後悔はしない(。・ω・。)ゞキリッ
「───この度の事、誠に申し訳ございません。私に叶う償いが御座いますれば、この命ですら差し出しましょう」
「私の望みを叶えるの?」
「貴女様が望むのであれば。私がもたらした結果なれば、自身で責任を負いましょう」
「───わかりました」
※※※※※
一晩、考え続けた。
出した答えに、後悔はしない。
※※※※※
翌日、引き合わされたのは昨日会った、彼ら曰く魔術のマイスターだった。
「この度の事、誠に申し訳ございません。如何様にもお詫び致します」
深く頭を下げ、もう土下座に近い形で平伏していた。
第二王子アクラシエル=フェース曰く、技術者達は誇り高い。その誇り高さ故に、きっと彼らは償いを求める。その償いの為に、昨日はアクラシエル=フェースが夾香を訪れた。
「………頭を上げて頂けませんか」
昨日と同じ、白いマットが敷かれたアラビアンな部屋には夾香が昨日と同じ上座に、上座から右手にアクラシエル=フェース、絨毯が敷かれた床に魔術のマイスター、アルマロス=ストレーガ。
「私が、こちらの魔術法陣に召喚されたのは偶然なんですね?」
「………はい」
「私を、元居た世界へ返すことはできますか?」
「確実だとは言えません。既に座標、貴女がいらっしゃった場所は逆探知を用い、特定してあります。ですが、異世界という特異な関係上、私としては絶対の言葉は言えません」
此処までは、予測済みだった。予定通りとも言う。
異世界への召喚など、確かめる術の無いことは出来ない。
社会に出ていたからこそ、痛感する。出来ない事をきちんと相手に伝えることの難しさを。
「───では、こちらから異世界へ、干渉することはできますか?」
「………そ、それは、どう言った意味で………」
「こちらの魔術は、遠く離れた土地に自分の声や姿を届けることはできませんか?」
「それは出来ますが、それには対応する魔術法陣が必要です。陣なしでは出来ません」
「そうですか、つまり、こちらからは一切異世界へ
接触することは不可能ということでよろしいでしょうか?」
断定した夾香の言葉に、絶句したのはアルマロス=ストレーガの方だった。何と無く想像はつくが、泣き喚くとでも思っていたのだろうか。もしくは散々罵倒されるとか。
「………はい、私では不可能で御座いました」
昨晩、再び夾香の様子を見に来たアラクシエル=フェースからそれは聞いた。なんでもありとあらゆる方法や理論を使って、探して、魔術師達はキリキリ舞いだったらしい。昨日は麗しいロマンスグレーのオジサマだったのに、今では二十も老けて見える。
それでも、夾香は彼を哀れとは思わなかった。
人一人分の人生を狂わせた。この世界の住人ならばフォローのやりようは幾らでもあっただろう。だが、夾香の場合は理不尽しかない。まさしく誘拐だ。
そんなつもりは無かったと、幾ら言っても夾香には通じない。彼の正統性を、夾香は信じられないから。
「………そうですか、では、王子殿下」
「フェースと呼べと言うたであろうに、何じゃ?」
「アルマロス=ストレーガを、私の後見人にすることはできますか?」
アラクシエル=フェースは、ちょっとだけ眼を見開いた。そして興味深く夾香を見る。
言われた当事者であるアルマロス=ストレーガは何を言われたか理解できていないらしく、ポカンとしていた。
「出来んことでは無いじゃろろうな。そなたは国で保護することは決定しておるし、後見人は暫定的に我じゃ。理由さえでっち上げれば何とでもなるぞ」
ただ、あまり例が無いだけでな。
まぁ、好き好んで王子の保護下から逃げる技術者は居なかったと言うことだろう。
「彼は、私を巻き込んだ事を後悔しています。確かだとは言えませんが、少なくとも今までの会話に不信感や不誠実な箇所は無かったと思うぐらいには。だから私は彼に逃げる事を赦さない」
しきりに、何でもすると言ったのだ。それは非公式な場でも───アラクシエル=フェースが居るならば歴とした証人になる。
「彼は私に償いをと言いました。ですが、一過性の償いで赦せるほど、私は心が広くありません。ですから、私の一生に、その命尽きるまで付き合って頂きます」
赦せるほど、私の心は広くない。
だが、自分の犯した罪の責任は取って貰う。
帰れないのなら、最後までその面倒を見るべきだ。
「………成る程な、心得た」
アクラシエル=フェースは、短く了承した。………これで、夾香の生活は保証される。話を聞いた限り粗末に扱われることは無いだろうが、それでも保険があるに越したことはない。
「アルマロス=ストレーガ、この通りだ。そなたは変わらず己の務めを果たすが良い。聡明なそなたならば分かっているであろうが、この罪は赦されてはならぬ。その責任を取り続けよ」
「はっ、畏まりました」
「下がれ、そちにも暫く休養が必要であろう」
そういうと、アルマロス=ストレーガは再び深く頭を下げて退出した。
「これが、そなたの結論で良いのじゃな?」
「はい、連絡できる手段が無い以上、私にはどうすることも出来ません」
どうも出来ない。
ならば、此処で生きていくしかない。
死ぬ、と言う究極の選択肢もあったがそれはアクラシエル=フェースに潰されている。
『我らのエゴイズムだと言われようと、我らはそなたらを死なせるために喚んだ訳ではない』
『罵られようが泣かれようが、我にぶつけて気が晴れるならば幾らでも受けよう。だが、我らはそなたを手放せぬ』
………この国に、喰らい尽くされるのか。
暗い感情に、夾香は怒りが沸き上がるのを感じた。
喚き散らしたいような、そういう怒りではない。どちらかと言えば憎しみに近い感情だ。
夾香とて、忙しかったが事務の仕事とアクセサリーのインディーズブランドの二足のわらじ生活は楽しかったのだ。その生活が奪われて、怒らない人間はいない。
生活だけではない。結婚していなかったから良かったものの、これで家族や旦那がいたらどうしてくれる。それでなくても両親や同僚、友人に申し訳なさすぎる。
そもそもだ。折角新しく発売するアクセサリーを作るだけ作って売れないとか!!モデルも頼んだのに不完全燃焼過ぎる。
デジカメ片手にする撮影会は結構好きだ。
「そなたも疲れているだろうが、少々これからの事を詰めてもよいかの?」
なんなら明日でも我は構わぬ、というアクラシエル=フェースの優しさに少しほだされそうになりつつ、夾香は顔を縦に振った。
「大丈夫です。で、どこから何を?」
「先ずは、そうじゃな。そなたの名前と───そなたは何の技術をもたらしてくれる?」
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