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………あぁ、幸せだなぁ

「ふんふふんふふーん」



休日、それは夾香(きょうか)にとっては副業の活動日である。


最近お気に入りのアニメソングを歌いながら、手を動かす。


作っているのはゴシック趣味な方々向けのアクセサリーセットだ。

仕事の上司(女性)に連れていってもらったリボン屋で、素晴らしい薔薇のレースを見つけてしまったのが運のつき。上司の白い目も何のその、今月分の予算を注ぎ込んでリボン類を買い込んでしまった。

黒い薔薇のレースは金糸入りと銀糸入りを一巻きずつ。ついでに青と赤、ピンクに紫、藍色に緑と細めのベルベットリボンを一巻き。さらにサテンリボンも黒と白、赤と青、金と銀も一巻き。


今回ののテーマはズバリ、≪アンティーク・ゴシック≫だ。

最近はゴシックロリータばかりに注目が集まっているが、私は男性風の、フリル無しのゴシックも大好きだ。巷で言う甘ロリのゴシックなど、私にとっては邪道だ。これは声を大にして言いたい。

ゴシックはモノクロのコントラストが命だと!!


もちろん色付きの、ピンクのゴシックを否定するわけではない。誰にだって好みというものがある。


だが、色のイメージとは結構強烈であり、根深い。

そこをいじくり回すのも楽しさの一つではあるのだが。


今回のアクセサリーセットの基本は、黒い薔薇のレース。これを基本に色々作る。

ベースになる金具は金古美とアンティークシルバーの二色。銅の赤金色も入れようかと迷ったが、黒とはあまり合いそうにないから止めた。


まずは黒い薔薇のレースのチョーカー。レースを適当な長さに切ってバチカンで止め、長めのアジャスターを着ける。ポイントはレースの長さは短め、アジャスターは長くすること。チョーカーは首にフィットしなくてはいけないからだ。ポイントとして、アジャスターの先には薔薇のチャームと、雫の形のビーズを下げる。トップには、UVレジンで作る小さなコインサイズのチャーム。バリエーションでクロスモチーフや雫の形のビーズを着けたりする。


チョーカーとお揃いのイヤリングも作り、とりあえずUVレジン液が固まるまで照射機に放置。


ついで、ゴシックに欠かせないヘッドドレス。

一口にヘッドドレスと言っても、コサージュ、カチューシャ、バレッタ、シュシュ、ピン、コーム、クリップと言ったメジャーなところから、ミニハット、ティアラ、ボンネットという物まで様々だ。

どが、今回作るのはコサージュとカチューシャ、バレッタの三種類。コサージュとバレッタは大きさで分けて更に二種類を製作する。この為にベルベットとサテンのリボンを買ったのだ。


カチューシャは割りとシンプルなリボンタイプ。レースの上にベルベットリボンを二本重ねる。リボンの結び目にはゴシックを強調すべく、金古美のチャームを縫い付けた。


コサージュはレース、リボンで花の形を作り、バランスを見ながら重ねていく。真ん中にはアクリルジュエリーを日ざらしにしてやや黄ばませたものをくっ付ける。最終的にはリボンとレースを長めに垂らし、台に接着させる。

一つ一つ微妙に違うコサージュは、作るのは大変だが非常に楽しい。


バレッタは、基本コサージュと同じ。しかし全く同じではつまらないので、レースで立体的で小さめの花を作った。その回りにベルベットのリボンを二色あしらう。


バレッタを作っている間にレジンや接着剤が乾ききり、それぞれ金具で着けていく。


完成された作品達は、商品を入れておく箱に種類別に入れておく。


それを見て、一言。



「………あぁ、幸せだなぁ」



ふぅ、と達成感と充足感、ついで酷使した手や目の疲れと言った倦怠感がない交ぜになったため息を溢す。

作っているときも幸せだが、作り終えた時の気分は最高だ。



「ま、自分じゃ着けないがなっ!」



そういって箱の蓋を閉めた。

ゴシック風の服は着るがゴシックは着ない。基本的に夾香の服はシンプルカジュアルが定番である。何故かってそりゃあ自作のアクセサリーを着けるためだ。市販のアクセサリーも勿論買って着けるが。

流石に彫金は出来ない。


とりあえずいつもモデルを頼んでいる友人にメールを打ち、明日来てくれるように頼んだ。

流石に自分がモデルをやる気は起きない。似合わないし。


着てもらう服はいつものシンプルな黒いカットソーで良いだろう。髪は適当にハーフアップと下ろせば良い。


明日の算段を付け、夾香はそのままベッドに横になった。お腹も減ったが何より疲れた。


そのまま、ゆっくり夾香は眠りについた。






※※※※※






………何だか、妙に騒がしい。


周りの五月蝿さに、ゆっくりと意識が浮上する。



「………ん………?」



何だか妙に固くて冷たい上に寝転んでいる。おかしいなフローリングに落ちたか?でもこの感触はフローリングじゃない。ひんやりと冷たく、つるりとしている。ホテルのロビーとか、風呂場の浴槽の大理石のような。

