。だからなんか地下にいるハデスがうるさいんだけれど。

だから勇者にちょこっとハデスと遊んできてって言ったんだ。今冥界ではやっているコロセウムいうので戦いまくっているはず。まあ、ちょこっと暗黒の森から出ちゃったけれど人間い迷惑はかけてないからいいよね。


 とりあえず、久しぶりに大きくなったマーヴェルに会えるのだ。うれしいな。




「どうしたの?キール」


 ミサが私の顔を覗き込んできた。


「ゴメンね。さみしかったかい?」

「ううん」


 もう、すねちゃってかわいいな。私はミサを抱きかかえる。そう言えばミサの肌がちょっと荒れ始めている。どうもナーガが買ってきた保湿クリームが良くないみたいだ。


 う~ん、とりあえずこういうのって難しいな。ちょこっと魔力を注入させたから肌はうるるんって感じになったけれど人間ってあんまり魔力を注入するとよくないんだよな。


 うん?なんかマーヴェルの横に女の人間がいる。くっついているから恋人か何かなんだろう。

 こういうのは人間に聞くのが良いのかもしれない。どういう保湿クリームがいいのか教えてもらおう。


 よく見たらなかなかかわいい子じゃないか。さすがマーヴェル。私の子だけある。


 は、そうだ、部屋を片付けないといけない。


 部屋を見渡す。服が散乱している。魔力でささっとクローゼットに押しやる。服は何がいいかな。


 う~ん、難しい。母を意識させるものがいいのか。それとも若い母を見て感動するのがいいのか。とりあえず、黒髪が栄える白いセーラー服を選んだ。ミサもお揃いにした。


 いや~かわいい。これで完璧だ。




~ウォーレンとガイ~


 うまく行きすぎている時は絶対に何かある。俺はうまく行きすぎれば行き過ぎるほど何かがあると思っている。


 湖畔の町リュムーナに入った時にそう思った。虫の知らせなのかわからない。だが、俺はそう思ったのだ。


 黒い剣を持った少年の話しを聞いたからかもしれない。忘れることはない。彼がきっかけなのだ。この旅立ちの。


 このリュムーナに黒い髪、紫の瞳をした少年がいることを街に入ってから聞いたのだ。そのものは王の孫娘の侍女を共に王都に向かったそうだ。


 会わなければならないだろう。相手は私を恨んでいるかもしれない。


「アベル。黒い剣の少年を覚えているか?」


 私はアベルに声をかけた。アベルが言う。


「ええ、覚えています。黒いオリハルコンの剣を持っている少年ですね。行方を捜してはいましたが、まさかこんな湖畔の小さな街にいるとは思っていませんでした」


 探している?そんなことは依頼していない。アベルは何を考えているのだ。ルフエルに居た時はそうでもなかったがここ最近のアベルは何を考えているのかわからない。


「なぜ探しているのだ?」

「もちろん捕えるためです。まあ、すでに王に対して反旗を翻しているので今となってはどうでもいいのですがね」

「捕えてどうする。まさか罪人でもないのに処罰するとでも言うのか?」

「もちろん、処罰します」

「ならん。罪人でもないものを裁くのは義に反する。俺はあの黒い剣の少年に礼をいいたいくらいだ。あの少年があの時あの場所にいなければ俺はこんな選択はしなかった。だからとらえるのではない丁重にもてなすのだ」


 アベルは驚いた顔をしている。アベルが言う。


「向こうはそうは思ってはいないでしょう。むしろウォーレン様を恨んでいると思われます。もし何かあったらどうされます?」


「その時はその時だ。それが天命というものだろう」


 アベルは首を横に振る。今思えば組織が大きくなりすぎたからなのかもしれない。アベルを下がらせ俺は外に出た。湖畔近くを歩く。身の回りの警護はここ最近トーナメントをして優勝をしたザナドという若者が付いている。ザナドは強いだけではない。話してみてわかる。頭がいいのだ。


 二つ前の街の大地主の二男坊だ。家業を継がないことから体を鍛えながら兵略を学んでいたと言う。学校にも行っていたらしい。だが、兵舎にはいり賄賂や不正が横行しているのを見て嫌になったと言う。だが、やめなかったのはどうにかして組織を立て直そうと思っていたのだ。


