第2話 新たな日常の始まり
「「ごちそうさまでした」」
食事を終えると、俺も親父も食器を下げにキッチンへ移動する。
「そう言えば、今日の卒業式に親父は来るの?」
「あー……スマン、無理そうだ……」
俺が何気なく聞いた質問に、親父は申し訳なさそうな顔をしながら答えた。
何の仕事をしてるのかは知らないが、意外と親父は忙しい。
何となく想像できていた事でもあったので、親父が申し訳なさそうにする程、俺は落ち込んでいない。
そんな忙しい仕事だからこそ――――
「!?き、キタッ!」
「……またかよ」
親父は便秘だった。
ストレスか何かで、昔から親父は便の通りが悪いらしい。
なにやら嬉しそうな顔になった親父は、俺が見てもビックリするほど華麗で素早い動きでトイレに駆け込んだ。……こうなると当分トイレには行けない。
トイレに籠もって、会社に遅刻しないのか?と言う懸念が出てはくるが、親父も大人である。そこは大丈夫だろう。……そう信じたい。
下げた食器を素早く洗い終えた俺は、一つ息を吐くと同時に時計を見る。
「……そろそろ学校に行く支度をするか」
そのまま俺は二階の自室へ戻り、制服に着替える。
俺の学校はガクランでは無く、ブレザータイプの制服であり、何気にデザインはいい。
ただ、俺が卒業した後、入学する予定の高校はガクランで、それはそれで少し楽しみだったりする。
制服に着替えた俺は、時間を多く持て余したため、何となく家の掃除をした。
掃除といっても、掃除機を使うだけであり、窓ふきとかみたいな時間がある時にやる掃除はしない。当たり前か。
結局リビング、自室、他の部屋なんかを掃除機がけし終えた頃にはだいぶいい時間になっていた。
「さて……親父はトイレだし、もうこのまま学校に行くか」
中身のほとんど入っていないカバンを持ち、玄関に向かう。
「いってきます」
トイレにいる親父に聞こえるように、少し大きめの声で俺はそう言うと、家を出た。
●○●○●
「いや~、お疲れさんっ!」
何てことない、一般の中学と同じ卒業式を迎えた後、俺は教室で悪友の前田広樹に絡まれた。
「オイオイオイ!親友がこうして来たんだぜ?そんなあからさまに嫌そうな顔してんじゃねぇよ!」
どうやら表情に出ていたらしい。
「それで?一体何の用だ?俺はもう帰ろうと思ってるんだが……」
俺は素直に思っている事を口にすると、広樹は苦笑い半分、呆れ半分と言った表情で俺を見てきた。随分器用な事が出来るモノだ。
「お前なぁ……。いいか?俺達全員がこうして集まる事は無いんだぜ?」
「同窓会があるだろう」
「冷めてんなぁ、お前……。それにしたって、全員が集まるとは限らねぇじゃんか」
「まあ、な」
「それで、今から皆で打ち上げに行こうって話になってんのさ」
「そうか。楽しんで来い」
「皆でって言ってるだろ!?」
ちっ……面倒だ。
「そんな嫌そうな顔すんじゃねぇよ!」
「冗談だ。半分」
「半分は本気かいっ!」
いいツッコミだな、広樹よ。
しかし、広樹ともこの中学でお別れになるのか……。
「なあ、広樹」
「あん?告白ならお断りだぜ?」
「…………………………」
「わっ、ちょっ!俺が悪かったから!帰ろうとすんなって!」
割と本気でイラっときた俺は、短気なのだろうか?
