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Original Heart  作者: 美紅
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第4話 突然の入学変更

 フードの男とクロムと名乗る男の二名の襲撃から既に数日たった。

 あの後、親父を問い詰めたり、WPPのトップが務まる筈が無いから今すぐ辞めろと突きつけてやろうかと思っていたのだが、雷門と共にどこかへ行ってしまった。

 文句の一つや二つ、言いたいモノだが、それよりちゃんと説明して欲しい。なんせ、自他共に認める落ちこぼれである俺がテロリストに狙われてる訳なんだからな。

 しかし、親父は家に一度も帰って来る事は無かったので、仕方なく一人で無駄な時間を過ごしていた。広樹はもう既にクラフェイアにいるだろう。でなければ入学式に間に合わないだろうし。

「っと、俺も明日の学校の支度をしよう」

 そう、俺は明日から新たに通う事となる高校の入学式である。

 ……うん、正直不安しかないね。主にイジメ関係で。

 中学の奴等は皆いい奴らだった。俺が落ちこぼれでも普通に接してくれるし。

 それに、明日の支度と言っても、学校のカバンに筆記用具なんかを詰め込むだけだ。どうせ入学式だけで終わりだろうし。

 俺はちょっと気だるげに思いながらも自分の部屋に向かおうとした時だった。

 バンッ!

「一真!今すぐ出るぞ!」

 玄関を勢いよく開けると、そのままリビングへと入室してきた親父がいきなりそう切り出した。

「……今すぐ出る、だと?」

「へ?」

 俺はドアを開いた体制で固まる親父に、静かに近づく。

「あ、あの……一真……さん?」

「あ?」

「……」

 親父が帰って来たことで一気に機嫌が悪くなる。

 まあ、帰ってきただけならここまで機嫌は悪くならなかっただろうけど、行方をくらましてた親父が帰って来るなり今すぐ出る、と言いだしたのだ。

「ふざけんのもたいがいにしろ」

「スミマセンデシタァァァァアア!」

 親父は俺の目の前で素早く土下座の体勢になる。

「あのね?俺に何の伝言もなく家を数日空けてたくせに、今度は俺を連れてどこに行こうってんだ?ああ?」

「すみません、すみません、すみません……」

 親父が土下座のままガタガタ震えている。本当にこんな親父がWPPのトップだと言うのが未だに信じられない。だってこんなに簡単に土下座するんだぜ?便秘なんだぜ?……便秘は関係無いか。

「はぁ……話しが進まないから、今は許す。――――それで?俺をどこに連れて行こうってんだ?」

 俺が溜息を吐きながらそう訊くと、親父は正座の体勢のまま答えた。

「クラフェイアだ」

「…………は?」

 い、今……親父はなんて言った?聞き間違いじゃなきゃ、確実にクラフェイアって言った気が――――

「クラフェイアだ」

 はい、間違いではありませんでした。

「親父、馬鹿言ってんじゃねぇよ。クラフェイアへと続く門は南極だろ?どうやって行くんだよ。クラフェイアに行くには面倒な手続きがあるんだろ?もし、親父の権力でクラフェイアへと行けるとしても、俺明日入学式だぜ?」

「それなら心配は無い。一真にはクラフェイアにあるWPP育成学校、【アスターク学園】に通ってもらう」

「……」

「安心しろ。すでに入学手続きは済ませてある」

 絶句。うん、言葉に出来ない。歌いたくなってくるね。

 でも、それくらい今の俺は親父の言ってる事が理解出来なかった。

「……何言ってんの?第一、アスターク学園って何だよ……」

「アスターク学園はWPPに入隊する事を義務とするかわり、入学後の全ての金は無料となるWPP育成学校の正式名称だ。地球とクラフェイアを合わせても、WPP育成学校はそのアスターク学園以外存在しない」

 確かにWPP育成学校が複数あると言う話は聞いた事が無い。事実、一つしかないのだから。

 そして、WPP育成学校は厳しい試験なんかを合格した人間のみ入学が出来るエリート学校だが、この学校は卒業と同時にWPPへの入隊が義務づけられる……そんなところだ。

 だが、エリート達の集まる学校とは言え、やはりというか、セコイ方法で入学してくる連中も毎年いると昔親父から聞いた。

 セコイ方法とは、単純に賄賂なんかである。ただ、そう言った事が出来るのは、クラフェイアの貴族や、地球のボンボン共だけだろう。WPPの上層部にもそう言ったことをしている人間がいると昔親父から聞いた。

 今にして思えば、こんな裏事情を知っている親父がWPPだと言う事に気がついてもおかしくは無かったのだが、生憎俺は随分と鈍いらしい。残念だ。

 まあ、そんな事は今はどうでも良い。物凄くどうでも良い。

「……俺がそのアスターク学園に入学するってどう言う事だよ?」

 そう、これが一番大事なのである。

「いつもみたいにふざけてるんじゃないだろうな?俺は魔力ゼロ、適性値ゼロの落ちこぼれの最低辺を突き進んでるような人間だぜ?何がしたいんだ?」

 俺は親父に若干鋭い視線を向けながらそう言い放つ。

 落ちこぼれの人間を通わせてくれるWPPの学校。有り得んだろ?いつも優秀な人材を欲してるんだぜ?

