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マジシャンな黒猫の辿る未来  作者: 金貨の騎士
王国からの使者
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第七章 蒼風、来る

フィノーラの口調をちょっと変えてみました。

 昔々、あるところに魔法使い達の村に小さな男の子がおりました。男の子は優しい家族と村の仲間たちにに囲まれ、とても幸せでした。


 ところがある日突然、男の子が住んでいた村に空白地帯を縄張りにしている筈の恐ろしい『化け猫』が現れました。村の人たちは魔法で戦いましたが村を襲った化け猫はとても強く、男の子の家族も仲間もみんな喰い殺されてしまいました。


 しかし、どういうわけか男の子だけは生きていました。化け猫は男の子が怒りと悲しみで叫ぶのにも関わらず、そのまま自分の住処へと連れて行きました。そしてこう言いました…。



『今の俺様はお前の仲間を食いすぎたせいで腹いっぱいだ。どうせだから、お前に呪いをかけて遊んでやる。そうだ!!お前も猫にしてやろう!!』


『嫌だ嫌だ!!僕は人間だ!!猫になんかなりたくない!!』



 男の子は泣き叫びました。けれども化け猫は聞く耳を持たず、怪しげな妖術で男の子は化け猫の姿に変えられてしましました。男の子はとても悲しくて大きな声で泣き叫びました…。


 すると、男の子の泣き叫ぶ声を聞いて誰かがやって来ました。なんと生き残った男の子を助け出すために、王国の騎士たちが化け猫の住処にやってきたのです。



『悪逆非道な化物め!!我々が成敗してくれる!!』

 


 勇敢な騎士達は多くの犠牲を出しながらも化け猫を見事に退治し、男の子を助け出しました。ところが困ったことに、化け猫が男の子にかけた呪いを解くことは誰にも出来ませんでした。男の子は再び泣いてしまいました。



『僕はもう元に戻れないの?そんなの嫌だよ…!!』



 しかし、男の子を助けた騎士の一人は言いました。



 『大丈夫、例え化け猫の姿をしていようと君は魔法使いの子だ。だって君は魔力を持っているし、魔法が使えるじゃないか。化け猫は魔力を持っていないし、魔法も使えない。だから安心するんだ』



 励まされた男の子は元気を取り戻し、そのままその騎士の元に引き取られました。男の子は自分を助けてくれた騎士にいつか恩返しをするために、必死で魔法の練習をしました。


 いつしか男の子は立派な若者に成長し、国一番の騎士になっていました。彼は国中の人間に称えられ、とても幸せな毎日を送りましたとさ。めでたし、めでたし。



 マルディウス王国童話集 六王家『ディレクトル家』推奨 『猫に呪われた男の子』より…






















---ドカアアアアアアアアアアアアアン!!



「ちょっと何してんの!?」



 あまり大きくない『ヴェルシア探偵事務所』にあるあまり広くないアストの部屋から響いた爆発音…。この事務所兼自宅の主であるフィノーラは慌てて部屋の扉を開いた。


 部屋の扉を開いて最初に脳が認識したのは特殊な薬品による異臭。手の加え方によっては玩具にも軍用にもなる危険な物である。それがアストの仕事道具…要は手品に使う小道具の数々のせいで一層狭くなった部屋に思いっきり充満していた…。


そんな部屋の真ん中でアストが試験管片手に咽ているのが目に入った。



「けほっけほっ…!!あ~ぁ失敗したなこりゃ…あれ、どうしたのフィノ?」


「どうしたの?はこっちのセリフ!!」



 こんな昼前から騒音響かせといて何を言うか…。それ以前に、アストが部屋で何かを爆発させたときは十中八九悩み事がある証拠であることをフィノーラは理解していた。 



「やっぱり、色々と思い出したの…?」


「……まぁ、ね…」



 先日の『猫じゃらし亭』での一件以来、フィノーラにはアストが無理をしているように見えた…。エリゼネアをフルボッコにしてゴミ捨て場に捨てた後も、ミレイナにお礼を言われても、昼食の続きを開始をしても…彼の笑顔にはいつもと違って影が差すようになってしまったのである…。


 理由は言わずもがな、アストの故郷『マルディウス王国』のことだ…。彼にとって、王国での記憶は碌なものが無い。故に、そんな場所から帰って来いなんて言われて落ち着ける筈もない。



