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お前のデータはあずかった!  作者: kasasagi
第二章//最後の定義
20/23

~世界崩壊まで残りxx時間yy分zz秒~



「あー、腹減ったし、そこのコンビニでなんか買ってくるかな。お前らもなんかいるか」

「ちっさいチョコ買ってこいです」

「……おにぎりとお茶をお願いします。……ごめんなさい」


 久遠たちをその場に残し、見える場所にあるコンビニへと入った。


「あっしゃーさー」と声は聞こえるが、店員の姿は見えない。どうやらなにか作業をしているらしい。

 頼まれたものと自分用の弁当を手に持ち、すぐにレジへと向かう。店員はまだ出てこない。

 窃盗犯が来店していたらどうするつもりなのだろうか。

 この調子では朝になるころには店の中は空っぽになっているだろうなと思いながら、監視カメラの存在を思い出す。

 よく、ニュースでコンビニ強盗犯などの監視カメラの映像が流れたりしているので、やはり役に立っているのだろうか。

 店内の天井を見渡し、監視カメラを見つけた。じっとしばらく見つめてみる。

 いくら眺めても、監視カメラの向こうにいる存在は見えてこない。

 しばらくしてやってきた店員は「しゃっしゃっしぇーした」と謝罪をしながら会計を始めた。この店は日本語圏内ではなかったようだ。


 戻ると、二人は石段にちょこんと腰かけていた。


「家に帰ってからやるわけにはいかんのか。これ以上遅く帰るわけにもいかんだろう」

「すこし、気になることが……」


 おにぎりを小さい口でほおばりながら、久遠が答えた。

 その視線はアイエーが展開しているコンソールへと向けられている。


「ほぉん。ま、世界滅亡されちゃたまらんしな」


 弁当を食べながら、話の種ついでに監視のことをふたたび口にした。

 久遠はさほど興味もないと言った様子だったが、巌隆一郎が話し出すと聞く姿勢をみせた。


「目的がわからん、って言ってたよな。本体とやらが考えている大きな目的ってのはわからんが、監視の目的って言ったらやっぱり犯罪じゃないか」

「でも、それは、監視されている人が監視のことを知っていないと成り立たないと思いますよ。そうじゃないと、抑止力になりません」

「そこだ」

「はい?」

「俺達は監視っていったらそれそのものじゃなく、それがもたらす効果について考えるだろう。だが、それはあくまで先例あっての話だ」

「そう、ですね。抑止力というのはそういうものです。最初の一例ですか」

「いや、だってお前もいままで監視されてたことを知らなかったんだろう。なら、アイオーンの悪夢にとっても初めてやってることなんじゃないかと思ってな」

「……アイオーンの悪夢は、やって欲しくないことがあったということでしょうか」

「監視に理由をつけるとするなら、それぐらいしか俺には浮かばん。もしくは、監視に見えるが監視じゃない、とかな」

「監視じゃないとしたら……なんでしょうか」

「わからん。なんか、そういうのなかったか。ネットで……ライブカメラだったか」

「観察ですか」

「そうだな、それだ。てか、ある意味、監視カメラも最初の犯罪を映すまでは、観察しているのかもしれないな。客の行動パターンを調べるために」

「観察、サンプル……」



   §



 久遠は、アイオーンの悪夢の動きについて考えていた。腑に落ちないこと、理に沿わないこと、不自然な反応を思い返す。


 アイエー検索プログラムの動作、入り口の物理的欠損、定義の書き換え。


 このアイオーンの悪夢には、目的がある。そのことには間違いはない。


 だが、繋がらなかった。何かが足りないような気がする。大きなピースが抜けている。

 監視、観察。いずれにしてもVX02DNを通して、アイオーンの悪夢は人間の動きを集めていた。

 それはまだ目的の為に活かされているようには見えない。アイオーンの悪夢はそれを集めてどうしようと思ったのか。


 順番を整理する。

 まず、アイオーンの悪夢はVX02DNのシステムを支配した。人間の行動データを集め始める。

 次にアイエーを巌隆一郎のところに追いやり、アイエーが組み上げた仮想世界を奪った。

 この後、久遠がVX02DNを購入し、アイオーンの悪夢内で使えるプログラムを作成し始めた。それから時間が経ち、久遠がアイエー検索プログラムを作った。


 そして、今日、歪みを現実世界に送り込み、定義書き換えの為に領域を確保しようとした。アイエー達が歪みの中に入る。アイエー検索プログラムが反応する。

 久遠がその地点に向かうと、そこには歪みがあり、入り口の物理的欠損を発見。そこから歪みに侵入。

 歪み内でアイエーと再会し、巌隆一郎達と共に歪みと本体を止めに行った。

 物理的欠損は、その後アイエーのファイルマネージャで検索したところ、存在がなくなっていた。


「あっ……」


 その不自然さは、ただ一点に集約される。

 アイエーだ。アイエーを中心にすべてが動いている。

 アイエー検索プログラムが反応した場所には、歪みがあった。そこで躊躇った久遠を導くように、物理的欠損があった。

 まるでそれは脅迫のようではないか。


 アイエーはあずかった、助けたければここまで来い、と。


 一月の間アイエーを閉じこめたのも、巌隆一郎に送り込み行動できるようにさせながらも検索プログラムには引っかからないようにしていたのも、すべてアイオーンの悪夢がそうしていたからだ。

