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第十五章 魔法近衛騎士隊 前編

戦闘描写はやっぱりキツイ……そして、まさかの分割…

「な、何なんだテメェは…!?」


「失礼。最近この辺りに越してきたアイカ・クラリーネと申します。以後お見知りおきを…」



 プロの戦闘集団である自分達の背後を取り、殺気をぶつけられてもまるで動じることの無いアイカの様子を見て草薙衆の4人は警戒心を強くした…。


 直属の上司から言い渡された命令を遂行させるためにこの魔窟都市へとやって来たが、ここに来てからというもの碌なことが無い…。



「名前なんざ訊いて無ぇ!!テメェが何者かって訊いてんだ!!」



 仲間の一人がアイカと名乗った女に詰め寄っていく。その僅かな距離を縮める短い間も彼は口を閉じずに喋り続けた。



「俺達は帝国随一の戦闘集団、草薙衆だぞ!?分かってんのか!?」


「帝国随一?帝国最強の座は対魔装甲機兵団のものでは…?」


「テメッ…!!」 



 血の気の多そうなソイツは、明らかに怒ったような表情を見せながら右拳を振り上げた。そして…。 







―――左手・・で抜き放った刀を彼女の首目掛けて振り抜いた…。







 本来なら絶対に避けられないようなタイミングと速度で振りぬかれた刃。しかし、夜の住宅街に響いたのは肉を切り裂く音では無く…。





―――ガキィンッ!!




「…小物臭い台詞の割に殺気が強いと思ったら……成程、不意打ち狙いでしたか…」


「……貴様、本当に何者だ…?」



 本来の口調に戻った彼にさっきまでの三下風な雰囲気は微塵も無くなっていた。完全に格下を装い、自身の本当の実力を隠しながら接近して必殺の一撃を叩き込む。彼はこの方法で幾度も標的を仕留めてきたのだ…。


 それに対してこの女は瞬時に反応し、自身の真横に地面から鋼の壁を造りだして刃を防いでみせた。本人は『殺気が強い』とか言ってたが、実際は殺気なんて殆ど出していなかった筈だったのだが…。



「この街に亡命した魔法使いが何人か居るのは知っているが、貴様のような奴は知らん…。しかも、俺の斬撃をあっさり防げる者など……」


「御謙遜を…結構、ヒヤリとしましたよ…?」



 ぬかせという言葉をどうにか飲み込む。この女が何者にしても、自分達にとって不都合な存在であることには違いない。となれば…



「…ディック、ムラサメ、お前らは先に行ってろ。ネロは俺の援護だ……」



 名前を呼ばれた二人は無言でヴェルシア探偵事務所へと駆け出し、一人は刀を抜いてアイカの方へとそれを向ける。随分と場慣れしているようだ…。



「……やれやれ、よもやこの様な場所で戦うことになるとは…」


「後悔しているのか?…我々に話しかけたことを!!」



 言うや否や壁に受け止められたままの刀を再度振りかぶり、今度は壁ごとアイカを両断する気で振り下ろした。しかし壁を真っ二つにした時には、既に彼女はその場を飛び退いた後だった…。





「後悔?いいえ、むしろその逆です…」


 



―――彼女は薄っすらと笑みを浮かべていた…





「昔の話とはいえ、かつて草薙衆が帝国最強の座を欲しいままにしていたのは事実。そんな貴方達と戦えるというのは中々にそそられる物があります…」


「なんだ、お前って戦闘狂か…?」


「そこは敢えて違うと答えましょう。私が求めるのは戦場そのものではなく、そこで手に入れることのできる栄誉なのですから…。まぁ、何にせよ貴方方は私の……」




―――『誇りの糧』となっていただきます…!!