「それで?なんだよ」
「……お前、どこの高校に行くんだっけ?」
「俺か?俺はクラフェイアにある、【WPP育成学校】だな」
「WPP……。お前、将来WPPに入るのか?」
「おう、そのつもりではいるな。一応【古代遺物】への適性も高いし、自分専用のも持ってるし……」
「そうか……お前、意外とスペック高いんだな」
「失礼だね、キミ!こう見えて俺はモテモテなんですよ!?」
「あっそ」
素っ気なく返した俺だが、事実広樹はモテる。
顔は整ってるし、性格も明るくて気さくだし……まあ茶髪を無駄にワックスでツンツンにしまくってる所は何だかウザいけど。
しかも、自分専用の古代遺物まで持ってるんだから、未来は明るいな。
そんな風に、目の前の広樹を見ていると、途端に広樹は顔を赤らめる。
「お、オイやめろよ……。そんなに見つめられると……照れるだろ?」
「…………………………」
「すみません、冗談です」
俺の冷たい視線を察知した広樹は、素直に土下座する。つか、土下座って……。それより、土下座されると何だか踏みたくなるな。
「踏むのはやめてよ?」
考えてる事が読まれた。
そんなことを思っていると、広樹はすぐに立ちあがる。
「まあ、お前に見つめられると、女子は倒れるかもな」
「はぁ?」
立ちあがった途端、そんな事を言いだす広樹。まるで意味が分からん。
「……いや、分からないんならそれでいいさ。どうせ自分の顔を正当に評価できてないんだろ?」
「いや、マジでお前の言ってる事の意味が分からん……」
「だから分からなくていいんだって。お前はな。とにかく、今から行く打ち上げにお前は強制参加だ!じゃなきゃ女子が来ないからな!」
「?」
頭の上を疑問符が飛び交いまくる。
だが、俺は強制的に打ち上げとやらに参加させられるらしい。
皆で何かをするのは嫌いじゃないが、何だか今日は疲れていたのだ。
まあ、それでも広樹の言うように皆が集まるのはこれで最後かもしれないので、付き合おうと思った。
早速クラスの連中全員を打ち上げに誘おうとしていた広樹を眺めていると、不意に視線を感じた。
視線を感じるだなんて、自意識過剰かもしれないが、俺はこの視線の正体をしっかり知った上で感じ取っていた。
「……雷門?」
視線を送って来る主の方向へ顔を向けると、どこか近寄りがたい雰囲気を放つ一人の美少女が椅子に座っていた。
金色の髪の毛を短く、どこかワイルドに切り揃え、少しつり気味の目は茶色。
顔立ちは整っており、テレビに映るアイドルなんかより遥かに美少女である。
ブレザータイプの制服をもろに着崩し、いかにもヤンキーって感じである。
うーん……美少女というより、美人と言った形容詞がピッタリかもしれない。
それが、俺のクラスメイトにして、視線の主である雷門美佳。見た目のせいか、周りから浮きまくっており、いつも一人でいるので、一匹狼といった印象を俺は抱いている。
「またお前を見てるな、雷門」
再び俺の近くに来ていた広樹が雷門を見ながらそう言う。
「お前の事好きなんじゃねぇの?」
「それは無いわ」
広樹の馬鹿みたいな推測はともかく、俺はなんとなく雷門が俺を見てくる理由が分かる。
恐らく、以前雷門が道端に捨てられていた猫を前にデレデレになっていたところを俺が目撃したからだろう。
うん、あの時は相当気まずかった。
あの後何度雷門に『忘れろ!』と詰め寄られた事か……。
こうして覚えている辺り、忘れられていないのだが、誰にも言っていないので、そこは大丈夫だろう。
自分の秘密を他人が知っていたら、いつバラされるか不安で、秘密を知るヤツを観察するかもしれないしな。
雷門もどうせそんなもんだろう。
「そう言えば雷門は誘ったのか?」
「いんや?怖くて誘えねぇもん」
この根性無しが。
「そんな目で俺を見るんじゃねぇよ!」
俺の視線に気づいた広樹はそんな声を出す。
いい加減、俺も思ってる事を表情に出さないようにしないとな。努力は……うん。面倒だ。
そんな事はどうでもいい訳で、俺は広樹をそのまま放置して雷門に近づく。
「!」
俺が近づいてくると、なにやら雷門はその整った顔に焦りを浮かべる。何だ?
「なあ、雷門」
「な、なんだっ!」
いや、そんな身構えなくても……。ただ話しかけただけじゃん。
「お前も今日の打ち上げ来いよ。まあ、このまますぐ移動するらしいんだが、いいだろ?」
俺がすぐに本題を切りだすと、雷門は一瞬呆けた顔をした。
だが、若干顔を赤らめてすぐに元の表情で俺に言う。
「い、行ってやってもいいぜ?」
「そうか。なら来い」
俺がそう言うと、もっと驚いたような顔をする。一体何なんだ?
