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お前のデータはあずかった!  作者: kasasagi
第一章//アイオーンの悪夢
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~深淵の獣~


 世界滅亡を食い止めるための作業をするといって久遠とアイエーが検索を始めると、まもなく玉座の下にある場所にいかなければいけないということがわかった。

 見ると、玉座はあの戦闘の中でも無傷だった。

 アイエーが言うには、特殊な保護が行われているとのことだった。

 アイエー達がプロテクトを解除している間、巌隆一郎は壁際に座り込んでいた。

 リュリュ、アイリス、轟太郎も近くでくつろいでいる。


「サーギィスは?」


 巌隆一郎はアイリスに訊ねた。


「死んだわ。死体は誰にも知られない場所に埋めてあげないとね」

「そんなことしてやる必要あるのかよ」

「あんなのだけど、誰彼かまわず殺したりはしてないのよ。あれが手にかけたのは、挑んできた者や集団だけ。ただ、それで軍が半壊して傾いた国もあるけれど……。それに、昔は人のためになることもしてたのよ。もっとも、あくまで自分の為にやってきたことが人のためになったってだけなんだけど」

「ほう、人に歴史ありってやつか」

「ほっほ。自身が認めた剛の者が倒れたとき、敬意を払うことは良かろうて。鬼籍に入れば強さなど関係なくなってしまうからの。剛の者をそれと知るものが送ってやるのも、縁というもんじゃ」

「本当、お前ジジイくせえなあ」

「でも、その通りだと思うわ。彼の力は知らしめられていいものではないし、知っているものが密やかに送るべきなのかもね」

「……あの人は、最後までひとりでしたね」


 リュリュがぽつりとつぶやくと、アイリスがその頭を軽く撫でた。


「しかし、今日はわしもたいがい疲れて――」


 轟太郎が言葉を止め、辺りをきょろきょろと見回しはじめた。

 上方も見上げ、ふたたび室内に視線を戻す。その目に警戒が宿っている。


「巌、なにかおらぬか」

「あん?」


 アイリスもリュリュを庇うように後ろにやる。


「魔力は感じないけど……あッ!?」


 アイリスの視線を追うと、サーギィスがふたたび立ち上がっていた。

 その様相は満身創痍だが、まだ腕を上げている。


「深淵の力がなくなろうとも、私はここに在る。私の力に変わりはない……」

「深淵、まさか深淵の力を犠牲にして、こっちに戻ってきたっていうの……。あなた、まだやる気なのかしら。深淵の力も無しで、そんな姿で。いまのあなたでは私には敵わないことぐらい、わかるでしょう」

「私には私の力がある……。この世界を無に帰すことなど、容易いのだ! 忌々しい姫君よ、貴様を葬ることも、出来ぬことではない!」


 サーギィスの周囲にすさまじい嵐が発生した。

 先ほどまでの冥い色ではなく、透明な、力強い青さだった。


「ちッ、詠唱完成前にぶちのめすか」


 巌隆一郎が立ち上がると、アイリスが言った。


「私が牽制の魔法を打ったらすぐに飛びこんで叩き潰して。そうすれば止められる。あれは範囲魔法よ、完成するまで時間が掛かるわ」

「ああ、わかった!」


 サーギィスまで疾駆し、距離を詰めようとした。


「巌ッ! 上じゃ!」


 轟太郎の叫びを聞いたのと同時、殺気を感じ、巌隆一郎は横に飛びはねた。

 身体を反転し、受け身を取る。


 そこに現れたのは、巌隆一郎をも超える巨体、巌隆一郎と同じ学生服。

 その場に立つだけで周囲に威圧感を与える佇まい。

 龍司だった。


「なに、だれ?」


 アイリスが不審げな声をあげる。魔法を放とうとした腕を止めている。

 しかし、そんな状況でも詠唱の声は続いていた。サーギィスだ。

 アイリスはすぐに魔法を再開するが、巌隆一郎は龍司とサーギィスをそれぞれ左右に捉える形で動けなくなっていた。


 龍司は巌隆一郎を見た後、玉座へと視線を移した。


「ふん、事情はおおよそ理解している」

「理解してるっていう態度じゃねえぞ、おい。テメエなんのつもりで現れた」

「ふッ、なんのつもり、か。さて、どうだろうな」


 アイリスがサーギィスに向けて魔法を放つ。だが、そこに龍司が割り込み、魔法を片腕で消し飛ばした。


「なっ!? あなた、敵なの!?」


 龍司は腕を広げながら言った。


「わが名は深淵の獣(アビスルーラー)

 闇より出づる深淵の支配者!