「『猫に呪われた男の子』がやったことは、僕自身でも許せそうにない…」


「それはアストのせいじゃ無いでしょ…?」



 『猫に呪われた男の子』…それは王国で最も有名な悲劇の象徴であり、亜人迫害の大義名分である。そして何より、今フィノーラの目の前に居る黒髪の青年のことだ…。



「それでも、『猫狩り』の原因は僕に変わりない…。ミレイナの言うとおり、僕は生まれてくるべきでは無かっ……へぶっ!?」



 突然フィノーラがアストの頭にチョップを叩き込んだ…。見た目からは想像できない威力にアストは頭を抱えて床をゴロゴロと転がり回る…。


 

「今の言葉、ミレイナの前では絶対に言っちゃ駄目だよ?彼女、それをあなたに言ったことを死ぬほど後悔してるんだから…」



 やや不機嫌な口調で頭上から投げかけられた言葉に、アストは悶えるのを止めた…。


 初めてミレイナに出会った時、『猫狩り』によって家族を亡くした彼女は自分のことを心から憎んでいた…。出会い頭に怒りと悲しみに染まった表情で、ナイフを振りかざして襲ってきたのは今でも鮮明に覚えている。


 その時にミレイナは怨み言を語りながら襲ってきたので自分は彼女の素性と理由を知ることができた。同時に、『猫に呪われた男の子』という存在が何をしでかしたのかも…。



---『あんたさえ居なければ誰も死ななかった!!あんたは生まれてくるべきじゃなかったのよ!!』



 その時の言葉は自分の心を深く抉った…。その時ばかりは良くも悪くも昔から悩み続けていた疑問・・に決着がついてしまうのではとさえ思った。結局その時は、アストに勝てないと悟ったミレイナの逃走により何もかもが中途半端に終わったが…。



「……あぁ、そうだったね。彼女は何故かこの事を僕以上に気にしてるんだった…」



 しかし、数年後…彼女と再び出会った時に彼女は態度を一変させていた。それどころか自分にしたことの全てを謝罪してきた。


---どういうわけか『猫に呪われた男の子』の真実まで手に入れて…


 一応それからは今と同じような態度で接しているのだが、何かと分からないことが多い…。どこで『猫に呪われた男の子』の真実を手に入れたのかも、どうしてそれだけで許す気になったのかも、彼女が自分に好意を抱く理由も…。



「なんで彼女はあそこまで変わったんだ?あの数年で何があったんだ…?」


「……さぁ…」



 アストは考え事に耽ってたせいで、何故かフィノーラが目を逸らしたことに気がつかなかった…。



「…でもね、アスト。それを抜きにしても『生まれてくるべきじゃなかった』なんて言わないで……」


「え…?」



 そう言ってフィノーラはアストに抱きついてきた…。いきなりのことにアストは思わず固まってしまったが、フィノーラはそれに構わず言葉を続けた。



「確かに『猫に呪われた男の子』のせいで不幸になった人は多いよ…。でもね、あなたの御蔭で幸せになった人もいっぱい居るんだよ?」



---戦場以外の居場所を見つけれなかった少女…


---復讐にとり憑かれた空賊…


---家族を失った亜人…


---悲しみに暮れた子供達…



「何より私は、そんなアストの過去を含めて全部を愛してるんだよ?…だから、あなたは生まれてきてよかったの……幸せになっていいの…」


「……フィノ…」

 


 アストはそっとフィノーラを抱き返していた…。彼女の言葉で心が幾分軽くなった気がする。


 本当に自分は何をさっきまでウジウジしていたのだろうか…?もうとっくに迷わないと決めた筈だったのに、忘れかけていた過去を思い出しただけでこの体たらくとは……我ながら情けない…。


 まぁ、その御蔭で彼女に惚れた理由を再認識できたが…。それはさておき、抱き合った姿勢のまま互いに顔だけ少し離して目を合わす…。



「…ありがとう、フィノ」


「元気出た?」


「お陰様で。心配かけてごめんね…?」


「気にしなくていいよ。これがあなたに"惚れられた私"で、"惚れた私"なんだから…///」



 顔を真っ赤にしながら言うのは反則だと思う…。思わずもう一度ギュッと抱きしめたくなった…。というか、お互いに色々と抑えきれなくなってきたかも……。



「……フィノ…」


「アスト…」



---二人は見つめ合い、視線を逸らさず、ゆっくりと顔を近づけ、そして…  














「…いい加減にしろよバカップル」


「「ッ!?」」



 互いの唇を重ねる直前に投げかけられた第三者の声…。アストとフィノーラは思わず体をビクリ!!と跳ねらせた。声のした方を見ると、部屋の入り口にうんざりした表情をしながら金髪で蒼い目の若い男が立っていた…。


