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Original Heart  作者: 美紅
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第7話 保健室で

「ん……」

 あれ?俺……何してたんだっけ?

 確か、ペガサスに乗って、アスターク学園に到着して、そして……ああ、時雨と再会したんだ。

 って、チョイ待ち。俺、もしかして今寝てる?何で?あれ?そう言えば、俺時雨と会って、その後どうしたんだっけ?

 色々な事が頭の中で渦巻く俺だったが、取りあえず起きるために静かに目を開いた。

「……」

「……」

 目を開くと、そこには凄い眼鏡美人の顔があった。

「……」

「……」

 ……っておかしいだろ!?

「うおっ!?」

 ガンッ!

「~~~~っ!」

 俺は驚きのあまり、勢いよく後ろに下がると、何故か壁で頭を思いっきりぶつけた。

「大丈夫かい?」

 後頭部をさすっていると、さっきの眼鏡美人から声をかけられる。

「イテェ……って、貴女は誰ですか!」

 俺は頭の痛さをこらえつつ、何とかそう訊く事に成功する。

「私かい?私はこのアスターク学園の養護教諭をしているクリス・アイゼンだ。そして、今君がいるこの場所は、アスターク学園の保健室になる」

「へ?保健室?」

 眼鏡美人――――クリス先生に言われて、初めて辺りを見渡す余裕ができた。

 すると、そこには清潔感溢れる白い部屋。戸棚には薬物らしきものが入った瓶。包帯や身体に関する本等が沢山置かれていた。

 そして、クリス先生はと言うと、ゆるいウェーブのかかった深緑の長髪に碧眼。名前も見た目もそうだが、明らかに日本人じゃない。ましてや、緑の髪なんて地球には存在しない。地毛の話しね。

 緑の髪なのに、全然自然に感じられる事を考えると、恐らくクラフェイアの人間だろう。

 ふちの細い眼鏡をかけていて、紺色のシャツの上から白衣を着ている。

「本当だ……」

 うん、紛れもなく保健室だろう。何だかよく分からない薬もあるし、先生が白衣着てるし。

 何とか自分のいる場所を確認できた俺に、再度クリス先生が口を開く。

「さて……君が何故ここにいるか覚えているかい?」

 クリス先生に言われて、俺はさっきまでの事を思い出してみる。

「えっと……クラフェイアに到着して、時雨と会って……あ」

 そうだ。確か……5年前の事を訊かれたんだ。そして、それに俺は答える事が出来なかった。

 再び言葉に出来ない不安感が俺を襲う。

 本当に……俺は5年前、何をしていたんだ?

 そんな俺の心境を悟ってか、クリス先生は優しい口調で言った。

「安心したまえ。君は君だ」

「俺は……俺?」

 クリス先生の言ってる事の意味が分からなかった。ただ、それでも今の俺には何だか安心できる一言だった様で、さっきまでの言い様のない不安感はすっかり消えていた。

「ちなみに君は気絶をしただけだ。後で君を運んでくれた女子に礼を言うといい」

 恐らく、俺を運んでくれたと言う人物は時雨だろう。って……

「あれ?俺ってどうやって運ばれたんですか?」

 不思議だ。俺は一応男であって、そんなに軽くもない。ましてや、女性が一人で運べるほどは。

 しかし、俺の質問のどこに疑問を感じるのか分からないが、クリス先生は首を傾げながら言った。

「何を言ってるんだい?君はその女子に担がれてきたんだよ」

「マジで!?」

 嘘だろ!?あの時雨が俺を担ぐ!?

 まず有り得ないし、第一あの町中を美少女が男を担いで移動するなんて……シュール過ぎるっ!

 俺の反応に更に首を傾げたクリス先生だったが、やがて納得したような表情をすると、親切にも教えてくれた。

「おっと……そう言えば君には魔力が無かったね。身体強化の魔法を使えば、君位の重さなら簡単に運ぶ事だって出来る筈だよ?」

「あ」

 そうだった……。魔法があるじゃん……。

 本当にこういった話を聞いてると、魔法の便利さが身に染みるよね。羨ましい。

「とにかく、君は担がれてこの保健室へとやって来た。ちなみに運んできてくれた女子……時雨くんだったかな?彼女はもう遅いから、寮に戻ってもらったよ」

「え?遅い?」

 俺はふと保健室の窓の外を見た。

 すると、そこは真っ暗な世界が広がっていた。つまり、もう夜と言う事だ。

「えぇ……今、何時ですか?」

「そうだね……22時だろうか」

 22時……ああ、10時ね。一瞬分からなかった。って10時!?

「俺そんなに長い時間気絶してたんですか!?」

 俺がクラフェイアに到着した時は、大体1時位だったと思う。クラフェイアに転移したのが昼過ぎだったしね。

「そうだね。君は気絶の割には長い事眠っていたよ。だから、死んでるんじゃないかと思って、瞳孔を確認しようとしたら、ちょうど君が起きたんだ」

 あ、それで俺が目を覚ましたら顔が近くにあったのか……って、俺死にかけてたのかよ!?

「うわぁ……何時の間にか臨死体験してたんですね……」

「まあ、そう言う事になるね。でも安心するといい。死ぬくらい、全然大丈夫だ」

 大丈夫じゃないでしょ!?クリス先生、アナタ先生でしょ!?保健の!

「フフ、冗談だ。ただ、実際に死ぬ程度、この世界では『死』とは呼ばないだろうね」

 うわー……クリス先生美人だから笑うとスゲー絵になる。

 ていうか、この世界では死ぬことが『死』じゃないって何?哲学的な?