 彼女が手に魔力を纏わせたのと、探偵事務所の方から爆発音が響いたのはほぼ同時だった…。












◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇











「この反応…アイカか……?」



 目の前の草薙衆二人が来た方向に目をやりながら独り呟くアスト。そんな彼を敵意剥き出しで睨み付けるディックとムラサメと呼ばれた二人の男達……彼らの足元には、直径役3メートルのクレーターが出来上がっていた…。



「彼女は加減を知らないからなぁ……カザキリ、御愁傷様…」


「お前、アスト・フランデレンだな!?」



 胃痛の原因が増えるであろうカザキリの冥福を祈る最中に響く怒鳴り声。視線を戻せばディックと呼ばれていた男が此方に向かって何か言ってきた。



「そうだけど…?」


「我々は偉大なる皇帝陛下の銘に従って行動している!!亡命者風情が邪魔をするな!!」


「お生憎様、僕は政府の許可を貰って行動しているんだ。お分かり…?」


「…ちっ!!カザキリの奴か…相変わらず手の早い野郎だ……!!」



 あわよくば『皇帝の銘』という言葉で退いて欲しかったのだろうが、どっちみち帝国の許可が無くても退く気は一切無かったが…。



「ところで、ひとつ訊きたいことがあるんだけどさ…」


「…あぁ?」



 強い妖力を持った亜人には、ある共通点が存在する。『赤い瞳』だ…。どういう原理かは誰も調べていないので不明なのだが、上等な妖力を持った者は必ずと言っていいほど瞳が赤くなるのだ。妖力を使うことに慣れたものならば力を上手くコントロールし、瞳の色を調整する者も居たりするが…。


 レインスの真っ赤な瞳も案の定その証であり、やはり彼も強い妖力を持っていた……ただ…。








「彼の血に“何を混ぜた”…?」







―――その強大な妖力の中に、僅かな魔力の気配が潜んでいた…






 アストのその言葉にディックは一瞬だけポカンとしたが、事情を知っているムラサメは隣で小さく笑い始めた…。



「ククク…やはり一流の魔法使いともなると、分かるものか……」


「そのボロボロの顔…君、フィノにボコられた奴だろ……?」


「……あの糞女は後で殺す。だが、先にお前の質問に答えてやる…」

 


 額に青筋を浮かべながらも笑みを崩さないムラサメ。フィノーラを糞女呼ばわりしたムラサメを必ずブチのめすと決めながら、アストは彼の言葉に無表情で耳を傾ける…。





「あのガキはな、魔法使いと亜人のハーフだ…。」


「……。」



 様々な種族が存在するこの世界。異種族同士で結ばれ、子を生すこと自体は珍しくない。その時に生まれてくる子供は両親の種族のどちらか片方だけの特徴を受け継いで生まれてくる。両方の特徴を持って生まれてくることはまず無い…。


 なので鬼族と化猫族が結ばれても角と猫耳が両方生えた子供は生まれてこないし、魔法使いと亜人が結ばれたら魔力か妖力のどちらか片方だけを持った子供が生まれてくる。


 レインスも両親のどちらかが飛鳥族であり、飛鳥族として生まれたのだろう。そして、片親の特徴である翼と妖力だけを受け継いだ……それだけの筈だったのに…。



「そのハーフのガキに、うちのお抱え科学者が魔法使いの血を注入したのさ…」


「ッ!!」


「いやぁ、中々面白かったぜ…?拒絶反応で苦しみのた打ち回り、みるみる内にアルビノへとその姿を変えていく糞ガキの様子はよぉ!!」


「おい、そこまでにしとけムラサメ…」


「いや、もう少し喋らせろよディック。まぁ、結局実験は失敗…ガキは異常な位に妖力を増やしただけで魔力なんざ雀の涙程度しか持って無ぇ。けど大切な実験データに変わりないからな、脱走されたら捕まえに行くのは当然だろ…?」



 ムラサメの言葉が聞こえてくるたびに、握り拳に込める力が段々と強くなっていくのが分かる。理解したのだ…彼らが何をしようとしているのかを……






「つまり君達は第四人類・・・・を創るつもりだと…?」



「御名答。この世で最もマルディウス王国が恐れ、警戒している存在…魔力と妖力の両方を持った亜人を創ろうとしてんのさ俺達は!!」



 

 この世界には大きく分けて3つの人類が存在する。



―――何も持たない第一人類(帝国人)



―――妖力を持つ第二人類(亜人)



―――魔力を持つ第三人類(王国人) 


 