 アストとフィノーラはこの男のことをよく知っている。それはもう、うんざりする程知っている。



「…人の家に不法侵入とはいい度胸ね?」


「呼び鈴を鳴らしても出てこない上に鍵は開けっ放し、しかも何かが焦げた臭いがしてたから心配して様子を伺いにきた挙句にバカップルのイチャツキを見せられた善人に対する第一声がそれか…」




---彼は空賊だ。それも世界で最も有名な大空賊だ…




「ははは、何を言ってるんだいヴァン?君が善人だったらこの世に悪人は存在できないよ?」


「よ~し、表に出ろテメェら。肉体言語でお話だこの野郎…」




---彼は親友だ。それも世界で最も頼もしい親友だ…




「…まぁ、冗談はここまでにしようか?」


「そうね、とりあえず…」


「久しぶりだな二人とも、そして…」




---突然の事故、偶然重なった任務、ただの気まぐれ。些細なキッカケが幾重にも重なり、3人はまるで引き寄せられるかのように出会った…。




「「「元気そうで何よりだ、死に損ない…!!」」」

  



 かつて空白地帯で遭難し、共に死に掛け、共に生き抜いた3人は互いに笑みを浮かべてそう言った。



















「で、何しに来たんだい?」


「仕事と私用と寄り道だ」



 場所を探偵事務所の応接室に移し、アストとヴィリアントの2人は茶を飲みながら談笑していた。最初のやり取りはいつものことなので今はもう完全におくつろぎモードである。


 因みにフィノーラは出かけてしまった…。3人で昔話でもするつもりだったのだが、突然事務所の電話が鳴ったのである。その内容はやはりと言うか仕事の依頼であり、しばらく悩んだ彼女だったが依頼料が良かったらしく、渋々とそれを受けた。



「そういえばこの前、『蒼風一味』の名前を聞いたけど?」


「うちの?」


「建設会社社長の愛娘誘拐未遂」



 空賊『蒼風一味』…それは世界を又に駆けて悪逆非道の限りを尽くす犯罪組織の総称である。世界中の犯罪組織の大半は『蒼風一味』と関わりがあるとさえ言われているくらいだ…。


 そんな一大組織を纏め上げているのが彼…『ヴィリアント・リーガ』である。いつのまにか空賊として名乗りを挙げ、気付いた時には空白地帯を根城にする空賊達の大半を傘下に収めていた。しかも彼はそれだけに止まらず、王国と帝国のマフィアや密輸組織にまで繋がりを持ち、今ではその勢力を完璧に測定することは不可能とさえ言われている。



「誘拐?…あぁ、『シャドウ・グラン』の奴らか。」


「反応が薄いね。ということは、"名前を売った"奴らだね…?」


「御名答。しっかりとカモらせてもらった」



 蒼風一味の勢力が測定不能な要因のひとつに、彼が別の組織に『蒼風を名乗る許可を売っている』ということが挙げられる。商売をする際にネームバリューが重要なのは表の世界でも裏の世界でも共通である。その際、裏世界の一流の代名詞である『蒼風』の名を欲しがる組織は腐るほどいるのだ。


 そこにヴィリアントは目を付け、『蒼風』を名乗る許可を売ることにしたのである。無論、馬鹿で無能な輩には普通に売りつける気は無い。売る相手をある程度値踏みし、結果によっては『蒼風』の名に泥を塗られる前に、代金を受け取った瞬間に壊滅させることもざらにある。



「まぁ、今回は誘拐とか言ってたからな…。許可代と身代金を頂戴して後はサイナラしてきた」


「…どうりで『蒼風』の割に手際が悪いと思ったよ……」



 あの誘拐事件のことをカザキリに後から聞いてみたところ、脅迫電話で手がかりを残した間抜けは、誘拐犯の仲間達を裏切って身代金と依頼の前金を持ち逃げしながら一人雲隠れしたそうだ。それを聞いてからもしやと思っていたら案の定である…。