ぽやーっとしていると、周りの五月蝿さに耳が向く。



「………っ、だからっ、何でこんなものが来たんだ!?予想外だぞ!?」



「予想外はこちらとて同じです」



「………まず先にさ、移動させてあげないの?」



「原因究明が先じゃ!!迂闊に触る出ないわ!!」



………ぎゃあぎゃあとまぁ、なんと喧しい。

聞こえてくるのは年代様々な男の声。ついでに伝わってくる足音のような音。どうやら床に転がされているらしい。

寝起きから頭がはっきりしてきて、なんとなーく周りの状況把握をしてみる。あんまり意味は無さそうだが。


………いっそのこと起きたほうが良さそうだし。



「ええい、煩いわ!!この愚弟子共!!」



「いや師匠が一番煩いですって!!」



「パニックになってますから一旦落ち着いて下さい!!」



「───全員五月蝿いですよ」



むくり、と夾香は上半身を起こした。まだ寝起きでふらふらするから座ったままだが。



………うわぁ、なんだこの状況



その場にいたのは、確かに年代バラバラな男性達。

二十歳そこそこの青少年から、ロマンスグレーも麗しいオジサマまで。………一体なんのキャッチコピーだ。


そして、場所。

円柱と円錐形を組み合わせたような、神殿かダンスホールのような白い空間だった。自分はそこのど真ん中にいる。



「これはお見苦しい所を、失礼致しました。お身体の具合は如何でしょうかな?」



「はぁ、寝起きなのでまだ少しふらふらしますが、概ね大丈夫ですよ」



話かけてきたのは、ロマンスグレーも麗しいオジサマだった。優しげなテノールが年のせいで少し掠れているのが妙に艶っぽい。整った顔立ちには皺が刻まれていて、年齢故の落ち着きが伺える。枯れ専じゃないけどこれはうっかりときめく。でもさっき思いっきり怒鳴ってたよね?

着ているのはキリスト教の牧師が着るような黒のガウン。めっちゃ似合う。


ちらりと周りを見回すと、騒いでいた他の人達は一様に口を閉ざしていた。なんだかばつが悪そうに。



「それはようございました。では、こちらは少々冷えましょう。まだ状況が呑み込めないかと思いますが、移動してもよろしいでしょうか?」



確かに、秋とはいえ今着ているのは部屋着。特に夾香は部屋で厚着をしたくないので、着ているのは黒のカーディガンと紺色のワンピースだ。ゴシックものを作るのにテンションを上げるためにこれにした。

が、足元は当然ように裸足である。


まぁいいやと思ったが、それより先に待ったがかかった。



「はい、構いません」



「ありがとうございます。では、おみ足に何も履かれていらっしゃらないようですので、愚弟子が失礼致します」



は?と思ったら、後ろから布を持った男性が近付いていた。



「申し訳ありません、失礼致します」



へ?と何か言う前にぱさりと上から布が降ってきた。かと思ったが、すぐに腕が回り、ひょいっと視線が一気に跳ね上がる。



「わあっ、ちょ、」



思わず彼の肩に掴まり、バランスをとった。



「失礼、肩か、首に腕を回すと楽ですよ」



「は、はい」



言われるがまま、彼の首に手を回す。

って、これお姫様だっこデスカ!?

初めてですよ!まさか体験できると思いませんでした!!

一気に顔が真っ赤になる。



「っ、お、下ろして下さい。歩けますから」



わたわたする夾香に、抱え上げた男性は苦笑した。

何だか小さい子どもを見るような目で。



「いえ、こちらの床は全て石造りですから、素足は危険です。何より、素足の女性を歩かせるなんてできませんから」



………なんだかものすごい正論をかまされました。

確かに普通なら、誰か、それも女性が裸足で歩いていたら何事かと思う。

確かに今の自分は裸足だし。


なんとか自分を納得させようとしている内に歩き出されていたので、もう言うのは辞めた。言っても無駄だろう。

そこでようやく夾香は今自分を抱き上げている男性を見ることが出来た。


淡い、日に焼け気味の金髪を短く刈り上げ、随分鍛え上げた身体つきをしている。細マッチョとかの細さはないが、しっかり、って感じだ。まず成人女性一人抱え上げて平然としてるってだけですごい。


多分だが軍人さん?と辺りを付けつつ、更に白人、ゲルマン系、欧米人あたりだと観察する。金髪は中々いないのだこれが。ヨーロッパはどちらかというと金茶が多い。


周りの調度品、内装を見てみると、ヨーロッパ風だが所々イスラム風のナニかが混ざったような感じだ。いや何がどんな風にと言われたら困るけど。


そもそも、一体何がどうなっているのか。



(…………お腹空いたな………)





※※※※※


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