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上役は遅れてやってくる

「係長、未だにわかんないんですかけど、なんで転生者の捕縛にわざわざ事務所勤務の私達が呼び出されなきゃならないんですか?」


「そこはほら、ギルド組織も色々都合があってね、メリッサ君」


 太陽が真上にある時間帯。街中にある地方警察署前で二人が並ぶ。

 ガンだらけになった男を捕縛。そのまま警察署へ連行し、預けてきた所た。男はこの後に中央警察省へ送られ法に乗っ取り罰せられるだろう。

 二人の姿はギルド事務所にいる時と同じスーツをまとっている。重い装備はとっとと配送馬車に頼んで送ってもらった。


「本来なら、こういった事例には同じ転生者の冒険者を当てて捕縛させてもいいんだけどね。一般警察官に転生者に匹敵する戦闘力の人材がなかなかいない以上、無駄に犠牲を出すのも得策ではないしね」


 現在、転生者の発生には様々な問題が付随している。その中でも特に注目されている点、犯罪を犯す転生者の存在が今回の主題だ。

 人によって基準は異なるだろうが、転生者には社会帰属意識が低いものが多い。前の世界の記憶がそうさせるのか、今の世界に馴染もうとする意識や成人として社会の一部を担おうとする考え方が余り無いものが多々いる。更には転生者の特徴であるチートと呼ばれる技能がその考えに拍車をかける。

 その意味では、冒険者は無軌道な転生者に非常に向いた、あるいはそれしかなかった職種であり、ギルド組織はその受け皿として重要な組織として存在している。

 そして、ギルド組織としては犯罪者になった転生者に対して有効な対抗策になるというアピールを政府にすることも大切な仕事だ。


「あくまで、ギルド組織と冒険者は別々の存在です。ギルド組織は冒険者をまとめ仕事を斡旋する側、冒険者はギルドに仕事を斡旋される個人事業者。力関係はギルドが常に上でなければ行けません。それを保持する為には、転生者の戦力に対しても我々ギルド組織が対抗できる能力があることをアピールしていかなければならないんです」


「はあ、早い話が冒険者ではなくギルド組織の人間で転生者共をシメてやらないといかんと?」


 どうにも胡散臭い話の流れに顔をしかめるメリッサ。不機嫌さが思い切り顔に出ている。


「はは、シメるですか。確かに平たく言えばそうですねぇ……」


 メリッサの不機嫌を感じ取り、タルギンの口調がしぼむ。そもそも彼女は安定かつ安全な職種を求めて冒険者からギルド職員に転職した人間であり、ギルド職員になってからこんな任務をやらされるとは考えていなかったのだ。


「東部ギルド社専属契約の転生者もいることはいるんですがね、今回はちょっと他の仕事で手が回らなかったんですよ。今日の仕事で多少は手当ても出ますから、我慢して下さいよ、メリッサ君」


 正直いえば、メリッサの魔術弓猟兵としての能力も買った上で雇った部分もあるのだが、とりあえず今は黙っておくことにした。


「今回だけにしてくださいよ。もうじきミーシャもうちに来はじめるんですから、あんまり危険なことをして万が一彼を巻き込んだらどうするんですか」


「ああ、そりゃもちろんだよ…‥そういえばミーシャ君が事務所に勤めるのが明日からだっけ。メリッサ君、ミーシャ君にはあれからきちんと謝ったのかい?」


「そ、それはもちろん……」


 つい先日、ミーシャに助けられながらも暴言を吐いてしまった記憶が蘇る。休養を取り、精神が落ち着いてくると自分のやったことに思わず死にたくなってきた。唯一の救いは、メリッサの謝罪をミーシャが優しく受け入れてくれた所ぐらいか。


――ていうかミーシャ君マジ天使……


 「メリッサさんに怪我がなくて良かったです」と、笑顔を浮かべるミーシャを思い出すと自然にメリッサの顔がほころぶ。メリッサには少年趣味はなかった、はずなのだが彼のことを考えるとなんとなく気分がよくなる。


「んん? どうしたのメリッサ君、急にニヤニヤし始めて。なんか怖いよ」


 急に頬が緩みはじめるメリッサにタルギンが怯える。


「え……いや、その、大丈夫です、はい。何でもありません。とにかくミーシャが来るなら彼に何をさせるか考えないと。悪い大人に何か吹き込まれたら大変ですよ」


 ミーシャの最初の希望は冒険者としてギルドに所属することだったが、さすがに若すぎるということでそれは却下された。

 代わりの案として、ギルドのアルバイトとして事務所を手伝ってみるというタルギンの案が採用され、明日からミーシャが学校の終わりにギルド事務所へくることに決まった。ミーシャの保護者へはミーシャが転生者だとは伝えず、ミーシャ希望の社会体験の一環としてギルド事務所を手伝ってもらうアルバイトだと伝え了承をもらった。

 メリッサが了承を貰うために両親に会ってみると、確かに邪気の無い仲むつまじい夫婦だった。それゆえにメリッサも、自らの秘密を両親に伝えることができないミーシャの苦悩がよりわかってしまう。


「うん、そのこと何だけれど……その、ミーシャ君と会うために、所長も明日から事務所に来ると言ってるんだよね……」


 タルギンが恐る恐る発言。直後、メリッサの表情が凍る。


「何 言 っ て る ん で す か 、タルギン係長! あの腐れ所長とミーシャを本気で会わせるつもりなんですか! 正気ですか!」


「ちょ、ちょっとメリッサ君、あんなんでも一応上司なんだから!」


 必死にメリッサをなだめるも、抑えが効かない。


「だいたいなんで所長に教えるんですか! 一年中どっかほっつき歩いて事務所にいること自体がまれなんですから、黙っておけば良かったんですよ!」


「いや、一応責任者なんだからきちんと書類で伝えなきゃダメでしょうメリッサ君! いや私もミーシャ君の年齢と見た目は伏せてたんだけど、どっかのルートでバレたらしくてね。急遽戻ってくる話になってしまったんだよ」


「なってしまったじゃないですよ! 事務所の中で性犯罪事件起こすつもりですか! 呼吸するように男女問わずセクハラする地獄の重機動セクハラマシーン何ですよ所長は!」


「と、とにかく、決まったことだから、君もミーシャ君の前で喧嘩したりしないように気をつけてね!」


 タルギンの声は、なかば悲鳴に近くなっていた。

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