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Original Heart  作者: 美紅
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第5話 ペガサス

「うおお……スゲェ……」

 俺は目の前に広がる景色を前にして、思わずそう呟いた。

 頬を撫でる爽やかなそよ風。都会とは違い、空気が非常に澄んでいる事が容易に感じられる。

 そして、視界いっぱいに広がるのは瑞々しい緑の草原。

 太陽の光が暖かく、とても過ごしやすい気候になっている。

 これが、親父に連れられてクラフェイアに到着したと同時に出会った景色である。

 正直、転移魔法を体験しての感想は無い。だって光ったと思ったらもう終わってるんだぜ?

 でも、こうして地球では滅多にお目にかかれない景色に出会う事が出来た。これこそ感動だね。

 そんな感動で言葉が見つからない俺に、親父は笑いながら言う。

「はははっ。まあ、初めて来た者は皆同じ様な反応をするな」

 それはそうだろう。この景色を見せられて、何も感じないのであれば、それは心が無いのではないだろうか。

 とにかく、素晴らしいの一言に尽きる景色だ。それ以外になんて言ったらいいか分からない。

 草原に心を奪われていた俺だが、親父はふと思い出したように驚く事を言った。

「ああ、そう言えば学園にはお前の幼馴染達も入学するぞ」

「え?」

「一真が小学生の時以来だなぁ……俺もそれっきり会っていないから分からないが、時雨ちゃんなんて、綺麗になってるんじゃないか?まあ、名簿で確認したが、全員入学する様だ。皆優秀だな」

 親父の言っている幼馴染達とは、俺がまだ小学生の時によく遊んでいたメンバーである。

 幼稚園の頃からの付き合いだったのだが、小学5年の時、そのメンバー全員が突然引っ越したのだ。

「まさか……こんなところで時雨達に会えるとは……」

 俺が幼馴染の事を思い出していると、親父は更に続ける。

「ちなみにお前の幼馴染たち全員、個人で古代遺物を所有してるらしいぞ」

「はあ!?」

 思わず声を上げる。

 古代遺物を全員個人で所持って……ヤベェ。

 個人で所持と言う事は、絶対に全て神話級の古代遺物だと確定される。

 一般級の古代遺物は、同じ様なモノも多く、適性者であれば誰でも使えるが、神話級はその適性者本人以外は使えない。

 更に、一般級は最近の研究で、レプリカを量産できると言った事もわかってきたらしい。ただ、神話級は未だに……と言うか、研究者たちも一生分からないのではないか?と思う程、神秘的な代物らしい。

 どうしよう。幼馴染の中で、俺だけショボクね?落ちこぼれじゃね?

