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マジシャンな黒猫の辿る未来  作者: 金貨の騎士
王国からの使者
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第五章 来訪者

急展開

 『化猫族』はかつて空白地帯の北東部、それも王国寄りに多くの集落を作っていた亜人のひとつだった。


 彼ら亜人は『妖力』という特殊な力を所持していたが『魔力』は持っていなかった。そのため、亜人達は魔法主義国家の人間に蔑まれる存在であった。


 例に違わず化猫族もそうであったが、"とある少年"の誕生をきっかけに、それは差別から迫害へとエスカレートする形となってしまった…。


 その結果、今この世界に化猫族はごく僅かしか生き残っておらず、ミレイナもその被害者の1人であり、そのきっかけを作った『猫に呪われた男の子』を憎んでいた……のだが…。




「アストさ~ん♪」


「アストから離れろぉ!!」


(…いつからこうなったんだっけ?)



---かつて自分を殺したがってた筈の少女は、何故か自分に懐いているのである…。




「だいたい料理持ってくるの早すぎでしょ!!」


「ふ!!ちょうど他の客が同じものを頼んでたから、それ持ってきたのよ…!!」


「いや駄目でしょ、それ…」



 結局あの後、二人はアストの両隣に座ることで落ち着い…てはないが、とりあえずそれで妥協した。ミレイナは『化猫族』特有の猫耳と尻尾をピクピクさせながら御満悦の表情を浮かべ、アストを挟んで反対側に座るフィノーラはどことなく不満気である…。 いわゆる両手に花状態の彼は三人分のグラスに水を淹れながらタメ息を吐いた…。



 出会ってから約4年…長いようで短い時間の中で和解できたのは素直に嬉しい。


 しかし、何故ここまで?…理由を尋ねても彼女は結局教えてくれないので謎のままである…。



「大丈夫です!!全てジェームズに丸投げしましたから!!」


「…今度何か奢ってあげよう」 


「え、本当ですか?」


「君じゃないよ…」


 ミレイナにフライパンで殴られ、血を垂らしながら接客に勤しむ彼の姿を思い浮かべると気の毒でしょうがない…。しかも彼がこういう扱いを受けることは一度や二度では無く、その度に涙目になって帰っていく後姿はなんとも哀愁が漂っており見る者を同情させた…。


 同時に何で別の店に行かないのか不思議でしょうがないが…。



「まぁ、いいや…。ところで今日のメニューは何かな?」


「え~っとですねぇ、『若鶏の唐揚げダブルソース和え』です。」


 ひと悶着あったせいで意識の外に追いやっていたが、運ばれてきた料理はやはりと云うか美味しそうであった。揚げたての唐揚げが乗った皿の隣には二つの容器が置いてあり、その中に白と赤のソースが一種類ずつ入っていた。唐揚げから昇る白い湯気とソースから漂う香りが一層に食欲を掻き立て、腹の虫が再び鳴り響く…。



「おぉ~これはまた美味しそうだ。流石だねミレイナ。」


「いえいえ~♪」


「このソースをかければいいのかな?」


「えぇ、まずは何もかけずに一個。次にソースを一種類付けて一個。もう一種の方もつけてさらに一個。最後に残ったのは両方混ぜて付けるのがオススメですよ!!」


 

 基本的にこの店の日替わりメニューはミレイナの試作品であり、好評ならレギュラーメニューとして翌日から追加されることになっている。きっとこれもそうなるだろう…。


 まぁ、人気が無くてもアストが美味しいと言ったものは必ずレギュラーに昇格するのだが…。


 

「ま、また差が広がってしまったのね…」

 

「イヤ差うんぬんの前に、あんたは食材の処理はできても料理ができないでしょ?」

 


 俗に言う女スキルが皆無に等しい自分…それを改めて認識して落ち込むフィノーラであった。訳ありで女らしさとは無縁の半生を送ってきたため他の女性と比べるとブッチギリで劣っており、ミレイナ等の家事や料理ができる女性に対しては羨ましさと憧れを感じるのである…。


 今は食欲補正のせいで負の感情はこれっぽっちも抱いてないが…。その証拠に、彼女の両手には既にナイフとフォークが握られている…。



「…ふ、今日はこの唐揚げに免じて食べてあげる」


「あんたがうちの店で何か食べ残した記憶ないんだけど?」


「何はともあれ早速いただきま………」



 


---バタン!!





 突如、予約専用であるの個室扉が開け放たれた。音に驚いたせいでミレイナはビクッ!!と身体を震わせて軽く飛び上がった。 


 その時に耳と尻尾が完全に逆立ったせいで本物の猫に見えてしまたのは内緒である…。


 てっきり客をさばき切れなくなったジェームズがミレイナを呼びに来たのかと思ったが違った…。



「……ようやく見つけましたわ…」


「…どちらさん?」



 そこに立っていたのは男ですらなく、ましてやこの街の住人でも無かった…。



「失礼、申し遅れました。私の名前は『エリゼネア・カリーヌ』、以後お見知りおきを…」



 長い金髪を伸ばし、紫色の瞳でこちらに視線を送りながら御辞儀を返す若い女性。その動きはとても洗練されており、優雅でさえあった。


 しかし、アストは彼女の名前を聞いてからは嫌悪感しか抱いていなかった…。



「…『カリーヌ』だって?……そうか、そう言うことか…」


「えぇ、そう言うことです…」 



 本当に面倒なことになった…。隣に座るフィノーラとミレイナも彼女の正体が分かったようで警戒心と殺気を滲ませ始める…。


 なんせ彼女の所属するであろう国家は、自分達にとって特別な存在なのだ…。




---1人は家族の仇として…



---1人は祖国の宿敵として…



---そしてもう1人は、己の半生を過ごした場所として…




「…で?今更『マルディウス王国』の魔導兵が何の用かな?この、しがないマジシャンなんかにさ……」


「御謙遜を…かつて『若き大魔術師』と呼ばれたあなたが何を言うのです?……それに、用件なんて決まってますわ…」



---かつての同胞…エリゼネアは一拍置いてから口を開いた…。



「王国軍魔法近衛騎士隊、アスト・フランデレン一等武官…。六王家が一角、インダルディア家の銘によりあなたを御迎えにあがりました」



---全て置いてきた筈の過去が、今の平穏に牙を剥き始めた瞬間だった…

続く

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