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Original Heart  作者: 美紅
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第6話 再会

「うおぉぉぉ!スゲーッ!」

 俺はペガサスの上ではしゃぐ。

 突然膝の上で寝られた時には驚いたが、何故か俺を主として認めたらしい。親父が何だか凄く悲しそうに説明してくれた。

 そして、今は親父に簡単にペガサスの乗り方を教えてもらって、アスターク学園へ向かっている。

 乗馬すらした事が無い俺だったが、このペガサスは非常に賢いらしく、俺の事を気遣ってくれているのがよくわかる。うん、親父より頭いいかも。

 そして、飛び立ってこうして上空を飛んでる訳だが、真下に広がる草原も、温かみを感じる太陽の光も全てが俺に新鮮な感動を与えてくれる。

 陽気な風に乗って、非常に気分が良い。

 すると、隣を同じ様に飛んでいた親父が話しかけてきた。

「一真!どうだ?ペガサスに乗って飛んでる感じは!」

「気持ちが良い!清々しくて……最高だ!」

 俺が笑顔でそう言うと、親父は微笑みながらとんでもない事を言った。

「そうか。でもそんな気持ちのいい空も危険がいっぱいだからな。それこそ空賊もいるし」

「え、マジで?」

 空賊って……盗賊の空バージョンだろ?おっかねぇな。

 俺の心情を悟ったのか、親父は安心させるようにいる。

「まあ、ここら辺は基本的に治安が良いから大丈夫だ。それに、俺もいるしな」

「うわー、親父だけとか……激しく不安だ」

「何でだっ!」

 そんなやり取りをしつつ、俺は空の旅を大いに楽しんでいた。

 そして、飛び立ってから約30分程経った時だった。

「一真」

「ん?」

「周りばっかりじゃなく、正面を見てみろ。――――アスターク学園が見えてきたぞ」

「!」

 俺は親父に言われて、正面を向いた。

「――――」

 初めに抱いた感想は、デカイ。

 一つの城の様な建て物を中心に、周りを巨大な城壁で囲われている。

 恐らく、あの城の様な建て物こそが校舎だろう。無駄にデカイ。

 そして、校舎以外にも、周りには民家や店等も結構離れてはいるが、確認する事が出来た。

 ただの学園と言うより、一種の都市のようにも思える。

 これが、アスターク学園……。

「一真。このまま学園内に入る事は出来ない。一旦降りるぞ」

 親父がそう言うと、俺の乗っていたペガサスも親父に従って、俺に負担をかけないようにゆっくりと降下して行った。


●○●○●


「ありがとう」

 俺はペガサスから降りると、首を撫でてやりつつ礼を言う。

 降り立った場所は、アスターク学園に入るための門の付近だ。

「ブルル」

 ペガサスも、俺の礼に答えるかの如く、顔を擦り寄せて来た。

「……」

 そんな様子を親父は何故か離れた位置から半眼気味な様子で見てくる。

「……なんだよ、親父」

「いや、べっつに~?」

 うわ、ウゼェ。つか子供かよ。

 親父の様子に内心呆れていると、親父は途端に真剣な表情になる。

「一真」

「ん?」

「これからお前は3年間、このアスターク学園で魔法の事や、古代遺物の事等を学ぶ事になる」

「俺、両方使えないけどな」

「…………………………さて、そんなお前に伝えておくことがある」

 誤魔化しやがった。

「このアスターク学園は、さっき上空から見て分かる様に、一つの都市として考えてくれていい。だから、学園施設だけじゃなく、様々な店も点在するし、旅の商人が寄って店を開く事もある」

「ふぅん」

「それでだ。基本的に地球とクラフェイアは差が無いが、まずクラフェイアには車や飛行機と言ったモノは一切無いと思ってくれ」

 それは、そうだろう。

 確かにクラフェイアは地球と繋がったことで、生活水準や、文明の発達は目を見張るものであった。

 だが、クラフェイアの豊かな自然を汚しかねない自動車はまず存在しない。そして、飛行機は空を飛ぶ魔物の餌食になりかねない。だから、そんなモノは存在しない。

 そして、クラフェイアは、ごく最近になって、地球とクラフェイアの間でも通信ができるようになった。それでも十分凄い進歩だが、クラフェイアに電気と言う概念や、使い方を教えていくのは、地球人が魔法を簡単に扱うより難しい事だった。今では電気も水道もあるらしいが。