 突きつけられた現実にどんよりとした気分になる。なんだよ……世界って理不尽だ……。

 第一、確かに全員古代遺物への適性値が高い、世間では適性者と呼ばれる部類にいたのは確かだが、当時は確実に個人で古代遺物を所有していなかった。

 古代遺物は、適性者がその時代に生まれた瞬間にそのもとへ転移するのだが、数は少ないが後々に適性者が覚醒し、そして自分専用の古代遺物が手元にやって来る事がある。

 まあ、もし幼馴染たちが全員そんな経緯で手に入れたのだとすれば……なんとか納得できる。……いや、無理だ。そんな都合のいい話がある訳が無い。あるのかもしれないけど。

 すると突然、うんうんと唸る俺に、今度は親父はなにやら悪戯が成功した子供の様な顔になる。

「……なんだよ、親父」

 さっきまで幼馴染の話しをしていたと言うのに、急にそんな顔をされては気になって仕方が無い。

 俺が半眼気味にそう言うと、親父は少し楽しそうに言う。

「一真よ。このクラフェイアに来て、何か感じた事は無いか?」

「え?……景色がスゲー」

 うん、この一言に尽きる。だってこの草原以外異世界のどこにも行ってないんだもん。分かる訳が無い。

 とうの親父はと言うと、俺の答えを聞いた瞬間にずっこけていた。一々ギャグが古臭いのは歳のせいだろう。可哀そうに……。

「いや、視覚で感じる感想じゃなくてだな、体からこう……とにかく何か感じないか!?と言うより、その捨てられた子犬を見る様な目をやめろっ!」

 親父よ……何が言いたいのかサッパリわからん。

 だって、体から何か感じないかと言われても、実際何も感じていない。

「親父、何が言いたいんだ?ハッキリ言ってくれないと、俺もよく分からないんだけど」

 じれったいので、もうそう訊いてしまう俺。面倒なんだもん。いいじゃん。

「だからっ!……はぁ、もういい」

 親父は俺の言葉にまだ何かを言おうとしたが、結局溜息と共に諦めたみたいだ。

「俺が言いたかったのは、何か体の奥底から力みたいなものが溢れてこないか?ってことだ。で?どうだ?」

「まったく」

「…………そうですか」

 うん、説明されても意味が分からなかったな。なんだ、力が溢れてくるって。

 親父の問いに即答すると、親父は何かを悟った様な表情になる。……あ、もしかしてこう言う事なんだろうか。

「親父」

「ん?」

「力って……破壊衝動の事か?」

「怖っ!?怖いし違うよ!?そんな物騒なモノじゃないよ!?純粋な力ですよ!?」

 どうやら違ったらしい。それより純粋な力って何だ。何一つ理解出来ないのに、疑問ばかり増えるぞ。

「急にどうしてそんな事を聞いてくるんだよ」

 俺は一番気になった事を訊く事にした。

 もし仮に力みたいなものを感じられるんだとすれば、それが何なのかも知りたいからな。

「そうだな……訊いた理由は大したことないが、お前はこのクラフェイアに来た事で、人間としての限界を取っ払われたと伝えたかっただけだ」

「…………………………は?」

 盛大に間抜けな返事をする俺。

「このクラフェイアに暮らす人々は、俺達地球と完全に繋がる以前は今より文明も低く、危険な魔物と剣や魔法で戦ってきていた」

 それは、中学の時の歴史で習った事がある。それこそ、ゲームのファンタジー世界みたいだと思った位だ。

「そこで、クラフェイアは人間達に生存競争を勝ち進められるように、クラフェイア自体が進化した」

「……ん?人間じゃなくて?」

「ああ。人間は進化していない。ただ、クラフェイアが進化したと現時点での研究結果が出ている。まあ、地球はクラフェイアの情報が少ないから、この事を知らないのは至って普通だ」

 そりゃそうだろう。だって本屋に行ってもクラフェイアの本はまず置いていない。それくらい、クラフェイアは地球から見て、秘境であった。

 それはクラフェイアも同じだろう。同じ様に、クラフェイアでは地球の情報が少ない。

 しかし……まさかクラフェイアと言う世界そのモノが進化しているだなんて結論が出たこと自体に驚きだ。一体何があった。

「まあいいや。それで?」

 続きを促すと、親父は一つ頷いて続けた。

「うむ。それで、クラフェイアに存在する人間やエルフなどの亜人は無限の成長を遂げれるようになった」

「どう言う事だ?」

「つまり、鍛えれば鍛える程強くなる、と言った事だ」

 おおう、異世界スゲー。

 異世界の凄さに驚いていると、親父は何故か疲れた表情になる。

「はぁ……普通はそれを力の流れとして体中に来るんだが……まさかそれすら一真には感じられないとは」

「悪いか?」

「いや、悪くは無いが……ただ、クラフェイアに来た地球人でも、クラフェイアに来てしまったのなら、無限の成長を地球でも遂げられる。クラフェイアはいわば、リミッター解除装置の様なモノだ」

 随分デカイリミッター解除装置だな。世界規模か。凄まじい。

 異世界ってスケールでか過ぎね?なんだよ無限の成長って……。

 親父は、そんな俺を横目に見ながら小さく呟いていた。

「まさか……【オリジナル】の効果がこんなところにも出てくるとは……」

「親父?」

「え?あ、ああ!何でも無い。気にするな」

 声をかけただけなのに、親父は妙に慌てた反応を返してきた。一体何なんだ……。

「取りあえず、ここで話してないでアスターク学園へ行かないか?」

「おおそうだ!街見てみたいっ!学園の近くに街ってあるんだろ?」

 俺がテンション高くそう言うと、親父は暖かな視線を送ってきた。何だか居心地が悪いなぁ……。

「それで?どうやって移動するんだ?」

 また、転移魔法で移動するんだろうか?

 すると、再びドヤ顔を向けて来た。ウゼェ。

「ふふん……見て驚くなよ?」

 そう言うと、親父は右手の指を鳴らした。

 パチンッ!と言う乾いた音が草原に広がる。

 突然の親父の行動に首を傾げていると、辺りに翼の羽ばたかせる音が迫ってきている事に気付いた。

「え?」

「移動手段は……これだ!」

 親父が指をさした先にいたのは――――ペガサスだった。


●○●○●


「どうどうどう……」

 俺――――初原英雄は、空から降りて来たペガサスを制しながら着陸させた。

 ふと視線を一真の方に向けると、一真は口をポカンと開けてペガサスに驚いていた。

 一真の驚きも無理は無いと心の中で『クククッ』と静かに笑う。

 俺がまだ、WPPのトップという立場に就く前、所謂WPPの研修生時代に初めて見たペガサスへの反応と全く同じだからだ。

 純白の毛並みに金色の尻尾。黒曜石のように綺麗な瞳。そして、白鳥を思わせる白い翼。

 どれも幻想的で、ついつい魅入ってしまう程だった。

 しかし、ペガサスはこのクラフェイアでは魔獣では無く、幻獣と呼ばれる、言葉は話せないが非常に賢い種族だ。

 更に言えば、幻獣は魔獣と比べると強い個体が多い。

 ペガサスも見た目は非常に優雅だが、気性が激しい。と言うか、プライドが高いのだろう。

 ユニコーンも幻獣の一体であり、穢れ無き乙女でなければ近づくだけで角で突き殺されたり、蹴り殺されたりする。

 かく言う俺も、昔は先輩の指導のもとペガサスの乗馬練習をした。……相当蹴られたが。

 そんな乗りこなせるようになるまでは危険でしかないペガサスを俺は今回二匹も呼んだ。

 その理由は俺のちっぽけなプライドからである。

「さあ、一真。怖がらずに触ってみろ」

 危険なペガサスにあえて近づける俺。

 実際一真は、俺に言われてビックリしたような表情を向けている。

 その表情には『危険は無いんだろうな?』とハッキリとでていた。

 危険?あるとも!