 世界をこの手に統べんとするものだ!」


「深淵の支配者ですって。王であったゲアト以外にも深淵の実力者がいたって言うこと? でも、魔力はぜんぜん……」

「いや、こいつは深淵とか関係ねえ。ただのバカだ!」

「えっ、どういうことなの」


 そう、ただのバカだ。


 だが――。


 サーギィスが詠唱を終え、その力を前方に向けて放った。


「しまった、間に合わない!」


 アイリスが叫ぶ。サーギィスが放った巨大な力の塊は、いまにも破裂しようとした。

 その塊に向かって、飛びあがる男の姿があった。


「獅円幻霊脚!」


 ただの飛びげりである。

 だが、サーギィスの渾身の一撃は、その下らない馬鹿げた一撃の前にかき消された。


「な、なんだと……」


 サーギィスが自失した様子で消えた力の先を眺めていた。そこには龍司が立っている。


「深淵、深淵だと……貴様はいったい……」

「真の強者はひとりでいい、そうだろう?」


 龍司が踏みこんだ。サーギィスに肉薄する。

 見えたのは、そこまでだった。


「紫幻斬!」


 おそらく、ただ殴っただけのはずだ。サーギィスは一瞬で数メートル吹き飛ばされ、その身体を壁に叩きつけられた。

 そして、ユグリエと同じように、その身体がさらさらと砂のように消えていった。


 龍司はただのバカなのだ。

 下らない遊びのつもりかなにか知らないが、わけのわからないことをのたまっている。


 だが、恐ろしく強い。


 ピアリール、ユグリエ、ゲアト、サーギィス。連戦につぐ連戦で怪我をしたが、精神的な疲れはほとんどなかった。

 どこかで自分なら勝てるという意識があったからだ。

 強者が弱者に抱くもの、それは余裕というものだ。

 深淵の力を手にしたサーギィスを相手に追いつめられはしたが、それはあくまで一時的なものに過ぎない。誤算が重なり、はじめて余裕を失っただけに過ぎない。


 しかし、相手が龍司であれば、そんな余裕は最初から存在しない。


「龍司……事情はわかっている、と言ったな。どういうことだ」

「言葉の通りだ。お前達の前にはいま、深淵の支配者が立っている。ならば、世界の存亡をかけた争いしかあるまい」

「ちッ! アイリス!」


 サーギィスの最期に意識をとらわれていたのか、アイリスはこちらに注意を向けていなかった。

 呼びかけるとすぐに返事がある。


「俺達に構わずこのクソ野郎に魔法をどんどんぶっ放してくれ!」


 すぐに構え、こちらから仕掛ける。数の有利があるうちに攻める他ない。


「ふンッ! ぬるいな」


 アイリスの魔法に重ねるように攻撃を加えるが、簡単に拳が捌かれる。

 立ち止まっての乱打が通用する相手ではない。位置を変えながら手数に緩急をつける。

 当てられるようにはなったが、クリーンヒットはほとんどない。ダメージらしきダメージは通っていないだろう。


「小賢しいわッ!!」

「ぬァ!?」


 風を切り裂く一打がガードの上から身体を揺さぶってきた。

 勢いに押され、弾き飛ばされる。


「九幻八方陣!」


 ただの飛び回し蹴りである。だが、ガードが間に合わなかった。

 肩を激しく蹴り飛ばされ、地面に転がされる。

 だが、注意を逸らすことはできた。


「よもや卑怯などとは言うまいな!」


 龍司の背後から轟太郎が前蹴りを入れていた。当たったように見えた。


 しかし、龍司はいとも容易く身体をひねり、轟太郎の攻撃を受け流して放り投げた。


「言わんさ、存分に、全力をもってかかってくるがいい。この深淵の獣(アビスルーラー)、如何なる挑戦も受けよう。――ふん、お前も来るのだろう、忍びの者よ」

「忍び? っ――ちッ! 正源か!」


 巌隆一郎はすぐに身体を転がした。先ほどいた場所にクナイが刺さる。

 やはり、もう一匹がいたようだ。


「テメエは忍者か! クナイなんか使ってんじゃねえぞコラおい!」

「……」


 無言でクナイを回収し、正源は動き始めた。クナイは巻き取り式らしい。

 強いバカが追加で増えた瞬間だった。



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