~旅立ち~
~旅立ち~
白亜の宮殿が中央にある街。世界各国からこの街に色んな食料や商材が届く。貿易の街。王都ラグーナ。石畳が中央にある白亜の宮殿に向かって伸びている。いや、この街は放射線状に道が延びているのだ。どの道を歩いてもこの白亜の宮殿にたどり着く。そのため、この王都ラグーナは世界の中央と呼ばれている、堀に囲まれたその白亜の宮殿に向かう一人の男性がいた。
彼の名はマーヴェル。父は勇敢にして世界最強と言われた勇者だ。かつてこの世の一部を魔族が支配をしており人類はその脅威におびえて暮らしていたのだ。
その時、人類を代表して一人の勇敢な青年が立ち上がった。青年は一人真っ白な剣を携え魔族がひしめく暗黒の森へと立ち入った。
その日以降、魔族と人類とでは一つの協定が結ばれた。魔族は暗黒の森から出ることはない。人々に害をなさない。そういう内容だ。
締結の際、青年の剣も鎧も血だらけであった。むろん返り血である。
人類は誰もが思った。この協定は人類の勝利であると。魔族はその日以降、人類の目に入る場所に立ち入ることはなかった。
人々に平和が訪れた日を記念し祭りを行った。勇者はその祭りの後人知れず消えて行った。平和を喜ぶ人々。国を守る王や諸侯、宦官たちはその勇者のことを日に日に忘れて行った。
ただ、1年に1回だけ訪れるその祭りだけがただ残ったのだ。
協定から25年。
平和は突如崩された。暗黒の森から出るはずがない魔物が出てきたのだ。
強靭な体、絶大な魔力をもつ魔物に人類はただただ逃げ惑い、撤退するだけだった。城壁がある街に逃げ、防衛をする。人々は立てこもりおびえることしかできなかったのだ。
人類の王はかつての勇者の子孫を探した。そして、世界の中心である白亜の宮殿にその子孫である「マーヴェル」を呼び出したのだ。
玉座に座る人類の王が「マーヴェル」に向かって話しかける。
「勇敢な勇者の子であるマーヴェル。知ってのとおり魔族が協定を破り暗黒の森から出てきている。人類は恐怖し、高い城壁のある街でおびえ暮らしておる。もう、そんな暮らしが何日も続いている。そこで勇者の子よ。お主にお願いがある。父と同様に暗黒の森へ行き、魔族と戦ってきてくれないか。そして、再度協定を結んできてほしい。人類の平和のために」
マーヴェルは静かに頭を垂れている。まだ幼さが残る顔を上げる。体つきは至って普通の男性と同じだ。筋肉質であるわけでもない、細くてがりがりなわけでもない。平凡なのだ。しかも、服装は鎧に身を包んでいるわけでもなければ、帯剣しているわけでもない。服装は王の前に出るのだから平服ではないが、そこまで着飾っているわけでもない。
普通の平民にしか見えない。マーヴェルが言う。
「父の名に恥じぬよう王の願いお受けいたします。ただ、父は現在行方不明。私は父ではありません。そのため軍隊を私に預けていただけませんか?」
顔を上げたマーヴェルは黒い髪に紫の瞳とまるで魔族のような風貌をしている。だが、その素性ははっきりしている。人類を救った勇者の子なのだ。人類の王が言う。
「そうしてやりたいのだが、軍隊は防衛や復興のために出払っておる。それに、もう一つある」
人類の王はそう言って少しだけ悲しい表情になった。
「そう、わしの孫娘が行方不明なのだ。その調査にみな当たっておる」
マーヴェルはそのことを知っていた。いや、多くのものがこの状況にもかかわらず王が軍隊を動かさない理由を知っているのだ。いや、動いてはいるのだ。孫娘捜索に。この王ではもう無理なのではないか。そういう流れが起きているのだ。
だからこそ王は絶対的な勇者を求めている。すでに人々は王や軍隊よりも勇者を待ちわびているのだ。だからこその勇者が必要なのだ。
「だから、わかってくれ。ほかにならなんでも与えよう。そうだ、勇者が昔使っていた装備が勇者記念館に飾ってある。それを使うといい。誰か、勇者記念館から勇者の装備を持ってくるのだ」
しばらくして台車に剣、兜、小手、鎧、マントが乗せられてきた。しかも何人かで重そうに運んでいる。人類の王が言う。
「この勇者の装備は重すぎてだれもつけることができなかった。だが、お主なら問題なく装備できるじゃろう」
マーヴェルは装備を手にした。何か呪文を唱える。すると装備が勝手にマーヴェルの身体にくっついていく。
「おぉ。なんだ。やはり勇者の子は勇者ではないか。皆、道を開けろ。そして、国中に伝えるのだ。勇者が現れたとすぐに魔物の脅威はなくなると」
「おぉ」
叫び声とともに道が開く。
マーヴェルはゆっくりと歩いている。だが、城門を過ぎるとまた、何かを唱えてすぐに空に飛び上がり消え去った。
マーヴェルがいなくなった場所は歓喜に満ち溢れていた。
そう、こうして勇者マーヴェルの名は世に知れ渡ったのだ。
人類の王が言う。
「これで、国は救われる。わしの名も救われる」