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世界は広い

オーランディア


今日からこれが私の呼び名です。






※※※※※






「オーランディアか、良いのではないか?我は気に入ったぞ」



「私の世界では有毒植物の名前ですけど」



英語名はオーランディア。日本名は莢竹桃。

私、蓮見夾香の名前の元になった花の名前です。


こちらの名前は基本的にカタカナなら何でもアリっぽいから大丈夫だろう。


花にも茎にも葉っぱにも、次いでに土壌にまで毒を溶かしていく傍迷惑な花である。名前の由来を知った高校の春が切なすぎる。小学生の頃に薬剤師の母親から「夾香ちゃんの名前はこのお花から取ったのよ」と花の写真を見せられた純粋な自分カムバック。あのまま知らないままでいたかった。



「そうなのか?」



「ええ、薬にもなりますが、一般的には有毒植物としてのほうが有名ですね」



事実、莢竹桃の毒で死んでしまった例もある。

花は可愛らしいのだが。


アクラシエル=フェースは、ふむ、と納得───というより興味深そうだった。



「中々面白いな、異世界とやらは。落ち着いたらゆっくり聞かせてくれぬか」



まず、アクラシエル=フェースとの話し合いでの取り決めは、夾香の呼び名を決めることだった。

曰く、とんでもなく目立つらしい。この世界の字を見させて貰ったが、当然の如く日本語でもなくアルファベットでもなかった。ロシア語のよーなアラビア語のよーな、ナニかである。


因みに、夾香の言葉が通じる理由だが、召喚直後、これはヤバいと半分本能的なナニかを察知したアルマロス=ストレーガが‘最適化’の魔術をかけたらしい。平たく言えば、害のある物質を持ち込ませない為にある魔術なのだとか。本来は感染病患者を診察する医者や看護師に適用される魔術だ。勿論感染病患者にも使われる。

夾香の場合は‘この世界に在らざる物質’に限定してあるらしい。その辺りはアクラシエル=フェースも詳しくはないのだとか。

しかし、夾香が召喚されて直ぐに、意思の疎通をはかるため言語の自動翻訳も追加された。


が、媒体がないのでずっとこのままとはいかない。ナニか物質に魔術を固定化しないと持続性はないからだ。



「………私に話せることなら」



「楽しみにしておるぞ。本題なのだが、オーランディアの持つ技術とは何じゃ?」



キタよ。既に答えは用意してあるが。



「手芸全般、特にアクセサリー………装飾品を作ること、ですね」



「ほう?」



「私が出来ることなんてそんなものですよ」



実際、彼らが欲しいのは技術、それは多分夾香の秘書スキルではないだろう。なら、多分アクセサリー作りの方だ。



「装飾品、服飾師か」



何やら思案げなアクラシエル=フェースに、夾香ちょっとだけ、と口を出した。



「あの、出来ればこちらのアクセサリーとか、服とか見てみたいんですけど、駄目ですか?」






※※※※※





処変われば品変わる。

地域が変われば、その地域の文化や気候によって食事も服装も、極端な場合言葉すら違う。


今、夾香はまさにその‘世界の壁’に打ちのめされていた。



(な、なんだこれぇーーーーーッッッ!!)



アクセサリー、まぁ装飾品の一括りにすれば確かにあった。確かにあったのだが………流石にコレはない。


実は現在、夾香はアクラシエル=フェースの居住区に来ている。装飾品の類いは一切合切一一つの部屋にまとめてあるらしいので、とりあえず現物を見なければ話にならないと案内して貰ったのだ。

勿論、アラクシエル=フェースの衣装係なる女性、女官も引き連れて、だ。アクラシエル=フェースほアラビアン風の王子なのに、女官さんはクラシカルなメイドさんだった。艶のある金茶の髪に白い肌の美人さんである。服もシンプルなメイド服───黒いワンピースに白いエプロン。長いであろう髪はひっつめ、エプロンと同じ布で包み、ダークブラウンのリボンがむすんである。


その部屋に納められていた装飾品に、夾香は絶句した。


まず目についたのは何本もある帯。日本の着物に使う帯というより腰布のよーなしっかりしたストールのような代物に、これでもかと金の鎖やら宝石類がぶら下がっている。

次に短剣。中身があるかどうか確かめる勇気はないが、鞘やら柄やらにでかでかと宝石類が嵌め込まれている。

さらに留め具、もしくは帯留めのようなブローチのような飾り。またしても金の台に宝石類がびっちりである。

ほかにもブレスレットなどがあったが、一目見て引き出しを閉めた。



「?どうかしたのかえ?」



疑問符を飛ばすアラクシエルの言葉は、残念なことに夾香の頭には届いていなかった。



(な、成金趣味にも程があるわ!!)



全て、金。辛うじて縄目のような縁取りに石が嵌め込まれている造りしか、ない。どれを見てもそれに尽きる。

さらには宝石のカットはカボションカット(つるりとまあるい形の成型)しかないとか。宝石そのものはどれも透明度の高い一級品なだけに残念すぎる。ざっと見たところ、カーネリアン、マラカイト、ラピスラズリ、各種色とりどりの瑪瑙がメイン。但し、数こそあまり多くはないがアメジストにサファイア、ルビー、エメラルドもある。

何故かパールやクリスタル、ダイヤモンドなど、白系統の石も一個も無い。次いでにシルバーも。


成金趣味もここまではしないだろうというぐらいだ。金ぴかなのとデザインの手抜きさに目眩がする。


今まで服飾師は居なかったのかと突っ込みたい。いやアクラシエル=フェースの後ろにいるが。妙に期待の籠った眼差しをしているが。



「───失礼、そちらの方。女官の方です。幾つかお願いと質問をしてもよろしいでしょうか?」



「は、はい!私に答えられる事でしたら」



主であるアクラシエル=フェースをサクッと無視し、夾香はこの装飾品を管理している女官に聞くことにした。

アクラシエル=フェースが装飾品に詳しいとは思えなかったからである。



「まず、ここの装飾品はどういった服に合わせますか?そもそもの装飾品の位置付けからお聞きしたいのですが」



「は、装飾品は身に付ける方々の権威の象徴でございます。宝石が大きければ大きいほど、価値があるとされております。身に付けるのは式典など、正装する場です」



この辺りはあちらの世界と変わらないらしい。元々宝石類の扱いなんてそんなものだろう。正装というのも頷ける。



「その正装では何を身に付けるのですか?」



「正式な式典であれば、上から、髪飾り、胸当て、外套留め、帯飾り、ブレスレット、靴飾りでございます。宴などはもう少し控えめですが………」



「台は全て金のようですが、それには何か理由が?」



「は?装身具は全て金が普通でございます。金以外の装身具など見たことがございません」



「………え?」



流石に絶句した。

え、まさか銀が無いの?





※※※※※

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