「ほ、本当にいいのか!?」
「いや、いいって言ってんじゃん」
「本当についてくぞ!?」
「だから――――」
「オレは不良だぞ!?怖いぞ!?ミンチだぞ!?」
何故にミンチ……。
第一、自分で不良だって公言するのかよ……。
しかも、猫の出来事の時も思ったが、コイツは一人称が『オレ』である。ワイルドすぎるわ。
「大丈夫だって。そこらへんは広樹が何とかしてくれる」
「俺任せ!?」
後ろで広樹がなにやらわめいているが、無視でいいだろう。
後ろにいる広樹を横目に見ていると、雷門は迫力満載と言った表情で言った。
「ほ、本当に行くからな!う、嘘吐いたら叩き潰すぞ!?」
怖っ。嘘吐いてる訳でもないが、何で叩き潰されなきゃいけないんだ。
こうして、俺は無事雷門も誘う事に成功し、クラスメイト全員で打ち上げに行く事になった。
●○●○●
「うわー……すっかり遅くなったな」
俺は一人、帰路につきながらそう呟く。
結局、打ち上げに全員で言った訳だが、カラオケやらファミレスやらと色々な所を回っていたら、辺りが暗くなるような時間になっていた。
まだ夏で無いぶん、陽が落ちるのは早い。今でもまだ7時くらいだ。
「そう言えば……雷門は始終そわそわしてたな……」
誘った時の事を考えると、雷門は意外と皆と一緒に何かしたいと言った感情が元々あったのかもしれない。
今まで怖がってた皆も、何気に雷門とは打ち解けられていた。うーん、中学の三年間で打ち解けられなかったのは少し可哀そうではあるんだが……。
美人だからなぁ。友達なんてすぐにいっぱい作れそうだけど。……美人と友達の多さは関係無いか。
そう言えば、雷門はどこの高校に進学するのだろうか?それとも就職?
まあ何であれ、俺には関係ない事だ。
それより――――
「俺、高校で上手くやっていけるだろうか……」
俺が選んだ高校には、俺の知り合いは一人もいない。
何故か?それは一番家から近い高校を選んだ結果である。
俺の家から一番近い学校は、所謂頭のよろしくない連中が集まる学校な訳で、そんな学校を第一志望にしていると、先生からも『本当にここでいいのか!?お前なら古代遺物関係や魔法学校以外ならどこでも行けるんだぞ!?』と俺以上に俺の事を心配してくれた。
しかし、高校なんてそもそもどこでもいい。
こう言ってしまえば、人生を舐めてるとしか思えないんだろうが、今の時代、魔力が低い者や古代遺物への適性が無い者が就職できる職場なんてほとんど無い。
ましてや俺は魔力ゼロ。適性もゼロ。救いようないな。マジで。
まあそれだけ魔法が使えたり、古代遺物が使えると言う事は重要なのだ。
魔法使いや、古代遺物持ちは、国の戦力とも言えるので、国内だけでなく全世界で優遇されるのは分かるが、全てを優遇されてしまうと俺としては非常に困る。
一応英語が出来るし……英会話教室の先生にでもなるか?それとも通訳?
……駄目だ。最近は魔法を使った授業があるから、俺じゃあ無理だ。
「仕事……探せばあるんだろうが……はぁ」
広樹と違って俺の未来は暗いな。もう真っ黒だ。なんも見えねぇよ。
そんなわけで、俺がなれる仕事となれば学歴は最早関係無い。言ってて悲しい。
だから、一番近くの高校を選んだわけなんだが……
「虐められないようにしよ……」
何とも情けない話である。
中学の、それも同じクラスメイト達は皆気さくでいい奴らばかりだ。だから、俺が落ちこぼれであっても普通に接してくれる。
しかし、本来であれば、俺みたいな奴は真っ先に社会から除け者にされる。非情な社会なのだ。
世知辛ぇ世の中だぜ……。
雷門とは違う、ガチな不良がいる高校。虐められるの必至だな。
どんよりとした気分で道を歩く。
何でこんな暗い事考えてるんだろ……。ああ、今更だが、いい高校の受験しとけばよかったかな?……そこはそこで陰湿な虐めに遭いそうだけど。
そんな事を考えていた俺だが、徐々に視線が下がってきている事に気付いた。
暗い事考えると、勝手に視線まで落ちてくるんだな。
俺は考えていた事を振り払うように夜空を見上げる。
「……」
すると、満天の星空が――――なんてことは無い。都会だもの。
せいぜい月が見える程度だな。
くだらない事を考えたせいか、少し気分が軽くなった俺は再び前を向いて歩きだそうとした。
「ん?」
だが、俺は歩き出せなかった。
何故なら、目の前に真っ黒いローブを着た誰かが立っていたからである。
見るからに怪し過ぎる。不審者じゃね?
