事後承諾ってステキな響き・パートⅢ
パートナー。
特に夜会では、身分、年頃の釣り合ったお互いの恋人候補でもある。クリエイティでの夜会は一人での参加も認められているが、基本的に男性のみ。
女性のマイスターも存在するので、その場合は仕事のパートナーであることも多い。もしくは貴族のパトロンとか。
よって、マイスターである夾香が、王族のアクラシエル=フェースとパートナーを組んでもおかしいとは言われない。特にマイスターの初お披露目ともなれば、王族からの紹介になるのでパートナーでもおかしくない。むしろマイスターが女性の場合、国外からの大使に「このマイスターは我が国のモノだ」と印象付け易いから。
あ、逃げ道塞がれたわコレ。 あんな美人の横に立てとかなんの罰ゲームだ畜生。
「じゃが、オーランディアのマイスターとしてのお披露目でもある。我を使うがいい、それとも我では不服かえ?」
自分を使え───つまりそれは、アクラシエル=フェースをモデルとして、夾香の作品で飾り立てて良いという許可だ。
「まさか。光栄ですよ。ですが、幾つか条件があります」
「言うてみよ」
「当日の、服装から髪型まで、殿下の身に付けるものは私がコーディネートさせてください。デザインや材料も私が判断します」
コレが大事だ。
アクセサリーとはあくまでも付属物。トータルでコーディネートしなければ意味がない。服飾に関しても独学で学んでおいて本当に良かった。
余談だが、こちらの服飾文化をメインにした勉強もしている。アルマロス=ストレーガに頼んで資料を貰ったかいがあった。
「良かろう。我の予算を使うがいい。当日の衣装に関しても任せよう。我の衣装専門の者を寄越す故、その者に頼むなり聞くなりするがよい」
「ありがとうございます」
さて、久々に一点物のご依頼ですよーーー!!
※※※※※
基本的に、こちらでのマイスターの、もとい職人の人達の魔術の使い方は自分の道具である。
例えば室温、物の温度を一定に保つ為とか、。水を絶えず綺麗にしておくためとか。
魔術ならでは!だったのが<時間短縮>で一時間で一日の時間経過を観察できるというもの。これは耐久テストにも使えるそうな。
アルマロス=ストレーガという最高峰の人物が身近にいて、魔術が上達しないなんてことはないんです。ええ、生活魔術はおいといて、仕事に必要な魔術はなんとかなりましたよ!
夾香に与えられた自宅の工房で、作業を始める為に動きやすい服装に着替える。こちらの文化はわりと中世ヨーロッパ風が基本なので女性はフルレングスのドレスが基本。だから作業には不向き。
洋裁もかじったけど服一着仕立てるのは無理でした。取り合えずなんとか男装で妥協する。
いそいそと袖を捲り、金の塊に手を伸ばす。
「≪変形≫、≪分離≫」
魔術に必要なのは、自分のイメージ。過程と完成された最終形態だ。
用意してもらった金塊は、こちらの世界で一般的に使われているアクセサリー用の金属の塊。粘土のよーにここから変形させて作る。まだまだこちらでのアクセサリー作りほ基盤がしっかりしていない為、今回は簡単な物にした。
と、言うか一番見映えが良いモノを、と考えた時、あまりに既存のモノから逸脱したらヤバイと思ったからだ。
だから、金の土台に宝石をあしらうというスタンスは変えず、デザインで勝負する。
アクラシエル=フェースの当日の衣装は既に見せて貰て、イメージも固めてある。………不本意ながら夾香の分も対で作れとのお達しなので自分用も。
んでもって予算、デザイン、コンセプト、加えて当日のコーディネート含めて「任せる」とお言葉を頂いたので存分に行きますとも。
コンセプトは普段のアクラシエル=フェースに合わせて───というか正装もアラビアン風だったので、遠慮なくアラビアン風。アクセサリーの方は、華やかな薔薇をイメージしたかったのだが服に合わないので却下。本来なら蓮の花が良いだろうが今回は私が主役だから夾竹桃の花で。
今回の私の衣装はアクラシエル=フェース殿下の衣装のリメイクです。基本的にゆったりした服だから
意外になんとかなるなる。現在は殿下の衣装係の人経由で調整してもらってるから心配ナシ。
髪飾り、イヤリング、ネックレス、チョーカー、ブレスレット、帯飾り、アンクレット。パーツさえ作れれば、意外に何とかなるものである。
慣れない作業ながら、結構楽しい。自分の手の中で形が出来上がっていく過程が、夾香にとっては一番楽しい。
一通りパーツを作り終わった頃、作業部屋の扉がノックされた。
「マスター、少々よろしいでしょうか?」
「?はーい、何ですか?」
「アクラシエル=フェース殿下の女官のサラサがいらっしゃってます。夜会の衣装の件だそうですが、如何致しますか?」
「わかりました。では応接室の方へ案内をお願いします。それとお茶の用意を。私は少し片付けてから行きます」
「畏まりました」
※※※※※
「ご作業中失礼致しました。夜会の衣装がご注文通り出来上がりましたので、トルソーごとお持ちいたしました」
応接室で夾香を待っていたのは、艶のある金茶の髪にエプロンドレスの妙齢の女性。アクラシエル=フェースの衣装係という女官のサラサ。会うのは今回で三回目になる。
衣装係といえど、その実はアクラシエル=フェースの外観担当責任者でもあるらしい。衣装の管理は勿論、手入れやお直し、TPOに合わせたコーディネートも彼女の仕事なのだとか。
………今回は私の衣装までやっていただいて申し訳無いやら有り難いやらである。うん。
「ありがとうございます。失礼ですが確認させて頂きますので、暫くお掛けになってお待ちください」
丁度リカルドさんがカートにお茶の用意を持って入ってきたところだった。まぁ、案内してから準備してたらこうなるよね。
夾香は早速、サラサが持ってきた衣装に向き直った。構造を確認しながら、自分の出した注文通りかをしっかり見る。
「如何でしょうか?何か不備はございませんか?」
「いえ………デザインの方は両方とも大丈夫でしょう。これは一度殿下に袖を通して頂けましたか?」
「はい。よろしければお手伝い致しますので、オーランディア様も袖を通して頂けますか?」
「いえ、もし何か微調整があれば自分で致します。これならば何か直しも無いようですし」
実際、デザインのアレンジはしたが基本的にアクラシエル=フェースの寸法である。入らない訳がない。小物で何とかなるだろう。
そもそもそういうデザインにした。
「左様でございますか」
「トルソーと衣装は夜会の三日前までにお持ちします」
「畏まりました。…………申し訳ありませんが、オーランディア様に幾つか確認をしたいのですが、よろしいでしょうか?」
「?、どうぞ?こちらこそ、実は少々お話をお聞きしたくてお茶の用意を頼んだのですから。ご遠慮なく」
アクラシエル=フェースいわく、彼女を含めた王族の衣装係達は、服飾のマイスターであるらしい。
ならば、夾香は彼女達を敬うし、こちらの服飾文化に関しても聞きたいと思っていた。
「では、オーランディア様はクリエイティのご出身ではないと殿下から伺っております。何でも遠い遠い異国だと」
「はい、縁あってこちらで才を認めて頂けました」
「私は、次回の夜会でのお仕事はこの衣装をお届けすることのみでございます。───どのような作品を仕上げるのか、お聞きしたいのです」




