表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
11/17

~ウォーレンと側近~

 おかしい。何かがおかしい。俺はルフエルという街を大きくして民が安心して豊かな生活ができるようにしたかったのだ。そのはずだ。


 だが、今何が起きている。鎧に身をつつみ、馬にまたがっている。こんなの望んでいない。シフが横にいる。横にはアベルもいる。これだけ見るといつもの執務室と変わらないように見える。いや、見えない。見えるわけがない。皆鎧を着て馬にまたがっているのだ。


 シフが馬を寄せて話しかけてくる。


「この先に街があります。どうしますか?」


 争い事は嫌いだ。こんなの俺好みではない。仕方がない。こう言ってみるか。


「シフ、俺らは侵略者ではない。まずは話し合いだ。この国の納税率はおかしい。ここまで高い必要はない。それともう一つ。中央は魔族に対して何もしてない。民を守るのが国の役目だ。それを思い出させるために我々が動いている。大義があることをまず伝えよ。そして協力することを依頼するのだ。我らに協力をすれば、納税率を2%下げると交渉しろ」


 実際、一つ一つの街と交渉をするのは骨が折れる。だが、俺は戦いが嫌いだ。血が流れるのがいやなのだ。だからゲームでも勝つことより場を楽しませることに気を配っていた。戦争なんて誰かが悲しむことになる。ここまできてやめるなんて言っても誰も聞いてくれない。すでに何人もいや、何万人もが付いてきているのだ。


 今さら引き返せない。だったらできるだけ被害を最小限にとどめよう。しばらくするとムルギフがやってきた。


「町長がやってきました。要望を受け入れるとのことです。後、この行軍に参加したいと言ってきております。どうしますか?」


「断る理由はない。だが、きちんと報酬は与えてやってくれ。後、生活レベルを落としてまで参戦するなと」


「さすが、ウォーレン様は王の器があられる。力で攻めるのではなく、仲間にしていく。おそらくその思いに賛同するものはこれからも増えるでしょう」


 いや、違うんだ。そんな王とかそういうことを考えたわけじゃないんだよ。アベルが言う。


「それに、戦い、勝ったとしても、これから王都に向かうための後方に爆弾を抱えることになるかもしれません。そう思うと戦わずして勝つということは大事です。過去の兵法家に通じるものがあります。さすがウォーレン様です」


 なんだか周りが持ち上げてくる。怖くなってきた。だが、不思議とこの交渉がうまく行き二又の道にたどり着いたのだ。


 シフが言う。


「この先にあるミルド―峠を越えると王都に近くなります。細い街道ですが道は整備されております」


 なんかスムーズに行き過ぎている。だが、このまま王都に行き決戦となると被害が出そうだ。それは避けたい。


「シフよ。こっち側は何があるのだ?」


 道が分かれている。シフはまっすぐの道を指差していた。シフが言う。


「こちら側は小さな街があります。そこからだとぐるりとまわらないと王都には行けません」


 なるほど。そっちのルートがいいな。でも、戻れなくなるのも困る。そうか、人数も増えたし一部の兵が迂回していけばいいのか。


「シフ。決めた。兵を少しわけてこの場で待機するものと迂回をして街を回るものとにわけろ。王都を無血開城させるために国中が私に賛同するようにするのだ。王の権威を引きずり下ろす」


 ダメかな?こんな口先じゃ皆騙されないかもしれない。いきなり皆が俺を裏切るかもしれない。シフが言う。


「なんと、王都を落とすのではなく王都を最後に持っていかれると。かしこまりました。この場は誰を残されますか?」


 う~ん、もし戦闘となったらシフはいてほしい。アベルがいないと身の回りは不安だ。


 あ、そうだ。そう言えば最初に交渉した彼がいたな。あれから何度か話す機会があったから彼にでもお願いするか。でも、誰か話しができる人がいないと困るな。じゃあ、こうするかな。