「お前がアスターク学園に入学するの事にはしっかり意味がある。まず、お前が襲撃を受けたように、今後ともお前を狙うテロリストが増えてくる筈だ。それから護るために、お前を普通の学校では無く、WPPの育成学校に入学させようと言う訳だ」

「……まだ俺が狙われてる理由を教えてくれないのかよ?」

「ああ。この話しを聞けば――――お前は混乱するだろうからな」

 俺が混乱?もう既にしてるんですけど。

「つか、テロリストって基本的クラフェイアに多いんだよな?そんな敵の本拠地がある世界にわざわざ行く必要あるのか?」

「もう世界は繋がっている今、距離は関係ない。この間の襲撃も、門を抜けた形跡は無く、恐らく魔法で転移したモノだと思われる」

 もし、親父の言う事が本当ならば、その人間は凄まじい魔力の持ち主だと言う事になる。

 転移系の魔法は、基本的に魔力の消費量が多い。更に、魔力の消費は距離に比例する。

 つまり、世界を一つまたいで……南極から日本まで直接来たと言うのなら、とんでもない話だ。

「取りあえず今言った事がお前を入学させる理由の一つで、最大の理由はクラフェイアにWPPの本部があるからだ」

「え?」

「お前が通う事になるアスターク学園の近くに、我々がいるWPPの本部がある。そこには、この地球の各国にある支部にいる隊員達より、凄腕の隊員が数多くいる。だから、万が一お前が襲われた時にでもすぐに対応ができるように、と言うのが二つ目の理由だ」

 うん、俺が何でここまで警戒される程重要な人物になってるのかわからない分、どう表現すればいいのか分からない心境だよ。俺は珍獣か。世界の保護対象か。

「……いきなりそんな話を言われても……」

 だが、親父がどれだけ俺を厳重に保護したいのかは知らないが、突拍子も無さ過ぎて反応に困る。

 すると、そんな俺に親父は真顔でとんでもない事をぶっちゃけた。

「ああ、ちなみにこの入学の話しは両世界の政府から強制だと言われている」

「最初から俺の拒否権は無かったのか!?」

 世界ってコエー。

 しかし、もう政府から強制とか言われると、どうしようもないじゃないか。

 俺は諦めの溜息を吐くと、親父に気になった事を訊いた。

「はぁ……それで?いつ入学式?」

 明日と言う事は無いだろう。だって今から飛行機で出発しても絶対間にあわないだろう。

「明日だ」

「へぇ、明日――――って明日ぁ!?」

 馬鹿なの?間にあう訳ねぇじゃん。

 俺が冷ややかな視線を親父に送っていると、親父はドヤ顔のまま言ってくる。

「ふふん。驚くなよ?俺はこの家からクラフェイアまで転移する事が出来るのだ!」

「あっそ」

「もっと驚いて!?」

 驚くなって言ったじゃん。

 しかし……そりゃそうだよな。敵に凄まじい魔力の持ち主がいて、WPPのトップである親父が弱い訳ないよな。仮にも世界の治安を守ってるんだ。こんな親父だけど。

 そう言えば、雷門って魔力の量を検査する時、専用の機械をぶっ壊してたなぁ……。俺は俺で機械に反応が無くて壊れたのかとも思ったけど。

「まあ、いいや。それじゃあ親父が連れていってくれるんだな?」

「ああ。クラフェイアと地球は時差が無い。だから、行きたければ何時でも出発できるぞ?」

「じゃあ今すぐ行こう」

「……え?」

 俺の反応が意外だったのか、親父は目を丸くする。

 だって、異世界だぜ?楽しみになるのも仕方が無い。

 しかも、クラフェイアにはファンタジーでお馴染みのエルフやら獣人やらもいるらしいし。

 『らしい』と言うのは、未だにクラフェイアへ行く事が出来る一般人は少ない故に、情報が確かではないからだ。クラフェイアに行くにはそれこそ、WPP育成学校にでも入学しなければ一般人には今のところ縁のない世界である。

 そのWPPの学校に行くのでさえ、厳しい試験があるんだ。その試験を賄賂で切り抜けるにしても、金がかかるだろう。結果的に相当難しい。

 だから非常に楽しみなのだ。いざ行けるとなると。

 だが、その代わりと言うべきか、ドラゴンやゴブリンと言った魔物も存在する……らしい。詳しくは知らない。

「それにさ。いきなり入学とか俺に言う訳だから、俺はクラフェイアのアスターク学園で寮生活だろ?それに、その寮に必要最低限の……制服とか生活に必要なモノは用意されてるんじゃねぇの?」

「その通りだが……何でわかった?」

「え?普通わかるだろ?」

「……」

 思った事を伝えると、親父は途端に無言になった。何で?

「クラフェイアって南極みたいに寒くは無いんだよな?」

「あ、ああ。門の向こうは本当に別世界だ。気候も一切違う」

 おお、スゲー。流石異世界。格が違うね。……なんの格だろう?

「ならとっとと行こう。着いたら案内してくれよ?親父」

「それはわかったが……本当にいいのか?もっと準備とかしないのか?」

「だから大丈夫だって。つか、親父の方こそ大丈夫なのかよ?」

「へ?」

「便秘」

 俺がそう言った瞬間、ぐぎゅるるるる~、と言う音がリビングに鳴り響いた。音源は勿論――――親父。

「き、キタアアアアアアッ!」

「いや、行かせないよ?」

「何で!?」

 腹を抱えてトイレに駆け込もうとする親父の襟首を掴んでひきとめる。

「だって今から行くんでしょ?」

「と、トイレくらい行かせてくれ!今回はいい感じのがキテるんだ!」

 何がいい感じなんだ。

 しかし、俺は自分でも相当意地の悪いであろうと想像ができる笑みを浮かべると、そのまま言い放った。

「ほら……散々息子に迷惑をかけたんだ。まさか……ここでも自分の都合を優先しようだなんて……思ってないよな?」

「あ……悪魔あああああああああああっ!」

 親父の悲痛な叫びが家全体にこだました。

 こうして、俺はクラフェイアのアスターク学園に入学することとなったのだった。

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