「まあ、基本的な生活に支障をきたす事は無いだろうから、安心してくれ」

「ああ」

「そして、一番伝えておきたかった事は、クラフェイアと地球の法律についてだ」

「法律?」

「ああ。地球も各国によって、様々な法律が存在する。だが、クラフェイアの法律は細かい決まりがどこの国にもまだ存在していない。これの意味が分かるか?」

「まあ、一応。細かいことが決まってないって事は、犯罪になるか、ならないかの境目が曖昧で色々な問題が出てくるんだろ?」

「……一発で理解されると、こっちの立場が無いんだけど」

 いや、知らんがな。

「だが確かに一真の言ってる事もあるが、一番の問題なのは、ちょっとした罪が大罪になり得る事だ」

「ん?」

「一真は……と言うか、普通の人間はしないが、もし仮に窃盗を一真がしたとしよう」

 しないけどね。

「地球の……それこそ日本ならまあ、禁錮だか懲役だかになるんだろうが、クラフェイアでは下手したら死刑になる」

 何それ、コワイ。

「刑罰の差が激しいんだ。一日で釈放される事もあれば、死刑や無期懲役は当たり前だぞ?」

 もう嫌。異世界怖い。お家に帰りたい。

「だから、法律の差に気を付けろ……これが伝えたかった」

「分かった。全力で気をつけよう」

 俺が真剣な表情でそう言うと、親父は苦笑いする。失礼な。簡単に死刑にされるかもしれないのに、何でそんなにお気楽なんだ。

「まあ、他にもクラフェイアと地球では……と言うか、日本とでは大きな法律の違いがあるんだが……」

「え?法律って細かい事が決まってないんだろ?」

「それは罪を犯した時の刑罰限定の話しだ。それ以外は基本的に結構しっかりとしている。例えば、クラフェイアでは14歳から酒が飲めるぞ?」

 うおう。流石異世界。

「クラフェイアにいる以上、もう一真もここでなら酒を飲んでも捕まらんから、安心しろ。クラフェイアにいるうちは全て、クラフェイアの法律の下、行動だからな」

 うーん……いいのか悪いのかよく分からんな。

「まあ、取りあえず言いたい事は分かった」

「そうか。それじゃあ、気が向けばクラフェイアの法律を調べてみるのもいいだろう」

「ああ」

 調べないけど。面倒だし。

 そんな事を俺が考えていると、親父は何故か悪戯っ子の様な笑みを一瞬浮かべた。なんだ?

 しかし、すぐにその表情を消すと、親父はスーツの懐から何かを取り出した。

「これはアスターク学園の生徒である事を証明する学生証だ。これがあれば、このアスターク学園の敷地内で買い物をする時に少し役立つぞ」

 そんな説明を受けながら渡された学生証は、学生手帳だった。どうやら、手帳と学生証は同じ機能を果たすらしい。

 ワインレッドを基調として、アスターク学園の校章なのか、翼の生えた騎士のシルエットの様なものが真ん中に描かれている。

「おう、サンキュー」

「それと、これがこのクラフェイアで使われているお金だ」

 今度は、何だか重そうな袋を俺に手渡してくる。てかマジで重いっ!