 そして長い歴史の中、依然としてこの世に存在が確認されていない全てを持ちし者…第四人類。亜人たちを長い間虐げてきた王国は、太古の頃からその存在を恐れていた…。



「想像できるか?魔力が無いことをいいことにず~っと見下し、迫害し続けてきた奴らが突然力を手に入れるんだ…。自分達の唯一の取り柄(魔力)と、自分達が理解できない未知の力の両方をだ!!」


「……黙れ…」


「怖いだろ?恐ろしいだろ?その恐怖の象徴を俺達は創りだそうとしているんだ…!!」


「黙れ…!!」


「研究が成功した暁には王国を皇族達の力だけで滅ぼし、そのままこの戦争を終わらせてやる!!そうすれば皇族は戦争を終わらせた英雄となり、再び帝国は俺たちの……」





「黙れと言っている!!」



 

「「ッ!!」」  



 自分でも驚く位に響く怒号…その声量は、酔いしれるようにペラペラと喋り続けていたムラサメの口を黙らせるには充分な威力を持っていた…。自分でも抑えられない程の怒気と殺気が体から滲み出ているのが感じられるが、今はそんなことどうでもいい…!!




「よく分かったよ…王国の連中も、お前たち帝国の人間も考えることは一緒だってことが!!」




―――掲げた妄想のために、どれだけの命を弄ぶ…!?





「王国も帝国もクソだ!!くだらない戦争をいつまでも続け、戦う気の無い者を平気で巻き込む!!亜人というだけで蔑み、虐げる!!そして、お前たちはベルフィーアをソレが当たり前の世界に変えた!!」




―――いったい幾つの人生を狂わす…!? 






「恐怖の象徴?最終兵器?…ふざけるな!!人の命と人生をなんだと思っている!!」






―――いつまでこの世界は僕達を縛り付ける…!?






「…僕はもう逃げない!!世界の流れに身を任すだけの選択は二度としない!!」


 

「何をゴチャゴチャと…」



 まるで狂ったかのように激昂するアストを見て怪訝な表情を浮かべるムラサメ。しかし、彼はこの時に気づくべきだった……自分が何をしてしまったのかを…。



「僕は抗い続けてみせると決めたんだ…!!」


「言いたいことはそれだけか…!?」



 言うや否や刀を抜き放ち、アストへと迫ろうとしたムラサメ。だがその足はたったの数歩で止めることになった…。


 感じてしまったのだ…段々と大きくなる地面の揺れ、カタカタと音を鳴らすマンホール、配水管、噴水など、あることに関係する物達の鼓動を……。 


 そして、目の前のアストが右手を天に翳したのと同時に…。




―――ドパアアアァァァン!!





「だから証明してやる…!!」





―――アストの背後に、20メートル近い巨大な水柱が轟音と共に立ち昇った…。




「何だと…!?」


「魔術式!?しかし、こんな規模は聴いたことが…!?」



 

 予想外の事態に混乱する二人を熱く、決意の篭もった目で睨みつけながらアストは口を開いた…。





「僕達の力は、命は、未来は…!!僕達自身のものだということを!!」





―――二人の愚者が眠れる獅子を完全に怒らせた瞬間であった…。













◇◆◇◆◇◆◇◆◇









「やりますね。エリゼネアにも見習わせたいものです…」


「舐めるな!!」



 迫りくる魔弾を一閃して切り払いながらアイカの元へと迫る4人の纏め役、エドガー。その背後にはピッタリとネロが追走し、同時に魔弾を放ちながら距離を取ろうとするアイカへの距離を詰める。



「やはり反魔力物質は既にコーティング済みですね…?」


「皇族を狙う魔法使いも少なくないのでな!!ハァッ!!」



 距離を詰めたエドガーが上段に構えた刃を一気に振り下ろす。それを難なく避けるアイカだったが彼の背後に居たネロが追撃の一閃を放つ。



「おっと…!!」


「クソッ!!ちょこまかと!!」



 それさえも軽く避ける彼女に段々と焦りが滲み出してきた草薙衆の二人…。今まで相手をしてきた魔法使いは全て接近戦に持ち込めば楽に勝てたのだが、この女はそう甘くは無いらしい…。