「念のためうちの直属を一人忍ばせといたのさ。奴ら、思ったとおりのヘボ組織でな…早々に潰れてもらったよ」



 ついでに言うと、ヴィリアントの直属である組織は何処も"蒼風を名乗っていない"。それ以前にまず本物の『蒼風一味』は船一隻分・・・・の戦力しか無い。あとは信頼できる同業者が傘下に入ってるだけであり、しかも彼らは配下や部下というより"同業者や組合仲間"と言った方がしっくり来る。



「そうか。まぁ、君みたいな変わり者は少ない方が丁度いいか…」


「それは褒めてるのか…?」


「一応ね」



 彼ら『蒼風一味』は堅気には絶対に手を出さない。そればかりか空白地帯の住人達を守っていたりするくらいであり、何故彼らが犯罪者呼ばわりされているのか疑問に思う時さえあった…。


 彼らにとってのカモが国軍の輸送船や戦艦ばかりと聞かなければだが…。



「…さてと、そろそろいいかな?」


「何がだ?」



 手に持っていたティーカップを置き、目を細めながらヴィリアントに視線を向けるアスト。彼の突然の反応にヴィリアントは怪訝な表情を見せた…。



「とぼけるな。王国の人間がやって来た翌日に、いきなり君が現れるなんて偶然があるものか…」



 いくら冷戦状態とはいえ、エリゼネアのような王国の人間がホイホイ国を行ったり来たりできるような御時勢ではない。さらに言うなら彼は大空賊であり、似たようなものである。


 そんな二人が連日立て続けに現れるなんて偶然、簡単に信じる気は無い。



「俺達3人という前例があってもか…?」


「……あれは例外中の例外だろう…?」



 野生竜討伐の任務中に空賊船が竜の巣に墜落し、怒らせた竜から逃げた先で偵察任務中の帝国軍特殊部隊と鉢合わせしたあと、3人仲良く遭難するなんて偶然がそうあるわけ無い……と、思う…。



「やばい、自信無くなってきた…」 


「俺だって予想外だったよアレは…」



---しかも、その後にフィノーラと相思相愛の恋仲になるなんて、当時の3人は絶対に予想していなかっただろうに…。



「ま…安心しろ、お前の予想は当たっている。カリーヌ嬢は俺がこの国に連れてきた。この間から本格的に王国側につくことにしてな、今は王国の人間3人の密入国の手引きと護衛…いや、召使いの依頼を受けたところなんだよ…」


「…君が王国の味方を?」


「意外か…?」


「そりゃあ、ね」



 正直言って信じられなかった。彼は王国のことを相当嫌っていた筈なのだが…。彼のことだから、どうせ裏があるのだろうけど…。



「色々と理由があるのさ。余裕ができたら教えてやる…」


「期待せずに待ってるよ」



 アストはそれ以上深くは聞かなかった。問い詰めたところで、彼はきっと最後まで教えてくれないのだろう…。それに、ヴィリアントは何だかんだ言って自分達の親友である。親友は信じてやるのがアストなりの礼儀だ。


 なんて思いながら再び視線を戻したとき、どういうわけかヴィリアントの表情がいつの間にか真剣なものへと変わっていたことに気付いた…。 



「そんで、今から言うことが本題なんだが…」


「ん?」


「とりあえず、今回の俺の依頼主からお前宛に手紙を預かっている…」



 そう言って彼は懐から一枚の封筒を取り出して渡してきた。ヴィリアントが言うからには中身は何らかの手紙が入っているのだろう。しかし、思いのほか彼の表情が真剣なので読むのを躊躇ってしまった。


 しかし読まないわけにもいかない気がしたので、意を決して封筒を開封して中身を確認する。緊張を紛らわすために紅茶を口に含んで文章に目を通す……すると、そこには…








『親愛なるフランデレン卿へ


 異国の地にていかが御過ごしでしょうか?私はそれなりに元気でございます。


 先日は私の同僚が大変ご迷惑をお掛けしました。誠に申し訳ありません。後日『猫じゃらし亭』の主人には改めて謝罪に向かわせていただきます。


 つきまして、今回の非礼の謝罪と御詫びを兼ねて逢引・・の御誘いをしたく存じ上げます。時間は本日の正午、場所はカフェテリア『グランモーゼ』です。くれぐれも遅刻なさらぬようにお願いします。


 それではお待ちしておりますよ、先輩・・



 追伸・来なかったらコッチから行きますので御心配なく。


                      王家直轄魔導隊 アイカ・クラリーネ一等武官』



 






---アストは勢いよく紅茶を噴き出す羽目になった…



次回、修羅場と戦場再び…。

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