 こんな気概のある若者もいる。ザナドと話していてそばに置きたくなったのだ。ザナドに聞く。


「なあ、もし恨まれているかもしれない相手と仲良くなるにはどうしたらよいと思う」


 変なことを聞いた。だがザナドはこう答えた。


「まっすぐぶつかるしかないでしょう。諦めたら何もかわりません。私はそうやって仲間を増やしてきました」


 そうだな。俺も似たようなものだ。初めからアベルやヤーン、シフ、ムルギフと仲が良かったわけじゃない。何度もぶつかり、討論を重ねた。


 そうやって今があるのだ。


「ありがとう。ここはいいところだな。はじめてきたがまた来たくなった」

「私もです。確か王の孫娘が毎年この場所に来られると聞いたことがあります。確かこの先に別荘があるはずです」


 ザナドが指差した先には白を基調とした建物が建っている。


「見に行きますか?」

「いや、いい。少し街中を歩きたい。街を見て、民の生活をこの目で見ないとわからないことが多い」

「わかりました」



 歩いていくと街中で騒ぎが起きている。人垣ができている。声がする。


「下がっていろ。アネモネ。大丈夫だ」


 威勢のいい少年の声だ。


「気をつけろ。こいつはオリハルコン製の剣を持っているぞ。オリハルコン製の武器、防具を持っていないものは下がれ」


 アベルの声だ。


「すまない」


 俺は人垣をかき分けていく。輪になったところに少年と女性がいる。あの女性は見覚えがある。確か王都で見たことがある。


 そして、少年は黒い髪をしている。そして黒い剣を持っている。


「アベル。何をしている」


 俺はありったけの声を張り上げた。周りが俺に注目する。アベルが言う。


「ウォーレン様、危ないです。下がってください」

「俺は聞いているのだ。何をしているのだと」


 アベルは目線を合わせてこない。押し殺したような感じでアベルが言う。


「このものを捕えます。ウォーレン様なぜわかってくれないのです」


 アベルは確かに俺のことを思ってくれているのはわかる。だからこそ言わなければならないと思った。


「アベル。お前はいつも俺のためを思って動いてくれている。それには感謝する。だが、俺は言ったはずだ。この少年とただ会って礼を言いたいと。客人としてもてなすようにと。これがそうなのか?」


「ウォーレン様、わかってください。この者たちを放置しておくことは危険です。だから牢にいれる。それはウォーレン様のためなのです」


 アベルは叫んでいる。俺はただ首を振る。


「アベル。この者たちがどういう罪を犯したと言うのだ。俺は今まで牢に送ったものは不正をしたもの、民を虐げたものだけだ。何もこの者たちはしていない。それ以上言うのならば俺はアベルを捕えねばならない。この者たちはこのリュムーナの民だ。民を虐げるものを俺は許さない。

 だが、アベルよ。お前の思いはわからなくもない。だから剣を引いて、兵を下げてくれないか。お願いだ」


 俺は頭を下げた。アベルだけでない。周りのものが動揺している。そりゃそうだろう。アベルは俺をまるで神のようにあがめている。そして、ここにいるものも俺のことを救世主かなにかと思っている。


 そんなたいそうなものじゃない。俺はただの人だ。黒い剣の少年が剣をしまう。少年が言う。


「なあ、あんたさ。一体どうして俺らの襲ったんだ」

「あの時は誤解を解きたかったのだ。いつも俺は何か事件が起こると犯人だとか黒幕だとか言われてきた。あんたらがあの時ルフエルにいることが知られると誤解をされると思った。それを取り除きたかった。それだけだ」

「そうか」

「信じてくれるのか?」

「いいや、俺にはわからん」


 少年はそう言い切った。だろうな。今の行動を見れば信じられないだろう。俺だって信じない。少年は続けて言う。


「だが、あんたの方が王の資格があるように感じるな」

「そうか、そいつはうれしいな。なら王にでもなるか。君らが望む王に」


 そう言うと少年は笑った。俺も笑った。アベルは何も言わない。


「アベル。こう言うことだ。彼らは脅威でもリスクでもない。ただの民だ。それでも捕れえるというか?」

「いいえ」

「なら、兵を下げてくれ」


 そう言うとアベルは兵を下げて行った。


「アベル。いつもありがとう」


 俺は大きな声でそう言った。伝わったかはわからないが俺にはそれくらいしか言えなかった。

 少年が言う。


「大変だな、王も」

「ああ、以外と大変なんだって今知ったよ」


 なんだかこの少年は面白い。


「なあ、少年。君も一緒に来ないか?」


 俺は少年を誘った。少年はこう言う。


「悪いな。俺はこいつの責任を取らないといけないんだ。だからダメだな」


 そう言って横にいる少女の腰を抱き寄せる。少年なのにいっぱしの男のようなことをする奴だ。しかも少女もまんざらでないみたいだ。


「そうか、それは悪かった。じゃあ、名前を教えてくれ」

「ああ、俺はガイって言うんだ」

「ガイか。いい名だ。もし何かあったらいつでもウォーレンまで訪ねてくれ。君たちは私の恩人だ。何でもしよう」


 俺はそう言って手を差し出した。握手をする。ガイが言う。


「ああ、この街が平和であればそれだけで十分だ」

「なら、この街に何かあったら駆け付けよう」


 俺はそう約束をした。その後にその約束をかなえるために疾走することになるとは思ってもみなかったが。


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