表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
10/17

~ガイとアネモネ~

~ガイとアネモネ~


 アネモネが言う湖畔の街についた。のどかな街だ。本当はこの手前の街に入ってもよかったのだが追手というか、後ろから来る軍勢がどうも色んな街に入っては懐柔を続けている。


 だからどこが安心なのかわからなかったのだ。まあ、俺は野宿なんて全然苦痛じゃないがまだ本調子でないアネモネがどこまで堪えられるのか不安だった。


 もし、この移動で体調を崩して死んでしまったら、これは俺が殺したことになるのだろうか。


 うん。わからん。だから細心の注意を払った。時に川魚をとったり、栄養がつく山菜やきのこ

なんかを探してきては鍋にしたのだ。


 どんぐりなんかも食べた。もっと栄養の高いものもあるのだが、ウサギとかを捕まえようかといったらアネモネがかわいそうだといったのだ。


 まあ、俺とて獣王だ。俺の眷属と呼んでいいのかわからないが、あいつらを食べないというのはちょっとだけ親近感がわいた。


 だが、この湖畔の街について、アネモネの実家にお邪魔したのだ。なんだかすごくアネモネの実家で歓迎された。見たことがない料理がいっぱい出てきた。アネモネが顔を真っ赤にしてかなりあせっていたがあれは一体何だったんだろう。


 とりあえず、しばらく湖畔というものを見て、この落ち着いた街を眺めていた。


「何もない所でしょう?」


 もうある程度歩けるようになったアネモネが言う。


「いや、こういう所は落ち着くから好きだな」


 そういったらアネモネが真っ赤になった。そういえば、アネモネという花も赤いのだと思い出した。


 手紙を出してすぐに王都から連絡があった。アネモネが王都に呼ばれたのだ。


「私、行かないと」


 不安そうに話すアネモネ。ひょっとして行った先でいじめられるのか。いじめを苦に死んだ場合、それも俺が殺したことになるのだろうか。わからない。


「ついていってやるよ。心配だしな」


 うん、勝手に死なれたら本当に困る。それにキール様のお気に入りの横に居たからな。ひょっとしたら呼び出されるかもしれない。そんなときに知りませんなんていったらそれこそキール様に塵にされてしまう。


 なんだ?アネモネは顔を赤くしてもじもじしている。どこか悪いのか?不安だから顔を覗き込んでみる。


「きゃ~」


 叫ばれた。


「ああ、悪かった。いきなり顔を覗き込んで」


「いえ、イヤじゃないです。その、急だったので」


 なんだかよくわからない。まあ、いいか。とりあえずアネモネと共に馬車に乗り王都ラグーンに向かった。


 途中にいくつかの街を見た。名産を食べて、変わった建物を見てまわった。


 うん?こんなにゆっくり移動していていいのだろうか。まあ、事情は俺にはわからない。気ままな旅ができるのだ。それだけで俺は十分満足だ。




 さすがに王都といわれるだけあってついたその時、大きいところだと思った。ルフエルも大きかったが負けていない。いや、古い感じの建物がこれまた趣があっていいのだ。確かに新しい建物はそれはそれでいいのだが、こう格式があるというか古いからこその威厳がある建物というのはいいものだ。


 しばらく馬車に揺られていると白亜の宮殿が目に入った。大きな建物だ。門があり中に入る。綺麗に手入れされた庭園がある。四角い緑の木々を見てちょっと面白いと思った。


 馬車を停めさせられた。どうやらここからは歩きらしい。


 先に馬車を降りてアネモネの手をとる。もし馬車から勝手に落ちて怪我でもされたら困るしな。


 それに、どうやら人間というのはこういう風習があるみたいだ。なんかそういう事をしているヤツを街中でみたんだ。俺も結構学習しているんだぞ。


 まあ、物マネだけれどな。最初したときはアネモネはびっくりしていたけれど、最近は俺の手を取って降りることが普通になった。


 白亜の宮殿の中に入る。明かりがともされており中にはきらびやかな絵画や装飾品が多い。


 なんで人間の権力者ってこうきらびやかなものがすきなんだろう。カラスが光るものがすきなのと同じようなものなのだろうか。


 ということは、人間は偉くなるとカラス化するのかもしれない。未だに人間はなぞだ。




 仰々しい扉の前に立たされる。アネモネが緊張しているのがわかる。手を力いっぱい握り締めている。あんなに握り締めたら手のひらを爪で傷つけそうだ。仕方がない。その手にそっと触れる。


「大丈夫。俺がついてるから」


 そう言うと少しアネモネの手が緩んだ。その隙に俺は手を滑り込ませる。俺の手のひらがアネモネの手のひらと触れる。これで怪我をすることはないだろう。


 だが、アネモネはまだ緊張しているのか俺の手ごと握ってきた。よくわからないな。しかも強く握っているわけじゃない。俺の手をやさしく包み込むようにしている。いや、俺の手は結構頑丈だぞ。アネモネが力いっぱい握ったとしてもつぶれもしない。いや、アネモネの手が怪我するかもしれない。しばらくすると中から「入っていいぞ」と言われ扉が開いた。



 中に入ると目の前にでっかい椅子にふんぞり返っているやつがいる。そしてその左右に人がつったっている。なんだこれ。よくわからないな。とりあえずアネモネの後ろで同じようにするか。


 ふんぞり返っているやつの横に突っ立っている端くらいでアネモネ立ち止まりが片膝をついて頭を垂れている。う~ん、これもマネした方がいいのかな。まあ、擬態と思えばいいか。とりあえずマネをしてみる。


 なかなか俺も人間っぽくなったものだ。これだけずっと人間界に溶け込んでいるんだ。完璧じゃねえ?


