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マジシャンな黒猫の辿る未来  作者: 金貨の騎士
猫に呪われた男の子
21/23

それを望むには遅すぎて…

更新ペースが周一になりそう…






―――大人達は言った…『君の弟が生まれた』と…



 それを初めて聞いた時、俺はリリエナの時と同じように心の底から喜んだ…。


 新しい家族を迎え、また新しい日常を送ることがとても楽しみでしょうがなかった…。



―――大人達は言った…『君の弟は魔力を持っていた』と…



 それを初めて聞いた時、俺はわけが分からなかった…。

 

 幼い時から散々聞かされ続けてきた『怖いモノ』を弟が持っているということが信じられなかった。



―――大人達は言った…『君の弟は悪魔の子だった』と…



 それを初めて聞いたとき、俺は何の疑問も抱かなかった…。

 

 悪魔たちと同じ力を持っているのだから、当然あいつも悪魔なんだと簡単に受け入れた。



―――大人達は言った…『あいつは危険な存在だ』…



 それを初めて聞いた時、俺は心の底から賛同した…。

 

 あいつを小屋に閉じ込めることに反対する者は誰も居なかった…。



―――大人達は言った…『アレは殺すべきだ』と…



 それを初めて聞いた時、俺はそれを言った奴と同じことを唱えていた…。

 

 父さん、母さん、そして村の皆があいつを殺すべきと唱えた。けれど、俺たちの力になるかもしれないということであいつを殺すことは先送りにされた。



―――大人達は言った…『悪魔の下僕、リリエナも殺すべきだ』と…



 それを初めて聞いた時、俺は血の気が引いた…。

 

 妹はれっきとした化猫族だ。魔力なんか持ってないし、俺以上の資質と才能だってある。そして何より優しくて、良い子で、大切な妹なのだ。そんな妹を殺すべきと唱えた大人達に俺は恐怖を覚えた…。


 狂ってる…村の大人達は狂ってる。誰かがやらなきゃいけないことをリリエナがやった…ただそれだけのことなのに、大人達はリリエナを殺せという…。


 俺は、そんなこと認めない。あの狂った大人達から必ずリリエナを護ると誓いながら、俺は悪魔の子が住む小屋へと全力で走った。けど、この時の俺はまだ知らなかったんだ…。










―――俺は、とっくの昔に大人達・・・になっていたことを…







◆◇◆◇◆◇◆◇◆







「どう…して…!?」



 妹はただただ狼狽え、混乱していた。無理もない…ある日前触れも無く突然に、村の仲間達が自分の事を殺そうとしていると聞かされたのだから…。


 だが、悪いが今はそれを気にかけてやる余裕も時間も無い。自分がこの話を知ることが出来たたのは、村の大人たちが話し合っているところを偶然盗み聞きしたからに過ぎないのだ。リリエナまでもが殺されると聞いた瞬間、自分は無我夢中で『悪魔の小屋』に駆け出した…。



「とにかく、お前はほとぼりが冷めるまで村を離れろ!!その間に俺がどうにか…」


「そんな……どうして…どうして…!?」


「……どうして、だって…?」

 


 まるでうわ言の様に『どうして』を繰り返すリリエナ。しかし、彼女が殺される理由なんて分かりきっている。全ての元凶は、今目の前でキョトンとしているこの…



「お前がコイツの世話を積極的にやってたからだろ!!村を呪いかねない悪魔の子なんかに優しく接したりするから、村の大人たちは皆お前の事を同じように…!!」



 村の住人だけでなく全ての亜人達が恐れ、憎む存在…『魔力』。その魔力を持って産まれた悪魔の子が、魔力に対して亜人達が抱く負の感情を一身に受ける羽目になったのはある意味必然であった。

 同時に期待されていたのも事実。今まで魔力を持つ魔法使いたちに虐げられる一方であった亜人達の希望にもなるかもしれなかったからだ。だからこそコイツは今まで生かされてきた…。


 しかし、それも今日までだ。村の大人たちは、この5年もの間で悪魔の子に対する感情が『魔法使いに対する切り札』としての期待・・より『得体のしれない化け物』としての恐怖・・が上回ったらしい。

 多数の者が定義したものと反する価値観を持った者は自然と迫害されるものだ。リリエナの場合も、村が定めた『恐怖』に笑顔で接していたからに他ならない。


 リリエナは知らないだろうが、この数年で村を追いだされた奴らは何人も居る。そしてその全員が悪魔の子に同乗の言葉を呟いたもの、憐れんだ者だったことを自分は知っている…。






「違う!!私が聞きたいのはそっちじゃないの…!!」

 


「…何?」



 ところが、リリエナが聞きたかったのはそんな言葉では無かったようだ。彼女が『どうして』と尋ねたのは自分が殺される理由では無く…



















―――何でアストが殺されなきゃならないの…!?





「……何を…言ってるんだ、お前は…?」



 自分を含めた村の者全員が口を揃えて『考えるまでも無い』と答えそうな疑問をリリエナは自分に問いかけてきた。しかし何故だか分からないが、その言葉はやけに自分の頭に響いた…。




「こいつは悪魔に呪われた子だ!!殺されてとう…」


「アストは何もしてないのよ…!?」




―――コイツがこの世に生を受けて5年経つが、大きな事件も災いも無かった…。




「だが、こいつは…魔力を持って…悪魔の力を持って……!!」


「私はアストと毎日過ごした!!でも呪われたりなんかしなかった!!」




―――大人たちが言っていた呪いなんか無かった…。




「でも、村の大人たちが…!!」


「だったら…だったら、どうして私のことを大人達から逃がそうとするの…!?」




―――俺は今まで何をしてた…?




「それは…お前が妹だから!!お前が悪魔の下僕なんかじゃないと知ってるから…!!」


「アストだってそうよ!!この子は悪魔なんかじゃない!!」




―――コイツは悪魔の子…




「けど…けど、アストは……!!」


「アストは私の…私たちの弟よ!!」




―――考えるまでも無い事?…違う、考えようともしなかっただけだ…









「兄さんも、父さんも母さんも…村の皆も王国の魔法使いと何も変わらないわ!!魔力を持っているからって…それだけで全てを決めるなんて…!!」


「ッ!!」





 次々と突き刺さる妹の言葉。大人達に心から反発した今だからこそ理解できるその言葉の数々…。



 大人達の言葉を鵜呑みにし続け、自分は今まで何をしてた…?…何を考えた…?少し現実を直視さえすれば、コイツを恐れる理由も憎む理由も無かったじゃないか…。



 なのに俺はコイツを何と呼んでいた…?





「俺は…俺は……」 



「ッ!!逃げるわよ、アスト…!!」



「ね、姉さん…!?」




 リリエナがアイツの手を力強く握りしめ立ち上がる。彼女は最早、俺と目を合わせることも無く足早に横を通り過ぎて行った。そして、彼女に引っ張られながらアイツも俺の横を通り過ぎていく…。


 その間際アイツは…俺達が悪魔の子と呼び続け、蔑み続けたアイツは戸惑った表情を浮かべながら此方に視線を向け、そして……。





「……えっと…」


「ッ!!」








―――五年間…この世に産まれてずっと彼(弟)を人として扱おうとしなかった家族(兄)



―――今更になってやり直しを望もうとした俺は、既に取り返しのつかないとこまで来ていたことを自覚する羽目になった…。














「さようなら、“知らない”お兄さん…」











 これが“生まれて初めて”弟の口から聴かされた言葉だったと気付いた時には、愛すべき妹も、大切な弟も俺の前から姿を消していた…。


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