そう思えてしまう程、目の前の人物は帰り道の住宅街から浮きまくっていた。
第一、今の時代どこぞのファンタジーで登場する様なローブを着る人間がいるだろうか?それもご丁寧にフードまで被ってるし。
素通りしてしまえば良いのだろうが、何故か目の前の人物は行く手を阻むように、巨大な鎌を――――って鎌!?
「!」
目の前の人物が持っている物に気付いた瞬間、ローブの人間は突然こっちに向かって駆けだしてきた。
「ちょっ!」
俺は突然のことで体が上手く動かない。
すると、ローブの人間は大きく鎌を振りかぶって襲いかかって来た。
「くっ!」
目の前に迫った鎌を、体に無理矢理命令して何とか身を捻って避ける。
「危なっ!?」
避けたことで頭が少し冷静になったが、目の前の人間は俺を確実に攻撃してきた。
「何なんだ、お前……!」
距離をとりながらそう俺が問うと、ローブの人間は初めて声を出した。
「あ~あ、何であれ避けるかなぁ」
どこか気だるげな様子の男の声。歳は……よく分からん。
冷静にローブの男の情報をまとめていると、男は更に続ける。
「大人しく斬られて捕まれよぉ……【オリジナル】ぅ~」
は?オリジナル?
男の口から飛び出した言葉の意味を俺は理解出来なかった。
「お前を捕まえないとウチのボスがうるせぇんだよねぇ~」
……なんだかよく分からんが、狙いは俺らしい。
「お前……何で俺を狙う!」
そう、狙われているのが俺だからこそ意味が分からなかった。
俺の質問に、ローブの男は面白そうに言う。
「ククク……そいつぁ……言えねぇなあ?」
クソ腹立つ。殴りてぇ……。
だが恐らく、ローブの男の鎌は古代遺物だろう。
「【死神の鎌】……」
俺はなんとなく世界に数多くある一般古代遺物の名前を呟いた。
すると、男はさらに愉快そうに笑う。
「クハハハハッ!いいねぇ~。俺の古代遺物……一発で見抜いちまうとは……。まあ神話級と違って、俺のは適性さえあれば誰でも使える一般級の古代遺物なんだがなぁ」
男の言う通りなのであれば、【死神の鎌】は相当厄介だ。
切り裂いた相手の体に傷をつけるだけでなく、精神まで斬られる。それが【死神の鎌】の効果である。
これらは、『古代遺物図鑑』に書いてあったことだ。
しかし、一般級と言う事で、俺は少し……ほんの少し安心している。
一般級は図鑑に全て載っているので、効果も大体分かるのだが、神話級と呼ばれる神話に登場する様な古代遺物だったのなら、間違いなく俺は既にこの世にいない。それくらい神話級は強力なモノが多い。
「まあ、俺の武器が分かったからと言って、お前はどうする事もできないんだけどなぁ」
そう、いくら効果が分かったとはいえ、俺にはどうする事も出来ない。魔法も、古代遺物もないのだから……。
声を出して助けを呼ぶか?
そんな考えに至ると、それを見透かしたように男は言う。
「残念だけどよぉ……お前の声、一時的に俺以外に聞こえないようにさせてもらったぜぇ?」
既に手を打たれていた。
恐らく魔法の一種だろう。
凄く反則じゃねぇか、魔法。酷いね。泣けてくる。
「おら、いい加減諦めて俺に捕まれよぉ」
誰が変質者に捕まるか、ボケ。
口に出していっても良かったが、それで相手を逆なでした結果お陀仏とかシャレにならん。
俺は少しずつ後ろに下がっていると、突然動けなくなった。
急いで足元を見ると、なにやら黒いナニカが俺の足に絡みついて来ている。
「なっ……!」
「――――まあ、逃げられないように手を打たせてもらってっけどよぉ~」
最悪だ。
コイツ、しゃべり方がふざけてる癖に頭の方は凄くキレる。
もしかしたら、しゃべり方でさえも俺の気をそらす為の演技なのかもしれない。
とにかく、俺は男に気を取られていた隙に身動きまで封じられた。
何とか足に絡みつくナニカから抜けだそうとすると、男はゆっくりとした足取りで近づいてくる。
「連れて帰る途中で暴れられても嫌だからよぉ……一回斬られとけ」
嫌だよ!
「この鎌で一度斬られれば、精神もやられるからよぉ……衰弱してぐっすりおねんね出来るんだぜぇ?」
それが嫌なんじゃねぇか!