「親父、これ何が入ってんだよ?」

「ああ。クラフェイアでは当たり前だが、ドルもユーロも円も使えない。代わりに、その袋の中に入っているような貨幣を使うんだ。中を見てみろ」

 言われるままに袋の中を覗いてみると、大量の金貨が袋の中に入っていた。

「なっ!」

 俺は中に入っていた物に驚き、思わず袋を落としそうになった。

「金じゃねぇか!何でこんなモノを!?」

「だから、この世界じゃその金貨が使われているんだ。その袋の中にはざっと100枚入っている。当分はそれで事足りると思うぞ」

 おおう……確かに地球では、クラフェイアには多くの資源が眠っている可能性があるとは言っていたが、こんな簡単に金がお目にかかれる程だとは思わなかったぞ。

「まあ、そんな量の金を普段から持ち歩くのは大変だろうから、これをやる」

 すると、今度はポケットに入る程度の大きさの袋を渡された。

 何かの獣の革で作られているらしく、丈夫そうだ。袋の口の部分は、紐で縛る形になっている。

「その中に全部の金貨を入れておけ。それは魔法の財布で、その袋の重さが、中に金をどれだけ入れても変わる事のない優れモノだぞ?その代わりに金以外は入れる事は出来ないんだが」

 魔法ってスゲー。つかズルイ。俺全く使えないんだぜ?

「さて、もう伝えることも、渡す物も渡した。俺は、これからWPPの本部に一度戻らなければならん。悪いが、一人で学園に向かってくれるか?」

「ああ、別にいい。あのデッカイ城みたいなのが校舎なんだろ?」

「そうだ。行けば、恐らく何らかの案内か、受付があるからそこで訊けばいい」

「了解」

 親父はそれだけ言うと、乗って来たペガサスの元へ戻る。

 俺も、乗せてくれたペガサスに近づいた。

「よっと……じゃあ、俺は行くぞ」

「おう。お前も、じゃあな」

 首を撫でてやりながらペガサスにそう語りかけると、ペガサスは俺の方を見つめてきた。

「ん?どうした?」

 すると、突然俺とペガサスの間に光の塊が出現した。

「こ、これは……!」

 そんな様子を見て、親父が驚いている。

 かくいう俺も、突然の出来事にビックリしている。

 初めは激しい光を放っていたが、徐々に光がおさまって来ると、光の塊があった空中に、白銀の腕輪らしきモノが出現した。

「これは?」

「それは【絆の腕輪】だ。神獣や幻獣だけが、認めた人間に贈る絆の証だ。それを腕にはめてこのペガサスに呼びかけると、ペガサスはお前の元へ駆けつけてくれるぞ」

「お前……」

 俺は腕輪を手に取りながらペガサスの方に視線を向ける。

「ブルル」

 再び俺の胸へ、ペガサスは顔を擦り寄せて来た。

「ありがとう。大切にするよ」

 俺は腕輪を早速右腕にはめた。

「それじゃあ、今度こそ」

 親父がそう言うと、ペガサスは俺の胸から離れて、親父と共に助走をつけて大空へと駆け昇る。

「一真!俺も出来るだけそっちに行けるように頑張るからな!」

「いや、仕事を頑張れよ」

「酷いっ!」

 最後にそんなやり取りをして、親父はペガサスと共に飛び去っていった。

「……あ。今度、あのペガサスに名前つけないとな」

 雌か雄かは知らないけど。それも今度親父に会った時に訊けばいいか。もう行っちゃったし。

「取りあえず、あのデカイ門から入ればいいのかな?」

 俺はさっそくアスターク学園の入口であろう門に向かった。


●○●○●


「おお……!」

 門の中に入った俺は、思わず感嘆の声を上げる。

 門の中は、空から見ただけでは分からなかった人々の賑わいが肌で感じ取れた。

 露店なども多く立ち並び、人々が談笑を交えつつ買い物を楽しんでいる。

 中には、猫耳を生やした人や、小人のようなおじさんまで様々な人。これぞ異世界って感じだな。あんまり見ていたら失礼なので、チラ見する程度でしか見れてないけど。

 人間とは違うああ言う人達の事を総称として亜人と呼ぶ。まあ地球の中には差別用語として見られていたりもするのだが、このクラフェイアではどうなんだろう?

