彼らの思いとは裏腹に…
私は騎士だ。あらゆる脅威から国と民を守り、戦い続ける“ただの騎士”だ…。
そのために帝国の機兵や起動兵器、亜人や原生生物を何匹も、何人も、何体も屠って来た。あらゆる敵を、あらゆる相手を退けてきた私はいつしか『最強』の称号を授かっていた。
それを誇りに思ったことは一度たりともない。
私が貰ったその称号は、誰よりも多くの命を奪った証に他ならないのだから…。
それでも私は戦い続けるしかない。私の取り柄がそれ以外に見つからない限り、私はこの先もずっと誰かの命を奪い続けていく他ない。
そう思っていた…。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「全く運が無いな…」
雨に打たれながらそうボヤキながらも、彼は空白地帯の森林地帯を一人でズンズンと進んでいく…。
王国の脅威になる勢力が付近に存在していないかを確認するために定期的に言い渡される哨戒任務。個人的で色々な事情なため、本来なら10人程度の小隊を組んで行うそれを彼は単独で行っていた。
「この付近は粗方調べ終えたことだし、次は…」
地図を広げ、自分の位置と残った探索地点を確認しながら今後の行動範囲を考える。雨風は先程から魔法で簡単に防いでいるが、やはり鬱陶しいものは鬱陶しい。さっさと終わらせたいところである…。
「…ん?」
その時、職業柄鋭くなった自分の勘が何かを告げた。これは自分が最も嫌う、誰かに迫る死の気配だ。しかし、この世界の戦場ともいえる空白地帯では珍しくないことである。今自分が居る場所は王国の近くであり、帝国兵はほとんど存在しないので王国兵(味方)が窮地に陥っているということも無いだろう。さしずめ、原生生物か集落から逸れた亜人か何かであろう…。
―――キィンッ…!!
「ッ!?」
しかし、それは間違いだったようだ…。今感じた気配は間違いなく自分が慣れ親しんだもの、魔力の気配である。しかも恐らく『防御魔法』を行使している。どう考えても危険な状況ということだ…。
「その上、随分と荒削りな魔法だな…長くは持たんぞ……!?」
どうしてこんな場所に居るのかは知らないが、この魔法の使用者はかなりの初心者のようだ。急がねば手遅れになる…。
「魔導式【エア・ライン】!!」
魔法で己の身体能力を強化し、一気に駆け出す。幸い、魔法の使用者はそれほど離れた場所に居るわけでもなさそうだ…。
(間に合ってくれよ!!)
その瞬間、周囲の光景が目まぐるい勢いで変化していく。立ち塞がる木々を超え、避け、飛び越え、少しも止まることなく走り続ける…。
―――そして、彼との出会いはすぐに訪れた…
「アレか…!!」
そこに辿り着いて最初に目に入ったのは、ドーム状に展開された青白く輝く防御魔法。そして、それをひたすら殴り続けている…。
そいつは3メートル近い体躯と、生き物とは思えないような鋼色の体毛を持っていた。実際、その体毛は鋼並の頑丈さを誇ることを自分は知っている…。
「『オオヨロイグマ』か!!」
この空白地帯でそれなりの脅威を持つ原生生物である。相対すれば、初心者どころか一般の魔導兵でさえもかなりの危険が伴うことになる。が、自分にとっては別の話…。
オオヨロイグマがこっちに気付き、振り向いた時には既に準備は終わっていた。
「消え失せろ、毛皮風情が!!」
―――魔術式・破弾空爆
『グギャォッ…!?』
限界まで圧縮した空気の弾丸をオオヨロイグマに放つ。放たれた空気の爆弾は熊の鼻先で破壊の嵐を開放した。中途半端な声を上げることしかできず、炎無き爆発によって熊は遥か彼方まで吹っ飛ばされていった。
「…今度会った時は、鍋の具にでもしてやるよ」
さて、急いだ割には随分とあっ気なかった。さしずめ目の前で青白いドームに包まれている人物も同じようなことを思っているかもしれない…。
「おい、もう大丈夫だぞ?」
安心させるようにそう声を掛ける。すると展開されていた防御魔法は、一瞬の間を置きながらも解除された。消えるように消滅していく青白い光のドーム…そこから現れた二人の人影は、何故か“自分に対して”怯えた表情を向けてきた。しかも…。
「……え…?」
光のドームに居たのは間違いなく魔法を行使した存在。そして、それに守られていた者。その証拠に、二人の内の片方からは間違いなく魔力が滲み出ている…。
しかし彼らは、本来なら魔法使いが持っていない筈のものまで持っていた…。
「猫耳に尻尾…?……お前ら、化猫族なのか…!?」
―――魔力を持った化猫族の少年『アスト』と、王国最強の騎士と謳われた『レイナード・フランデレン』が出会った瞬間であった…。