しかし、俺がどんなに心の中で悪態吐いても男は近づいてくる。
無謀にも程があるが、どうにか素手で――――
「おっと、上半身の動きも止めさせてもらうぜぇ」
もうコイツヤダ。嫌い。
とうとう上半身まで黒いナニカが絡みついて来て、動きを制限させられる。
「この魔法は魔力を持続的に使うからなぁ……やっぱし一度斬られとけ」
お前ただ斬りたいだけだろっ!
危機的状況下だと言うのに、俺は何故こんなにもお気楽なのだろうか?お気楽じゃないんだけど。
多分、人間危機的状況になると、誰しもおかしな心理状況になるんじゃねぇかな?
「おら、痛いのは一瞬だけだぁ~」
ついに俺の目の前にまでやって来た男は、大きく鎌を振りかぶる。
「さっさと終わらせて、ボスの元へ帰るかねぇ」
そんな言葉と同時に、男は素早く鎌を振り下ろした。
ああ……もうちょっと展開的に引き延ばしてくれても良かったんじゃね?あっさりしすぎてね?
テレビになったら絶対展開の引き延ばしの大切さが分かるって。視聴率のためだって。
こんな今まさに鎌が迫ってきてると言うのに、俺は随分おかしなことを考えていた。
何で狙われてるのか分からんが……第一、ボスって目の前の男が言う位だから、絶対ナニカの組織だな。
斬られる間際、冷静な状況分析と同時に俺は斬られる覚悟を決めた。だが――――
「させるかよっ!」
ガキンッ!
「なっ!?」
俺の体は鎌で切り裂かれる事は無かった。――――雷門のおかげで。
「雷門!?」
「おう!」
いや、『おう!』じゃなくて……。
「何でここに!?」
俺がそう言うと、雷門は男の方に鋭い視線を向けながら言う。
「詳しい話は後だ!今はこっちが優先だ!」
「いや、相手は古代遺物持ち――――」
そこまで言って、俺は気付いた。
雷門はどうやって俺の体を、あの巨大鎌から防いでくれたんだ?
ちなみに俺と男の間に割り込む形で雷門が登場したのである。
「テメェは……テメェは誰だ?」
男は雷門を見ると、憎々しげに言う。
「オレか?オレはWPPのA級ガーディアンだっ!」
………………は?だ、WPP?A級?ガーディアン?
俺は雷門の言った事が理解出来なかった。
え?マジで何?
すると、俺以上に衝撃を受けていたのは、ローブの男だった。
「何でWPPがぁ!?しかもA級だとぉ!?」
「うるせえ!とにかくお前はオレに捕まってろ!」
うわー……男の質問ガン無視だよ。
そんな風に俺が思いつつ、雷門を眺めていると、俺は雷門の右手に握られているモノに気付いた。
「か、金槌?」
雷門の手には、くすんだ金色のちょっと装飾が施された金槌が握られていた。
「まさか……そんなちっこいモノで俺の【死神の鎌】を防いだって言うんじゃねぇだろうなぁ!?」
男が声を荒げてそう言うと、雷門は馬鹿にした様子で答えた。
「その通りだよ。コイツでアンタのショボイ鎌を防いでやったのさ」
マジで!?雷門さんスゲェー。
つか、一般級とはいえ、【死神の鎌】はショボくは無い筈だ。なのにそれをショボイって……。
「ふざけるな……!一般級とはいえ、俺のはそんな弱くねぇ!」
男よ。俺もさっき同じ事を考えていたぞ。
しかし、どんなに男がそう言っても、雷門は同じ答えを返す。
「いんや?ショボイね」
「なんにぃ~?」
「世界に数多く存在する時点でショボイんだよ」
雷門がそう言うと、初めは勢いがあった男の声に焦りの色が見えた。
「ま、まさか……いや、そんな筈はねぇ!」
しかし、雷門はそんな男の様子を見て、面白そうに口をゆがめる。
「そうか?残念だけど、お前の言うその『まさか』なんだよ」
雷門がそう言うと、右手で握られている金槌が光り始めた。
「あ……ああ……!」
男の表情はフードのせいで見えないが、雷門に対して怯えているように見える。
そして雷門の握っていた金槌が徐々に大きくなっていき――――
「本当の【古代遺物】を教えてやるよ――――」
――――雷門の背丈を優に超える超巨大なハンマーが、雷門の右手に握られていた。
「――――オレの【雷将の巨鎚】でなッ……!」