 なんかふんぞり返っているやつが話し出した。


「そちは我が孫娘のミサを知らないか?」


 誰だ?ミサって。まあ、いいか。多分この爺さんは俺に話しかけているんじゃないのだろう。だって俺はこいつを知らないしな。そう思っていたらアネモネが話し出した。


 「今、ミサ様がどちらにおられるのかわかりません。あの日、ミサ様が暗黒の森を見に行きたいと言われてミルディン様の付き添いで近くまでいきました。その時何かおそろしいものの咆哮が聞こえ馬が驚き私とミサ様は崖から落ちました。

本来ならば暗黒の森にいるはずなのですが、私が目を覚ました場所ははるか遠い港町ルフエルにおりました。ちょうどこの横に居るガイという少年が私を保護してくれたのです。このガイが居なければ私はウォーレンにつかまっていたでしょう」


 ああ、なるほど。ミサというのはキール様がお気に入りのあの子供か。ということはこいつがあの子どもの御祖父ちゃんってことか。全然似てないな。なんか白ひげにくたびれた感じをしている。あのミサって子も何年もしたらこんな風になるのか。


 人間って本当に不便だな。俺ら魔族は長命だからな~キール様なんてあんな容姿をしているがどえらい年のはずだ。魔女だからな、あれは。そう思っていたらふんぞり返った爺が俺に向かってこう言ってきた。


「ガイとやら。ミサを知らないか。ミサがいないと心配でしょうがないのだ。知っているのなら早くここに連れてきてくれ」


 う~ん、それは無理だな。キール様のお気に入りなんだよな。あのミサって子。しょうがないしらばっくれるか。


「悪いが知らねえんだ。俺が拾ったのはこのアネモネだけだ。拾った場所は港町付近。暗黒の森付近には足を踏み入れたことがねえんだ」


 実際付近には足は踏み入れてない。暗黒の森から空を飛んでしまったからな。しかも見てみたかった海に向かって。ああ、海は気持ちよかったな。まあ、湖もいいけれど。後は滝もよかったな。意外とアネモネの実家はそういう緑あふれる自然がいっぱいなのだ。暗黒の森は木々は生い茂っているが、光がない。どんよりしているのだ。もう、あのどんよりの風景は見飽きたのだ。


 ふんぞり返ったやつが言う。


「なら、お前らはどうでもいい。アネモネよ。お前はミサを守れなかった罰を受けてもらう」


 ん?罰?なんでだ。アネモネは身を挺して守ったぞ。だから傷だらけで死に掛けていたんだ。しかもアネモネは何も言わない。下を向いて震えている。しゃあねえな。俺がいっぱつ言ってやるか。


「なあ、おっさんよ。アネモネはな会った時傷だらけだったんだ。それはもう何かを守るような形の傷でな。だからこいつを罰するなんておかしいだろう」


「うるさい。だまれ。お前のような下郎も同罪だ。牢につないでおけ」


 そう言って奥から兵士がやってくる。10人くらいいるみたいだ。槍を手に盾を持っている。仕方がないな。立ち上がり剣を抜く。


「やれるもんならやってみろ」


 まあ、これくらいの人数ならちょっと傷つくかもしれないけれど大丈夫だろう。まず身近なヤツの盾をさくっと一刀両断する。


「うぉぉ」


「あぶないぞ、あれはオリハルコン製だ。気をつけろ」


 なんかそう叫んでいる。気がつくと左右に居たやつがいっきにどこかに消えている。ちなみにね、この剣はオリハルコン製ではなくてダークマター製なんだけれどね。だから黒いだろう。本当に人間って物を知らないな。でも、びびってくれたみたいで助かった。じゃあ、もうちょっとびびらせるか。地面を切りつける。大きな溝ができた。ふんぞり返ったヤツに剣の切っ先を向ける。


「おい、こいつに手を出すっていうのなら俺が相手してやる。死にたくないなら道を開けて、二

度と関わってくるな。関わる度に俺は戦いに来るぞ」


 そう言って、横にある柱を切りつける。柱は一刀両断される。うん、この柱一つなくなってもこの建物は壊れない。壊れそうだったらどうしようかと思ったけれど大丈夫だったね。結果オーライって感じだね。ふんぞり返ったやつが言う。


「わかった。下がっていい」


「ありがとう。わかってくれて。じゃあ、アネモネ行こう。こんなヤツに用はない」


 そう言って俺はアネモネの手を取って歩き出した。誰も道を塞ごうとするヤツはいない。

 歩きやすくなって丁度いいや。ん?この仰々しい扉が閉じたままだ。重そうだから剣でひと凪してみた。うん、道ができた。でも歩きにくいな。さくさくっと足場もつくる。これで完璧。なんか背後の空気が変わっていく。まあ、これだけ恐怖を与えたら手は出してこないだろう。



 白亜の宮殿を出る。アネモネが言う。


「なんて、なんてことを」


 そう言いながらわなわな震えている。


「ダメ、だったのか?」


 何がダメだったのだろう。言われない罰を受ける方がよかったとでも言うのか。人間はやっぱりわからん。


「ダメじゃないですけれど、私。これからどうすればいいんですか?責任取ってください」


 責任って何だろう。わからん。でも泣き続けているアネモネを見ているのがつらい。


「わかった。責任取るよ。まあ、帰ろうか。あの湖のあるお前の家に」


 そう言ったらものすごい笑顔になって「はい!」って言ってきた。

 で、責任って何なんだ。よくわからん。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