「しかし……服は皆地球と変わらないなぁ」

 そう、異世界人の着ている服は、俺の服と同じ様に地球製と言った感じだった。

 確か、地球の国連が物資の交換として渡した中に、服があったと思う。異世界側からは、特殊な木の実なんかを受け取ったが、未だに研究の途中で誰も口にした事は無い。

 うーん……皆着ている所を見ると、案外早くに技術を吸収されたのかもしれない。それで既に異世界では地球の服が当たり前になってるのかも。

 それこそ魔法があるんだから、どう言った技術が用いられてるかさえ分かれば、どうとでもなるだろうしな。

「……ってこんなところで突っ立ってちゃ通行の邪魔だな」

 俺はさっそく門付近から学園に向けて歩き出した。

 ちなみにアスターク学園の門を抜ける際には、簡単な入国手続きの様なものをさせられた。

 まあ、金もかからなかったし、名前を書いて、変な水晶の上に手を置いただけで済んだんだけど。

 多分、あの水晶が犯罪歴かなんかを確認する道具なんだろう。凄いなぁ……。そんなモノが地球にあれば犯罪者の特定が簡単になるのにね。地球に未だにない事を考えると、意外と貴重なモノなのかも。

 そんな事を考えながら学園に向かっている時だった。

「カズちゃん?」

 俺の耳に、とても懐かしい響きを持った声が入ってきた。

 俺はほぼ条件反射で振り向く。

「時雨……なのか?」

「やっぱり……カズちゃん……」

 時雨と俺の間に静寂が訪れる。

 だが、最初にその静寂を破ったのは時雨だった。

「カズちゃん……カズちゃんっ!」

「おわっ!?」

 時雨は俺だと認識すると、いきなり抱きついてきた。公衆の面前なのにね。

「ちょっ……!離れろ、時雨!」

「カズちゃん!カズちゃん!」

 き、聞いちゃいねぇ……!

 五藤時雨ごとうしぐれ

 俺が小5の時に引っ越していった幼馴染の一人である。

「カズちゃん……。会いたかった……」

 うっ……。

 時雨は凄い美少女だ。それこそ、雷門と同レベルの。

 艶やかな黒髪は腰まで伸ばし、派手過ぎない髪飾りが付いている。まつ毛も長く、眉毛は墨を引いたように整っている。夜色の瞳は、それこそ夜空に散りばめられた星を連想させるように静かに輝いている。

 そんな美少女の時雨に、涙目+上目遣いをされては、俺もたじろぐ。

 ていうか、一瞬時雨だと認識できなかった。

 それくらい、時雨は昔より一層綺麗になっていた。

「取りあえず……離れてくれ。視線が痛い……」

「あっ!」

 俺が切実に言うと、時雨は顔を真っ赤にしながら俺から離れた。

「えっと……その……」

 見ているこっちが心配になる位時雨の顔は真っ赤である。ホント、大丈夫?

「まあ、なんだ。久しぶりだな」

「う、うん……」

「……」

「……」

 …………うん。気まずい。

 あれ?久々に再会したのに、なんでこんなに気まずいんだ?何だか時雨が俺に対して変に意識しているような……。何に対して意識してるのかはよく分からないんだけどな。よくよく考えれば、幼馴染全員引っ越す直前でこんな感じになったんだよな。

「取りあえず、歩きながら話さないか?俺も話したい事あるし、お前も何かあるだろ?」

「うん……」

 よかった。今ので「無い」って言われたら泣いてた自信がある。……いや、それは無いか。

 とにかく、俺と時雨は黙ったまま学園に向かって歩き出した。

 校舎はひたすらデカイので、建て物の中じゃなければどこに居ても見える。迷う事はまず無いだろう。

 しかし、親父が時雨達も入学すると言ってたけど、いきなり会えるとは思わなかったな……。

「元気だったか?」

 ここは無難な質問で行く。いきなり大惨事になりたくないし。

「うん。カズちゃんも元気だった?」

「ああ。俺は基本的に元気だったな。野菜ジュースも飲んでたし」

「……それ関係あるの?」

 少し呆れた様子で時雨はそう言った後、途端に笑顔になった。

「ふふっ。カズちゃん変わってないね、そう言う変なとこは」

「変て何だ。変て」

 失礼だな。野菜ジュースって凄いんだぞ?不味い物食べても野菜ジュース飲めば、大抵は野菜ジュースの味でわからなくなっちまう。糖分多いけど、飲みすぎなければ体にいいよね。

 しかし、あの無難な質問のおかげで、時雨は俺に対する変な意識が無くなった気がする。さすが王道の質問。格が違うね。……なんのだろう。

「しかし……時雨。少し見ない間に綺麗になったな」

 俺は初めに感じた感想を素直に口にすると、時雨は一瞬の間の後、ボンッ!と言う音と共に、顔を真っ赤にした。あれ?時雨って赤面症だったっけ?