 調教されていないペガサスに近づけば、一発で蹴り殺される。

 だが、このペガサスは調教済みなので、蹴られても死ぬことは無い。

 だから、俺は満面の笑みを浮かべてやった。

 俺の笑みを受けて、一真は余計に躊躇し始めた。

 このペガサスとの触れ合いで、一真に俺の素晴らしさを実感してもらいたい。

 それが俺の目論見である。

 だってさ?最近の一真の俺に対する当たりが強いんだよ?俺一応親なのにね?

 でも、事実一真は俺より相当しっかりしている。うん、泣ける程に。

 家事全般完璧にこなすし、頭もいい。運動神経は魔法が使えないので、身体強化魔法を一切使えないのだが、それでも素のスペックは高い。

 同時に、一真は顔も非常に整っている。

 ただ、一真がハイスペックな理由はしっかりと存在する。

 それは、一真の出生に関わるモノであり、一真自身もその事は一切知らない。

 秘密を知る人間は、俺を含むごく一部の人間のみ。

 それは同時に、一真が魔力を持たない理由と古代遺物への適性が皆無な事にも繋がってくる。

 そして、それを知り得るのは俺達WPPの上層部や両世界の政府だけでなく、テロリストにまで知られていた。

 どこから情報が漏れたのかは分からないが、もしかするとWPP内や政府内にスパイがいるのかもしれない。その可能性は無い事を願うばかりだ。

「一真、男は度胸だろ?」

 考え事を続けていた俺だが、未だに一真が近づこうとしないので声をかける。

 すると、一真はあからさまに嫌そうな顔をする。うわぁ……本当に嫌そうな顔。

 再び一真がペガサスに近づくまでの間、最近のテロリストたちについて考える。

 テロリストは確実に一真を狙ってきている。その理由である一真の秘密を知った上で。

 そして、そのテロリストには厄介な古代遺物持ちの適性者が多数存在している事も確認されている。

 だが……

「……一般級の古代遺物を持っている連中が多い気がする」

 一般級の古代遺物は、神話級のモノとは違い、同じものが多く存在している。

 だが、その数は決して多くは無い筈。筈と言うのも、一般級の見つかっているモノ全ては政府がしっかり管理しているからだ。

 だが、あのフードの男の襲撃者は何故か一般級の古代遺物を持っていた。

 あの時は気にしていなかったが、よくよく考えれば最近のテロリストは一般級の古代遺物を持っている連中が多かった。

 政府から盗まれた形跡は無い。

 だがテロリストには多くの一般級の古代遺物を持っている可能性がある。

 我々の知らない所で見つけた、と考えるにしても量が多過ぎる。

 そうすると、一つの推測が浮かび上がってきていた。

「古代遺物の製造……」

 それは古代遺物を量産する事だった。……人の手によって。

 両世界の政府が技術者を募って研究している事の一つでもあるのだが、もしかすればテロリストにはその方法を見つけているのかもしれない。

 ただ、そう考えると、何故違うテロ組織までもが多くの一般級古代遺物を所有しているのか、という疑問が残る。

 テロ組織は一つでは無い。だからこそ、謎は深まるばかりだった。

「だああああっ!」

 俺は頭を振る。

 難し事を考えたって、俺の頭ではどうする事も出来んっ!

 落ち着くために深呼吸をして一真の方に目を向けると、そこにはペガサスとにらめっこ状態の一真がいた。

「……何やってるんだ?」

 ついついそう訊いてしまう。

「にらめっこ」

 見りゃわかる。

 どうやら、一真は俺が考えていた間、延々とにらめっこをしていたらしい。……馬と。

 さて……そろそろ助けてやるか。

 そして、俺の後ろに一真を乗せることで、俺の親としての威厳を取り戻すのだっ!

「おい、一真――――」

 俺がそう呼び掛けた時だった。

「うわっ」

 ペガサスがゆっくりと一真に近づいた。

 突然迫られた一真は、思わずと言った様子で声を上げ、尻もちを着いた。

 ペガサスは尻もちを着いた状態の一真に近づく。

 そして――――

「へ?」

 ペガサスは一真の膝の上に頭を乗せ、その場に腰を下ろした。

 その姿は完全に一真に対する服従のポーズ。

「……」

 俺は無意識のうちに両手両膝を地につけて項垂れた。

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