国土無双
日も落ち、夜の静寂が包み込む東の国境、そこにイクスはいた。
「引いてくれたら楽だってのになあ…。」
ちょっと弱音を吐いてみる。イクスだって、戦うのが怖いのだ。始めて、盗賊の見張りを細切れにした時、罪の意識に押しつぶされそうになった。だが、大切な人を傷つけられたくない。
ーならば俺は、戦う時だけでも人間を…棄てる!
地平線に敵の軍勢が見える。数は昼の10倍くらいか…?
「『ロックウォール』!」
土属性のCランク魔法を唱える。ただし、通常とはちがい、無数の岩の壁が出来上がった。
ジョシュアの騎士隊隊長ランドマークは驚いていた。
ーもっと第軍勢で迎え討つのかと思ったのだが…
こちらに見えている限り、街の防衛に当たっているのは、一人のようである。
「敵は一人だが、おそらく策がある!油断するな!やれ!!」
その合図で地平線を埋め尽くす軍団が一斉に攻撃を開始した。
「ここから先は行かせない。…死にたい奴からかかって来い!」
イクスが二本の刀を抜き、軍勢の中に入っていった。
敵が切りつけて来た。イクスは時間系魔法『アクセラレーション』を自分にかけた。ただでさえ速いのに、さらに数倍の速度で動けるようになった。もちろん攻撃なんて当たらない。魔法を放つものもいた。イクスは瞬時に同じ魔法を発動し相殺していく。そして、超高速で近づき、斬り伏せていく。イクスが負ける要素が見つからなかった。
アポロニアSIDE
「すごいな、第0部隊は。」
第1部隊から第13部隊まで統轄する兵士長ミゼルがそう漏らした。
「すごいのは、主にイクス様の力なんですけどね。」
「そうよね、なんか今回も無傷で帰ってきそうなのに。」
「イクスさんのことでしょうから、また見たこともない魔法でも使ってるんじゃないですか?」
「私見たわよ、それ。魔力だけで刀を作ってたわよ。」
「やっぱり規格外ですね、あの人。」
「さすが私たちのボスね。」
「そうね。」
それぞれがそれぞれの反応をしているがこの間もいわゆる流れ弾である魔法や飛んで来た剣の破片などを魔法で弾いていた。ちなみに順番はルー、カノン、リッカ、オウカ、エミル、サラ、セラである。
一方、ランドマークはかなり焦っていた。これだけの人数を費やしてもたった一人に勝てないのか。このままではこちらがジリ貧になるだけだ。
「覚悟を決めるしかないな…。」
イクスは既に半数近くを撃破していた。
「さすがに数が多いな…。」
またあの隕石を落として辺り一帯を焼き払おうとした時、
「皆のもの、撤退だ!!殿はこの私が引き受ける!」
敵の隊長らしき男が前にでて来た。
「我が名はランドマークである!一方的な願いで済まないが、引いてゆく兵は見逃してはくれまいか?その代わり、私が貴殿との決闘を申し込む!」
「…いいだろう。俺も魔法は使わずに戦ってやる。」
2人は睨み合ったまま、膠着していた。どれほどの時が経ったのだろう、何処かの岩山が崩れた。それを合図に2人は前に飛び出した。ランドマークは人間としてはかなり速い速度で、突きを放った。イクスはそれをかろうじてよける。ランドマークはさらにその剣を払ってきた。
ガンッ!
イクスがそれを受け止める。次はイクスが二本の刀を左右から振り抜いた。
ギャリッ!
ランドマークはそれを盾で受け流す。さらに斜め上から袈裟斬りのように、剣を振り下ろしてきた。イクスはそれをよけカウンターを繰り出す…
そんな攻防が2分ほど続いた。だが、スタミナの面でランドマークにとっては厳しかった。そして、とうとう剣を弾かれてしまった。
「…私の負けだ。殺せ。」
「やだよ、あんたは指揮官なんだろ?ならば生きて戻れ。そして、いつかもう一度戦おう。あんたとの決闘は中々楽しかったからな。」
「…今は勝者の意思に従おう。だが、次はその首を頂く。その甘さが命取りだ!」
「やれるもんならやってみな。」
ランドマークも引いたことでパンドラの初舞台となった国境防衛戦はアポロニアの勝利に終わった。