「きききき、綺麗!?」

「ああ。そのせいで、一瞬誰だか分からなかったよ」

 うんうんと俺が頷いていると、時雨は頬に手を当てて、何かを呟いている。

「き、綺麗かぁ……カズちゃんに綺麗って言われちゃったぁ……えへへ」

「時雨?」

「ふぇ?」

 いや、「ふぇ?」じゃなくて……。

「どうした、急に」

「なななな、何でも無いよ!?」

 何でも無い割には、凄い慌ててるけどな。

 そんな風に感じていると、今度は時雨が捲し立てる。

「か、カズちゃんは凄くカッコ良くなったね!」

「そうか?」

 特に変わってないと思う。せいぜい大人っぽくなった、とかその程度だろう。

 すると、俺のそんな様子が不満だったのか、頬をぷくぅと膨らませる。

「カズちゃん、もっと自分に自信持ちなよ」

「はい?いきなりどうした?」

「だから、カズちゃんはカッコイイの!」

 何だか知らんが怒られた。何故に?しかも時雨の言ってる事の意味が分からない。俺ってそんなにカッコ良いだろうか?

 俺の望む、普通の生活に支障さえ出なければ、何だっていいや。

 ここで、俺はふと気になっていた事を訊く事にした。

「そう言えば何で引っ越したんだ?急に俺の周りから遊んでたヤツ全員いなくなって寂しかったんだぞ?」

 これは俺の何時偽りない本音である。

 友達がいない訳じゃなかったけど、それでも一番仲の良かった連中が一気にいなくなるのは、小学生の頃の俺にはキツかった。

 しかし、俺の質問に対して、時雨はどこか悲しそうな目を向けてくる。え、何でそんな目で俺を見てるんでしょうか?

「ごめんね?私達にも色々あって……」

 悲しそうな目を向けながら、時雨は申し訳なさそうにそう言った。……「色々」の部分が凄く気になる。一体何があった。

 だけど、どれだけ訊いても、何だか時雨は俺の質問の答えを適当にはぐらかしそうな気がした。だから、俺は追求しようとは思わなかった。

「カズちゃん」

「ん?」

 結局、何だかもやもやした気持ちで歩いていると、今度は時雨から声をかけてきた。

「カズちゃんは……5年前の――――私達と最後に遊んだ日の事、覚えてる?」

 俺はまず、時雨の質問の内容を聞いて、変な事を訊いてくるなと思った。

 忘れるわけが無い。第一、時雨達と遊んだ日々は、今でも俺の記憶に鮮明に残っているんだ。

 それこそ、最後に遊んだのは引っ越す一週間前。

 その時の遊びの内容は――――

「……あ、あれ?」

「……」

 俺は、その時の遊びの内容を――――思い出せなかった。

 まるで、その日だけの記憶が抜き取られているように、何も思い出せない。

 遊ぶ前にしていた事は思いだせる。しかし、遊んでいた時のことと、その後の事が全く思い出せない。

 どんなに頑張っても、思い出されるのはその次の日の朝の様子。見なれたベッドで寝ていたという記憶しか――――思い出せない。

「な、何でだ?」

「……」

 ふと視線を時雨に向けると、時雨は俺を、痛ましげに見ていた。

 時雨。何で俺をそんな目で見るんだ?どうして?

「し、時雨?俺は――――」

 何だか、口に出しては……訊いてはいけない気がしたが、訊かずにはいられなかった。



「――――何をしていたんだ?」



 その言葉を紡いだ瞬間、俺は左胸の――――心臓が激しく痛んだと同時に、意識が遠のくのを感じた。

 そんな俺の様子を見て、時雨が慌てて駆け寄って来るのも、同時に感じながら――――

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