 だから、今日になっていきなり検索プログラムが反応した。

 当然だ、アイオーンの悪夢は久遠のプログラムのことをすでに知っていた。反応を誤魔化すことぐらい、簡単にできただろう。


 アイオーンの悪夢は、アイエーが持つなにかを求めている。

 しかし、それはアイエーを捕らえるだけでは手に入れられないものなのだ。だから久遠を呼ぶために検索プログラムを反応させた。


 アイオーンの悪夢は久遠に要求している。それはすでに提示されている。

 そして、その要求が通らないのであれば。

 久遠がそれを渡さないのであれば。

 世界を滅ぼしてでも、手に入れようとするだろう。

 歪みのときに示した定義書き換えは正真正銘ただの脅しでしかなかったのだ。あんなものには何の意味もない。


「アイエー。本体を探して」

「あぅ……でもどこにいるのか見当もつきませんです……」

「アイエーが作った仮想世界から離れていない領域で、もっとも現実世界に近い場所よ。そこに絶対にいる」

「それなら筋肉だるまの家のデータです」

「は?」


 唐突に話題にあげられた巌隆一郎はアイエーに鈍い視線を向けた。


「リュリュのデータとがっちりくっつけました! 仮想世界でも現実世界でもリュリュたちといっしょにいられるです! ……そのせいでアクセスできなくなっちまったですけど。あれ本体のせいだったですか」

「な、テメエ!? なに勝手に俺のリュリュを! 俺のリュリュを!」

「ギャース!? こんなことになるとは思わなかったです、悪かったと思ってるですよ! すぐ復旧しますから!」

「お前人質に取ったものを横取りとか最低すぎるぞ!」

「すぐ返すつもりだったです! ホントです!」


 取っ組み合いを始めたアイエー達に、久遠は言った。


「お願い、アイエー。時間がないの。すぐにやって」

「は、はい、わかりました」


 久遠は祈るような気持ちで結果を待った。すでにアイオーンの悪夢は久遠との交渉を捨てて、作業に取りかかっているはずだ。

 まもなく、アイエーが本体を見つけだした。


「アクセスできないので解析します」


 本体がなにをしようとしているのか。

 結果は、久遠の想像通りだった。


「世界滅亡までの残り時間が急激に増えてますよ」

「なんだ。滅ぼすのは止めたってことか」

「ううん……リバースエンジニアリングみたいなものです、たぶん」

「えっ!? せ、世界ごとですか?」

「うん。できると思う。VX02DNから得た知識はそれを可能にするはず」


 設計図から物を作るのとは逆に、すでにある物を設計図に戻す技術。アイオーンの悪夢本体はこの世界ごと解析、分解し、久遠から大切なものを奪おうとしている。


「作業完了まで残り……まだ正確にはわかりません、増え方が解析できません。でも、あんまり時間ないです! 十分は切ってるです!」

「よくわからんがダッシュで俺んちに戻ればいいのか」

「そうです!」


 巌隆一郎は数度屈伸すると、久遠に背中を向けた。


「よし、乗れ」

「え?」

「はぁぁん!? なに言ってるですか! お前、ご主人様に触れようなどとおこがましいと思わんですか!」

「時間がねえんだろ、お前は久遠に適当に引っついてろ」


 久遠は一瞬躊躇ったが、すぐに思い直した。こんなところで無駄に時間を費やすことはできない。


「いい、んですか」

「よくなきゃしねえよ」

「はい。お願いします」


 肩に手をかけ、巌隆一郎の背中に乗っかる。肩の筋肉が張っていて固かった。

 アイエーも文句をぶつぶつ言いながらだったが、久遠に抱きつくような形で巌隆一郎の首に手を回していた。

 巌隆一郎が立ち上がる。信じられないような視点の高さだった。恐怖で手が震えそうになるのを、目を閉じてこらえる。


「飛ばすからな。落ちんなよ!」


 風が耳を切りつけるような勢いで過ぎ去っていく中、久遠は巌隆一郎の肩を食い入るほど強く握りしめた。



   §



 久遠とアイエーを抱えて走ること数分、家が見えてきたとき、アイエーが叫んだ。


「残り二十秒もないです! はやく行ってください!」

「さすがにこれ以上は無理だっての!」


 人を抱えながら走るのはやはり難しい。身体のバランスが取りにくいのもそうだが、なにより姿勢を固定しなければならないというのがきつかった。


 残り二十秒、玄関から入って階段を駆けあがっていったのでは間に合わない。


「ちッ、緊急事態だ、しゃあねえか!」


 玄関ではなく、塀に向かって駆ける。時間がないのであれば最短ルートを取るより他ないだろう。


「ギャース!? お前なにやるつもりですか!?」

「飛ぶぞ! 衝撃に備えろ!」


 一段目、塀まで跳びあがり、そこからさらに一段高く跳び、部屋の窓目がけて飛びげりをかました。

 静かな夜にガラスが割れる音が響く。


「よし到着だ」

「アホかッ! アホですか!? お前なにやってんですか!」

「時間ねえんだろ、はやくしろ」


 肩にしがみついている久遠の手をとんと軽く叩く。見ると、久遠は強く目を閉じていた。


「おい、着いたぞ」

「う……は、はい」


 ふらつきながら久遠が床に足を着いた。

 そして、家の中がざわめきだした。ばたばたと誰かが走る音がする。死刑宣告だ。


「はやくしろアイエー! 間に合わなくなるぞ!」

「相対パス確認! 関連フォルダ参照! 対象ファイルにアクセス!」


 アイエーがそう叫んだ次の瞬間、視界が光に包まれる。



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