「ムルギフ会頭。お願いできますか?それと、もう一人。リックを呼んでくれないか?」


 皆がびっくりした。リックは最初に交渉をした街の町長だ。リックが来る。


「はい、なんでしょうか?」


「ムルギフとともにここに残って陣営を守ってほしい。ここには色んな街から来ているものが多い。リックは長く旅をしているのでそのものの気持ちがわかるだろう。陣営に入ってもらえないか?」


 リックはいきなり片膝をついた。そしてこう言った。


「ありがたいお言葉です。まさか私ごときにそのようなことを命じてくださるとは思いませんでした。この命に代えてでもここを守り抜きます」


 びっくりした。リックに言う。


「不安かと思う。できるだけ多くの兵がいるように見せてほしい。大変かと思うがよろしく頼む」

「かしこまりました」


 そう言ってリックが去って行った。シフが言う。


「まさか新参者を抜擢するとは」


 アベルが言う。


「いえ、これは英断です。新たに加わったものは疎外感を持っていたのも事実です。結局昔からの重鎮が評価され、自分たちに光が当たると思っていない。一部ではわが軍の兵力を見てしぶしぶ従っているものもいたかもしれません。けれど、自分たちも評価されるとわかれば変わるでしょう」


「なるほど。さすがウォーレン様だ」


 いや、そこまで考えたわけじゃないんだけれどね。それに最近いっぱい人が増えて名前を覚えるのがつらいんだよ。


「ムルギフ会頭。ご迷惑をおかけいたします。あなたがいれば安心して私はこの国をまわれます」


「ウォーレン様。安心してください。戻ってくる頃にはこの場所はもっと多くの兵がいるでしょう。皆新たな王に期待しております」

「わかった。では行ってくる」


 とりあえず、戦いは回避できたみたいだ。うん、よかった。まあ、こうやって旅行気分でこの国をまわるのもいいかもしれない。





~リネとマーヴェル~


 あの時勢いでマーヴェルに抱きついてしまった。しかも告白までしてしまった。さらに、あの告白はマーヴェルにも聞こえていたみたいだ。


 こっそりいったつもりなのに。まあ、おかげでマーヴェルの気持ちも知れたからいいんだけれどね。


 でも、不思議なことにマーヴェルは全然暗黒の森に向かわない。何かすることがあると言っていたけれど、山に行って食料を確保するということを繰り返している。後は山を開拓したり、建物を建てたりしている。


 まあ、私としては話しをしてくれるし、燻製とか一緒に作ったりしているから楽しかったりするからいいんだけれど、いいのかな?確か魔族と戦いに行くんだよね。


 なんか、聞こえてくる話しだと他の国では巨人が現れて街が崩壊したとか。


 でも、そんな話しを聞いてもマーヴェルはそこまであわてていない。しかもこう言うんだ。


「魔族ってそんな凶暴じゃないんだよ。話せばわかるんだから」


 もう、そんなこと言って大丈夫なの?


 不安だって言ったら、「何かあったらリネだけは守るよ」とか言っちゃうんだよね。もうにやにやしちゃうよ。


 なんか今日は山を一部切り取って納屋を作っている。どうやら食料を保管するらしい。こんなになんで食料が必要なんだろう。わからない。


 そう、思っていたらなんかいっぱい移民というか避難してきた人が増えてきた。そっか、この人たちのための食糧を用意していたのか。


 しかも、そして、作った家に誘導している。いつのまに。早い。これを予測していたっていうことなの?


 まあ、その中で一番豪華な感じのをが私とマーヴェルが使っているんだけれどね。うふふ。二人の新居です。告白してよかったな。えへへ。


 でも、マーヴェルはまじめなの。何も私にしてくれない。一体私の何が不満なの。こう言うのって一緒に暮らしたら何か起きるんじゃないの?


