モノは言い様ってつまり屁理屈だ
R15です。ご注意を
「ああ、オーランディア、次の夜会は我がパートナーとして出席せよ」
※※※※※
「久しいな、オーランディア。さあ、早よう上がるが良い。そなたの為に評判の菓子を取り寄せたのじゃ」
「………はぁ」
相も変わらずアラビアンな装束に身を包んだ一見性別不詳の王子殿下は、王宮の庭園の一角で夾香を待っていた。
吹きっさらしの東屋、しかし夾香が知っているものとは違い、椅子はなく、ふかふかの絨毯が敷かれている。真ん中にはやはり低めのテーブルが置かれており、上にはお茶とお菓子が華やかに置かれている。
さらに東屋の回りには華やかな花が咲き誇って、さながら楽園のような様子だった。
しかも、此処にはアクラシエル=フェースしかいない。
おかしい普通はぞろぞろと付き人とか女官とか侍女とか騎士とか護衛とかいる筈だろう!!
「護衛も女官も下がらせたからの、そのように不安な顔をするでない。オーランディアがこの庭に足を踏み入れてから、アルマロスの結界が作動しただけじゃ」
「はぁ」
「これから話すのは秘め事じゃ。それ故に他の者は要らぬ」
うっそりと瞳を眇て笑うアクラシエル=フェースに、夾香は背中に悪寒が走った。何だろう嫌な予感がする。
しかしいつまでも外に立っているのもどうかと思った為、東屋に上がらせてもらうことにした。ブーツではなくパンプスだったので脱ぐのも楽で良い。
夾香はアクラシエル=フェースの斜め前に座り、ワンピースの裾を整えた。
「………そこまでして、私に話すことがありましたか」
「あるのじゃよ」
ふふ、と品良く笑いながらアクラシエル=フェースは笑った。香り高いお茶に、少しだけ癒される。
「そなたを召喚した折りに、アルマロスが術を掛けたと言ったであろう。その術を半永久的に持続させる為じゃ」
夾香が、何事もなくクリエイティで生活していられる理由はこれである。
アルマロスが夾香に掛けた‘最適化’の魔術。異物を環境に適応させる魔術だが、夾香の場合は薄いベールを掛けられているような状態だと聞いている。
魔術そのものが夾香には理解出来ないので説明されても意味はない。
「………どうやって?」
「いくつか方法はあるからの。アルマロスが効果の高いものを厳選したぞ」
一つ、今と同じ魔術を掛け続ける
二つ、肉体に魔術を定着・書き込む
三つ、アクラシエルとの結婚(肉体関係含む)
・・・・・
「さあ、選ぶが良い!」
「最後が突っ込みどころ満載ですが!?」
何だ結婚て、しかもこの(肉体関係含む)って!ココはムーンじゃない!!
無駄に爽やかな笑顔なのが胡散臭い。
「効果は保証できるぞ?なんじゃ、我が相手では不満か?」
「そういう話ではなくて」
恥じらいの国出身だからでもなく、ただ単に訳がわからないからだ。はっきり言うが夾香の結婚願望は薄い。
「まぁ、一つめは今の状態の維持じゃ。ただ、急拵えの術だからの、早めに掛け直した方がよかろう。二つめは、オーランディア自身に魔術を書き込む方法じゃが、こちらはオーランディアが死ぬまでその状態が維持される」
「どっちかではダメですか?」
いわく、一つめの方法は半年のペースで掛け直しを行わなければいけないらしい。手間と面倒かかかる上、おそらくはアルマロスにしか行えない。
二つめは、この肉体に魔術を定着させるのは魔術では準禁術なのだとか。判断基準は良くわからないが、「基本的に使っちゃダメだけど、ケースバイケースで使うなら良いよ」という事らしい。例えば死刑囚とか罪人とかの証で入れられる事もあるのだとか。………罪人の管理なら仕方ないだろう。うん。
三つめは、かなりの荒療治だ。つまり、肉体関係によって、夾香の身体を免疫力に頼って適応させるという方法。
「………そんな命張る博打なんてごめんです」
「じゃろうな。ただ、こういう方法もあるのだと知っていおいて損はないぞ」
確かに隠されるよりマシだろう。
「では、二つめの準禁術の方で」
「心得た。この準禁術は、身体の一部に法陣が浮かび上がる。まぁ、掛けた後は法陣が反応しない限り眼では見えぬから安心するがよい」
紫外線に反応する蛍光塗料か何かか。
明らかに違うが似たような物だろう。
多分刺青の魔術版だ。
確かそんな感じのモノが出てくる漫画あったし。