 首を捻る俺に、先生は丁寧に説明してくれた。

「この世界にある薬草や、地球ではまだ使える人間がいないようだけど、クラフェイアの治癒術師の中には、死んだ人間を蘇生する事が出来る者もいるんだよ」

「ここでも魔法の反則かっ!」

 俺の思わずと言ったツッコミに苦笑いするクリス先生。それすら絵になるんだから凄い。

「そうカッカしない方が良い。第一、古代遺物の中には、一撃で命を奪う物もあれば、逆に簡単に蘇生する事が出来る物もある。だから、この世界では死ぬことは直接的な『死』に繋がらないんだよ。本当の意味で死ぬには、死体を完全に消し去る以外、無いだろうね」

 死体を消すって……。そこまでするのかよ。異世界とんでもないな。弱肉強食にも程がある。

 そんな感想を抱いていると、クリス先生は一つ頷いて言った。

「さて……君も目を覚ました事だし、もう寮に向かった方が良い。君はこの学園に入学するのだろう?」

「あ、はい」

「それなら、寮に戻って明日の準備でも整えるといい。もう君は歩いても大丈夫だよ」

 そうクリス先生に言われたので、俺はベッドからおりた。おりた瞬間に多少のふらつきがあったが、まあ本当に一瞬だった。

「あの……すみません、俺のせいで遅くまでこうして保健室に残ってたんですよね?」

「ん?ああ、そうだが気にする事は無い。保健室を任されている以上、生徒の健康を管理するのも仕事だからね」

 プロやっ!プロフェッショナルや!親父も見習ってほしい。マジで。

「では有り難うございました」

 俺はそう言いながらすぐにスライド式の扉に移動して、クリス先生に改めて頭を下げた。

「ああ。気を付けて帰るといい。おやすみ――――初原一真君」

「はい」

 俺はこうして保健室を後にした。


●○●○●


「彼が、初原一真君……。総裁の息子と言う訳か」

 私――――クリス・アイゼンは一真君が退出した後、一人椅子に座りながら呟いた。

「やはり、魔力も適性値もゼロ……」

 分かってはいた事だが、どうしてももう一度確認せずにはいられず、一真君が寝ている間に検査をさせてもらった。

「しかし……彼があの【事件】の一番の被害者か……」

 彼は、今の生活をどう思っているのだろうか?

 時雨くんから聞いた、5年前の出来事。そして、あの忌まわしき組織とWPPの総力とがぶつかった、あの【事件】。

 彼は5年前の出来事を思い出そうとしただけで倒れた。

 そんな彼が、彼自身の本当の過去を知った時、本当に耐えられるのだろうか?

 彼に非は無い。

 彼の過去……それは、とてもではないが、常人が聞けば、間違いなく耐えられるものではないだろう。

 外道が……。

 私は静かに心の中で怒りの炎を燃やす。

「それにしても皮肉にも程があるな……あの事件の被害者が、あの組織の最高傑作にして最強――――【オリジナル】として完成し、それを総裁が育てるとは……」

 結局は、あの組織の野望は叶ってしまっている。

 だからと言って、彼を責める事だけは絶対にしてはいけない。

 だから、総裁が間違いのないように育てていた。……WPPの全員が凄まじい不安に駆られたが。

 しかし、あの総裁が父親にもかかわらず、随分立派に育ったものだ。

 本当に、総裁が育てると言いだした時は、WPPの隊員全員で止めにかかったものだ。懐かしい。

「よくよく考えれば、私も随分昔からWPPで戦ってきたのだな……」

 一真君の【事件】が初任務だった私は、当時10歳か……。

「うむ……美佳くんも随分早い時期からWPPで活躍しているようだが、私は異常だな」

 今にして思えば、何故そんなに早い段階からWPPで活動していたのかよく覚えていない。まあ、恐らく――――

「私の古代遺物が原因だったのだろうな」

 そう言い、私は白衣の懐にある、自分の古代遺物にそっと触れた。

 椅子からそっと立ちあがると、私は窓辺まで移動する。

 窓の外を見ると、空には星々が煌々とし、月が静かな輝きを放っていた。

「総裁よ……。彼は5年前の出来事に触れてしまったせいで、『鍵』が一つ外れてしまった様だぞ――――」

 私はWPPの本部にいるであろう総裁に聞こえる訳もない小さな呟きを洩らした。


●○●○●


「ん?そう言えば俺ってクリス先生に名前教えたっけ?」

 俺――――初原一真はアスターク学園の廊下を歩きながらふとそう思った。

 最後に名前で突然呼ばれたしなぁ……。それに、何で俺が魔力ゼロで適性値ゼロだって知ってたんだ?

「まあ、この学校の先生なんだし、俺の場合は特殊だから早くから情報でも先生の間で出回ってるんだろう」

 そう思う事にして、一応納得する。

 まあ、そんな事は今の俺からすれば些細なことな訳であって、もっと深刻な状況に直面している最中だ。

 端的かつ明確に一言で言えば――――

「ここどこだよっ……!」

 ――――迷いました。

 迂闊だった……。

 保健室から出て、廊下を歩いている最中に寮の位置どころか、現在地すら分かっていない状況だったと言う事に。

 うん。馬鹿だなぁ……俺。何で気付かなかったんだろうね。もう保健室に戻る道すら分からなくなっちゃったじゃん。広過ぎ、この学校。

 かれこれ10分は廊下を延々と歩いてる。……おかしいよね?10分だぜ?学校の廊下でかける時間じゃねぇよ。

 そんな状況だから、ひとこと言わせて欲しい。

「誰か、俺を助けてくれっ!」

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