覚醒
イクスは森の中を全力で駆け抜けていた。
「くそっ、なんであいつが…!あいつになにかあったらここら一帯ツブシテヤル…。」
はたから見れば人の枠を完全に忘れているかもしれない。それも仕方が無いかもしれない。オウカがイクスに惹かれていたように、イクスもまた、オウカに惹かれていたのだ。最も本人は無自覚だが。
ー時は一時間程前に戻る。
「はあ?なんて?」
「だから、オウカがさらわれたのよ。私もアルさんも運悪く外出していて、ギルドには低ランク冒険者しかいなかったの。ほとんどの人が意識を失っていたんだけど、残った人たちが『サーチ』をかけたところによると、ここから東の森を抜けた洞窟に連れていかれたらしいわ。あそこはここらでは有名な盗賊『アンチレイズ』のアジトになってるの。アルさんは何故か王宮に呼び出されてるし、私が行くよりあなたがいった方が速いわ。だから、助けに行ってあげて!」
ユリの話を最後まで聞いてなかった。話の途中でイクスは東に駆けた。人間のものではないスピードで。
置き去りにされたルーはというと、
「話を途中までしか聞かないで…。もう完全に惚れちゃってますね。」
「そうだね、って焦らないの?友達なんじゃないの?あと、あなたルーなのよね?」
「そうですよ。今は人型ですが。イクス様なら大丈夫でしょう。とてつもなく強いですし。むしろ盗賊に同情するくらい。」
「へ、へぇ。かなり信用してるのね。まぁいいわ。私は王宮にいるはずのアルさんに連絡してみるね。」
そういうとユリはまた、ギルドの方に駆け出した。
そのころ、
「今度は守ってみせる。自分の大切な人を…。その為にもらった力じゃねえか!」
だから今度は逃げない、あの時と違って…。
「そしたら君たちは俺を笑わないかな、守、香奈…。」
イクスの身体から途轍もない量の魔力が溢れ出た。イクスは解除コードを唱えたのだ。魔力と一緒に意識の奥底から、魔法の知識も溢れ出す。これは…使える!
「『テレポート』!!!」
イクスが叫んだのを最後に森に静寂が戻った。
王宮では、アルがまた困った顔をしていた。呼ばれた理由はただの定期報告だが、今回は直接呼ばれた上に、何故か帰してもらえないのだ。
「いつになったらここからだしてもらえるのですか?」
近くにいた執事に聞いてみる。
「申し訳ありません。アル殿。理由は言えませんがあと一時間程は無理でございます。」
さっきからこの一点張りなのだ。怪しく思いつつも、待つしかないアルだった。




