そこだけが違う
ここにいるこの私など、あの頃の私は想像すらしなかった。
金魚鉢の底から世界を見ているように、いつも私の世界は歪だった。真っ青な空を鰯の大群が泳いでいったこともあった。あるいはそれは象の大群だったかもしれない。それとも北の約束の地に渡る蝶たちの群れだったか。いずれにしても、そのものたちの影が流れている間にほんの少しだけ泣いた。でもそれはあまりにもわずかな時間で、おおむね私の時は止まったままだ。
誰よりもなつかしいひとも、たくさんの思いを抱えて、どこかで今、しあわせに生きていることだろう。
そして世界はいまやただの空洞に過ぎない。空も海も大地もいつの間にか消えた。宇宙すらその意味をなくした。
時は止まったままのはずなのに、私だけが枯れて消えゆこうとしている。
その醜悪さに喜びさえ感じながら。