「身体のどこに出るかはわからないんですか?」
「掛けられた側によるのじゃ。罪人用は額に出るようにしてあるが、今回はわからぬ。何せ非公式じゃからの」
取り合えず顔以外なら大丈夫だろう。
聞けば聞くほど不安しかない。
「……わかりました。顔以外ならどこでも良いです」
魔術に反応しなきゃ良いんだ。反応しなければ。
服で隠せれば問題ない。
「では掛けるか。ああ、オーランディアはそのままで良い」
いともあっさり言ってのけたアクラシエル=フェースは、服の間から飴玉のようなモノを取り出した。透明だが、キラキラとしたオーロラ加工が施されている。飴玉というよりビー玉に近い。夾香の想像するビー玉より若干小さめだが。
アクラシエル=フェースは夾香の直ぐ側まで移動すると、夾香の肩に手を掛けた。
「………え?」
「申し訳ないのじゃが、抵抗はせぬことじゃ」
妙に嫌な予感がして夾香の身体が強張った。
しかし、アクラシエル=フェースはにやり、と意地悪く笑う。
ついで、ビー玉モドキを自らの口に放り込んだアクラシエル=フェースは、躊躇い無く夾香の唇に自分の唇を重ねた。
「………んっ」
いつの間にか肩にあった手は腕に変わり、片腕で夾香の肩を抱いて拘束していた。反対の手が夾香の後頭部にかかり、あっさりと抵抗も封じられる。
嫌な予感がしたけどこんな形で当たって欲しくなかったーーーー!!
「ん、………ふ………ぅ」
ゆっくりと、合わさったアクラシエル=フェースの薄い唇がずれ、夾香の唇の中にあのビー玉モドキが押し込められる。ちょ、どうしろと………!?
自慢じゃないが彼氏・恋人居ない歴イコール年齢の成人女性にコレはのキツイ!
オマケに目を閉じるタイミングを逃して艶やかな琥珀の瞳と至近距離で眼が合った。思わずぎゅっと目を閉じる。
恐る恐る、唇を開いてビー玉モドキを受け入れた。
ゴロリとした無機物特有の固さに、唾液が絡んで妙に息苦しい。が、拘束するアクラシエル=フェースの手は強まるばかり。
「………ん」
上からのし掛かられる形になり、ついでにアクラシエル=フェースの舌まで入ってきた。ゴロゴロと夾香の舌とビー玉モドキが転がされる感覚に、思わずびくりと身体が跳ねる。
ぐっ、と、ビー玉モドキが押し込められる感覚に、うっすらと目を開けると蠱惑的なダークブラウンと至近距離で眼が合った。僅かに伏せられたアーモンドアイが艶かしい。
が、さらにビー玉モドキを押し付けられ、夾香は若干涙目になりながらもそれをごくりと飲み込んだ。
………多分コレで合ってるハズ。
「っは、はぁ………んぅっ!?」
そこでやっと僅かに唇を離されたが、 再び重ねられた唇に思わずもがく。ほんのちょっぴりの息継ぎしかくれないとか何の鬼畜!?
しかし直ぐに身体から力が抜け、反対にアクラシエル=フェースにしがみついた。
腰が抜けるのとは違う、何かを流し込まれているような感覚。とろりと身体の中にあるナニかが溶かされ、染み渡っていくような。
舌の絡み合う感覚すら虚ろになり、ふわりと意識か漂う。
解放された頃には、すっかり身体の力が抜け切っていた。
「無事に馴染んだようじゃの」
「………え、?」
夾香が身体に全く力が入らないのを分かっているからか、アクラシエル=フェースは夾香の身体を自分の膝の上に抱き上げた。………もう抵抗する気力すらない。色んな意味でライフはもうゼロですよお姉さんは。
「魔術方陣じゃ。先に与えた珠が魔術方陣の核でな、そこに我の魔力を注ぎ込んで馴染ませるのじゃよ。身体の調子はいかがかえ?」
「特には………力が抜けきって動きにくいぐらいです」
「暫くはそのままじゃろう。数日で元に戻る」
暫くはゆるりと過ごすが良い、と続けたアクラシエル=フェースは、手慰みなのか夾香の髪を指先ですいて遊び始めた。
………結構居たたまれないからやめて欲しいのだが。私はおもちゃでも人形でもない。
まぁ、別に嫌じゃない。キスされて感覚が麻痺してる訳じゃないと思う。
てゆーかファーストキスだったんだけどなぁ………拘るような乙女でもないけど。
つらつらと色々考えていたら、ふと思い出したようにアクラシエル=フェースが言い放った。
「ああ、オーランディア、次の夜会は我がパートナーとして出席せよ」
………は?