「ふむ、これ以上時間を掛ける意味も無いですし……やりますか…」


「「ッ!!」」



 思わず身構える二人であったが、互いにその目を驚愕で見開く結果となった…。





「【呪術式・影鬼】!!」





―――まるで水の中へと潜る様に、アイカが建物の影の中に飛び込んだのだ…




「なん…だと……!?」



 どんなに目を凝らしてもアイカの姿は無く、そこには建物によって出来た平べったい影があるだけである。目の錯覚ではない…彼女は本当に影の中に潜り込んだのだ……。



「いったい何処に!?…グッ!?」


「ネロ!?」

 


 うめき声が聞こえてきた背後に視線を動かすと、ネロが反魔力物質をコーティングされた制服ごと剣に貫かれているところだった。僅かに痙攣したあとに彼は事切れ、その亡骸がフワリと持ち上げられたと思ったら横に向かって投げ捨てられた…。


 ネロが立っていた場所には、彼の血が滴る剣を片手にぶら下げたアイカが立っていた…。



「貴様あああぁぁ!!」


「おや、早いですね…」



 怒り任せに駆け出し、勢いよく刀を一閃する。自分でも驚く位に出たスピードはアイカに回避をさせる時間をとらせず、遂に彼女を捕らえることに成功する…。




「死ねぇ!!」


「む…!!」




―――その瞬間、アイカの首が宙を舞った…





「な…!?」




 しかし、驚愕の声を上げたのはエドガーの方だった……何故なら…。






「驚きましたよ。貴方達は私達の様な御飾り部隊とは違うのですね…」





―――飛ばされた彼女の首はそのままフワフワと宙を漂い、あろうことか普通に喋りだしたのだ…。




 よく見れば切断部分から血が一滴も出ておらず、胴体の部分も倒れることなく普通に立っていた…。反魔力物質を用いているのにも関わらず、何故目の前でこうも非常識な現象が…!? 




「混乱してる暇はありませんよ?……ほら、足元…」


「ッ!!」



 言葉と同時に殺気を感じ即座に飛び退く。すると、さっきまで自分が立っていた場所から何かが生えてきた。それが何なのか理解したエドガーは再び混乱する…。




―――剣を持ったアイカがもう一人現れたのだ…




「な…何がどうなって……!?」


「はい、今度は後ろ…」


「なっ!?」



 だがまだ終わらない。今度は背後から殺気を感じて振り向くと、自分にむかって3人目のアイカが剣を振り下ろす瞬間だった。再度飛びのいて避けるが今度は左から、右から、上から…逃げるたびにアイカの数は増えていき、最終的に10人にまで増えた…。

 


「これも魔法だってのか…!?」


「さぁ、どうでしょうねぇ?…【円舞・バロン】!!」


「ぬっ…ぐあああああああああああああああ!?」



 首だけのアイカの言葉に応えるように、残りの9人が一斉にエドガー目掛けて斬りかかる。彼は必死に防ごうと試みるも数が多すぎ、次第に傷だらけになっていく…。



「ぐああっぁぁ!?クソがぁ!!」



 やがて追い詰められ、がむしゃらに刀を一閃させアイカ達を一度退かせることに成功する。その隙を見逃さず、勝てないと悟ったエドガーは即座に踵を返し、全力でその場から逃げ出そうとした…。




―――しかし、神は彼を見放したようだ…




「…何なんだよ…何なんだよお前はぁ!?」




「最強の魔衛騎の後輩です。」




 逃げるために振り向いた方向に、既にアイカが立っていた。しかも彼女の足元は広範囲に渡り、突然に出現した魔方陣によって光り輝いていた…。




「お付き合い頂き感謝します。それでは、御機嫌よう。【我が銘に応えよ 我が敵を打ち払え 汝の本能の赴くがままに 出でよ バジリスク】!!」



 魔方陣は一度だけ強く光った後、すぐに消滅した。アイカの背後に巨大で長い影を残して…。巨大な影はエイガーの姿を確認した途端、ゆっくりとその鎌首を擡げた……そして… 




「う…うあ……うわああああああああああああああああああああ!?」




―――開かれたのは異界への門…されど、彼にとっては冥界への門に他ならなかった……。





アストの戦闘が書き終わって、一話挟んだらそろそろ過去話に入ります。


あぁ…座りっぱなしで腰が死ぬぅ……

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