 まわりからいっぱい聞かれるのよ。もう。恥ずかしいじゃない。何もしてくれないとか。


 そんなことを直接マーヴェルに言ったら苦笑いされちゃった。


「そういうことは言わないの」とか言ってくるの。どうなの。もう。


 まあ、そんな他愛ないことを続けていた。はずだった。


 でも、いきなりマーヴェルがこう言いだしたの。


「明日この街を離れる。明日からしばらくアランの街に行くから」


 信じられない。なんなの。一緒に食料を保管したり、保存食を作ったり。私は単なる作業員だったの?


 そう思っていたら、口に出ていた。マーヴェルの胸で泣いていた。私は悪くない。多分だけれど、悪いのはマーヴェルだ。マーヴェルが言う。


「じゃあ、ついてくる?」

「うん」


 私は即答した。マーヴェルがいればどこだって安全だ。当たり前じゃない。だってマーヴェルは私が知る限り最強なんだもの。あ、マーヴェルのお父さんがいたか。あれは例外。あれはおかしいもの。規格外ね。


 ホント、こういう時にいてくれたらマーヴェルが暗黒の森になんて行く必要なかったのに。


 で、アランの街に行くって言うからどうやって行くのかと思ったら空を飛んでいくって言うの。久しぶりにズボンをはいたわ。結構かわいいのよ。オレンジ色のズボンで足首辺りを紐でしばっている。髪の毛もくねくね巻いて一つにしばって邪魔にならないようにした。


 だって、私はマーヴェルが飛んでいる間ずっと抱きかかえてもらっているんだもの。邪魔になんてなったら怖いし、それに迷惑なんてかけられない。しがみつくの。ぎゅって。


 マーヴェルが抱きかかえてくれたと思ったら一気に空に舞い上がった。子どもの頃から何度も経験をしているけれど、この空気が頬をなでる感覚が好き。空で一旦停止をしてくれる。


「リネ。あっちがこれから行くアランの街だよ」


 マーヴェルがそう言ってくれた。小さく街が見える。そしてその奥に鬱蒼とした森が広がる。あれが暗黒の森だ。


 暗黒の森との境界線が平らになっている。そういえば、聞いた話だと暗黒の周りを巨人が練り歩いているらしい。そして、方向を定めたらまっすぐ進み、その先の街を壊滅させる。


 でも、なんでか人の被害がないんだよね。街だけが壊される。みんなむっちゃ運がいいんだと思った。


 そう、思っていたらマーヴェルが動き出した。いつもと違って鎧や兜とかがちょっと痛い。肌の温もりを感じられないんだ。なんだかこんなにくっついているのにちょっとだけマーヴェルを遠く感じる。


 そう思っていたらすぐにアランの街についた。こんなに近いんだっけ?普通に馬車とかで移動したら1週間くらいかかるはずなのに。


 アランの街は赤を基調にした屋根が印象的だ。後は市場を開いているところが何箇所もある。辺鄙な場所だと思っていたのに意外と開けていてびっくりした。


 マーヴェルが地面に降り立つ。私をゆっくり下ろしてくれる。こういう時って絶対マーヴェルはやさしい。雑に扱うことがないんだ。降りてすぐに歓声というか叫び声が聞こえる。城壁側からだ。


「行ってみようか」


 マーヴェルはそう言って私の腰に手をまわした。これは何度かしたことがある。私はマーヴェルに抱きつき。軽くマーヴェルが空を飛ぶ時にこうしてくれるのだ。


 さらりと城壁を越えるといきなり太陽が隠れた。曇ったのかな?


 空を見上げるとそこには竜が飛んでいた。大きな、大きな竜。100メートルの竜がアランの街に来ると噂になっていた。


 マーヴェルは私を少し離れたところに降ろしたら剣を抜いて竜に向けた。一瞬竜が止まったきがする。


 歓声がする。


「おい、あの白い騎士。あの鎧って見たことがあるぞ」

「ああ、俺もあるぞ。あれは勇者記念館にあるやつだ」

「ということは」

「勇者が来たぞ!!」


 歓声は更に大きくなった。走り出すマーヴェルを私は祈るように見ていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